
インタビュー
ゲームがあってこそのゲーム音楽――「ソウルキャリバーV」の音楽監督を務めた由良浩明氏が,作品に込めた思い
みんながいい音楽を理解することで
ゲームやアニメ音楽の地位向上を
4Gamer:
せっかくなので,エミネンス交響楽団についても聞かせてください。なぜ由良さんは,ゲームやアニメの音楽を専門に演奏する楽団を作ったんでしょうか。
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その話,長くなりますよ?(笑)
初めてゲーム音楽を好きになったのは,菊田が音楽を担当した「聖剣伝説2」なんです。オーストラリアに在住していた中学2年生の頃,仲間の学生達と夜更かししながらプレイしていました。
実は僕自身,小さい頃からクラシックの演奏家として生きていたので,“空気のない”打ち込み音楽が大嫌いだったんですよ。でも菊田さんの曲は,なぜか聴いていて楽しかったので,耳コピで譜面を書いて弦楽カルテットで演奏して遊んでいたんです。それが原点です。
4Gamer:
10代で楽器経験のある人なら,多くの場合,同じようなことを考えたりするものですが,その方面の活動を本格化するには至らず,遊びで終わらせてしまうのがほとんどですよね。
由良氏:
ですね。僕自身はソロバイオリニストの道に進むものだと思って激しい練習に励んでいたんですが,世界コンクールで優勝しても虚しい気持ちしかなかったんですよね。
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4Gamer:
え,それはどういうことですか?
由良氏:
クラシックの世界が権威的になりすぎているというか……。我々は誰のために音楽を演奏しているのか。若い人達に音楽が聴かれなければ,この時代に演奏家として生きている意味が無いと思って,師事していた音大の先生と口論になったこともあります。
そこで,「どうせなら,みんなが好きなものを演奏すればいいじゃん」と,ジブリ作品と「ファイナルファンタジー」の音楽を演奏することを思いつき,2003年に海外でアニメとゲームの音楽会を開いたんです。軽い気持ちでやってみたことなんですけど,予想に反してというか,900人の会場に1600人ものお客さんが集まってくれたんですね。それを見て「これは真剣にやらないとマズい」と思い,翌年にエミネンス交響楽団を設立しました。
4Gamer:
現代にこういう音楽を求めている人達が大勢いることを,図らずも証明してしまったわけですね。
由良氏:
ええ。そしてエミネンス交響楽団として行った最初のコンサートは,国際コンクールで優勝経験のあるピアニストや「エアフォース・ワン」のオーケストレーションを担当した指揮者を呼んだりして大々的に開催しました。そのときには,ゲストで植松(伸夫)さんをお呼びしたんですが,たいへん喜んでいただけました。その後も光田(康典)さんや崎元(仁)さんといった日本の作曲家さん達をゲストに招いて,いろいろと活動してきています。
4Gamer:
由良さんのような形で,本格的にクラシックを経験された方が,ゲームやアニメの世界にシフトするケースって,珍しいことですよね。
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ほとんどいないですね。あくまで僕自身の考え方であり,生き方なんですけど,演奏家というのは自分だけを喜ばせるのではなく,時間やお小遣いを使って聴いてくれる人を喜ばせなければいけないと思うんです。さらに僕の場合,自分と同じ時代に生きる同世代の方達に喜んでほしいという思いが強くて,結果的にこういう活動をすることになりました。
エミネンス交響楽団も,そういう意味ではクラシックの堅苦しさを出したくなくて,「METAL GEAR SOLID」の曲を演奏する前にはバンダナをするんですよ。そうすればお客さんにも「あ,MGSを演奏するんだな」って分かってもらえるじゃないですか。
ただ,あくまで主役は“ゲーム音楽と演奏家”ですから,過度なステージ演出はしないようにしています。
4Gamer:
つまりエミネンス交響楽団は,そんな由良さんの志に共鳴して集まった演奏家で構成されていると考えてよろしいでしょうか?
由良氏:
ええ。みんなレベルの高いミュージシャン達なんですけど,本当にゲームが好きな連中ばかりです(笑)。
ハンド・アイ・コーディネーションがうまくなければ,楽器はうまく演奏できません。これって,タイミングという見方をすると音楽もゲームも共通しているんです。だから相性がいいのかもしれませんね。
さらに言うと,うちの演奏家はゲームの知識もかなりのもので,「Diablo III」の楽曲を収録するときなんか,団員にはゲーム名を秘密にしていたのに,譜面を見て「これDaibloでしょ?」なんて見抜かれてしまったこともあります。
4Gamer:
素晴らしい!
残念なことに,日本で催されるゲーム音楽のオーケストラコンサートだと,有名な楽団がその場その場で与えられた譜面を再現するだけというケースもあります。もちろん,プロとしてそういう活動も必要だとは思いますが。
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ありますね。聴く人が聴けば分かってしまうものなんですけどね……。オリジナルへのリスペクトがないのが透けて見えるというか。僕がCIAの事業を始めたのもそこに理由があって,ゲームの作曲家ってクラシックの世界で生きている人達から,どうも下に見られている気がするんですよ。
ただそれは演奏家だけが悪いかというとそういうことではなくて,作曲家のレベルが必ずしも高くないからでもあるんです。さまざまな事情はあるにせよ,オーケストラのスコア(譜面)を書けないのに,勉強なしに生音楽の世界に踏み込んでしまっている方もいらっしゃいますし。
4Gamer:
長年演奏家として真摯に取り組んでいる方にしてみれば,確かに面白くはないですよね。とはいえ,それで双方が反目し合うというのは,音楽を聴いて楽しみたいだけのリスナーとしては残念なことでしかありません。
由良さんはCIAの活動を通じて,“ゲーム作曲家の地位向上”を成し遂げたいそうですが,それって,こういった部分をクリアしていこうということですか?
由良氏:
まさにそうです。作曲家,演奏家,そしてゲーマーがそれぞれ歩み寄らないといけないんですよ。
作曲家には演奏家のことをもっと理解してほしいし,演奏家もいい作曲家にリスペクトを払ってほしいです。それがないのにオーディエンスは,雇われ楽団の演奏を聴いて満足してしまう傾向があって……こういう悪循環が生まれていると思うんですよね。
4Gamer:
オーディエンスも演奏自体の善し悪しをもっと冷静に評価できるようにならないといけないのかもしれません。もっとクオリティの高い音楽を楽しむための土壌作りという意味で。
由良氏:
そうやって環境が出来上がっていくことで,ゲームの音楽というものが,もっと正当に評価されることになると信じています。
4Gamer:
では,エミネンス交響楽団としての今後の活動はどのように進めていくご予定ですか?
由良氏:
最近は楽団としての演奏会活動が薄れてきてしまっているんですが,ゲーム作曲家の地位向上を果たすためにも,演奏する側から教える側にならなきゃいけないと思っています。
そこで現在は,ゲームやアニメの音楽を,楽団の一部メンバーや,作曲家と一緒に演奏しながら学べるようなミュージックキャンプを計画しています。日本でもこの夏に開催予定です。
4Gamer:
由良さんが孤軍奮闘するだけでなく,若い力に意志を伝えていこうという試みですね。
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僕は作曲家ではないので,最前線に立ってどうにかすることはできないんです。でも,僕と仕事をする作曲家さんが“いい志”で仕事に励んでくれればいいと思っています。
今回の作曲チームには無名の作曲家が入っていますけど,名だけでない“いい作曲家”が使われるように,業界の眼が向くようになってくれればいいな,と思っています。そのための種まきとして,こういう,若手を育成するような活動もやっていこうと考えているんです。
もちろんそれだけでなく,演奏活動としてはあまり多くの人が知らないゲーム音楽を,どんどん演奏していきたいと思います。
そうすれば,「こんないい曲があるんだ」という発見を,演奏家もオーディエンスも気付けるはずなんです。……これは,エミネンス交響楽団としてこれまでやってきたことではあるんですが,引き続き取り組んでいきます。
4Gamer:
日本でエミネンス交響楽団が演奏会を開く予定はないんでしょうか?
由良氏:
全メンバーを来日させるだけで,膨大なコストがかかってしまいますからねぇ……。正直,日本での知名度は低いので,現時点では難しそうです。でも,もし状況が許すならば,東名阪+札幌,福岡ぐらいの五大都市ツアーはやってみたいですね。
4Gamer:
いつの日か,それが実現する日を楽しみにしています。
それでは最後に,ソウルキャリバーシリーズのファンへ向けたメッセージをお願いします。
由良氏:
こうして取材を受けるのは十数回目なんですが,実は苦手なんです(笑)。
メッセージ――これは僕だけじゃなくて作曲チーム全員のものを,全部音楽に込めています。買ってくださるファンの方々には,感謝の気持ち以外ありません。少しでも楽しんでいただければと思っています。
由良氏の語り口は非常に穏やかながら,確固たる信念を持っている様子が伝わってきた。インタビュー中にポロリと口にしていた言葉が印象的だったので,それを引用してまとめに代えて掲載しよう。由良氏のゲームやアニメ,そして音楽に対する情熱がわかるはずだ。
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「ソウルキャリバーV」公式サイト
「SOULCALIBUR V Original Soundtrack」商品情報
Creative Intelligence Arts公式サイト
キーワード
- PS3:ソウルキャリバーV
- PS3
- アクション
- CERO D:17歳以上対象
- バンダイナムコエンターテインメント
- ファンタジー
- プレイ人数:1〜2人
- 格闘
- 対戦プレイ
- Xbox360:ソウルキャリバーV
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- ライター:馬波レイ
- カメラマン:増田雄介
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