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企画記事
女児向けゲームの黎明:第2回は「ガールズガーデン」。1985年発売の「日本最初期」女児ゲーは,恋愛要素ありのキュートなアクション作品だった
いまではメジャーな存在となった女児向けゲームだが,男性向けのゲームが多くを占めていた80年代から90年代頃に生まれた作品はどのようなアプローチで女の子に訴えかけ,楽しませていたのだろうか。そしてその作品はいかにエポックメイキングだったか,実際にプレイしながら深堀りしていく。
前回の「Barbie ファッションデザイナー」の記事では,女性向け・女児向けゲームが大きな注目を集めるようになるのは,90年代半ばから後半が大きな起点だったと紹介した。では,日本ではいつ頃から女の子をメインターゲットに据えたゲームが現れ始めたのだろうか。筆者の考えでは,それは80年代中頃からだ。
その中でも最初期の例と言えるのが,今回紹介する「ガールズガーデン」だ。本記事では,本作がどのように女の子に訴求する作品であったのかや,その歴史的意義を解説する。
女児向けゲームの黎明:第1回は「Barbie ファッションデザイナー」。アメリカの女児ゲー市場を作り上げたパイオニアをレビューする
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「女児向けゲームの黎明」は,80年代から90年代にかけて生まれた最初期の女の子向けゲームをレビューする短期連載だ。第1回はアメリカで殿堂入りを果たした大ヒット作「Barbie ファッションデザイナー」を取り上げ,実際に遊びながらその歴史的意義に触れてみよう。
「ガールズガーデン」について
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本作は,セガ・エンタープライゼス(現セガ)が1985年頃に発売した女性向けアクションゲームだ。メガドライブの2世代前のハードであるSG-1000にて発売された。ニンテンドー3DSで発売されたクラシックゲーム集「セガ3D復刻アーカイブス3 FINAL STAGE」では,「セガ3D復刻アーカイブス2」のセーブデータ連動特典として,本作を初めて復刻している。本記事で使用している画像は,そのバージョンを使用した。
それほど著名なゲームではないが,「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」「NiGHTS into dreams...」などを手掛けた中 裕司氏が入社して初めて制作したゲームとして,セガファンには知られている。ほかにも,「アウトラン」「ファンタジーゾーン」の作曲などで知られる川口博史氏や,「スーパーハングオン」「カルテット」の作曲などで知られる林 克洋氏といったメンバーも参加している。
本作は,明確に「女の子」をターゲットにした作品である。当時,入社して間もなかった中氏や川口氏らが,研修を兼ねて「女の子向けのゲームを考えて作ってみろ」と言われて開発したことが,公式サイトに掲載されている2002年のインタビュー(「名作アルバム」,「ゲームミュージック・コア」)や,Xにおけるポストなどで明らかになっている。そんな本作はどういったところが「女の子向け」だったのだろうか。実際に触れながら確認してみよう。
ほかの女の子より先に振り向かせる! 恋愛要素を取り入れた設定がユニーク
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本作の目的は,主人公の女の子・パプリが,素敵な男の子・ミント君を振り向かせるため,フィールドに咲く「ふしぎの恋の花」を集めてプレゼントするというもの。フィールド上を歩き,満開になっている花を10本集めるとラウンドクリアとなる。ふしぎの花園は画面3つ分の広いフィールドで,左右がループする構造になっている。
しかし,パプリの恋路にはさまざまな困難が立ちはだかる。ふしぎの花園の番人である熊のヤンピーが襲ってくるし,川や池に落ちてしまう危険もある。1ミスすると,残機が減ってしまう。また,枯れて黒ずんだ花を取ってしまうと集めた花を半分失ってしまうので,注意しなければならない。
蜂のプリムは,恋路をお手伝いしてくれる。フィールド上に,ボーナススコアや残機追加,制限時間の延長などプレイヤーに利をもたらすアイテムをランダムにドロップしてくれる。一部妨害アイテムもあるが,プレイヤーにとってはありがたい存在だ。
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セガ公式サイトに掲載されている取扱説明書で設定を見ると,フィールドの名称が「ふしぎの花園」だったり,熊や蜂のキャラクターが登場したりと,かなりメルヘンで児童向けアニメ的な雰囲気に仕上がっていることがわかる。色使いがカラフルな画面や,ポップで楽しげなメロディのBGMもとても可愛らしく,とっつきやすい印象を与えてくれる。
インタビューによれば,開発当時は「男性が女性に花を贈る」というイメージはそれほどなく,中氏としては「花といえば女の子が摘んでいるもの」というイメージがあったことから,このような設定になっているそうだ。
主人公の目的は「好きな男の子を振り向かせること」であることや,ラウンドクリア時のジングルがフェリックス・メンデルスゾーンの「結婚行進曲」であることなど,恋愛的な表現を取り入れているのも注目に値する。
好きな異性のために奔走するという設定は定番といえば定番で,「ドンキーコング」など過去にも例はあるが,本作が恋のライバル「コッコ」を用意することで,より恋愛的なフレーバーを掘り下げている。ゲーム中にセリフはないが,説明書上ではコッコが「ミント君は絶対にあたしのものよ」などと対抗心を燃やしている。
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コッコはゲームプレイに直接関係するキャラではないが,画面上部の制限時間メーターにおいて“徐々にコッコになびいてしまうミント君が完全にくっつく前に花を集めてプレゼントする”という好きな子を奪い合う表現を取り入れたことで,よりプレイの意欲が掻き立てられるのはユニークだ。
ゲームの構造は,2回の通常ラウンドと1回のボーナスチャレンジングステージを繰り返し,ゲームオーバーまでひたすらそれが続くというもので,明確なゲームクリアの概念はない。もっとも,80年代前半当時は家庭用ゲームでもこうした作りはよく見られ,エンディングを見ることではなく,スコアをどれだけ稼げるかが大きな目標になっていたものは多かった。
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実際プレイしてみると,1985年頃のアクションゲームとしてはかなり完成度が高い。満開になっている花を集めるというルールはシンプルでわかりやすく,精細な操作を要求される場面はほぼないため,だれでも楽しめる作品に仕上がっている。
それでいて,理不尽さが少なく,戦略性が多分にある点も見逃せない。襲ってくる熊は「ハチミツの壺」というアイテムを設置することで一時的に回避可能であり,詰み的な状態になることはほぼない。熊や障害物の岩や池・川を避けつつ,時間経過で蕾→満開→枯れへと状態が変わっていく花をいかに効率的なルートで獲得するか,頭の中で戦略を組むことが常に求められる。
筆者の考えでは,1980年初頭以前の古いアーケードゲームは作品の全貌がすぐに見えてしまう。しかしその中でも,分かりやすいルールでなおかつプレイヤーの考える余地があるような作品は,時折手にとって遊びたくなる魅力があると感じる。筆者は本作も,名作アーケードゲームに肩を並べられるほど繰り返しプレイしたくなる面白さを持っていると感じた。
80年代日本の女の子向けゲームシーン
「ガールズガーデン」は,国内においてはおそらく初めて,もしくはかなり初期に明確に「女の子向け」として作られた作品だ。「女性向け」にまで視点を広げると,ゲームセンターに女性やカップルが入れるようにしたいという思いから生まれた1980年の「パックマン」が挙げられるが,「女の子」をターゲットにした作品は80年代中頃から生まれているようだ。
例を挙げると,ファミコンではタカラより着せ替え人形「ジェニー」を元にした1986年のアクションゲーム「ロストワード・オブ・ジェニー 失われたメッセージ」,セガ・マークIIIでは光文社の女児向け雑誌「少女」に掲載されていた漫画を原作とした1987年のアドベンチャーゲーム「あんみつ姫」などが挙げられる。
海外にまで目を向ければ,「バービー」の初となるゲーム作品が本作の開発年と同じ1984年にコモドール64で発売されていて,その多くはおもちゃや漫画などほかのメディアの作品を原作としたものだったことがわかる。その中で,「ガールズガーデン」は完全オリジナル作品であることに特異性があり,開発年が1984年であることを考えると,本作は「女の子向けゲーム」の最初期の例と言える。
セガの公式サイトでは,当時のプレイヤーの思い出エピソードが掲載されている。その中には,当時小学生だった女性がセガ・マークIII(※SG-1000の次世代機だが,互換性があった)を購入した際に本作を選んだことや,親が姉のために買ってきたこと,ゲームが苦手な母親がときどきやりたいと言い出したことなど,さまざまなエピソードが語られている。このように,実際に女性が購入した,あるいは夢中になったという例は少なからずあるようだ。
「ガールズガーデン」は,前回紹介した「Barbie ファッションデザイナー」ほど爆発的なムーブメントを起こしたわけではなく,もともと研修目的で作っていたものをそのまま販売へと持っていったという特殊な経緯で作られた作品ではある。中氏が語ったところによると公式の売上記録は4万本ほどと大ヒットしたわけではないが,黎明期に作られた「女の子向けゲーム」という点で,大きな意義があったのではないだろうか。
筆者としては,中氏らの上司が,当時ほとんどなかった女の子向けゲームを作るように指示した理由も気になるところだが,本作に関しては関係者の証言などが非常に少なく,残念ながら詳しいところまでは分からない。ただ,「女の子向けだから」というような理由で著しく簡単に調整されることもなく,当時の名作アーケードゲームと同じくらいの水準の品質に仕上がっているのは,本作に先進性があったように思える。当時の業界に対し,どの程度影響を与えたかは分からないが,この時代に本作が生まれていたことに筆者は驚かされた。
セガ公式サイト「名作アルバム」ガールズガーデン公式ページ
- 関連タイトル:
セガ3D 復刻アーカイブス3 FINAL STAGE
- この記事のURL:
(C)SEGA
Bare KnuckleII: MUSIC (C)YUZO KOSHIRO
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