連載
【Jerry Chu】ゲームは斬新でなくてもいい
Jerry Chu / 香港出身,現在は“とあるゲーム会社”の新人プログラマー
Jerry Chu「ゲームを知る掘る語る」Twitter:@akemi_cyan |
ゲームは斬新でなくてもいい
ゲーマーは独創性を尊び,既存の作品の真似を見くびる傾向がある。
数年前,筆者は「Sunset Overdrive」のトレイラーを見て,興味を惹かれた。カラフルな世界と愉快なキャラクター,疾走感のあるアクション。「『Sunset Overdrive』のような独占タイトルが揃っているなら,Xbox Oneが欲しい」と思った。
一方,筆者より上の世代のゲーマーは「Sunset Overdrive」を見て,「『ジェットセットラジオ』そのままじゃないか」と鼻であしらった。
とあるコンセプトを最初に実現したゲームは「オリジナル」であり,「本家」である。「本家」を真似た作品は所詮「パクリ」でしかなく,決して「本家」を超えることはない。そんな考え方なのだろう。「Sunset Overdrive」に限らず,既存の作品に類似したゲームを軽蔑するコメントはしばしば見られる。
旧世代のゲームを最新ハードに移植する「HDリマスター」や「コレクション」にも,「二番煎じかよ」「旧作を焼き回すくらいなら,ちゃんと新作を作れ」といった否定的な意見がつきまとう。
「パクリ」を叩こうとする感情はどこから生まれるのか。「自分が好きな名作を正しく評価してもらいたい」「独創的な本家が後発の作品に埋もれてほしくない」というファンならではの心理だろうか。
懐古主義に近いかもしれない。昔の文化や風潮を贔屓するのは人情だ。最新ゲームがどれだけ進化しても,子供のときに遊んだゲームのほうが思い出深い。だから,昔のゲームに似た作品が出てきても,「昔のほうがいいに決まっている」と思い込んでしまうわけだ。
筆者もゲームプログラマーとして,斬新なものを作りたい気持ちがある。AIといい,CGといい,コンピュータ技術はまさに日進月歩だ。グラフィックスが前作よりちょっと綺麗になっただけのゲームより,新しい技術とアイデアにチャレンジするほうがやりがいを感じる。既存の手法を真似ることは避けられないが,クリエイターなら誰しも「これまでとは違うものを作りたい」と考えるだろう。
デジャブに満ちた「Horizon Zero Dawn」
そんな思いを頭の片隅に置きながら,「Horizon Zero Dawn」をプレイした。それはデジャブに満ちた体験だった。
主人公は弓矢を愛用する少女ハンター。その人物像は「トゥームレイダー」のララ・クラフトを思わせる。部族社会と自然環境をテーマとするオープンワールドは「Far Cry」シリーズ,岩につかまりながら登ったり,藪に隠れたりするゲームプレイは「アサシン クリード」シリーズのようだ。
タワーのような機械獣を登り,周辺のマップを開放する流れも「アサシン クリード」シリーズのようであり,足跡や血痕を可視化させる特殊能力は「The Witcher 3: Wild Hunt」に類似している。
グラフィックスのクオリティが高い「Horizon Zero Dawn」において,自由度の高いスクリーンショットが撮れる「フォトモード」はとりわけ嬉しい機能だ。ただ,「inFAMOUS Second Son」をはじめ,既存の作品にも搭載されている。
さまざまな機械獣との戦闘も魅力だが,「自分より巨大なモンスターと戦う」「モンスターの部位を破壊して弱体化させる」「モンスターを倒して素材を集める」といったコンセプトは決して新しくない。
「Horizon Zero Dawn」は新規IPのタイトルである。だが,完全新作のわりには,既存の作品の模倣と思われる要素が多い。既存の作品からパーツを集めて,それを合成して作られたキマイラのように思えた。
とはいえ,「Horizon Zero Dawn」は傑作に違いない。独創性に欠けるかもしれないが,それを補って余りあるクオリティがあるからだ。人間と機械獣が入り乱れる戦闘,美麗なカットシーンは,どんな大作にも引けを取らない。現実の風景より綺麗な自然環境も目を見張る。
ゲームプレイに斬新さは感じられないが,ストーリーと世界設定は新鮮だ。現代文明が滅んだ,遥かな未来。人類の文明は著しく退化し,恐竜の姿をした機械が闊歩する世界。機械獣を作り出した高度な文明は,いかにして滅んだのか。機械の恐竜は誰によって創造され,何のために存在するのか。
ストーリーの続きが気になって,コントローラを握る手を止められない。リアルに描かれた動物のような機械生命体は,ロボット好きなら感動を覚えることだろう。
「Horizon Zero Dawn」の主人公も好印象だ。昨今のゲームは「男尊女卑」と評されて久しいが,アーロイは勇敢で有能な女性ハンターであり,ゲーマーに媚びたようなサービスやお色気描写は一切ない。アーロイのような凛とした女性のゲームキャラクターは,もっと増えてほしい。
ゲーマーはパクリを嫌うが,「Horizon Zero Dawn」のような既存の作品を模倣した傑作は確かに存在するのだ。
目新しい要素はない「The Last of Us」
既存の作品を模倣した傑作という点で,「Horizon Zero Dawn」と「The Last of Us」は似ている。
「The Last of Us」の要素を分解すれば,目新しい要素は一つもない。ゾンビによる終末の世界を描いたゲームや映画は山ほどある。「サードパーソン・シューター」「ステルスアクション」「サバイバルホラー」といったものも,ゲームでは王道である。「大人の男性と少女が過酷な世界を歩く」という構図は,ゲーム版の「The Walking Dead」と同様だ。
突出したアイデアが皆無であるにもかかわらず,「The Last of Us」はゲーム史に残る名作となった。最初は互いを信用できなかったものの,生死を共にする戦いを通して徐々に心を開き,絆を育んだ主人公2人の物語は今も心に残っている。
人間が消え,自然に飲まれていく世界には退廃美が漂う。荒廃した街や建物は緻密に描かれ,ここにいた人間は終末をどう迎えたのか,見る者の想像をかき立てる。
一噛みで主人公を即死させるゾンビ,銃を使って襲ってくる人間の野盗。特徴の異なる敵が交代で行く手を阻むような,メリハリの利いたレベルデザインはプレイヤーを飽きさせない。
ストーリーとビジュアルデザイン,ゲームプレイのいずれも非の打ちどころがなく,これほどにゲームプレイとストーリーが巧みに融合した作品は見たことがない。
確かに「『The Walking Dead』や『バイオハザード4』のパクリ」と言えなくもないが,まったく斬新ではないアイデアを前人未踏の領域までに磨き上げることで,「The Last of Us」は名作となったのだ。
斬新さより研磨が重要
斬新なアイデアで勝負するゲームは貴重だ。敵キャラクターが自動生成され,プレイヤーとのやりとりを記憶してくれる「Middle-earth: Shadow of Mordor」は極めて革新的だった。「Prey」に登場する,付近のオブジェに擬態できる敵には新鮮な驚きがあった。巨大な獣と協力して冒険する「人喰いの大鷲トリコ」は,近年でも異色の作品だ。こうしたゲームは,ほかにはない発想によって群を抜いている。
しかし,「Horizon Zero Dawn」は違う。「The Last of Us」と同様,「Horizon Zero Dawn」の魅力は「斬新なアイデア」ではなく,「クオリティ」と「作り込み」にある。
ゲーマーは独創性を尊び,斬新ではない作品を軽蔑する。このような価値観はゲーム歴が長い人ほど顕著だ。ステルスだのレベル上げだの素材集めだの,すでに飽きるくらいやってきた。だからこそ,斬新さを求め,ありきたりに見える作品をけなすのではないか。
だが,独創性のない作品にも価値はある。「0から1」を生み出すのは偉業だ。そして「1から100」に高めるのも,また偉業だ。「新しいアイデアがいい。模倣はダメ」という単純な価値観では,「Horizon Zero Dawn」と「The Last of Us」の真価を見出せないと思う。
それから「ゲーマー」と一口に言っても,必ずしも古今東西のゲームを遊んできたとは限らない。初めてゲーム機を購入して,これからゲームの世界に足を踏み入れようとする人もゲーマーだ。ゲーム機を持っていても,プレイ時間が多くないカジュアル層だっている。
「Far Cry」シリーズや「The Witcher 3: Wild Hunt」をプレイしたことがないゲーマーも少なからず存在する。そんな人にこそ,「Horizon Zero Dawn」をおすすめしたい。
自分には「ありきたりのオープンワールドアクションRPG」でも,誰かにとっては「初めてのオープンワールドアクションRPG」かもしれない。そして「Horizon Zero Dawn」には,近年のオープンワールドゲームの良さが凝縮されている。
革新的なアイデアにチャレンジする作品はもちろん,賞賛に値する。だが,そうではないゲームにも価値はあり,必ずしも斬新でなくてもいいことを,「Horizon Zero Dawn」は思い出させてくれた。
■■Jerry Chu■■ 香港出身,現在は“とあるゲーム会社”の新人プログラマー。中学の頃は「真・三國無双」や「デビルメイクライ」などをやり込み,最近は主に洋ゲーをプレイしている。なるべく商業論を避け,文化的な視点からゲームを論じていきたい。 |
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