インタビュー
「魔界戦記ディスガイア5」は騙されたと思って未体験のコアゲーマーにも触ってみてほしい。社長とディレクターに聞く最新作の見どころ
今回4Gamerでは,日本一ソフトウェアの代表取締役社長であり,ディスガイア5のプロデューサーでもある新川宗平氏と,同作ディレクターの松田岳久氏にインタビューする機会を得た。今年の日本一ソフトウェアの動きやディスガイア5について質問してみたので,その模様をお伝えしよう。
4Gamer:
お久しぶりです。今回は新川さんと松田さんにお話いただけることですし,日本一ソフトウェアさんの2015年の動きを新川さんに,そしてディスガイア5についてをお2人に質問していこうと思います。
分かりました,よろしくお願いします。
4Gamer:
まずは今年の展開についてなのですが,昨年,東京ゲームショウで(新川さんに)お話を聞いたときには,開発しているタイトルはこれからPS4にだんだん移行していくとのことでした。今年の一発目で言えば,もちろんディスガイア5がありますが,ほかにもPS4用のタイトルを出す予定はあるのでしょうか。
新川氏:
もちろん,今年のうちに出します! ……って言い切ってしまうと,広報担当が慌てるかもしれませんが(笑)。
4Gamer:
今の段階で,タイトル名って教えていただけますか?
新川氏:
それはまだ秘密です。ただ,1つ確実に言い切れるのが,日本一ソフトウェアの据え置き機用ゲームは,ほとんどがPS4にシフトしているということですね。
4Gamer:
PS4とPS3のマルチプラットフォームではなく?
新川氏:
それを選択するのであれば,ディスガイア5の時点でそうします。我々のスタイルとして,やるって決めたら振り切ってやります。PS3のラインは海外で発売が決まっているタイトルをローカライズしているだけで,新作についてはPS4とPS Vitaだけです。
社内ではもう,PS3の開発機を見なくなってきていますね(笑)。
4Gamer:
国内のデベロッパで,PS4に完全に移行しているところはまだ少ないと思うのですが,なぜ日本一ソフトウェアさんはそこまで思い切って舵を切っているんですか? 販売本数だけで言えば,マルチプラットフォームのほうが安心,ということにはなるはずですが。
新川氏:
誰もやらないからこそ,今,PS4に注力することに価値があると考えています。おかげで,ソニーさんにも協力してもらってCMなどの展開もできていますから,販促面でのメリットもありますし。
それになにより,ずっと前世代機で展開していたら我々のような小さなメーカーはすぐに技術的に取り残されてしまいます。マルチプラットフォームが前提になると,どうしても前世代機に合わせた作りになってしまいますから,それじゃあ進歩がありませんし,第一,開発しても面白味がありません。常に挑戦が必要なんです。今は様子見しているメーカーさんも多いですが,お客様からすれば,タイトルがなかなか出ないから新ハードに移行しにくいんです。メーカー側がちゃんと活気を出して市場を作っていかないといけないわけです。口で言うのは簡単なので,「まずは俺達からやってやろう!」という意気込みで臨みました。
4Gamer:
新世代機への移行は,海外と比べるとかなり差がありますよね。
新川氏:
海外では,もう前世代機の市場はなくなったと考えていいですね。日本一ソフトウェアの場合,海外の売り上げが半分以上なので,そういう意味でもPS4に舵を切ったのは重要なんですよ。とくにディスガイアシリーズは,海外の売り上げも大きいので,“5”はなおさらです。
4Gamer:
そうなんですか? 見た目の雰囲気からして,国内で強いタイトルになりそうですが。
新川氏:
ディスガイアはシステム面での評価も大きく,海外でもコアなファンがついているんです。日本一ソフトウェアのタイトルの中では,とくに海外の比率が高いシリーズですね。
販売本数の話に戻ると,実は「ディスガイア3」のときも似たような状況だったんです。ハードが発売されて1年くらいの時期,ちょうどうちが株式を上場するタイミングで,私はコンシューマ事業の責任者だったんですが,よく周囲からは「無謀だ」「なんでPS3にするんだ」「PS2のほうが売れるでしょ」と言われたものです。あの時は,販売本数で不利なのは理解したうえで,「今やらないとだめなんだ!」と押し通しましたが,それで正解だったと思っています。
4Gamer:
PS4でも,同じように突き抜けていくだけというわけですね。
既存のシリーズも進行中。人気タイトルの“次”もある?
4Gamer:
日本一ソフトウェアさんは,昨年は「NEW BRAND」として,新規IPを積極的に展開されてきましたよね。「死ぬまで新規タイトルを立ち上げ続ける」とまでおっしゃっていましたが,今年も新規IPは出てくるんですか?
新川氏:
少なくとも2タイトルが新規として出る見込みですね。NEW BRANDとしては,昨年「ハーレム天国だと思ったらヤンデレ地獄だった。」「htoL#NiQ −ホタルノニッキ−」,そして「大江戸BlackSmith」を出しましたが,今年はその第4弾に当たるタイトルをリリースする予定です。
4Gamer:
NEW BRANDの看板自体は今年も続くんですね。
新川氏:
NEW BRANDという看板をいつまで続けるかは決めていませんが,「我々は新規IPを作り続けます」という意思表示はすべきだと思うんです。コンシューマゲームのビジネスが厳しいですとか,日本国内においては市場が縮小されているという見方が強いなかで,それでもコンシューマゲームをメインにして頑張っていく姿勢を,きちんと見せていきたいですから。
4Gamer:
最近はどこもスマートフォンに力を入れていますから,そういった姿勢を見せてくれるメーカーは,ゲーマーとしては頼もしいです。
新川氏:
仮にNEW BRANDの看板を外したとしても,完全新規の商品を,年に1〜2本はリリースしていくという方針は変わらず続けていくでしょうね。
4Gamer:
昨年のタイトルのなかで,一番成功したタイトルってどれになるんですか?
新川氏:
実は「真 流行り神」(PS3/PS Vita)が,収益としては予想以上に成功しました。意外かもしれませんが,日本一ソフトウェアとしては初のマルチプラットフォームだったんですよ。
4Gamer:
あれ,そうなんですか? 確かに言われてみると,これまでリメイクはあっても,同時発売ってなかった気が……。
松田氏:
社内でも「あれ,これ初めてじゃない?」みたいな状態でした(笑)。
4Gamer:
ただ,真 流行り神は,けっこう厳しい意見も出ていましたよね。
新川氏:
旧作3部作のお客様からは,「雰囲気が変わった」と言われてしまいました。ただ,新規のお客様がかなり入ってきていて,新しいファンからの評価は良いんですよ。なので,挽回というわけではないですが,次は旧作ファンと新しいファン,どちらにも満足していただけるようなものを作りたいです。
4Gamer:
しれっと“次”っておっしゃいましたね。
新川氏:
(笑)。真 流行り神で雰囲気が変わったとおっしゃりたい気持ちは,私も分かるんです。ですから,次を出すとすれば,“真”になって一度そっぽを向いてしまった人に,もう一回振り向いてもらえるようなテイストを目指して,準備したいと思っています。
4Gamer:
既存のシリーズでは,「魔女と百騎兵」と「クリミナルガールズ」は続けていくとのことでしたが,これらのタイトルの具体的な動きはどうでしょうか。
新川氏:
まだ具体的なハードやタイトル名は言えませんが,次に向けた動きを考えています。続報に期待してお待ちください!
ディスガイア5はシリーズ最高のボリューム
PS4のスペックを使って「全部入り」にした
4Gamer:
そろそろディスガイア5についてもお願いします。今回は,ディレクターの松田さんに同席いただいていますが,松田さんはこれまで日本一ソフトウェアタイトルやディスガイアシリーズにどういった形で関わってこられたのでしょう?
松田氏:
「ディスガイア3」のときにプログラマーとして入ったのが最初ですね。そのあと1年ダウンロードコンテンツを作って,「絶対ヒーロー改造計画」「ディスガイア4」でもプログラマーを担当しました。次の「ディスガイア3 Return」でディレクターとなり,そこから「ディスガイアD2」「ディスガイア4 Return」でもディレクターという感じです。
4Gamer:
シリーズとしては3以降はすべて関わっているんですね。“新作のディスガイア”で2回目のディレクターということになると思いますが,新作を出すにあたって,今までからこう変えたい,あるいはここだけはブレないようにしたいなど,開発コンセプトを教えてください。
それをお話しするには,ディスガイアD2まで戻る必要がありますね。ディスガイアD2って,ライト寄りなイメージで作ったタイトルなんです。「サクッと遊べるディスガイア」を目指したと言いますか。
4Gamer:
ナンバリングを外したタイトルでしたし,新しいプレイヤーの参入を意識していたという感じでしょうか。
松田氏:
そうですね。ディスガイアD2は,とにかく手間の掛かる要素は全部外してしまって,遊びやすくしたかったんです。ただ,手間とやり込みって,紙一重だったりもするんですよ。
4Gamer:
ああ,分かります。ある程度,手間をかけたからこその面白みや達成感はありますよね。
松田氏:
実際,ディスガイアD2の反応を見ていると,サクッとやれるのがいいという方もいたのですが,やはりディスガイアならやり込み感がほしいという声もありました。とくに,昔から遊んでくれている方ほど,ガッツリ遊びたかったようです。
これを踏まえて,ディスガイア5は「サクッと遊べつつもガッツリ」というのをコンセプトにしています。ナンバリングタイトルらしくたっぷり遊べるシステムは用意しつつ,手間のかかる要素はきちんとフォローして,スムーズにのめり込めるイメージですね。
4Gamer:
やりがいの面では,シリーズのファンが期待できるものというわけですね。
ただ,いちプレイヤーとして気になっているのは,「PS4独占なのはいいけど,何が変わるの?」ということのほうです。3Dのリアルなグラフィックス云々というタイトルではないですから,PS3やPS Vitaで出せるんじゃないかと考えているファンも多いでしょう。実際のところ,移植は無理なんですか?
移植はまず無理です。企画当時は,マルチプラットフォームも考えていたので可能でしたが,途中から完全に振り切ってPS4に合わせて作りましたから。仮に携帯ゲーム機で出そうと思ったら,“PS Vita2”とか,次世代機が出るまで待つことになります。そんなものが存在するのかも分からないですけど(笑)。
4Gamer:
今作については,移植を待たずに飛びついたほうが吉,というわけですね。やりこみ派としては,「持ち歩けるPS Vita版を待ちたい」という気持ちは分かるのですが。
新川氏:
持ち歩きには,リモートプレイがオススメですよ。ニコ生などで実演させていただきましたが,ほとんどタイムラグもなく,スムーズに遊べます。
「PS4ならでは」という部分をお話しすると,シリーズ11年の集大成として,詰め込めるものはとにかく詰め込んであるところがウリになります。メインストーリーのボリュームは最大ですし,これまでにあったキャラメイクや,議会,アイテム界などはさらに進化しています。さまざまな新要素も追加していますし,もちろん,ディスガイアらしい悪ノリ要素も入っています。過去のどのディスガイアよりも「全部入り」になっているのが,大きなポイントです。
4Gamer:
つまり,PS3やPS Vitaでは,スペック的にボリューム面での拡張ができない状態だったんですか?
松田氏:
厳しかったですね。ですがディスガイア5は,作りたいものを好きに作って実装できたので,開発者としても気持ちよかったです。
4Gamer:
松田さんとしては,PS4になったことでの注目点はどこにあるとお考えでしょう。
松田氏:
UI(ユーザーインタフェース)です!
4Gamer:
え,そこなんですか? PS4のアピールでUIを推されるとは予想していませんでした。
松田氏:
UIと一言で言ってしまうと小さく聞こえるかもしれませんが,全体的にビジュアル面がかなり強化できているんです。もともと,ディスガイアシリーズは操作の快適性にものすごくこだわっていて,例えば,ロードを少なくするために,できるだけメモリで処理する仕様になっているんです。
4Gamer:
そういえば,かなりサクサク遊べますね。
松田氏:
でも,その代わりメモリの容量は,ディスガイア3の時点ですでにカツカツだったんです。だから,できるだけUIなどの素材は汎用的なものを使い回して,なんとかごまかしていました。なので開発者としては,ずっとUIを改善したいという気持ちがあったんです。
4Gamer:
なるほど。
松田氏:
今回はPS4で開発できることになったので,メモリを気にしないで好き放題作りました。これまでも,素材自体は作っていたのですが,泣く泣く削ることが多くて……。
見た目がだいぶ豪華になったので,皆さんにも楽しんでいただけるかと思います。
新川氏:
ステータス画面1つとっても,これまでとはまったく違うので,注目してほしいですね。
松田氏:
それと,ビジュアル面では,大幅にキャラクターの表示数が増えたのもPS4ならではと言えます。
4Gamer:
前回のインタビューでは,新川さんが同時に100体表示できるとおっしゃっていましたね。ゲーム中,それだけの数が戦闘フィールドに登場することってあるんですか? ディスガイアのこれまでの戦闘バランスを考えると,大きな変化になりそうですが。
松田氏:
本編でやるとバランスが変わってしまいますから,後日談やアイテム界に盛り込んでいます。すごくたくさん某キャラが出てくるマップがあったり,アイテム界でプリニーがぎっしり詰まってるマップがあったり。
あとは,やっぱり今回の一番の見どころはシナリオだと思っています。いつもよりシリアス寄りのストーリーで,ボリュームもかなり大きなものになっているんです。「ストーリークリアまではプレイするけど,やり込みはしない」というスタイルでも,30時間ぐらいは遊べます。
新川氏:
ストーリーでは,復讐や反逆といった重いテーマを扱っていますが,それを踏まえたゲームシステムを採用しているのも注目点ですね。今回は,リベンジモードが導入されていて,ダメージを受けて怒ると強くなるという要素なんですが,味方だけでなく敵も発動するので,敵を攻撃する順番をよく考えて攻略していく必要があります。これまでのディスガイアの戦闘とは違った緊張感があり,シリーズで一番シミュレーションRPGらしい要素が入っていると言えます。
4Gamer:
戦略性が高まったと考えて良いですか?
新川氏:
そうですね。今回は部隊編成の要素もあって,そのためのユニットを集める必要もありますし,そういった点でも戦略を練る必要が出てきます。戦闘はより楽しめるようになったと思いますよ。
コアゲーマーにこそ騙されたと思って遊んでみてほしい
4Gamer:
ところで,ディスガイアのファンって,どういった傾向のプレイヤーが多いのでしょうか。ディスガイアって,キャラクターだけを見ると割とライトな印象なのに,システム面はかなり濃いという,不思議なタイトルですよね。
新川氏:
実はヘビーなゲーマーが多いんですよ。女性のファンはキャラクター重視の方も多いですが,男性のファンの多くは,骨太なゲームを長時間やり込んでも平気なゲーマーが中心だったりします。なので,今回PS4で新作を出すことは,「まだディスガイアをやったことがないコアゲーマー」にアピールするチャンスだと思うんです。日本の市場だと,現在PS4を持っている人は,洋ゲーなども遊ぶ濃いゲーマーですよね。
4Gamer:
そうですね。ディスガイア5も含め,日本らしいPS4用タイトルはようやく出始めてきたというタイミングですから,広いプレイヤー層に普及していくのは,これからになるでしょうし。
新川氏:
コアゲーマーの皆さんの中には,ディスガイアというタイトルを聞いたことはあっても,やったことはないという人は多いと思います。キャラクターの見た目から,軟派なタイトルだと誤解されているのではないかなぁと。でも,中身はかなり骨太な作りで,日本のゲーム職人が自信を持って作りこんでいるタイトルなので,ゲーマーを自負している方にこそ,とにかく1回遊んでみてほしいです。
4Gamer:
遊べば分かると。
新川氏:
分からなかったら,ごめんなさいと(笑)。
松田氏:
実際,PlayStation Plusのフリープレイで過去作のディスガイアを展開したところ,かなりの数がダウンロードされていて,「触ってみたら意外と面白かった!」という声をたくさんいただいています。
4Gamer:
まさに1回触ってハマる人が出てきているわけですか。
新川氏:
少なくとも,ディスガイアには「ほかではできない体験」が必ずあります。普通のゲームならこれはやらんだろう,ほかのメーカーさんならこれは避ける道だろう,ということをやるのがディスガイアだと思って作っていますから。正直,採算度外視でとことんやっている部分もありますし。
松田氏:
散々やりこみを推していますが,もちろん,ライトにストーリーだけを楽しんでもえるようにも作っています。チュートリアルはかなり充実させていますし,話も前作の続きというわけではありません。
最新作ということで,気合を入れて作りましたので,既存のファンの方はもちろん,新規の方にも楽しんでいただければと思います。面白いことは保証しますから!
新川氏:
良いゲームって,開発者が遊んで自分で面白いと思えるものだと思うんですよ。私にとって,初代ディスガイアはとくにそういうタイトルで,デバッグしていて楽しかったんですが,ディスガイア5はシリーズ11年の集大成として,同様以上のものに仕上がったと思います。
4Gamerさんの読者のなかには,けっこうな割合で,「PS4は持っているけど,ディスガイアは遊んだことがない」という方がいると思いますが,1回だけでいいです。騙されたと思って遊んでみてください。騙しませんから(笑)。
4Gamer:
発売を楽しみにしています。ありがとうございました。
シリーズのノウハウをすべて詰め込んで,これまでのプラットフォームではできなかった「全部入り」を実現したというディスガイア5。新川氏は,コアゲーマーにこそ触ってみてもらいたいと話しているが,これには筆者も同意できる。
ディスガイアはシステム面でかなり作り込まれており,シミュレーションRPGとしても,シビアな戦略が必要なタイプではないものの,ステージのギミックから攻略法を考えていくのが楽しいタイトルだ。見た目やストーリーで食わず嫌いするのはもったいないので,新川氏の言葉どおり“騙されたと思って”一度はプレイしてみてほしい。きっとハマるはずだ。
ちなみに,新川氏に話を聞いたところ,予約が限定版に集中しており,限定版を入手したい人は当日販売分では難しいかもしれないとのことだった。限定版がほしい人は,予約を済ませておいたほうが良いだろう。
「魔界戦記ディスガイア5」公式サイト
- 関連タイトル:
魔界戦記ディスガイア5
- この記事のURL:
キーワード
(C)2015 Nippon Ichi Software, Inc.