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印刷2012/08/22 19:16

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[CEDEC 2012]必要なのはルックス,一芸,性格,奥ゆかしさ。スマートフォン向けゲームにも適用できるアーケードゲーム作りの極意

セガ 第一研究開発本部 開発1-1部 ディレクターの平魯隆導氏
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 アミューズメント施設で専用のゲーム機を用いて遊ぶアーケードゲームと,携帯端末を使って遊ぶスマートフォン向けゲーム。両者はまったく違うように見えるが,プレイヤーを引きつけるテクニックには共通点が多い。セガ 第一研究開発本部 開発1-1部 ディレクターの平魯隆導氏(以下,平魯氏)は,CEDEC 2012の2日目に行われた講演「〜他分野の技術をゲーム開発に利用するには〜アーケードゲーム制作のノウハウを,スマフォ向けゲーム制作に注ぎ込むとこうなった」の冒頭でそう語った。

 平魯氏は,これまでアミューズメント施設向けの体感ゲームや「機動戦士ガンダム0083カードビルダー」などのアーケードゲームを手がけてきた。現在はスマートフォン向けゲームの開発にシフトし,「源平大戦絵巻」「百鬼大戦絵巻」といった,和の世界観をベースとしたタワーディフェンス系ゲーム「大戦絵巻」シリーズをヒットさせている。
 平魯氏は「大戦絵巻」シリーズを作る上で,アーケードゲームのゲームデザイン手法である「ルックスのゲームデザイン」「一芸のゲームデザイン」「性格のゲームデザイン」「奥ゆかしさのゲームデザイン」を取り入れたそうだ。


ルックスのゲームデザイン


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 平魯氏は,App Storeなどのスマートフォン向けアプリマーケットを訪問する際は,「なんとなくの暇つぶし」や「ランキングだけでもチェックするか」という軽い気持ちであることが多いと指摘。これはゲームセンターに遊びに来た人に近いものがあるという。
 このように軽い気持ちで来た人に遊んでもらうためには,まずはインパクトのある見た目を提示することが必要になる。「源平大戦絵巻」「百鬼大戦絵巻」では絵巻という,誰もが見たことがありながらも,ゲームとしては珍しいビジュアルを採用することにより,「唯一無二の存在」として浮き上がらせることに成功した。こうしたインパクト追求の姿勢が「ルックスのゲームデザイン」であり,これはアーケードゲームでもスマートフォン向けゲームでも変わらず,重要な手法だという。

お客の目をひくにはインパクトが重要。「大戦絵巻」シリーズはビジュアル面でも話題となった
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一芸のゲームデザイン


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 「ルックスのゲームデザイン」で引きつけた,ゲームにお金を払うかどうか迷っている人を後押しするのが「一芸のゲームデザイン」だ。お金を使ってもらえるかどうかは,「“世界初”をいくつ搭載できたかで決まる」と平魯氏は語る。
 世界初とは,これまでになかったことで,それゆえに「お金を払ってもやってみたい!」と思わせるインパクトを与えることができる。「大戦絵巻」シリーズでは,タワーディフェンス系ゲームでは珍しいオンライン対戦モードや,トレーディングカードゲーム要素などを導入。世界初をできるだけ多く入れることで,最初のプレイに至ってもらうための入り口を増やしているという。

お金を使ってもらうために,これまでになかったものを搭載する。それが「一芸のゲームデザイン」。「大戦絵巻」シリーズでもさまざまな世界初が盛り込まれている
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「性格のゲームデザイン」


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 平魯氏は「魅力的なゲームとはどういうものか」という問いかけに対し,「ゲーム」を「異性」に置き換えると分かりやすくなると話を進めていく。ルックスがいい(個性的で美しいビジュアルを目指す「ルックスのゲームデザイン」)。芸達者である(斬新なシステムや秀逸なギミックを取り入れた「一芸のゲームデザイン」)。さらに付け加えるべきは性格の良さ,すなわち「性格のゲームデザイン」であるという。これはゲームにおけるバランス調整のことで,パラメータの調整や敵の配置,タイムコントロールなどを駆使し「お客様の情感をデザインしていく」ことが目的となる。
 こうした「性格の良さ」は見た目では分かりにくく,付き合って(ゲームを遊んでみて)分かるものだが,生涯の伴侶とする(ゲームを遊び続ける)うえでは決定打となる,重要な要素だという。。
 アーケードゲーム業界には「プレイ時間は3分=100円」という暗黙のセオリーがあり,この時間は,プレイヤーに満足してもらいつつ回転率を上げる,「あらゆる人を満足させるための黄金律」であると平魯氏は指摘する。「3分」とは,大都市において電車で一区画を移動するために要する程度の時間でもあり,電車の中で遊ばれることの多いスマートフォン向けゲームとは相性がいいという。
 「百鬼大戦絵巻」では,通常1ステージが9分で終了するが,ゲームの進行を3倍にする機能を用意することで,1プレイを3分間に収める工夫がなされている。

アーケードゲーム業界では3分=100円が暗黙のセオリー。これを一区切りとする考え方は,アーケードゲームとスマートフォン向けゲームのどちらとも相性が良いという
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 ファーストプレイの3分間で心を掴むには,「最初の3分間で面白さをいきなりフルスロットルで体感させること」が必要。アーケードゲームでは,最初の3分で心を掴まなければ次の100円を入れてもらえないが,ここで培ったノウハウが「百鬼大戦」でも活かされている。性質の違う「源頼朝」「平清盛」「源義経」をスタート直後に選ばせたり,初回プレイでも異なった兵種同士のコンボが楽しめたり,プレイ後に新カードをプレゼントしたりといった工夫により,次のプレイへとつなげているそうだ。

 続いて平魯氏は,ゲームを面白いと感じることを「脳汁が出る」と表現することがある点に注目。脳汁が出る条件として「ギリギリで勝つ」「不利な状況から大逆転する」「スピードの速いものをコントロールしている」などの例を挙げ,「脳というコップの表面張力ギリギリまで負荷を与え,思考のクロック数を上げた状態」(能力ギリギリの試練が与えられ,思考が素早く明晰になっている状態)ではないかと仮定する。

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 「百鬼大戦絵巻」では,ゲームのプレイに波を作ることで,このギリギリ感を生み出しているという。敵の数は徐々に増えていき,あるときピークに達するものの,大量の敵が出続けるのではなく,徐々に敵の数が減る。しかし終盤で再び敵の数が増加し,これまで以上のピークを迎える……というリズムになっているのだ。これは簡単なモードでも難しいモードでも同様だというから,かなり幅広く適用できる概念と言えるだろう。
 プレイヤーをゲームオーバーに追い込むことなく,さりとて楽をさせることもなく……というバランスではあるものの,ゴール直前であえてゲームオーバーにさせるようなこともあるという。そうするとプレイヤーは「惜しかった」「あと少しで」と感じる。この感情の高ぶりが,再度のプレイを促すばかりか,クリアできたときのカタルシスを増幅させるというわけだ。

ギリギリの勝利や大逆転の際に感じるカタルシス,それが平魯氏のいう「脳汁」。プレイヤーに脳汁を出してもらうためには綿密な調整が必要だ
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「奥ゆかしさのゲームデザイン」


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 ここまで3つのゲームデザイン手法を紹介してきたが,これだけでは,「思ったより飽きが早い」ゲームになってしまう可能性がある,と平魯氏は語る。これを防ぐために導入するのが「奥ゆかしさのゲームデザイン」だ。プレイヤーが知り得ない要素,つまり「ブラックボックス」としてのAIセッティングや確率設計によって,プレイの不確実性を用意しておくことが必要だという。
 ここでいう不確実性とは,ゲームをプレイ中に,状況がさまざまに変化すること。例えば,同じステージの同じ場所であっても,あるプレイでは敵/味方が都合のいい場所に来てくれたりするが,別のプレイでは逆に,都合の悪い場所へ行ってしまう。あるプレイでは,難所で運良くアイテムが手に入ったが,別のプレイではそうでなかったりする……といった,ある種の揺らぎのようなものだ。こうした不確実性を用意することにより,プレイがうまくいったりいかなかったりするわけだが,この揺らぎが,前述した脳汁を出させることになり,継続的なプレイにもつながっていくという。

AIのセッティングによってゲーム展開を変化させることで,思わず追いかけてしまいたくなる“奥ゆかしさ”のあるゲームが生まれるという
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アーケードとは違った部分


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 続いて平魯氏は,アーケードゲームとスマートフォン向けゲームの大きな違いとして,「課金システム」「アップデート間隔」「通信回線」を挙げる。
 まずは「課金システム」についてだが,アーケードゲームで一般的な1プレイ100円という価格設定は,スマートフォン向けゲームでは困難である。「大戦絵巻」シリーズでも,アプリの価格を450円から350円,250円,170円,85円と変化させていったが,最終的に無料にしたとたん,ダウンロード数がこれまでの総ダウンロード数の4倍に達したばかりか,各種アドオンの売上も2〜3倍に急増し,その状況が安定し続けているという。

 続いては「アップデート間隔」の話題。氏がこれまでに手がけてきたアーケード向けトレーディングカードゲームでは,新たなカードを導入するためには,2〜3か月前には印刷会社へ納品しておかなければならなかったそうだ。言い換えれば,導入の2〜3か月前には,カードに印刷する能力値などが決定している必要があるということで,スケジュールの関係で,バランス調整は困難を極めたという。
 一方「大戦絵巻」シリーズは,デジタルカードゲームであり,印刷の手間はかからない。つまり,短いスパンでのアップデートが可能であり,バランス調整の時間がアーケード向けのトレーディングカードゲームよりも長く取れるということだ。氏は新カードのマスターアップ当日まで調整をしていたことがあるそうだが,アップデートの頻度とバランス調整の精度が上がるとなれば,これはプレイヤーにとっても嬉しい部分だろう。

アプリを無料にしたとたん,ダウンロード数が急上昇。同時にアドオンの売上もアップしているという。トレーディングカードゲーム的要素をデジタル化することで,アップデートの頻度を上げられるというのは,作り手にとっても遊び手にとってもうれしいポイントだ
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 最後に「通信回線」だが,セガ系列のアミューズメント施設では「ほぼすべての店舗が光回線によるオンラインサービスを導入している」ため,完全同期型の対戦も比較的容易だという。
 これがスマートフォン向けゲームとなると,そう簡単にはいかないようだ。回線一つとっても,3GやWi-Fiなど環境に違いがあるし,使用しているハードやOSも微妙に異なっているため,遅延がどれくらい発生するのか分かりづらいのだ。
 そこで「大戦絵巻」シリーズでは,ある程度の遅延を前提としたゲームデザインが行われている。1人用モードでもあえて2秒程度の「間」を入れることにより,通信対戦時の遅延を感じさせないよう工夫しているほか,勝敗の部分を個々の端末で判定し,それでも決着が付かない場合は両者を勝者とするといった判定により,「勝っていたはずなのに負けた」「通信エラーで無効試合になった」という最悪の結末を,可能な限り回避できるようにしているという。

スマートフォン向けゲームで快適な対戦を行うには,機種や回線の違いを考慮することが必要になる
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 平魯氏は,課金システムや通信回線など,アーケードゲームとスマートフォン向けゲームで異なる部分はあるものの,「面白いゲームを作る」というゲーム作りの哲学においては,共通する部分が多いと講演を締めくくった。

 平魯氏の講演は,アーケードゲームとスマートフォン向けゲームに関してのものだったが,ゲームの面白さとは何か,人を引きつける要素とは何かというテーマへの取り組み方は,ほかの娯楽を作るうえでも参考にできる部分は多いだろう。30分というショートセッションではあったが,内容の濃い,興味深い講演だった。
  • 関連タイトル:

    源平大戦絵巻

  • 関連タイトル:

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