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[GDC 2017]録音が残っていない第一次世界大戦のサウンドをどう作る? 「バトルフィールド1」の音声担当が登壇したセッションをレポート
Bence Pajor氏 |
Andreas Almstrom氏 |
ご存知のように「バトルフィールド1」のテーマは第一次世界大戦。考えてみれば,彼らサウンドデザイナー/ディレクターにとって,これはかなり挑戦的なテーマだ。Pajor氏によれば,現代の戦いを描いた「バトルフィールド 2」から「バトルフィールド 4」までは,映画や当時の記録映像など,参考にできるものがたくさんあった。しかし,今から約100年前に起きた第一次世界大戦では,音声記録すら残っていない。そして,第一次世界大戦に従軍した陸軍兵士の最後の1人が,2009年に亡くなっている。
要するに誰も知らないので,素人考えだと「どこからも文句が出そうもないのだから,どんなサウンドでもいいのでは」などと思ってしまうが,DICEは信憑性を重んじるスタジオである。少なくとも,プレイヤーが本当に「これが第一次世界大戦だ」と,ゲームに没頭できるようなサウンドを構築する必要があった。
伝書鳩を使う戦いでは,現代戦のスパイスといえそうな無線の声は聞こえないし,シーカーがターゲットをロックオンしたときの印象的なビープ音もない。急降下するシュトゥーカもいないし,ヘリコプターも飛んでいない。そして,ジミ・ヘンドリックスの曲も聞こえない。また,彼らがリサーチで知ったのは,マスタードガスや塹壕足,兵士の苦悩など,サウンド的にはあまり意味のないものばかりあった。
言うまでもなく困難な仕事だが,それだけに仕事としてはやりがいがあったと2人はいう。
公開されたちょっとコミカルなムービーには,彼らがマキシム機関銃の連射音や複葉機のエンジン音,さらにはピストルやライフルの発射音を録音する様子が映し出されていた。戦車はさすがに稼働するものがなく,同じ系列のディーゼルエンジンを積んだ車両の音を録ったとのことだが,映像にはスウェーデン陸軍の最新歩兵戦闘車,Stridsfordon 90が走ったり射撃したりするシーンもあった。収録したこういうサウンドも加工して利用したのかもしれない。
さらに,スウェーデンにあるオフィスの屋上で,たくさんのスタッフがキルされたときの声を上げていたり,スタントマンを火だるまにして音を録ったり,マイクを持って草むらを走ったり,軍服を着たスタッフの腹を殴ったりなど,かなりアナログな雰囲気が楽しい。これは一般公開すべきでしょう。
Almstrom氏によれば,音声の収録についてはさらにいろいろな方法があり,例えば,アクターに中身がいっぱいに詰まったナップザックを背負わせ,彼らの間に軽量コンクリートのブロックを投げこんで,驚く彼らの音声を収録するというようなこともやったそうだ。「あれは本当にクールだった」とAlmstrom氏は述べた。重い武器を持って走り回り,手榴弾を投げ,叫び声をあげる兵士達の音声を正確に再現しようとしたわけだ。
シリーズのサウンドは,「バトルフィールド 2」のシンプルなものから,最新作に至るまで,進歩を続けてきたという。「バトルフィールド 2」をプレイしたときは十分に戦場にいる気分になれた記憶がある筆者だが,今回流されたそのサウンドを聞くと,たしかに古い感じは否めない。
コンシューマ機のみでリリースされた「バトルフィールド:バッドカンパニー」では,性能の低いものもあるテレビのスピーカーに対応するため,それまでの作り方を大幅に変えたという。
「バトルフィールド 4」では,「バトルフィールド 3」と比較して重低音の大部分が取り除かれた。これは,「バトルフィールド 3」を細かく分析した結果,大部分が不要だと判断したからだそうだ。低音やノイズは,ここだと思ったところで使うべきだとPajor氏は述べた。
「バトルフィールド 2」(2005年リリース) |
「バトルフィールド 3」(2011年リリース) |
「バトルフィールド 4」(2013年リリース) |
ところどころでツールの話などは出てきたが,サウンドの知識がそれほどなくても分かりやすいセッションになっていた。個人的には「このように違うでしょ」と紹介された音の違いが聞き分けられなかったりしたが,たぶん歳のせいだ。彼らが次に何を“再定義”することになるのか,楽しみにしたい。
「バトルフィールド1」公式サイト
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(C)2016 Electronic Arts, Inc.
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