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[CEDEC 2015]VRで“やってはいけないこと”とは? Oculus VRが快適なVRコンテンツ制作に向けたテクニックを伝授
VRコンテンツ作りの注意点は4Gamerでも何度かレポートしており,基本的な部分で新しい話題というものは少なかったのだが,今回はゲームデザインと技術的な面に分けて,ベストプラクティスを紹介する内容となっていたのが特徴である。製品版Riftに関する情報や今後の展開などにも触れられたので,レポートしていこう。
井口健治氏(Partner Engineering Specialist, |
近藤義仁氏(Partner Engineering Specialist, |
Oculus VRが挙げる,VRコンテンツで“やってはいけないこと”
まずは井口氏から,VRに適したゲームデザインについてが語られた。「快適な体験のため」とあることから想像がつくように,現状のVRコンテンツには,あまり快適ではないものが多かったりする。Oculus VRが繰り返しこういったセッションを行う背景には,「サマーレッスン」を開発しているバンダイナムコゲームスの原田勝弘氏が主張しているように,「一度不快な思いをした人は,VR自体を見限ってしまう」ことへの懸念があるというのだ。
Oculus VRが,システム的にその要因をなくしていくのはもちろんだが,VRゲーム自体の作り方がマズいために,快適さが損なわれる可能性も高いので,このような啓蒙活動を続けていく必要があるのだろう。
井口氏が最初に提示したのは,毎度お馴染みの「フレームレートの維持」についてだ。詳しくは後半の技術的な部分で語られたのだが,まずここは最低限押さえるべき事項なのだろう。
次に強調されたのは,「カメラ操作をプレイヤーから奪わないこと」。ゲーム中には,プレイヤーの首振りなどによる視界の切り替え以外にも,キャラクターの移動などで,なんらかのカメラ操作が入る場合がある。そういったときの処理をどうするかで,3D酔いの発生しやすさは大きく変わってくる。
キーワードとして強調されたのは「ベクション」(視界誘導性自己運動認識)だ。隣の電車が動き出すと,自分の電車が動いているように勘違いするアレのことだが,ようするに,体感の重力と視界から連想される重力との差による違和感が,問題になるのである。ゲーム内では,なるべくべクションを感じさせないようなデザインが望ましいという。
キャラクターが動くときも,前に進むのと横に動くのでは違和感がかなり違うし,同じ距離を動くにしても,等速で動くのと加速,減速して動くのとでは感じ方は変わってくる。そういった酔いやすさの要因をまとめたのが,下のスライドだ。
動く必要がある場合は,なるべく前方に向かって,等速直線運動を行うのがいいらしいことが分かる。瞬間的にトップスピードになるような移動は,本来ならば,かなり不自然な動きではあるのだが,Gのない加速/減速中には酔いを感じることが多いので,「加速/減速時間を最短にする」というアプローチのほうが酔いにくいというのが,現状の結論のようだ。
次に,「1人称視点は酔いやすいので,3人称視点を活用しよう」というアイデアも提示された。VRコンテンツといえば,1人称視点による没入型コンテンツが多いのだが,見下ろし視点のゲームのほうが酔い対策としては有効だというのは,なんとなく分かる人も多いのではないだろうか。
そうした事例のひとつとして紹介されたのが,「白猫プロジェクト」のVR対応アプリ版「白猫VRプロジェクト」だ。この話題はUnity Technologies主催の開発者向けイベント「Unite 2015 Tokyo」でも,少し詳しく語られていたのだが,簡単にまとめておくとポイントは以下の2点にあるという。
- キャラクターの中央固定をやめて,少し遊びを持たせる(キャラが少し動いたくらいでは,カメラは動かないようにする)
- カメラを引き気味に配置する
一方,主観視点(1人称視点)で酔いを防ぐのは簡単ではないのだが,いくつかの知見が提示された。
たとえば,1人称視点のシューティングゲームである「EVE: Valkyrie」の場合,画面の大きな範囲をコクピット画像にしているため,周囲が動いてもキャラクターの位置はコクピットに固定されているという感覚が強くなるため,酔いにくくなるそうだ。ほかにも,舞台が宇宙空間なので,水平線のズレを感じることもなく――そもそも水平線はないが――,動きに対する違和感を感じにくいデザインにしてある。
その一方で,最近のFPSでよく用いられている,ゲームの進行中にプレイ画面のままでカットシーンに移行するようなシステムは,「VRでは絶対に行ってはならない」と井口氏は語っていた。
また,パズルゲーム「Esper」の事例も紹介された。このゲームは,部屋自体がパズルになったステージクリア型のゲームなのだが,クリアして次の部屋に進むのではなく,現在の部屋がそのまま次のパズルに組み換えられていく(キャラクターの移動は発生しない)といった工夫がされている。
「Dead Secret」というアドベンチャーゲームは,1人称視点のまま屋敷の中を歩き回って謎を解いていくゲームである。どのように酔い対策をしているかというと,先ほど出した例のように,「前方に等速直線運動」で移動することを徹底しているのだという。それだけでも一定の効果はあるようだ。
とはいえ,プレイヤーがどこを向いているのか分からない状態では,いろいろ困ることもあるだろう。そういった場合は,ゲーム内のシステムで,プレイヤーの視線を誘導する手段を考える必要がある。
同日に行われたCrytekによる講演では,昆虫のトンボを使って,視線を誘導する試みが紹介されていたという。Rift用のVRコンテンツにも,蛍を使って視線誘導するデモがあり,ゲーム内で工夫をしている人はいるようだ。また,音で誘導するのも有効な方法である。とくに,3Dオーディオなら,音が鳴っている方向が分かるので,誘導にうまく利用できるかもしれない。
ゲームUIについては,一般的なゲームでよくあるHUD(ヘッドアップディスプレイ)風にレイヤーを重ねて画面の隅に置く方法は,VRコンテンツでは非常に見えづらいほか,固定された画像に違和感を覚えることも多いそうだ。そこで,3Dオブジェクトとして画面内に配置するというアイデアが出てくるわけだが,そういったUIに関する注意点も述べられていた。
下に掲載した画面は,3Dオブジェクトとしてキャラクターの少し前に配置されたUIの例だ。キャラクターの振り向きなどに対しては,少しだけ遅れて追従してしまうので,情報をよく見ようとその方向にを見ても,表示が逃げてしまうので見づらい。「首振りに追従しないものの表示は極力避けるべきだ」と井口氏は語っていた。
こういった3Dオブジェクトでの半固定UIは,地形によってはオブジェクトにめり込んで見えなくなるといった弊害もあるので,あまりよろしくないとのこと。Riftの場合,だいたい手前75cmから3.5m先のものを表現するのに適しているそうで,とくに注視されるものについては,2.5mくらいの距離に置くことが望ましいということだ。
一方,画面固定型UIで唯一許されるのが,FPSにおけるキャレットのような画面中央を示す注視カーソルだという。実際,画面注視はVRゲームでは主力UIとして採用されており(※カーソルを表示しない場合も多い),コントローラやキーボードで,画面中央に対してアクションを起こす実装は非常に多い。
ここでは,Oculus VRで制作したというシューティングゲームの例が紹介されたが,単に中央にオブジェクトを配置しているだけではないという。
以下の例では,注視点にあるオブジェクトの距離に合わせて,注視カーソルのZ値――つまり奥行き方向の距離――を変えているのだそうだ。これは輻輳角の違いでオブジェクトが二重に見えることを防ぐための措置で,会場では同じゲームを横から見た様子を加えて処理の実際を示していた。
快適なVRに関する知見は,同社の「ベストプラクティスガイド」にまとめられている。日本語版もできたとのことなので,興味がある人は一読してみるとよいだろう。
Oculus開発関連リンク集
Rift製品版「CV1」や開発キットの最新情報も公開
まず,Riftの製品版となる「Consumer Version 1」(以下,CV1)関連の話だ。
余談だが,CEDEC 2015ではCV1を使ったデモが行われるかと思っていたのだが,残念ながら会場に持ち込まれたのは,第3世代試作機の「Crescent Bay」のみ(これもかなり貴重ではあるが)。そのほかには,Rift用のワイヤレス入力デバイス「Touch」のモックアップが紹介された程度だった。
近藤氏が取り上げた最初の話題は,サウンドの改善だ。Riftは,第2世代試作機(通称,DK2)までサウンド機能がそもそもなく,Crescent Bayでようやく,ヘッドフォンが追加された。マイクも内蔵されており,ボイスチャットなども可能だ。
標準でマイクが装備されたことにより,マイク機材のバラつきで多人数ボイスチャットが聞きづらくなる,といったことはなくなるという。一方で,「自前のヘッドフォンを使いたい」という人向けに,ヘッドフォン部分を取り外すことも,CV1では可能になる。
ユーザーの位置や頭部の動きを検出するポジショントラッキング機能は,精度が上がり,HMDの背面にもLEDを配置したことで,どの方向を向いていても正確にトラッキングされるようになったという。また,センサーの認識範囲も拡大されているとのことだ。
CV1のディスプレイは,片眼辺り1080×1200の有機ELディスプレイを,両目で2枚使用するという。2160×1200ドットのパネルを左右分割して使うのかと思っていたのだが,左右独立した2枚構成だそうだ。リフレッシュレートは90Hzで,さらに表示後に黒画面挿入を行って残像を低減させているという。
「液晶に比べて,動作速度が圧倒的に速い有機ELパネルで,黒挿入するほどの残像はあるのか?」という疑問を持つ人もいるかもしれない。答えは「けっこうある」だ。少なくともDK2では,輪郭などがはっきり残像として残っていた。CV1で90Hzとより高速駆動になったことで,残像問題も深刻になっていたのかもしれない。
また,パネルが2枚構成になったことと関連するかどうかは不明だが,目の間隔に合わせて,左右のレンズ幅を変更できるようになっているという。
Touch用のSDKも現在準備中とのこと。とはいえ,まだ実際にTouchが動いているのを見たことがないのだが,2016年前半の発売に間に合うのだろうか。
そのほかにOculus VRでは,「Motion to Photon」の時間を短縮することに力を注いでいるという。Moton to Photonとは,首振り動作が画面に反映されるまでの遅延時間,と思っておけばほぼ間違いない。これを20ms以下にすることが望ましいという。
表示遅延を削減するために,Oculus VRはたくさんのことをやっている。たとえば「Direct Mode」と呼ばれる動作モードでは,Riftを単なるPC用ディスプレイとして扱うのではなく,専用のディスプレイドライバを作って直接駆動することで,遅延を削減している。
首振り動作の動きを優先して画面に反映する「Time Warp」処理も,Motion to Photonを削減するための代表的な手法だ。Time Warpとは何かについては,4Gamerでもたびたび解説しているので割愛するが,最近ではGPUメーカーが,かなりアクロバティックな技も駆使してTime Warp処理を改善する手法を編み出している。
将来的には,スマートフォンを表示装置兼コンピュータとして使う簡易VR HMD「Gear VR」で実装された「非同期Time Warp」(関連記事)もサポートされる予定だという。
また,「レイヤー」機能として,注視される画面の中心部と,あまり注視されない画面の周辺部とで解像度を変えてレンダリングする手法も紹介されていた。
3Dオーディオ機能関係の開発環境も整備されている。VisiSonicsの「RealSpace3D Audio」というサウンドテクノロジーをベースにした,「Oculus Audio SDK」はすでに公開されており,WwiseやUnityといった各種オーサリングツールやゲームエンジン用のプラグインも公開されている。Unreal Engineは,すでにVersion 4.8で同機能を統合済みだ。
講演レポートは以上のとおり。Gear VRの一般向け販売が2015年内にも開始される予定で,Riftも2015年題意四半期に発売されるなど,Oculus VRと関連製品は,いよいよ市場に投入される時期が迫りつつある。VR業界をリードする同社の動きには,引き続き注目していきたい。
Oculus開発関連リンク集
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