吉田和正氏(インテル 代表取締役社長)
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2013年1月18日,Intelの日本法人であるインテルは都内で報道関係者向けイベントを開催。同社の代表取締役社長である
吉田和正氏が,2012年を振り返りつつ,2013年の展望や活動目標を語った。その内容はほとんどがモバイルで,ゲームのゲの字も出てこなかったが,総合的には相当に興味深い内容だったので,ここでまとめてみることにしたい。
Ultrabookはタブレットとスマホの特性を吸収
2013年は国内でもIAベースのスマホが出る?
冒頭で吉田氏は,2011年と比べて2012年がIntel,そしてインテルにとって厳しい年になったとしつつも,「有言実行ができた年だった」と振り返った。
Intelの2012年実績。決算としては減収減益だったと発表されているのだが,それでも通年での利益は110億ドル(約9900億円)ある
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IntelのPaul Ottellini社長兼CEOによるによる2012年総括
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ここ数年のうちに,インターネットは,PCとサーバーだけが存在する世界でなくなったというのは,あらためて説明するまでもないだろう。PCだけでなくさまざまなデバイスがインターネットにつながり,とくに2012年はタブレットやスマートフォンが大きく成長したが,Intelとして,これまで製品を投入できていなかったそれらの市場へプロセッサを投入できたことが,同社にとっての大きな一歩になったとのことだ。
同時に氏は,「『PCはもうダメなんじゃないか』と言われるが,そんなことはない。中身を見てほしい。性能が上がり,グラフィックス(処理速度)が向上し,軽くなり,薄くなり,タッチ機能などを取り入れてきた。いろんなことをするためには性能が必要になり,性能のよさがユーザビリティにつながる。(2012年は)ユーザー体験を届ける意思を示した年になった」とも述べている。もちろんこれはUltrabookについての発言である。
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応答性と携帯性,安全性,デザインの4要素で,Haswell世代のUltrabookはさらに進化するという |
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詳細は明らかにされなかったが,Intelは新しい入力系の開発を行っているとのこと。ヒントとして「五感で操作するコンピューター」というキーワードが示された |
コンバーチブルやデタッチャブルなUltrabookがいくつか登場したことで,「
PCが,タブレットやスマートフォンのユーザビリティを吸収していく」と吉田氏は予告する。2013年中の登場が予定されている次世代CPU,開発コードネーム「
Haswell」(ハスウェルもしくはハズウェル)こと第4世代Coreプロセッサが登場すれば,「ひょっとしたらファンレスになるかもしれないし,そうなればデザインが大きく変わるかもしれない。バッテリー駆動時間が延びるかもしれない。これまでは(Ultrabookと言っても)いままでのノートPCと変わらないと思ったかもしれないが,Haswellが,さらなるユーザー体験の向上に寄与すると期待している」(吉田氏)。
なお氏によれば,現在Intelでは,「ユーザー体験の向上」に向け,より感覚的な操作を実現するための技術を開発中とのこと。具体的には話せないとしながらも,オンラインで複数のパスワードを使い分けるのは不便であることから,そこに向けた解決策を提供すべく動いているとのことだ。また,音声による操作や顔認証といった既存の技術についても,最新のプロセッサが登場することでソフトウェアの高機能化につなげ,大きな付加価値を生んでいくともしていた。
2013 International CESより,Atom搭載スマートフォン7製品
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Ultrabookでそのユーザビリティを吸収していくとされたタブレットやスマートフォンでも,インテルは2013年を飛躍の年にしていく計画だ。
Intel Architecture(以下,IA)を採用するスマートフォンは,2012年に17か国で計7製品が発売されたと振り返った吉田氏は,スマートフォン向けCPUのロードマップが強化される2013年中に,国内市場で搭載端末が発売されるようにしたいと述べていた。スマートフォンの市場ではARMアーキテクチャを採用するプロセッサが支配的な状態だが,「ただIntelが入っているだけではなく,安全性や使いやすさなど,Intelが入っているからこそのメリットを作り上げていく」(吉田氏)ことで,差別化を図っていくということだろう。
スマートフォン向けAtomとしては,開発コードネーム「Lexington」(レキシントン)と呼ばれる低価格帯プラットフォームを準備しているIntel。これが日本市場にやってくるかどうか,吉田氏は直接の言及をしなかったが,低価格帯スマートフォンの市場規模は2015年に5億台規模になるとのことなので,世界規模の企業としては,当然,そこも狙っていくだろう
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タブレットやスマートフォンの市場で存在感を増すためには,無線LANのときの「Centrino Mobile Technology」,あるいはMobile WiMAXコントローラといったように,自社製の無線コントローラが必要だと思われるが,吉田氏はこの点について,筆者の質問に答える形で「2014年の市場投入に向けて,開発が進んでいる」と述べていた。
現状,3Gや4Gのコントローラを搭載するPCの価格は,搭載していないPCと比べても軽く数万円跳ね上がってしまいがちだが,そういった事態の解決が図られれば,IAベースのタブレットやスマートフォン,そしてUltrabookの使い方も大きく変わることになるだろう。その意味において,Intelのモバイル戦略が本格的に羽ばたくのは2014年であり,今年はそのための大きな助走期間ということになるのかもしれない。
インターネットがIntelを成長させる
日本発の提案がIntelを動かす!?
3年後にはインターネット接続人口が30億人を超えるという
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2012年,インターネット接続人口は20億人を超えたが,今後は年間3億人強のペースで増加していくと見込まれていると吉田氏。インターネット接続人口が間違いなく,とてつもないペースで増えれば,PCやタブレット,スマートフォン,デジタルサイネージ,車載システムなどなど,接続デバイスの需要が増え,いきおい,(Xeonを搭載する)データセンターの需要も増えていくが,これこそがIntel成長のカギだと,氏は断言している。
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450mmウェハへの移行には膨大なコストがかかる。現在Intelは,パートナー各社とともに移行を進めているが,具体的なスケジュールは明らかにされていない |
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インテルはつくば本社内にJMCを開設し,製造装置メーカーとの協業を始めている |
そこに日本法人としてのインテルはどう関与できるのか。吉田氏は,2012年が300mmウェハから450mmウェハへの移行が始まった年であったこと,2013年におけるIntelの研究開発および設備投資予算が130億ドル(約1兆1700億円)に達していることを紹介しつつ,Intelで使っている製造装置の多くが日本のメーカー製であることから,2012年に「450mm Japan Metrology Center」(JMC)を立ち上げ,装置メーカーと共同での研究開発を加速させるとした。
また,多数のPCとタブレット,スマートフォンを日常的に使っている経験から,LTEやMobile WiMAXの整備状況,すなわちモバイルブロードバンド環境という観点で,日本が世界で最も進んでいると述べた吉田氏は,「モバイル環境やエネルギー効率の改善,消費者による要求の高いユーザビリティなどに基づく提案を積極的に本社へ送っていく」と続けた。
実際,インテルでは現在,「
Future of Intel starts from IJKK」(※IJKKというのは,業界内で一般的に使われているインテルの略称)というスローガンを掲げ,行動に移しているとのこと。日本から発信される技術や装置,アイデアなどで,世界規模の企業であるIntelを動かしていこうとしているわけである。
「日本のイノベーションは止まっていない。大きな社会問題に直面している日本だが,日本ならではの付加価値の創造を考えていく」として,Future of Intel starts from IJKK(Intelの将来はインテルから始まる)なるスローガンが紹介された
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吉田氏直筆の書
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なお吉田氏は最後に,「
Big Hairy Audacious Year」と“書き初め”を披露した。略して「BHAY」(ビーハイ)。「ハイな状態」,あるいは「高い目標」といった「High」をかけた言葉で,北米のビジネスシーンでよく使われる「Big Hairy Audacious Goal」(BHAG,ビーハグ)をもじったものだそうだ。BHAGは「とても困難かつ大胆な目標」といった感じの意味だが,目標というのは要するに,タブレットとPCの境目がなくなってくる状況下におけるパーソナルコンピューティング市場の拡大,IAベースとなるタブレットとスマートフォンの展開,データセンターのCPU入れ替え,デジタルサイネージや車載といったインテリジェントシステム,新しいユーザー体験,サービスプロバイダやソフトウェアメーカーとの協業などなどだ。2013年のIntel/インテルは,2012年に引き続き,こうした多方面戦略へ向かうこととなる。
インテルの2013年活動目標。なお,Q&Aで「IntelブランドでUltrabookを投入したりしないのか」という質問が挙がっていたが,それに対して吉田氏は「Intelブランドで提供することはない。今後もないと思う」と回答していた。ただし,最終に近いリファレンスデザインを見せてほしいという声は多く上がっているそうで,それに向け「Intelの目指しているものをしっかり示す必要がある」とも氏は述べていた
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