テストレポート
HD 7970の3&2-way CrossFireX動作検証レポート。伸びるスコアとアイドル時に止まるファンを確認する
今回4Gamerでは,Sapphire Technologyの販売代理店であるアスクの協力を得て「SAPPHIRE HD7970 3G GDDR5 PCI-E HDMI/DVI-I/DUAL MINI DP」(以下,SAPPHIRE HD7970)を,ASUSTeK Computerの協力で「HD7970-3GD5」をそれぞれ入手できたので,独自に入手した玄人志向ブランドの「RH7970-E3GHD」とも組み合わせ,3-wayおよび2-wayのCrossFireX(以下順に,HD 7970 3-way CFX,HD 7970 2-way CFX)構成によるベンチマークテストを行ってみたいと思う。
SAPPHIRE HD7970 3G GDDR5 PCI-E HDMI/DVI-I/DUAL MINI DP メーカー:Sapphire Technology 問い合わせ先:アスク(販売代理店) [email protected] 実勢価格:6万4000〜6万8000円程度(※2012年1月28日現在) |
HD7970-3GD5 メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:テックウインド(販売代理店) 03-5812-6131(平日10:00〜16:00) 実勢価格:6万4000円前後(2012年1月28日現在) |
2012年1月中旬時点の最新ドライバを利用
レギュレーション11.2+αで検証
今回,HD 7970のテストにあたっては,SAPPHIRE HD7970をプライマリとして用い,3-way時はHD7970-3GD5とRH7970-E3GHDを,2-way時はHD7970-3GD5を組み合わせる。3製品はいずれもリファレンスデザイン&リファレンスクロックを採用しているので,組み合わせる順番によって性能差が出たりすることはないはずだが,念のためである。
GTX 580の2-way SLI構成(以下,GTX 580 SLI)とHD 6970の2-way CFX構成(以下,HD 6970 CFX)では,いずれも表で上に示したほうをプライマリとして用いる。シングルカードのテストに用いるのもプライマリのカードだ。
一方,GTX 580のテストに「GeForce 290.53 Driver Beta」を用いるのは変わりなし。そのため,GTX 580シングルカードのスコアのみ,HD 7970レビュー時のものを流用するので,その点はあらかじめお断りしておきたい。
テスト方法は基本的に4Gamerのベンチマークレギュレーション11.2準拠。マルチGPU構成のテストということで,解像度は1920×1080&2560×1600ドットの2つとし,同じ理由から,テスト条件は4xアンチエイリアシングと16x異方性フィルタリングを適用する「高負荷設定」のみとした。
さらに,「Battlefield 3」(以下,BF3)におけるCFX性能をチェックすべく,今回も11月5日掲載のテストレポートに準拠する形で「THUNDER RUN」シークエンスのテストを追加。一方で,レビュー時にHD 7970で性能の出ない不具合が見られた「Battlefield: Bad Company 2」のテストは省略している。
なお,組み合わせるCPUは「Core i7-3960X Extreme Edition/3.3GHz」。負荷状況に応じた自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」の効き具合が使用状況によって異なる可能性を考慮して,同機能をUEFI(≒BIOS)から無効化している点もレビュー時と同じだ。
最適化済みタイトルではスコアが大きく向上
3-wayにも意味はあるものの,CPUがネックに
では,グラフ1の「3DMark 11」(Version 1.0.3)から順に見ていこう。
今回は「Performance」と「Extreme」の両プリセットでテストを行ったが,「より描画負荷の高いExtremeプリセットでスコアが伸びる」という観点で,HD 7970のCFX動作も従来のマルチGPU構成と傾向に違いはない。ExtremeプリセットにおけるHD 7970 2-way CFXは,シングルカード構成に対して約93%,HD 6970 CFXに対して約44%,GTX 580 SLIに対して約29%高いスコアを示している。
興味深いのはHD 7970 3-way CFXのスコアが突出している点で,Extremeプリセットにおける7688という値は,HD 7970の約181%増し。理論値である3倍に迫る数字だ。HD 7970 2-way CFXに対しても約45%高いスコアを示していることからしても,かなりの上積みがあると述べてよさそうだ。
「S.T.A.L.K.E.R.: Call of Pripyat」(以下,STALKER CoP)の公式ベンチマークソフトから,最も描画負荷の低い「Day」と,最も高い「SunShafts」の2シークエンスにおけるテスト結果をそれぞれまとめたものがグラフ2,3となる。
Dayの1920×1080ドットで,CPUボトルネックによるスコアの頭打ちが140fps弱で生じているため,今回はそれ以外の3条件を見ていくが,HD 7970 2-way CFXのスコアは,対HD 7970シングルカードで+62〜88%。HD 6970 CFXの対HD 6970シングルカードだと+70〜93%なので,未だ正式版ドライバが登場していないことを考えればまずまずのスコアといったところだろう。
ただし,HD 7970 3-way CFXが,対7970シングルカードで+82〜122%に留まっていることからすると,「まだ最適化の余地がある」とは言えるかもしれない。
CFXの可能性と課題を分かりやすい形で見られるのが,グラフ4に示したBF3のスコアだ。
1920×1080ドットに着目すると,HD 7970 3-way CFXおよびHD 7970 2-way CFXは,いずれもシングルカードと比べて順当にフレームレートを伸ばしている。ベンチマークソフトではなく,インゲームのシークエンスを用いたテストで,2-wayで約92%,3-wayで約176%高いスコアというのは立派だ。何より,GTX 580 SLIが対GTX 580シングルカードで示した約81%という上昇率を上回っている点は注目に値する。
一方,HD 7970 2-way CFXやHD 6970 CFXでは,2560×1600ドット設定時にスコアがまったく向上しないという問題も確認できた。このあたりがマルチGPU構成の怖いところである。今後のドライバアップデートによる改善に期待したい。
グラフ5は,DirectX 9.0c世代のFPS「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)のテスト結果となる。Call of Duty 4はシェーダプロセッサ数,ひいてはテクスチャユニット数がスコアに大きく影響することもあってか,HD 7970 2-way CFXやHD 6970 CFX,HD 6990,GTX 580 SLIが順当にスコアを伸ばしている。HD 7970 2-way CFXのスコアは,対HD 7970シングルカードで+101〜109%。2倍以上だ。
ただ,HD 7970 3-way CFXでは,BF3ほどではないものの,スコアを落としたことも確認できた。CPUボトルネックが生じたのか,GPU 3基の調停がうまくいっていないのかはなんとも言えないところだが,DirectX 9.0cのゲームタイトルで3-wayの効果を望むのがそもそも間違い,ということなのかもしれない。
続いてグラフ6はDirectX 10世代のTPS「Just Cause 2」のテスト結果だが,HD 7970 2-way&3-way CFXにとっては描画負荷が軽すぎてしまい,スコアが130fps前後で頭打ちになってしまっている。ほかのGPUでは2-wayでも頭打ちになっていないので,それだけHD 7970が優秀,ということでもあるのだが。
「Sid Meier's Civilization V」(以下,Civ 5)の結果がグラフ7だが,本作でも,CPUボトルネックにより,300fpsあたりでスコアは頭打ちになるようだ。
そこで,頭打ちの生じていない2560×1600ドットを見ていくが,端的に述べて,HD 7970 2-way CFXのスコアはほかの2-way環境と比べて突出している。対シングルカードでのスコア伸び率だけ言えば,HD 7970 2-way CFXが約87%のところ,HD 6970 CFXは約98%なので見劣りするものの,そのHD 6970 CFXより45%高いスコアを示している以上,とくに問題はないだろう。
グラフ8は「DiRT 3」のテスト結果で,ここでも1920×1080ドットでは160fps近辺の頭打ちが見られる。そこで,Civ 5と同じように2560×1600ドットを見ていくと,HD 7970 2-way CFXの対HD 7970スコア向上率は約88%。HD 7970 3-way CFXは約160%と,枚数に応じてしっかりとスコアが伸びていっている。これは評価できるポイントだ。
アイドル時にはセカンダリ以降のファンが停止
CFX構成でも消費電力はHD 6970と変わらず
CFXをはじめとするマルチGPU環境では,カードの枚数が増えるため,消費電力が増えるわけだが,そのとき意外とバカにならないのが,ゲームをプレイしていないときの消費電力である。プライマリGPUがデスクトップの表示などを行う一方で,セカンダリ以降のGPUはまったく使われず,まさに無駄飯を喰らう状態になってしまい,いきおい,マルチGPU環境では,アイドル時の消費電力増大が問題となりがちなのだ。
その問題に対し,AMDはHD 7970で,ディスプレイ出力がオフになった,いわゆる「ロングアイドルモード」時にPCI Expressインタフェースを除く部分への電力供給をカットすることで,待機電力を3W以下に抑えるという技術「AMD ZeroCore Power Technology」(以下,ZeroCore)を採用してきたわけだが(関連記事),その効果はいかほどか。
今回も,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を計測してみた。計測に際して,OSの起動後,30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時として,スコアを取得。アイドル時はディスプレイの電源がオフにならないよう設定している。
また,テストしてみると気づくのだが,アイドル時になると,セカンダリやターシャリ(3枚め)のカードではGPUクーラーのファンが完全に停止する。そして,3Dゲームを起動するなど,負荷がかかるとファンが回り出すのだ。このインパクトは大きい。
一方,アプリケーション実行時の消費電力は,HD 7970 2-way CFXとHD 6970 CFXがほぼ同じ。HD 7970のレビュー時に,同GPU搭載カードの消費電力はHD 6970搭載カードと同程度と述べたが,その関係は変わっていない。
HD 7970 3-way CFXはさすがに800W超級の消費電力を示すが,これはやむを得ないだろう。ちなみに,Call of Duty 4のスコアが3-wayで621Wに落ちるのは,負荷が低すぎて,3枚のカードがフルに動作しなくなったためと思われる。
3DMark 11の30分間連続実行時点を「高負荷時」として,アイドル時ともども,TechPowerUp製のGPU情報表示ツール「GPU-Z」(Version 0.5.8)からGPUの温度を取得した結果がグラフ10だ。
今回は,室温24℃の環境で,PCケースに組み込まず,いわゆるバラック状態のままテストを行っているが,ご覧のとおり,HD 7970 3-way CFXとHD 7970 2-way CFXでは,アイドル時にセカンダリ以降のカードでほとんどの電力供給が止まるため,GPU温度を取得できなくなっている。
なので,今回はプライマリカードのみでの比較となるが,3-wayであっても極端には高くなく,アイドル時の温度は,マルチGPU構成として妥当なところに収まっているといえそうである。
また,高負荷時にも,温度は妥当なレベルに収まり,かつ,カードの差し位置による違いはそれほど大きくない。カードが密接しても,それが冷却に与える負の影響は最小限に抑えられている印象だ。
CFXによってCPUやアプリ側の課題が明らかに
CFX自体の費用対効果は十分にある
ただ同時に,GPUの高性能化に,CPUが追いつけていない傾向もはっきりしてきた。正しくは,「CPUのマルチスレッド化にゲームアプリケーションが対応できていない」ので,ゲーム側の問題といえば問題なのだが,いずれにせよ,HD 7970のCFX構成を考えると,Core i7-3960X Extreme Editionでも“足りない”場合があることは憶えておくべきだ。できる限り高性能のCPUを用意すべきであることに疑いの余地はない。
HD 7970のCFX構成にあたり,資金面でのハードルは相当に高くなるが,それに見合った価値は得られる。予算に余裕があるなら,導入を考えるのもアリだろう。
AMD公式Webサイト
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Radeon HD 7900
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