
連載
ゲーム制作の現場に密着した迫真のドキュメンタリー「RPGのつくりかた 橋野桂と『メタファー:リファンタジオ』」(ゲーマーのためのブックガイド:第34回)
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筆者こと朱鷺田祐介は,テーブルトークRPGのデザイナーである。30年以上のキャリアはあるが,実は,デザイン技術はほぼ我流。デビューが日本のテーブルトークRPG黎明期ということもあり,ほぼ独学だったので,誰かの下でゲーム作りを学んだことはない。
そのためアナログ,デジタルを問わず,ゲームの作り方には興味がある。還暦を超えていまさらではあるが,フリーランスなので一生現役。戦い続けるには学びが必要なのだ。
そんな中で出会ったのが,アトラスの最新作「メタファー:リファンタジオ」(PC / PS5 / Xbox Series X|S / PS4)の制作過程に密着した連続インタビュー集「RPGのつくりかた 橋野桂と『メタファー:リファンタジオ』」である。今回は,学びの多かったこの一冊を紹介してみたい。
「RPGのつくりかた 橋野桂と『メタファー:リファンタジオ』」
著者:さやわか
監修:アトラス
版元:筑摩書房
発行:2025年2月3日
価格:2640円(税込)
ISBN:978-4-480-81861-4
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「メタファー:リファンタジオ」ディレクター・橋野 桂氏への7年間の取材を記録した書籍“RPGのつくりかた”,本日発売

筑摩書房は本日(2025年2月5日),アトラス監修の書籍「RPGのつくりかた ――橋野桂と『メタファー:リファンタジオ』」を発売した。価格は2640円(税込)。本書は,「メタファー:リファンタジオ」のディレクター・橋野 桂氏への7年間にわたる取材によって,同作のおもしろさの秘密に迫るものだ。
筑摩書房「RPGのつくりかた 橋野桂と『メタファー:リファンタジオ』」紹介ページ
いまさら説明するまでもないが,「メタファー:リファンタジオ」は「ペルソナ3」「4」「5」を手がけた橋野 桂氏が,新境地を求めて挑んだ本格ファンタジーRPGだ。ファンタジー世界における国王選挙をテーマにした物語で人気を博し,発売初日にして販売本数100万本を達成。2025年3月に発表された「令和6年度(第75回)芸術選奨文部科学大臣賞及び同新人賞」では,本作での功績が認められ,橋野氏は新人賞を獲得するなど,国内外で高い評価を獲得している。
桜井政博氏が「芸術選奨文部科学大臣賞」を,アトラス・橋野 桂氏が「芸術選奨文部科学新人賞」を受賞。第75回「芸術選奨」にて

文化庁は本日(2025年3月3日),「令和6年度(第75回)芸術選奨文部科学大臣賞及び同新人賞」を発表した。メディア芸術部門では,「桜井政博のゲーム作るには」の成果で桜井政博氏が大臣賞,「メタファー:リファンタジオ」の成果で橋野 桂氏が新人賞を受賞した。
この本のすごいところは,橋野氏が2016年にスタジオ・ゼロを立ち上げてから8年続いた制作期間のうち,「Project Re:Fantasy」という名前でプロジェクトが発表されてからの後半7年間を,半年あるいは1年おきに行われたインタビューを通して,詳細に描き出している点にある。
例えば本書の第1章の橋野氏は,「キャサリン・フルボディ」を制作しながら本作のテーマを煮詰めている段階にある。これが第5章になると,もうすぐアルファ版が完成し,社内プレゼンにたどり着く前夜になる。500ページを超える大著だが,ページをめくるごとに「メタファー:リファンタジオ」が形になっていくのを体感できる。
また著者のさやわか氏は漫画や映画などの分野で活躍する評論家/ライターであり,決してゲーム制作の専門家ではないが,であればこそデジタルRPGの制作手順が,門外漢にも分かりやすく説明されている。
インタビューの対象はプロデューサー兼ディレクターの橋野氏だけでなく,キャラクターデザインやシナリオ,バトルパート,日常パート,UIといった各担当スタッフにも及んでいる。そのためそれぞれの分野で,橋野氏のディレクションがどう作用したのか,また各スタッフがどう工夫したのかが分かるようになっており,非常に勉強になる。デジタルゲームの作り方を学びたいならば,本書は屈指の一冊ではないだろうか。
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制作現場を見つめたドキュメンタリー
本書はデジタルゲームでは珍しい,「制作現場に密着したドキュメンタリー」だ。さやわか氏は定期的にスタジオ・ゼロを訪れ,進捗を確認しながら,話を引き出していく。その焦点は,橋野が今,どんな問題を抱えているか,である。
開発はトラブルの連続だ。時期によっては,橋野氏が非常に疲れて見えることもある。例えば開発中盤,要修正のチケット(いわゆるバグ報告)が8000件を超えたという話が出てくる。橋野氏はこれらに優先度をつけ,スタッフに指示しなくてならない。
そしてアルファ版が完成した第5章,2019年12月18日のインタビューは次の一文で終わる。
「この日の取材から約1ヶ月後の、2020年1月16日。国内ではじめて『新型コロナウイルス』の感染者が確認されたのだ。」
第6章ではコロナ禍の下,テレワークへ移行を余儀なくされ,手探り状態のスタジオ・ゼロの様子が描かれる。約1年ぶりに訪れたさやわか氏に,社内の各班の作業状況を見せる橋野氏だが,実はこのとき,ゲームに大きな変更が行われていた。
例えば,主人公の瞳がオッド・アイになったのもこの時期だ。また,それまで無言だった主人公が自ら喋るようになり,旅を雰囲気を作り出す演出も,テレビの旅番組を参考に加えられた。合体技であるジンテーゼが提案されたのもこのタイミングである。
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第7章以降では,通しプレイが可能なベータ版の制作と調整の苦悩が語られる。安易に「ペルソナ」シリーズを踏襲していた部分が,通しプレイによって見直されていくフェイズだ。
例えば,カレンダーは月齢が重要な「ペルソナ」シリーズでは欠かせないものだったが,本作においては,この時点ではあまり目立たない要素だった。これが見直された結果,「クエストの期限を並行して表示する」ようになり,旅感覚の補強につながっている。
そして第9章では正式タイトルが決定し,最後のブラッシュアップに向かっていく様子が語られる。とくにタイトルが決まる瞬間は,本書の中でも非常にドラマチックだ。それにしても「メタファー(暗喩)」とは,実にアトラスらしいタイトルではないか。
思えば本書は,橋野氏が第1章で「王道ファンタジーとは何か?」「アトラスがファンタジーを作る意味は?」と考えをめぐらせるところからスタートしている。これが第4章になると,「ベタな王道の物語に、自然となったんですよ」と語られ,そして最後には,本作はロードムービーなのだとの認識に橋野氏は至っている。氏が「マッドマックス 怒りのデス・ロード」を例に出しながら,本作の旅を「ペルソナ」シリーズと比較して語っている部分はとくに面白いので,本作をプレイした人はぜひご一読いただきたい。
ああ,このインタビューそのものが旅のようだ。本書は発売まで40日ほどに迫った2024年8月28日の取材をエピローグとして終わる。発売後の評価や成果の描写はあっさりしているが,それは自分の目で確かめられることだ。それでいい。
かくして「メタファー:リファンタジオ」と共に過ごした,1か月近い筆者の旅も終わりを迎えた。そこから見えてくるのは,ゲーム制作における橋野氏の哲学だ。彼は一貫して「筋が通る」ことを重視している。データに,物語に,UIに,作品としての筋が通っていること。ファンタジー作品だからこそ,そこには一貫した何かがなくてはならないのだ。畑は違えどゲーム制作に携わる筆者としても,改めて学びの多い一冊であった。
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「メタファー:リファンタジオ」公式サイト
筑摩書房「RPGのつくりかた 橋野桂と『メタファー:リファンタジオ』」紹介ページ
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- PC:メタファー:リファンタジオ
- PC
- RPG
- CERO C:15歳以上対象
- アトラス
- ファンタジー
- プレイ人数:1人
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