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Access Accepted第506回:ゲーム産業に広がるチャリティの波と「HELP: The Game」
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印刷2016/08/01 12:00

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Access Accepted第506回:ゲーム産業に広がるチャリティの波と「HELP: The Game」

画像集 No.001のサムネイル画像 / Access Accepted第506回:ゲーム産業に広がるチャリティの波と「HELP: The Game」

 2015年度には235億ドル(日本円で約2.4兆円)規模になったといわれるゲーム産業だが,音楽や映画,絵画といったほかのアートやエンターテイメントに比べ,社会貢献としてチャリティを行うといった事例はまだまだ少ないように感じられる。そんな中,イギリスを中心としたヨーロッパの独立系デベロッパ11社が,戦争孤児へのチャリティに協賛し,全12作のミニゲームを詰め込んだバンドルパック「HELP: The Game」の販売を開始した。今回は,その背景について紹介しよう。


イギリスで20年以上も活動を続ける戦争孤児向け慈善団体


 「七つの国境,六つの共和国,五つの民族,四つの言語,三つの宗教,二つの文字,一つの国家」と言われたユーゴスラビア連邦が,ソビエト連邦の崩壊と東欧の民主化によって内乱を経験したのは,1991年からおよそ10年間ほど。
 スロベニア,マケドニア,クロアチアといった新国家が誕生し,続いてボスニア・ヘルツェゴビナも1992年に独立を果たしたが,同地域の人口の33%を占めるセルビア人達は,分離を目指してボスニア新政府軍と対立。政府軍の立て籠もるサラエヴォを1992年から4年近くにわたって包囲,封鎖した。これが,多くの市民を巻き込んで甚大な被害を出し,ヨーロッパを震撼させることとなった「サラエヴォ包囲」である。この戦闘による死者は,推定で1万2000人,負傷者は5万人と言われている。

War Child UKの現在のプロジェクトの1つが,レバノンのシリア難民孤児へのサポートプログラムだ。現地の人々との協力により,教育や職業訓練などに力を入れているという(画像はWar Child UKの公式サイトより)
画像集 No.003のサムネイル画像 / Access Accepted第506回:ゲーム産業に広がるチャリティの波と「HELP: The Game」
 ドキュメンタリー映画作家のDavid Wilson(デイヴィッド・ウィルソン)氏Bill Leeson(ビル・リーソン)氏は,この事件によって生まれた戦争孤児を救済すべく,慈善団体「War Child UK」を1993年に結成した。
 同団体の有名な活動としては, Paul McCartney(ポール・マッカートニー)氏をはじめ,OasisやRadioheadといったイギリスのミュージシャン達が,それぞれの楽曲を提供して発売されたアルバム「HELP」(1995年)などがあり,ほかにもアートやエンターテイメントを使ったチャリティイベントが多く企画されている。

 現在の東欧地域は落ち着きを取り戻しており,東欧発のゲームが市場を賑わすことも少なくないが,それでも戦争が世界からなくなったわけではない。南アジアから中東,そしてアフリカ地域では,今なおさまざまな紛争が頻発している。

 War Child UKの活動も,それに合わせて拡大している。単に紛争地域に物資を送るだけでなく,現地人と協力して危険地域から子供達を避難させりもしているようで,さらには戦乱で多くのものを失った地域の子供達が貧困から脱するきっかけを作るべく,住居の提供や教育,そして職業訓練などを行うという長期的なプログラムに主眼を置いているという。
 2014年には,アフガニスタン,イラク,シリア,中央アフリカ共和国といった地域で,9万8000人余りの子供達を戦争による貧困から“助け出した”と公式サイトには記載されている。

 こうしたWar Child UKの活動に共感するゲーム開発者は少なくなく,記憶に新しいところでは,実際にサラエヴォ包囲を題材にしたと言われるサバイバルストラテジー「This War of Mine」が,2015年3月に「War Child Charity DLC」という有料コンテンツを発売。その収益のすべてを同団体に寄付している。
 これに触発されたのか,元々団体の代表者が映像作家であるWar Child UKは,戦争孤児の心の傷を表現するFPS風のパロディ映像を公開。パロディとは言っても,FPSを批判するようなものではなく,「身近な視点から見る戦争」とでもいうべき着眼点で制作された映像に仕上がっている。



ゲーム業界がチャリティプロジェクトに参加する意義


 前置きがなくなったが,このWar Child UKが設立されて24年目となる今年,イギリスを中心としたゲームデベロッパ達が新たなプロジェクトを発足させ,2016年7月26日にSteamにて「HELP: The Game」というバンドルパックをリリースした。
 Sports Interactive,Creative Assembly,Rovio,Torn Banner Studios,Team 17,Sumo Digital,Bossa Studios,Curve Digital,SEGA Hardlight,Spilt Milk Studios,そしてModern Dreamと,世界的に有名な独立系デベロッパも名を連ねている。ちなみに12作あるのは,Rovioが2作を提供しているためだ。

 このプロジェクトのゲーム制作にあたっては,各メーカーが社内でゲームジャム(短時間のゲームコンペ)を実施して企画を立て,中にはたった6日で開発されたものもあるという。
 もちろん,1つ1つは短く反復的な内容であったり,手軽に遊び尽くせてしまうくらいのコンテンツではあるのだが,それらをまとめてバンドルパックとし,SEGAをパブリッシャとして14.99ドルで販売することで,その収益のすべてをWar Child UKへの寄付金とする試みとなっている。
 SEGAのほかにも,SteamやEpic Games,Unity,そしてYouTubeなどが協賛しており,今やエンターテイメントの世界で,音楽や映画産業を超える規模となったゲーム産業が,慈善事業の分野でも注目を集め始めている証左といえるかもしれない。


 そう言えば,Activision Blizzardは「Call of Duty Endorsement」というサイトを立ち上げ,退役軍人やその家族をサポートするチャリティを展開している。またElectronic Artsも,「Battlefield」シリーズを中心としたタイトルで「Play to Give」というゲーム内イベントを実施し,その成果を複数のチャリティ団体に寄付するという試みを行っている。
 最近,日本でも知名度が上がりつつあるオンラインストア「Humble Bundle」は,2010年のサービス開始以降,ずっと支払いの最大100%を自分で選べるチャリティに寄付できる仕組みを取り入れており,ゲーマー達にとっては身近な寄付の手段となっている。

 もちろん,「我々は慈善活動によって社会に貢献している」というスタンスを前面に押し出すことに胡散臭さを感じる消費者もいるだろうが,欧米では成功したビジネスの成果を地域社会に還元することは,半ば当たり前という風潮があり,最近では幹線道路や公園の整備などの公共事業が,企業献金で賄われているようなことも珍しくなくなった。
 「HELP: The Game」のようなプロジェクトに参加するゲーム開発者達にしても,自分達のスキルが社会貢献に活用されることは,自信の回復やヤル気の源泉になるわけで,プラス効果は大きかったに違いない。

 War Child UKによる啓蒙活動や慈善事業に共感するゲーム業界関係者は増えていく一方だが,同団体のレポートによると,戦争で被害にあっている子供達は世界で2億3000万人に及ぶとのことで,まだまだ十分ではない。
 2015年度には235億ドル規模にまで達したといわれるゲーム産業だが,より多くの企業がこうしたチャリティに参加し,より多くのゲーマーが賛同してゲームを購入することが望まれている。

「Surgeon Simulator」シリーズなど,おバカ系物理シムで注目を集めているBossa Studiosもまた,「HELP: The Game」にゲームを提供している。シリアスなタッチのビジュアルノベル風アドベンチャーゲーム「Emily: Displaced」がそれだ
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著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
  • 関連タイトル:

    HELP: The Game

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