2017年4月12日,ASUSTeK Computer(以下,ASUS)は,GoogleのVRプラットフォーム「Daydream」とARプラットフォーム「Tango」の両方に対応するAndroidスマートフォン「
ZenFone AR」(型番:ZS571KL)を発表した。
DaydreamとTangoの両方を利用できるスマートフォンは世界初とのことだ。
ZenFone AR
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本機は2モデル展開で発売され,ともに5.7インチ,解像度1440×2560ドットの有機ELディスプレイパネルと,Qualcomm製SoC(System-on-a-Chip)「
Snapdragon 821」を採用している。下位モデル(ZS571KL-BK64S6)はメインメモリ容量が6GBで,内蔵ストレージ容量64GB,上位モデル(ZS571KL-BK128S8)ではメインメモリ容量が8GBで,内蔵ストレージ容量128GBと,ハイスペックなものになっている。
2017年夏に国内発売予定で,メーカー想定売価は下位モデルが
8万2800円,上位モデルが
9万9800円(いずれも税別)。単純計算した税込価格は順に
8万9424円,10万7784円となる。
ZenFone AR。AR対応カメラを搭載しているので,普通の5.5インチ級スマートフォンに比べて重かったり,持ちにくかったりしないかと思っていたが,実際に手にしてみたところ,やや厚みがあるかなという程度で,持ちにくいということもなかった
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上側面側には何もなし(左)。下側面側には3.5mmミニピンのヘッドセット端子とマイク孔,DisplayPort Alternate Mode対応のUSB 3.0 Type-C,スピーカーなどが並ぶ(右)
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左側面にはSIMカードスロットを装備。トレイ上に2つのNano SIMカードを載せられるタイプで,2枚のSIMカードを使ったデュアルSIMデュアルスタンバイに対応する
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右側面には[電源/スリープ]ボタンと音量調整ボタンが並ぶ
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最大の特徴ともいえるAR機能は,3つのカメラを組み合わせたアウトカメラ「TriCam System」で実現している。有効画素数約2300万画素のソニー製イメージセンサーをメインカメラとして,赤外線を利用する深度カメラ,端末の動きを検出するモーショントラッキングカメラの3つを利用して,周囲にある物体の奥行き情報や,端末の動きを計測し,その情報をTangoプラットフォームに準拠したARアプリケーションで利用できる仕組みだ。
ZenFone ARの背面。上側にあるアウトカメラ部分を強調したデザインだ
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アウトカメラは,背面パネルよりも少し盛り上がった部分にある。大きなレンズが約2300万画素のメインカメラで,その上にある小さなレンズはモーショントラッキングカメラ,モーショントラッキングカメラの右にある黒い部分が深度カメラだ。なお,左側にあるのはLEDフラッシュである
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Tango対応アプリをまとめたGoogle製のポータルアプリ。AR機能のデモ的なアプリがほとんどだが,ミニゲームもある
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4月13日に東京・秋葉原で行われた発表会では,ZenFone ARにプリインストールされたARアプリのデモが披露された。ミニゲーム的なアプリもいくつかあり,スキャンした物体の上にドミノを並べて,ドミノ倒しを遊べるミニゲームは,ARならではの体験ができるちょっと面白いゲームだった。
カメラに写った物体の上にドミノを並べて,ドミノ倒しが遊べるミニゲーム「Domino World」。写真ではよく分からないが,テーブルの上にある本の高さも認識しており,ドミノの高さが微妙に異なっている
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Tango対応のARアプリは,機能デモや実用アプリが多いようだが,中にはゲームの制作にも利用できるんじゃないかというツールあった。それは撮影したデータから3Dモデリングデータを作り3D CGのように動かせるというもので,発表会でデモを担当したプロダクトマネージメント部テクニカルプロダクトマネージャーの
阿部直人氏は,自分で撮影してきたというレンガ造りの建物をデータ化してデモを行っていた。
LIDAR(レーザーレーダー)を使った本格的な3Dスキャンシステムに比べれば,データの精度は低いだろう。しかし,実在の建物や物体をZenFone ARひとつでデータ化できるなら,3Dモデルのデータ作成に使える低コストのソリューションとして利用できるかもしれない。
阿部氏が披露したデモ。レンガの塀や階段,植え込みの植物までデータ化できている
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TriCam Systemが計測できる範囲は,カメラからおよそ4m程度とのことだが,モーショントラッキングを利用して,歩き周りながらスキャンできるので,このように広い範囲をデータ化することも可能とのことだ。
そのほかのARアプリも簡単に紹介しておこう。左写真は「Dinos Among Us」というアプリで,カメラで捉えた場所に3D CGの恐竜を置けるというものだ。右写真は「RoomCo AR」(ルームコエーアール)というアプリで,実在する家具の3Dモデルをカメラに写った空間に設置して,見栄えや他の家具との配置を確認できるという実用的なアプリである
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Google純正のVR HMD「Daydream View」。筆者は1月に渡米したときに現地で購入しようとしたが,見事に売り切れで手に入れ損ねた。早く日本で売ってほしい……
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さて,ZenFone AR第2の特徴であるVR機能だが,残念ながら現在は,中途半端な形でしか体験できない。というのも,現時点で唯一のDaydream対応VRヘッドマウントディスプレイ(以下,HMD)である「
Daydream View」を,Googleはいまだに国内販売していないからだ。
そのため,ASUSではZenFone ARの製品ボックスに,紙製の簡易VR HMDキットを同梱して,これにZenFone ARを填め込んで使えば,VRアプリを体験できるようにするという。ただ,簡易VR HMDキットには,Daydream準拠のワイヤレスコントローラが含まれていないので,利用できるアプリや体験には,おのずと限りがあるのだ。
ZenFone ARの製品ボックスと同梱物(左)。製品ボックスの内箱が,簡易VR HMDになる仕組みで,右写真のようにZenFone ARを填め込んで使う
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簡易VR HMDを使用する様子(左)。顔に取り付けるヘッドバンドもないので,本当に簡易な体験しかできない。他社製の簡易VR HMDを使ったデモも披露されてはいたが,Daydream準拠ではない(右)
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Daydream Viewの国内販売については,何も情報がないので「Googleさん早く!」と言うしかない。いずれにしてもZenFone ARでVRを体験してみたいと考えている人は,現時点ではこのような状況であることを覚えておくべきだろう。
今回は製品版よりも前のデモ機ということもあり,ベンチマークテストによるチェックは行えなかった。ただZenFone ARは,Androidスマートフォンとしては,ハイエンドといえるスペックの製品なので,快適なゲームプレイが期待できそうだ。
ASUSに確認したところ,発売は初夏になりそうとのことだったので,今夏にスマートフォンの購入を検討している人なら,Daydream&Tangoに正式対応するZenFone ARは選択肢に入れる価値のある製品ではないだろうか。
●ZenFone AR(ZS571KL-BK64S6,ZS571KL-BK128S8)の主なスペック
- メーカー:ASUSTeK Computer
- OS:Android 7.0(Nougat)
- ディスプレイパネル:5.7インチ有機EL,解像度1440×2560ドット
- プロセッサ(プラットフォーム):Qualcomm製「Snapdragon 821」(MSM8996 Pro,CPUコア「Kyro」+GPUコア「Adreno 530」,CPUコア最大動作クロック2.4GHz)
- メインメモリ容量:6GB,8GB
- ストレージ:内蔵(容量64GB,128GB)+microSDXC(最大容量2TB)
- アウトカメラ:有効画素数約2300万画素
- インカメラ:有効画素数約800万画素
- バッテリー容量:3300mAh
- 対応LTEバンド:FDD-LTE 1/2/3/5/7/8/18/19/20/26/28,TD-LTE 38/40/41
- 対応3Gバンド:W-CDMA 1/2/5/6/8
- SIMカード:Nano SIM×2(SIMスロット2はmicroSDスロット兼用)
- 待受時間:約182.8時間(LTE)
- 連続通話時間:約930分(3G)
- 無線LAN対応:IEEE 802.11ac
- Bluetooth対応:4.2
- USB:USB 3.0 Type-C
- 本体サイズ:77.4(W)×158.7(D)×8.9(H)mm
- 本体重量:約170g
- 本体カラー:ブラック