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ついに新作「THE GOOD LIFE」を発表したSWERY氏にインタビュー。「月華の剣士」から「D4」へ,そして新スタジオWhite Owlsで新作の制作を始めた同氏のこれまでとこれから
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印刷2017/10/07 12:00

インタビュー

ついに新作「THE GOOD LIFE」を発表したSWERY氏にインタビュー。「月華の剣士」から「D4」へ,そして新スタジオWhite Owlsで新作の制作を始めた同氏のこれまでとこれから

 20世紀の終わりから21世紀初めにかけて,ゲームセンターで対戦格闘ゲームを遊んだという読者は(一定以上の年齢なら)決して少なくないはずだ。中でもSNKがサービスしていた「月華の剣士」は,SNKならではの個性的なキャラクターをさらに濃い目に味付けしたかのような,さまざまな意味で印象に残る作品として多くのファンを集めた。

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White Owls公式サイト


 そんな「月華の剣士」を作ったのが,当時まだ20代だったSWERY(末弘秀孝)氏だ。同氏はその後も「月華の剣士2」などを作っていくのだが,やがてコンシューマ機にプラットフォームを移し,その後,しばらくして,同氏はまったく別の角度から脚光を浴びた。2013年のE3,MicrosoftのメディアブリーフィングでXbox One向けの新作「D4: Dark Dreams Don’t Die」を,SWERY氏が制作することが発表されたのだ(関連記事)。

 コテコテの日本的ゲームでデビューしたSWERY氏が,Xbox One専用(のちにWindows版もリリースされる)のゲームを作ることに驚かされたが,SWERY氏はさらに,2017年に入ってすぐにアクセスゲームズを退社し,新たなスタジオ「White Owls」を立ち上げた。
 そして2017年9月2日,シアトルで開催されたゲームイベント「PAX West 2017」で同氏の新作タイトル「THE GOOD LIFE」がアナウンスされたのだ。

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 SNK時代の開発裏話から,世界中の技術カンファレンスを飛び回る最近の姿,そして新作「THE GOOD LIFE」についても,今の段階で聞ける限り聞いた。新作発表が欧米の大手メディアにこぞってフォローされるSWERY氏とはどのような人物なのだろうか。


「月華の剣士」を作った人は住職さんでもあった


4Gamer
 本日は,よろしくお願いします。まずは,簡単に自己紹介からお願いします。

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SWERY氏
 大阪でゲームを作っている,ゲームクリエイターのSWERYです。
 1996年にSNKに入社したのが,キャリアのスタートになります。SNKでは「月華の剣士」などを作っていました。その後,1999年に藤原得郎さん「魔界村」などが代表作)の会社に行き,そこでコンシューマゲームの作り方を学びました。その流れで藤原さんとSONYが合弁で作った会社に移籍して,「Extermination」(PlayStation 2)というアクション・アドベンチャーゲームを藤原さんと一緒に作りました。
 ただ,その頃の僕は「このままだと自分は現場のプランナーで終わるんじゃないか」という怖さを感じていたんです。それで藤原さんに「ゲームクリエイターになりたい」と相談して,その結果,2002年に独立してアクセスゲームズを立ち上げました。

 そこから14年間,アクセスゲームズでオリジナル作品を作ったり,あるいは日本国内向けの作品をパブリッシャと一緒にやらせてもらったりという仕事をしてきました。
 2015年の11月に持病のため休養に入り,1年間お休みをもらって病気を治しました。それから心機一転,White Owlsという新会社を立ち上げて新しいプロジェクトを始めました……ということになります。

4Gamer
 経歴としては,20年以上ということになりますね。
 White Owlsは大阪にある会社ということで,ちょっと失礼ですが,なぜ大阪にゲームスタジオを開かれたのですか? 一般論で言えば,何かと東京のほうが便利なようにも思えます。

SWERY氏
 僕はゲーム業界のキャリアをSNKで始めたということもあって,大阪に根付いたゲームクリエイターを目指してるんです。やっぱり大阪にも東京志向はありまして,若い人は東京を目指す傾向が強いんです。でも昔はコナミも大阪にあったし,カプコンも大阪です。大阪でゲームが作れないはずはありません。
 それに,若い子がもっと大阪に残れるようになってほしい,という思いもあります。

4Gamer
 地元愛的な感じでしょうかね。

SWERY氏
 あと,もっと即物的な理由もありまして。実家がお寺なんです。

4Gamer
 お寺の跡取り,ということですね。

SWERY氏
 そうです。昨年,お休みしている間に住職の資格を取りました。檀家の関係で,大阪から離れるわけにはいかないんですね。実際,地元を歩いてると,近所の檀家さんから「私の葬式はよろしくね」と声をかけられるような状態です。

4Gamer
 なるほど。……えーと,ところで,そちらのぬいぐるみがさっきから気になっているのですが。

シャラポワさん
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SWERY氏
 彼女はシャラポワ(Sharapova)といいます。女の子です。前職のアクセスゲームズ時代から働いていたんですが,僕と一緒に退職して,新会社のWhite OwlsでPRマネージャーに就任しました。ホームページにも「シャラポワからのコメント」があります。

4Gamer
 なんとなく,私より給料が良さそうな気がしますが,シャラポワさんとのなれそめは,いつ頃ですか。

SWERY氏
 アクセスゲームズ時代です。あの頃はほんとに忙しくて,僕は会社の目の前にある部屋を借りて,そこに住んでいました。当時は新婚だったのに,いきなり別居という状態でした。そのため,「家に帰るとシャラポワがいる」という安心感は大きかったんです。

4Gamer
 過去の写真を見ると,海外に出張されるときもだいたいいつも一緒ですね。

SWERY氏
 連れて行ってますね。クロアチアのカンファレンスにも同行してくれました。


海外の小規模カンファレンスで得たもの


4Gamer
 クロアチアで開かれた「REBOOT Develop」ですね。同じ技術系のカンファレンスでも,GDC(Game Developers Conference)やGDC Europeなどに比べて規模が小さめですが,参加してどうでしたか。

SWERY氏
 まずなにより,風光明媚ですよね。クロアチアにある世界でも有数の保養地で,最高級のホテルを使ってカンファレンスを開くわけですから。
 もちろん,セッションもいい加減なものではなく,僕も登壇しましたが,参加者との距離が近いので,質疑応答中心のセッションを開きました。ヨーロッパの人は,日本でゲームを作っている開発者がどのような働き方をしているか,ほとんど知らないですし,僕らも彼らの事情はあまり知らない。そのあたりの情報を交換するようなセッションでした。聴講者にも満足してもらえるものだったと思います。

2013年の「REBOOT Develop」では,SWERY氏も登壇した。写真は,会場となったクロアチア・スプリトの街にあるマリーナ(関連記事
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4Gamer
 最近のGDCでは日本人登壇者が激減していますが,一方で,そうした小規模なカンファレンスでは日本人が登壇する機会が増えているようにも思えます。

SWERY氏
 そうですね。クロアチアをはじめ,インドやポーランド,メキシコやロシアといった地域では,「日本はゲームの国」というイメージが強いようです。そのため,日本のゲームクリエイターが呼ばれやすい,という事情があると思います。
 加えて,そうした地域に日本人のゲームクリエイターが出向いてしゃべることも,まずなかったですし。先方にとっても「やっとつながった」という気持ちがあるみたいですね。

4Gamer
 お話を聞くと,世界中でカンファレンスが開かれているんだな,という驚きがあります。

SWERY氏
 スイスとかスウェーデンでも開催されています。そういう地域の人達の多くが,クロアチアやインドなどのカンファレンスにも参加してるんですが,なぜかといえば,カンファレンスの規模が小さいため,参加者同士が知り合う機会が多いんです。その場で新しいつながりができて,また別のカンファレンスに来いよ,という話になったりするわけです。

4Gamer
 GDCだけでは分からない世界がある,というところでしょうか。

SWERY氏
 GDCだと人が多すぎて,会うにしても一瞬じゃないですか。会おうと思えばどんな有名人にだって会えるけれど,話す時間が取れたとして,せいぜい5分ぐらい。でも,例えばクロアチアなら,クリフ・ブレジンスキー氏ジョン&ブレンダ・ロメロ氏ティム・シェーファー氏と一緒に,1時間くらいずっと立ち話ができる。そういう機会って,小さなカンファレンスでないとあり得ません。

4Gamer
 非常に贅沢ですね。

GDC 2016に登壇したときのティム・シェーファー氏
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SWERY氏
 僕が独立したきっかけも,ティム・シェーファー氏との立ち話が大きいんです。
 「日本のゲーム業界と海外のゲーム業界の間には,大きな溝がある。それで悩んでいるんだ」という話をしたところ,彼は「業界全体の心配なんてするな。おまえがやるべきことを,おまえが分かっているなら,勝手に会社を作って得したらいいじゃないか」と言ってくれて。これは僕にとって,完全に新しい考え方だったんですが,それを聞いて肩の荷が下りるというか,すっと楽になりました。それで,じゃあもっと自分らしいことをやろう,という決意が固まりました。

4Gamer
 その「業界全体の心配」のあたりを詳しく聞きたいですね。

SWERY氏
 僕は,日本のゲーム文化を変えたい,と思ってたんです。日本だと,どうしてもまだ「ゲームはいつか卒業するもの」という文化がありますが,僕はそれに抗おうとしていたんです。「ゲームを卒業しなくてもいい文化」を作りたかったと言ってもいいかもしれません。

4Gamer
 最近ではだいぶ風向きが変わってきたとはいえ,官公庁などでは,ゲームと言うだけで企画がキャンセルされることもあると聞きます。

SWERY氏
 僕は大人向けのゲームを作りたいと思ってますし,実際にそうしたゲームを作ってきたつもりです。その結果として,僕のゲームは海外で評価されることが多いのも事実です。これは別に海外のほうがゲーム文化が成熟しているとかではなく,世界市場では僕の作る大人向けのゲームを好きになってくれる人が多い,といった統計的な話だと思います。
 実際,僕は別に日本市場を無視しているわけではないですし,意図的に日本市場をターゲットから外しているわけでもありません。日本のプレイヤーにも刺さるゲームを作るにはどうしたらいいのか,日夜悩んでいます。

4Gamer
 「ゲームを卒業する文化」に対して,「卒業しなくてもいい文化」を作ろうと。

SWERY氏
 でも,ティム・シェーファー氏が言ったように,そういう業界全体のことまで僕が心配しても仕方ないんです。現状に抗うためにかける労力って,本当に意味があるのか? と思うようになりました。
 そうじゃなくて,もしかしたらそれはすごく少ない数かもしれないけれど,分かる人がすごく楽しんでくれたら,それでいいんじゃないだろうか。それが,今の僕の基本的なスタンスです。

4Gamer
 日本や世界がどうこうではなく,刺さる人に刺さってほしいわけですね。

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SWERY氏
 繰り返しになりますけど,もちろん僕も日本のゲーマーにも刺さってほしいと思ってます。日本向けに作ってないとか,日本市場なんて無視してるとか,そういうことはありません。ただ,日本のゲーマー全員に刺さるようなものを作らなきゃダメだ,みたいな十字架を勝手に背負うのは,やめようと。
 そういう新しい視点を持てたのは,海外の小規模なカンファレンスに参加して得られた貴重な収穫だと思います。


格闘ゲームのエンジンがあったSNK


4Gamer
 さて,少し話は戻りまして,SNK時代のことを聞きたいと思います。まず,なぜSNKを目指されたんですか。

SWERY氏
 僕は大阪芸術大学の映像学科にいたんですが,4回生の1月くらいまで,ずっと釣りばっかりしていました。就職活動なんて,まったくやってなかったんです。そのタイミングで友人が,「ゲーム会社を受ける」と言い出したので,僕もそれに合わせる形で書類を送りました。
 いろいろな会社に書類を出したんですが,大手3社の最終選考にまで残れました。

4Gamer
 それはすごいですね。やはり時代的に映像学科が求められていたということなのでしょうか。

SWERY氏
 どうなんでしょうか。ただ,僕はゲーム会社に100ページくらいの企画書を提出したんです。キャラクター設定からストーリーまで全部書いたゲームの企画書ですね。それが目に留まったのかな,と思います。

4Gamer
 最終選考に残った会社の中から,SNKを選んだ理由はなんですか。

SWERY氏
 SNKが自分の家から一番近かったんです。

4Gamer
 それはまた……。

SWERY氏
 まあ,当時はアーケードゲームを作りたかったというのもあります。プレイヤーの反応が目の前で見えるのが面白そうだったし,何よりアーケードゲームって,一種の従量課金制じゃないですか。コンティニューしてもらうことが売上になる。1日200コイン入るのと300コイン入るのでは全然違うというヒリヒリするようなところで勝負してみたかったんです。若かったんですね。

4Gamer
 目の前で売上の推移が見えることに,独特の緊張感があったわけですね。

SWERY氏
 ただ,その緊張感の中でゲームを作っていると,コンシューマがやりたくなっちゃうんです。

4Gamer
 それはなぜでしょう。アーケードには制約が多いからですか。

SNKプレイモアがSteamでリリースした「幕末浪漫 月華の剣士」
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SWERY氏
 ええ。最初の数分でユーザーを掴まないとダメだとか,回転数が大事だとか,そういう縛りがあるんです。つまり,プレイヤーを楽しませつつ殺さなくてはならない。
 でも僕は映像学科出身で,つまり映画畑です。ですから,ストーリーを重視したい。SNKでは「月華の剣士」を立ち上げからやらせてもらいましたが,そのときも2年生社員の僕がシナリオを全部書いてるんです。
 僕としてはストーリーをきっちり楽しんでほしい。でもストーリーを全部見てもらうことは,エンディングへ行くということですから,プレイ時間が伸びる。アーケードゲームではマイナスです。

4Gamer
 ジレンマですね。

SWERY氏
 2年くらいアーケードをやってるうちに,「最初にまとめてお金を取れるコンシューマって,すごいな」と思うようになりました。
 とはいえ,当時のアーケードは本当に熱かったですよ。SNKの場合,作ったゲームをNEOGEOランドでロケテストするんですが,その様子を僕らは遠くから見てるわけです。キャラクターごとに,どんな技がよく使われるのか,どんな技が強すぎになっているのか,あるいは無限コンボは発生していないか,といったことをチェックします。
 そうして,チェックしたメモを開発に電話で報告すると,開発部隊はすぐ修正を始める……みたいなことを繰り返していました。

4Gamer
 フィーチャーフォンでソーシャルゲームが流行した頃にもそういう話はたくさん聞きましたが,アーケードにもそういう時代があったんですね。

SWERY氏
 SNKは,ゲーム開発やこうしたイテレーション(繰り返し)を円滑に進められるように,独自のゲームエンジン的なものも作っていたんですよ。

4Gamer
 NEOGEO向けのゲームエンジンですか。

SWERY氏
 格闘ゲーム用のエンジンとは,ちょっと言い過ぎかもしれませんが,NEOGEOコントローラがつながった開発機があって,開発機のでっかい基盤にはROMとNEOGEOのメモリカードが刺さっているんです。つまり,メモリカードが書き換え可能領域になって,開発機の操作は接続されてるNEOGEOコントローラだけで行え,当たり判定なども簡単に設定できました。アニメーターはキャラクターのアニメパターンを描いて,その開発機でゲーム用のデータを作り,メモリカードに保存するんです。
 データが完成すると,プログラマはそのデータをメモリカードから吸い出して,ゲームに入れる。大変にシステマティックでした。

4Gamer
 まさに,16ビット時代のゲームエンジンですね。

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SWERY氏
 開発機では,技の威力や出の速さなども設定できて,それがすぐゲームに反映される仕組みでした。よく考えると,本当に先進的な環境ですよね。でもまあ,その割にはゲームバランスの調整が甘かったりしましたが(笑)。

4Gamer
 そこは人のやる部分だから,システムが先進的なだけでは対処できなかったんですね。

SWERY氏
 そうです。でも,その粗さが味だったり,魅力だったりした部分もなきにしもあらずでしたが。そんな感じでSNKで2年やって,「月華の剣士2」まで作りました。それを最後に,コンシューマに移動したという感じになります。


クロスしていくアーケードとコンシューマ


4Gamer
 コンシューマゲームでストーリーを追求したかったとのことですが。

SWERY氏
 実はそこには,もう1つ理由があったんです。当時,ちょうどポリゴンを使った3Dグラフィックスが出てきてたんです。もちろんSNKもその流れを追いかけていましたが,SNKは自社基盤でCGをやろうとしていました。「SAMURAI SPIRITS 〜侍魂〜」あたりですね。
 ただ,自社基盤でやるには性能的にちょっと苦しかった。しかも,1996年にNINTENDO64が出て,「任天堂までポリゴンになった」という衝撃が業界に走り,さらにPlayStation 2の噂もちらほら出てきて,これはもうコンシューマに行かなきゃいけないなと強く感じました。

4Gamer
 高度なグラフィックスに憧れたわけですね。

SWERY氏
 そうですね。でも,高度なグラフィックスというよりは,高度なカメラワークと言ったほうがいいかもしれません。「月華の剣士」は完全な2D作品ですが,カメラワークへの憧れを2Dでなんとか表現したくて,「回り込むカメラ」とか「作ったピンぼけ」とか,いろいろやってるんです。それを計算で表現できるというのは魅力でしたね。

4Gamer
 例えば1993年の初代「バーチャファイター」のように,アーケードこそが技術的最先端だった時代というのは確実にあったように思います。その直後,PlayStationやセガサターンが登場して,「アーケードのあのすごいゲームが家でも遊べるようになった」という時代がやってきます。
 アーケードの開発現場では,「このままではコンシューマ機に追い抜かれるんじゃないか」みたいな不安はあったんですか。

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SWERY氏
 当時のSNKについて言えば,NEOGEO基盤にしがみつくというか,しがみつくしかないところがありました。新しい基盤の開発も進んでいましたが,社内にはやはりNEOGEO基盤に対する先行きの不安感というのがあって,もともとが16ビットCPUの基盤で,メモリを増やすだけで戦っていたわけですから,車にたとえれば,小型車にでかいエンジンをどんどん積み替えていくような状態だったんです。そこも僕が,「コンシューマに行きたい」と思った理由の1つだったと思います。
 ただ,SNKではなく,例えばセガのアーケード基盤がコンシューマ機に抜かれるかもしれない,といった予測はさすがなかったですね。セガの場合,アーケードの基盤をコンシューマ機に落とし込むといった形だったので,「先行するアーケードの技術がコンシューマ機に来てる」みたいなイメージで見ていました。

4Gamer
 SNKを離れてずいぶんたちますが,アーケードゲームは今でもプレイしていますか。

SWERY氏
 たまに遊んでいます。新しいオフィスの近くに大阪ではかなり有名な格闘ゲームの店があって,そこへ行って,最近のプレイヤーにボコられて,そっと帰る,的な。

4Gamer
 また格闘ゲームを作ってみたいという気持ちはありますか。

THE KING OF FIGHTERS XIV」
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SWERY氏
 そうですね,機会があったら作ってみたいとは思ってます。格闘ゲームの中心はアーケードからコンシューマ機に移っていますし,コンシューマ機でネット対戦もできます。「THE KING OF FIGHTERS XIV」みたいに,ストーリーも楽しめるゲームが増えていますので,あんな感じの,家でストーリーを楽しみつつ,一人で遊べる格闘ゲームは,もっとあっていいんじゃないかと思います。

4Gamer
 コアに戦いたければ,オンラインで対戦すればいいですしね。

SWERY氏
 e-Sportsが発展すれば,そこが戦いの舞台になる可能性もありますね。

4Gamer
 ストーリー性のある格闘ゲームも増えた印象です。

SWERY氏
 ええ,「BLAZBLUE」はすごく良い例だと思います。最新作で一段落ついていますが,考えてみれば「一段落ついた」と感じられるのはすごいことで,それくらいプレイヤーにストーリーが伝わっているんですね。
 これは素直に,コンシューマ機でちゃんと売れるためにどうしたらいいか,というところを詰めてきた,格闘ゲームの進化形だと思います。


コンシューマゲームに向けて再修行


4Gamer
 さて,SNKを離れたSWERYさんのコンシューマ時代がスタートするわけですが,最初は藤原得郎さんのところで勉強されたわけですね。

SWERY氏
 はい。コンシューマゲームの開発を基礎から学ぶ,みたいな感じでした。

4Gamer
 だいぶ違いましたか。

SWERY氏
 全然違いましたね。さっきも言ったように,アーケードは,いかに殺すかが要点になりますが,コンシューマの場合は「いかに続けさせるか」「いかに誘導するか」というところにすごく気をつかいます。アーケードでは突き詰めて考える必要のない部分だったので,初めてそこを教わったときは驚きました。
 「EXTERMINATION」だったと思うんですが,鍵の掛かったドアが出てくるシーンがありました。まあ,ゲームではよくあるシーンです。で,その鍵の掛かったドアを調べたときに出てくるメッセージに「カギがかかっているようだ。今は開けられない」ってのがあったんです。それを見て藤原さんがすごく怒りまして。

4Gamer
 何が問題なんでしょう……。

SWERY氏
 ユーザーが初めて見る扉なのに「今は」ってどういうことだ,と。後になって開られるかどうかすら,この段階ではユーザーの頭には浮かんでいないのだから,「カギがかかっているようだ」でいいだろう,と。それでずいぶん長い時間,説教されました(笑)。

4Gamer
 お説教ですか。

SWERY氏
 藤原さんは,討論も長時間に及ぶことがありましたね。「恐怖」とは何かについて討議したときも,長時間話し合ったのを覚えています。「今度ホラーゲームを作るんだけど,その前に恐怖の概念を共有したい」と言われて,“恐怖とは何か”を討議したんです。僕は「ゲーム的には,ダメージを受けることですかねえ」と言うんですが,藤原さんは「ダメージを受けてもプレイヤーは痛くないのに,なんでそれが恐怖になる」と返してきまして,そこから延々とブレストですね。今思い返すと,実に厳しい修行だったな。

4Gamer
 厳しいけれど,勉強になったんですね。

SWERY氏
 藤原さんから学んだことは,本当に多かったですね。「ヒントの出しすぎはダメだが,ヒントがないとプレイヤーは諦める」とか,「目の前にゴールが見えた瞬間に落とし穴を作れ」とか,いろいろなことを教えてもらいました。

4Gamer
 そうやって藤原さんからゲーム開発を学んだクリエイターとして,今のゲームはどう思われますか。昔に比べれば相当,至れり尽くせりになっていますが。

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SWERY氏
 プレイヤーが変わったという大前提はあると思います。実は僕自身も嗜好が変わってきて,これだけゲームがたくさんある中で,プレイヤーに上質な体験をしてもらおうと思ったら,何よりもまずクリアしてもらえるものにしなければいけないと思うようになりました。
 ゲームはただでさえ時間が必要なのに,それに加えて敵を倒すためにレベルアップに手間をかけたり,あるいはムービーシーンが映画に比べて残念なカメラワークになっていたりとか,そういうところを耐え忍んでクリアすることが,ゲームでは当然になっちゃっているところがあると思うんです。
 しかも,ゲームの数はすごく増えているので,最初から最後までを通したゲーム体験をプレイヤーに残すことが,とても難しくなっています。だから,今のゲームは,クリアしやすくするしかないんじゃないかな,と思いますね。

4Gamer
 昔のゲームデザインとは,方針が変わっているんですね。

SWERY氏
 ゲームは映画より値段が高くて,普通,映画のチケットの倍以上しますよね。ゲームを途中で投げ出すのは,映画の途中で席を立って,そのまま二度と帰ってこない,みたいなお客さんを作ってしまうことです。これは良いことではないと思います。だから,最後まで映画館にいてもらう努力,つまり最後までゲームを遊び続けてもらうための工夫が必要になるんです。

4Gamer
 ほかのゲーム(あるいはほかの娯楽)に乗り換えるのも,昔より簡単になったかもしれません。

SWERY氏
 それに,ゲームを作る側としては,最後の大どんでん返しでプレイヤーを驚かせたい,みたいな気持ちもあります。となると,いよいよ,最後まで遊んでもらわなければいけない。

4Gamer
 そのあたり,最近の海外ゲームは,クライマックスが最初に来るようになってますね。

SWERY氏
 そこなんですよ。これがまた,そういう作りにしたほうがレビューの点数も上がりますし。たとえ後半で急激に失速しても,導入で派手に盛り上がるほうが評価が良い。
 ここまでゲームの本数が増えた中,レビュアーが最後までクリアしてからゲームを評価しているかというと,全部が全部そうだとは僕には思えません。そうやって冒頭部分だけで評価するようになり,作る側も冒頭部分に全力投球,といった構図ができると,今度は評価が減点法になってしまうわけです。

4Gamer
 なんとなく引っかかる部分を減点して評価する,という方向性ですね。

Red Seeds Profile
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SWERY氏
 作る側からもそれが見えるので,レビューで良い点数取ることがテクニックになってくるわけです。でも,それってゲームを作るほうとしては,どうなのよ,という気がしますね。そういう思いがあったので,「Red Seeds Profile」ではいきなり真っ赤な部屋から始まり,これって何をさせられるんだ? というところからスタートしたりしています。まあ,主流派に対する,アンチ的な気持ちです(笑)。


自分の責任を自分で取りたくて


4Gamer
 さて,藤原さんのところでコンシューマゲームの作り方を学んだSWERYさんは,やがて独立することを決心するわけですが,そのあたりの経緯を聞かせてください。

SWERY氏
 このままではプランナーで終わるかもしれない,という不安がありました。もちろん,「僕にディレクターをやらせてください」と頼む方向性もあったと思います。会社の中で実績を積んで,ディレクターとしての仕事ができる立場になる,というのも選択肢でした。
 ただ僕は,ディレクターをやるからには,自分で責任を取る形にしたいと思ったんです。だから,自分で会社を起こそうと。

4Gamer
 なんだか,すごく若さにあふれた雰囲気ですね。

SWERY氏
 若いですね。ホント若いです。まあ実際,29歳でしたし。正直,今から考えるとすごいなと思いますよ。今ならそんなこと言えませんもん。

4Gamer
 歳を取って丸くなった感じですか。

SWERY氏
 丸くなったというか,「責任を取るっていうけど,実際のところ責任なんて取れへんやん」というところです。個人が取れる責任なんて限界があります。もちろん,全力でチャレンジしますよ。でも,全力でやってうまくいかなかったら,ゴメンと言えるようになった。それくらいには大人になったんだと思います。
 若い頃は「全力でやったけど,うまくいかなかった,ごめんなさい」って言うのが恥ずかしかったんだと思います。恥ずかしくて謝れないから絶対失敗できない,みたいな。

4Gamer
 肩の力が抜けた感じですか。

SWERY氏
 やっぱり自分自身,歳を取って,病気もして,住職の資格も取ってと,本当にいろんなことが変わりました。その変化の中で,ちょっとは賢い人間になりたいな。

4Gamer
 それでもゲーム作りはやめられないわけですね。

SWERY氏
 そうなんです。先日,あるクリエイターの人と飲んだんですが,「坊さんの資格を取ったのに,おまえはこれからもゲームの中で人を殺し続けるのか」って言われまして。

4Gamer
 うーん,言われてみれば,そうですね。

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SWERY氏
 これがまた僕の作るゲームって,人が死ぬことが多いんです。ただ,これって別に喜んで殺しているわけじゃなくて,ドラマ上,必要にかられてです。だから「別に意地悪で殺してるわけじゃないから」って話はしたんですが。
 まあ,ちょっと真面目な話をすれば,人にとって生と死は必ずそこにあることです。極論すると,すべての人に平等に訪れるのは死だけ。だから描いてもいいんです……ということにしておきます(笑)。

4Gamer
 SWERYさんの檀家がもう一世代若返ると,「SWERYさんのゲームを遊んでました」ないしは「遊んでます」という人も出てくると思いますが。

SWERY氏
 そうか……そうですね。ありますね。そうなると,ゲームに使った倍くらいの時間を使って法話をさせてもらって,ちゃんとお伝えしないといけないことが増えてくるかもしれません。ゲームはエンターテイメントなんですよという説明を,法話でじっくり。
 でも法話も,上手な人の話は面白いですから。コミカルなんだけれど,最後に泣かせてくれる。あんなのはまだ僕にはできませんが,ゲーム作りの経験を活かして,50歳,60歳になったときに面白い法話ができる住職になりたいですね。


ちょっと不思議なギネス記録と,夢の実現


4Gamer
 SWERYさんは,作られたゲームがちょっと変わったギネス記録を持っているそうですが,そのあたりの話をお願いします。

SWERY氏
 いいですよ。2010年にリリースした「Red Seeds Profile」の北米版,「Deadly Premonition」ですが,この作品が北米でカルト的なヒットになりまして,「世界で最も評価の分かれるサバイバルホラーゲーム」としてギネスに載りました。
 具体的に言えば,IGNで10点中2点,Destructoidで10点満点。これを超えるためには,「1点と10点に評価が分かれるゲーム」を作るしかありません。

4Gamer
 かなり難しそうです。

SWERY氏
 なにしろ,ギネスレコードですからね。ともあれ,これが1つの転機になって,以降は海外とのやりとりが一気に増えました。中でも大きなチャンスとなったのが,Microsoftとゲームを作る機会を得たことです。これが「D4」,つまり「Dark Dream Don't Die」になりました。

D4: Dark Dreams Don’t Die
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4Gamer
 「D4」は,E3 2013で制作が発表されましたね。

SWERY氏
 はい。2013年のE3,Microsoftのプレスカンファレンス「Xbox E3 2013 Media Briefing」で,「D4」が発表されました(関連記事)。あのとき僕は現地にいて,「D4」が発表されるところを撮影していたんですが,やっぱり手が震えました。たぶん嬉しくて,だと思うんですが……とにかく手が震えたのを覚えています。

4Gamer
 それはもう,嬉しいと思います。

SWERY氏
 僕がSNKに入ったときには,「いつかAOUショーに行くぞ。東京に行くぞ」という夢がありました。その夢は比較的すぐにかなったんですが,そのあとでコンシューマ業界に移ったので,次の夢は「いつかE3に行くぞ」になりました。で,その夢は「スパイフィクション」でかないました。次は「GDCで講演するぞ」というのが目標になり,それは2011年,「Deadly Premonition」の講演で果たしました。

4Gamer
 まさに快進撃ですね。

SWERY氏
 でもGDCの講演って,ある意味1つの頂点じゃないですか。僕自身,「もうこれ以上,目標はないかな」と思っていました。そうしたらMicrosoftのプレスカンファレンスで自分の作品が名前が出る,という経験をすることになりまして。

4Gamer
 手が震えたわけですね。

SWERY氏
 やっぱり興奮しましたね。「こういうときって,本当に手が震えるんだ」と,ちょっと驚きもしました。このとき面白かったのが,会場にいた人は僕がSWERYだって分からないんです。シャラポワを連れていないと,コイツだってのが分かってもらえない。

4Gamer
 ひどい話です。

SWERY氏
 プレスカンファレンスでサプライズ的に「D4」が発表されたとき,周囲の海外メディアとか参加者が「SWERYの新作」だってざわめいてるんですが,当の本人は君の横でカメラ回してるよってことに,気づいてない。でも,それはそれで,すばらしい体験でした。

Xbox E3 2013 Media Briefingの模様
画像集 No.022のサムネイル画像 / ついに新作「THE GOOD LIFE」を発表したSWERY氏にインタビュー。「月華の剣士」から「D4」へ,そして新スタジオWhite Owlsで新作の制作を始めた同氏のこれまでとこれから

4Gamer
 「D4」の話が出たところで聞きにくいことをうかがうのですが,「D4」は現状Season1で止まっている状態です。ぶっちゃけ,「D4」の続編はどうなるのでしょう。

SWERY氏
 「D4」がSeason1で止まったのは,そこで僕が病気の療養に入ったからなんです。その結果,今でもSeason 1で物語が止まっているのは,不徳の致す限りというか,大変に申し訳ないと思っています。
 ただ,シナリオはもう仕上がっていて,それはアクセスゲームズに残っているはずですが,それを使うのか,それとも新しく作り直すのかは,僕の手から離れてしまいました。続編については,権利者であるアクセスゲームズが「D4」をどう扱うか,というところですね。公式見解っぽい言い方をすれば,「D4の続編制作は僕の手から離れている」ということになるでしょうか。

4Gamer
 では新会社で「D4」の続編を作るということはない,と考えていいでしょうか。

SWERY氏
 ない,と考えてもらっていいかと。もともとWhite Owlsという会社は,新しいIPを作っていきたいという意思のもとに立ち上げました。作るとしたら,1から新しいものを作りたいですね。


「つまらないカットシーン」こそが問題


4Gamer
 SWERYさんはストーリーに重きを置かれていますが,新しいスタジオWhite Owlsで作るゲームもそういう方向性になりますか。

SWERY氏
 プレイヤーのモチベーションを,物語が引っ張っていく。僕が作るゲームでは確実にそうなると思います。物語というとすぐ「ムービーシーン」みたいなことを思われるかもしれませんが,それぞれのシーンで起こる出来事を物語として感じさせる作品は増えていますよね。
 「人喰いの大鷲トリコ」は,それをすごくうまくやっていたと思います。そういう技法は,見習っていきたいですね。

4Gamer
 カットシーンに頼らない物語の見せ方ですね。

SWERY氏
 それが難しいのは,間違いありません。まあ,でも僕は「Red Seeds Profile」や「D4」で物語を評価されているクリエイターなので,「ここで挑まなくてどうする」というところもあります。

4Gamer
 確かに。「ムービーが始まるとボタン連打でスキップ」みたいな話は,割と定番ですし。

SWERY氏
 ムービーシーンを飛ばしたくなるのは,理由があると思っているんです。シナリオは,そこまで質的に大きな変化をしていません。その一方,映像の質はぐっと上がった。CGがすごい! というクリエイター共通の感動のまま,CGにひたすら注力した時代は確実にあったと思います。

4Gamer
 CGキャラクターが演技できそうになってきたので,させてしまいたい,といった作り手の欲望ですね。

SWERY氏
 そうやってCGに入れ込みすぎた結果,プレイヤーとしては見たくもないCGの大根役者の演技をダラダラと見せられることになってしまった。これが,ムービーをスキップしたくなる理由なんじゃないでしょうか。

4Gamer
 なるほど。

SWERY氏
 でも今は,そのあたりの問題が認識され,カットシーンが問題なのではなく,「つまらないカットシーンが問題なのだ」と把握されるようになってきたと思います。

4Gamer
 ところで,QTEもよく指摘される問題です。「QTEの存在そのものが害悪なのだ」という説もありますね。

SWERY氏
 QTEも,映像の退屈さが問題になっちゃうパターンですね。例えば誰かが攻撃されるから,それを回避するといったQTEを作るとします。これを,引き絵でワイドに撮っちゃうと,まったく面白くない。
 でもそれを近接で,カメラの揺れを入れて,動線もしっかり作り込み,さらに避ける側のキャラクターの表情も演技させると,どんどん絵が締まっていきます。「D4」でQTEを作ったときは,まずスタッフに対して「映像として面白くなくてはダメだ」と口を酸っぱくして言いました。映像を詰めに詰め込んだうえで,さらにその映像に“触れる”から,ゲームが映像を超えられる。まあ,理解してもらうのにだいぶ時間がかかりましたけど。
 QTE害悪論は結局,カットシーンと同じで,「面白くないQTEがダメ」なのであって,面白く作ることは可能だと思います。


マット・デイモンがゲームに声をあてていた可能性


4Gamer
 先程,カットシーンがつまらない理由の1つとして,キャラクターの演技が大根,ということが挙げられていました。最近では役者に演技させ,それを丸ごとキャプチャーするという技術が使われています。

画像集 No.023のサムネイル画像 / ついに新作「THE GOOD LIFE」を発表したSWERY氏にインタビュー。「月華の剣士」から「D4」へ,そして新スタジオWhite Owlsで新作の制作を始めた同氏のこれまでとこれから

SWERY氏
 ええ。最近はモーションキャプチャーではなく,パフォーマンスキャプチャーですね。動きだけでなく,役者の表情までキャプチャするという技術は,大作タイトルでは普通になりました。
 でも,僕のやり方はそれとは少し違っていて,アニメ寄りです。「D4」で言うと,登場人物が欧米系ですから北米の役者さんを使いました。また,アクションシーンは日本のスタジオで,スタントマンを使っています。
 このあたりまでは割と一緒ですが,違うのは,表情や指の動きで,これらはアニメーターがつけているんです。シーンごとに必要な表情や指の動きを手作業でつけるという,パフォーマンスキャプチャーとアニメをミックスしたような技法です。

4Gamer
 欧米のゲーム開発だと,そのあたりは非常にシステマティックな作業ラインが組まれているようですが。

SWERY氏
 そうなんですよ。でも正直,役者の芝居をキャプチャーして,それをCGで再出力する意味ってどれくらいあるのかな。だったら実写でええやん? って思うんです。
 それはまあ,装備が変わるとか,景色が変わるとか,人間じゃなくてオークですとか,そういうのは意味があると思いますが,そうでもないシーンを技術の粋を尽くしてわざわざ役者の芝居をキャプチャーして,それをポリゴンモデルに反映させてリアルタイムで出力するのって,なんだか迂遠に思えます。

4Gamer
 ですが,個人的には「龍が如く6 命の詩。」は面白かったですね。あの世界に北野 武さんが出てくると,それだけで,おおっ! という楽しさがあります。

SWERY氏
 ああ,それは確かにそうですね。ゲーム世界の配役を楽しむというか。

4Gamer
 北野 武さんが出演すれば,海外市場への訴求力も十分あると思いますし,「龍が如く」シリーズはそうしたトータルイメージの作り方が巧みだと思います。

SWERY氏
 確かに,そういうやり方ってありますね。小島監督「DEATH STRANDING」でも,出演者が発表されることで盛り上がりましたし。そういう,配役の楽しさを最初に見せてくれたのは,「鬼武者」ですかね。

4Gamer
 本格的だったのは,「鬼武者」の金城 武さんだったかもしれないですね。

SWERY氏
 「メダル オブ オナー アライド アサルト リロード」のナレーションをゲイリー・オールドマンがやったのと,どっちが先だろう? ああでも,そういう意味では実は僕,「スパイフィクション」を作っていたときに,主人公のビリー・ビショップの声を俳優に任せる方向で動いていました。それも,よりによってマット・デイモンにお願いしようとしていたんです。

4Gamer
 マット・デイモン!

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SWERY氏
 「ボーン・アイデンティティー」でブレイクする前ですね。僕は「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」で彼の大ファンになって,なんとしても使いたかったんですが,果たせず終わりました。
 しかし,そういえば「月華の剣士」でも,たぶんゲームでは初めて大塚明夫さんに声をお願いしているんです。このときも,どうしても大塚さんに声をあててほしくて,入社2年めの僕がサウンド部門の次長に直談判に行きました。
 ……してみると,その頃の僕は「役者を使ってゲームの価値を高めよう」みたいな意識があったんですね。うーむ,「迂遠だ」と言ったけど,昔の自分はそういうことをしたがっていたのか。


ついに発表された新作タイトル「THE GOOD LIFE」


4Gamer
 さて,最後になりましたが,新会社を設立して,新しく動かしているプロジェクトについて詳しく聞きたいと思います。

SWERY氏
 はい。すでにもういろいろなところで話が出ていますが(関連記事),ゲームのタイトルは「THE GOOD LIFE」と言いまして,ジャンルとしてはシミュレーションRPGになります。
 プレイヤーは借金まみれの写真家であるナオミを操作して,イギリスの田舎町「レイニーウッズ」の取材をします。で,依頼主であるモーニングベル社に写真とレポートを送ると,それがお金になって,借金をちょっと返せるという仕組みですね。
 でもって,このゲームには大きな秘密と謎があります。
 秘密とは,レイニーウッズの住人は夜になるとみんな猫になってしまう,ということ。そして謎とは,このレイニーウッズの街で殺人事件が発生する,ということです。プレイヤーはこの秘密と謎に直面しながら,レイニーウッズの住人と交流しつつ,写真を撮り,レポートを書いていく,という形のゲームになります。

4Gamer
 犬バージョンもあると聞きましたが。

SWERY氏
 そうですね。最初は「レイニーウッズの住人は夜になると猫になる」と紹介していましたが,夜になると犬になるバージョンもあります。もちろんですが,犬と猫で,できることは違います。
 ただ,両方買ってくれっていう話ではないです。「THE GOOD LIFE」はオンラインマルチプレイの要素がありますので,犬のバージョンを買った人と,猫のバージョンを買った人で,交流してもらえたら嬉しいなと。あ,もちろん両方買ってもらえると,とても嬉しいですけど。

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4Gamer
 なるほど。それはそうとして,ぶっちゃけ,かなり変わった企画だと思うんですが,これってどういう経緯でクラウドファンディングに至ったんでしょうか。

SWERY氏
 企画自体は,2007年くらいからずっと温めていたんです。ただ,このゲームはパブリッシャに口を出されない形でやりたいという思いがありまして,それでWhite Owlsを設立し,クラウドファンディングで開発資金の調達をやろうと考えたわけです。

4Gamer
 White OwlsとSWERYさんは,どんなポジションで本作に関わられるんですか。

SWERY氏
 僕は原案で監督ですね。あと,アート関係はWhite Owlsでもやっていきます。
 グランディングとやろうというのは,二木幸生さんと一緒に飲んでいたときに「ぜひ一緒に」という話になったからで,僕もグランディングが出したiOS版の「街コロ」とかを見て,ご一緒したいなあと思ってたものですから。そういうわけで,開発をグランディングにお願いする運びとなりました。
 オーディオはその「街コロ」でもBGMやSEを担当されたスタジオ・カリーブにお願いしています
 また,プロデューサー兼スーパーバイザーとして,カモフラージュのライアン・ペイトン氏を迎えていますが,彼は「SWERYのゲームをもっとチャーミングにしたい。誰にでもその魅力が伝わるようにしたいんだ」とか,おかしなことを言う男です。

4Gamer
 それは確かにおかしな人物ですね。
 さて,お話を聞く限り,「THE GOOD LIFE」の主人公であるナオミは,割と詰んだ状況のように思えます。もちろんカメラマンは一攫千金があり得る仕事かもしれませんが,イギリスの田舎町を取材して「莫大な借金」を返せるかと言うと,普通は無理ですよね。しかも「莫大な借金を作ってしまうカメラマン」という段階で,なんだか先行きに暗雲しか見えない気がします。

SWERY氏
 ええ。ゲームが始まった段階で,実際ナオミは「詰んだ」状況にあります。そして,詰んだ彼女に,モーニングベルという新聞社が「世界一幸福な街と呼ばれるレイニーウッズの秘密を解き明かせ」という命令を下すわけです。いわば,カイジ的状況ですかね。
 ただモーニングベルはある意味で良心的で,本来ならイギリスの田舎町の写真なんか撮っても報酬はたかが知れているんですが,なぜかナオミが撮った写真とレポートを高値で買ってくれるんです。

4Gamer
 なるほど,「写真を撮る」のがゲームの大きな要素になっているように思えますが,「THE GOOD LIFE」を“写真を撮るゲーム”にしようと決めたのは,なぜでしょうか。

SWERY氏
 このゲームで僕は人を殺したくないんですよ。でもほら,人って「シューティング」が好きじゃないですか。そこで考えたのが,「じゃあカメラで撮影(シューティング)しよう」と。
 実際,カメラで撮影するという行為が面白いゲームになるのは,僕がディレクションした「スパイフィクション」で分かっていて,それも決断を後押ししてくれました。

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4Gamer
 当たり前のことを聞いてしまうのですが,レイニーウッズの住人が夜になると猫になったり犬になったりするというのは,もちろんストーリーに深く関わってくると思います。その意図としてはやはり,猫好き,犬好きにアピールしたい,というところもあるのでしょうか。

SWERY氏
 もちろん,あります(笑)。
 でも,こだわっているところは結構あって,トレイラーに声をあててくれた声優さんが,園崎未恵さんなんです。園崎さんはゲームのお仕事も多いですが,海外ドラマの吹き替えも上手な声優さんでして,アン・ハサウェイが演じる役に声をあてられているんです。その中には「ダークナイト・ライジング」のキャットウーマン役もありまして,これはもう園崎さんにお願いするしかないな,と。

4Gamer
 こだわりますね! 改めて確認させてほしいんですが,「THE GOOD LIFE」はすごく簡単に言って,主人公を操作して街を探索し,写真を撮ったり,レポートのネタを拾ったりして,記事を作って,新聞社に送る。するとそれがお金になる――それを繰り返していくゲームという理解でいいのでしょうか。

SWERY氏
 そうです。撮影したものは基本的に「写真」になり,住人との会話は「レポート」になります。これをセットにしてモーニングベル社に送るとお金になる。これが基本的なサイクルです。
 ただ,撮影した写真は,ものによっては「証拠写真」にもなります。また会話が「証言」になることがあります。こういった変化が訪れたら,「物語が前に進んだぞ」というわけですね。
 そのうえで,借金返済の進捗とゲームの進捗は,だいたいシンクロしていきます。というのも,借金の返済が進んでいないということは,それだけ重要な話を聞き損ねている,つまり町の人との関係が薄いということだからです。

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4Gamer
 なるほど。ゲームとしては何か強固なストーリーラインがあって,それをQTEや選択肢などを使って進んでいくというよりは,もっと自由にダラダラ遊べる感じのゲームだと思っていいですか。

SWERY氏
 はい。イメージとしては,「牧場物語」シリーズや,「ダービースタリオン」シリーズのようなゲーム構成で,それに比べてストーリーで引っ張る要素が多め,というのが想像しやすいと思います。
 実際,ナオミは必ずしも取材ばっかりしなきゃいけないわけではないんですよ。アルバイトみたいなこともできますし,町の住人として普通に暮らしていくことも可能です。ちょっと話が前後しますが,グランディングと一緒にやろうと決めたのも,こうした,繰り返し遊べるゲーム作りが得意だからという側面もあります。

4Gamer
 でもストーリーで引っ張るというからには,エンディングはあるんですよね。

SWERY氏
 あります。ありますが,エンディングはゲーム側が提示するゴールがなくなった状態だと考えてください。エンディングを迎えたあとも,プレイし続けられます。そのうえで,エンディングを迎えたあともレイニーウッズから離れられなくなるような,忘れがたい思い出が残る――そんなゲームが,「THE GOOD LIFE」です。

4Gamer
 だいぶ踏み込んだところまで,ありがとうございました。
 ところで「THE GOOD LIFE」はFigでクラウドファンディング中なのですが,UIが全部英語ということもあって,日本人にはちょっと分かりにくい側面もあるように思えます。このあたり,何かうまいガイドはありますか。

SWERY氏
 あります! 画像を用意しましたので,そちらを見てください。

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「THE GOOD LIFE」キャンペーンサイト


4Gamer
 ありがとうございます。さて,「THE GOOD LIFE」以外にもいろいろと考えていることがあるとも聞いています。話ができるタイミングになったらまた詳しいことを聞かせてください。本日は長時間,どうもありがとうございました。
  • 関連タイトル:

    The Good Life

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