インタビュー
「メタルギア」のアートディレクター,新川洋司氏が「武装神姫BATTLE MASTERS Mk.2」のラスボスをデザイン。その経緯と今後の展望を,新川氏と「武装神姫」の鳥山亮介プロデューサーに聞く
なかでも前作のエンディング後を描いた追加ストーリーと,新たな神姫達の登場が大きな魅力となっているのだが……本作には,とてつもないサプライズ要素も秘められていた。
発売までひた隠しにされていたそのサプライズだが,なんと「メタルギア」シリーズのアートディレクターとして有名な,小島プロダクションの新川洋司氏がデザイナーとして参加しているのだ。そして新川氏は,最強の敵としてプレイヤーの前に立ちはだかる“ジャスティス型”と,“ミミック型”のデザインを担当している。
4Gamerでは今回,「武装神姫」シリーズの鳥山亮介プロデューサーと,新川氏のお二人にインタビューを行った。本作に新川氏が参加することになった経緯はもちろん,“趣味人”でもある新川氏の視点から分析した武装神姫の魅力,そして驚きの構想などについて,まとめてお届けしよう。
「武装神姫BATTLE MASTERS Mk.2」公式サイト
自然と動き出したプロジェクト
きっかけは新川さんの“俺神姫”
4Gamer:
本日はよろしくお願いいたします。
早速ですが,お二人は社内ではどういった間柄なんでしょうか?
お互いに長いこと会社にいるんですが,実はわりと最近まで面識もなかったんですよ。
ちょうど前作「武装神姫BATTLE MASTERS」の企画がまだ始まっていなかったぐらいの時期に,武装神姫のデザインを担当している柳瀬敬之さんが「メタルギア」の仕事をしていて,その関係で新川を紹介してもらったんです。
4Gamer:
えっ,社外の方に紹介してもらったんですか?
鳥山氏:
はい(笑)。同じ会社なのにまずは名刺交換をするぐらいの初対面っぷりでした。携わっているプロジェクトが違うと,こういうことは案外あるんです。
新川洋司氏(以下,新川氏):
僕はオモチャや模型が好きで,鳥山と知り合う前から「武装神姫」のクオリティには注目していたんです。「ウチ(KONAMI)でよく,このタイプの商売が続けられるな」と,ビジネス的な面でも感心していました。
鳥山氏:
出会ってからは,新川も僕もオモチャや模型が好きという共通点があって,自分で作ったプラモデルを見せ合ったりして仲良くなっていきました……よね?(笑)
新川氏:
うん(笑)。鳥山の作るプラモは,なかなかクオリティが高いんですよ。世代的にも近いので,好きなプラモの傾向も似ていたりして,「あ,こいつ分かってるな」みたいな感じで。
鳥山氏:
ちなみに,僕はこの会社に入社する以前からメタルギアシリーズをプレイしていたんですが,作品に登場する色々なメカが,見事なまでに好きなデザインばかりだったんです。「メタルギアREX」なんかもう,カッコ良すぎでしょう!
4Gamer:
つまりお互いに知り合う前から,リスペクトし合っていたわけですね。では,新川さんが武装神姫BATTLE MASTERS Mk.2に参加することになった経緯を教えてください。
鳥山氏:
これももともと,仕事として発注しようということになったわけではなかったんです。
4Gamer:
え?
鳥山氏:
先ほどお話しした,僕らが初めて会ったとき,新川から「実は,神姫を描いていたんだけど」と1枚のスケッチを見せられたんです。
4Gamer:
自発的に“俺神姫”を!?
趣味で描いていたという感じですね。そのときは仕事に繋がるなんてまるで考えていませんでした。
鳥山氏:
それこそ僕と会う前,武装神姫というブランド自体が始まったばかりで,制作も手探り感の強かった時期から,描いてくれていたそうで(笑)。
ただ,その話を聞いた時点では,「いつか新川さんがデザインした神姫をフィギュアにしてみたいな」程度にしか考えていませんでした。それから何度か遊びの席でお会いして,少しずつ企画として動き始めたんですが,そこに至るまでにだいたい2年ほどかかりましたね。
新川氏:
とくにきっかけと言えるようなものもなく,タイミングがやってきて自然に動き出したという感じです。
4Gamer:
でも仕事となると,やはりきちんと手順を踏んでお願いする機会もあったわけですよね?
鳥山氏:
それももう,「新川さん,やって……くれる?」っていう感じで。
4Gamer:
そのとき新川さんは?
新川氏:
「あ,いいですよ」って即答しました。
鳥山氏:
当時を再現すると,本当にこんな感じで,さらっと決まりましたね(笑)。
4Gamer:
では,新川さんにラスボスのデザインを担当してもらうことが決まったのは,いつ頃だったんですか?
鳥山氏:
それは,BATTLE MASTERS Mk.2の制作が決まってからです。前作では,いわゆる“ボス”という位置付けの相手であっても,登場するのは普通の神姫でしたから,サプライズ要素が薄かったんですよ。それが少し心残りだったんです。
なので,今度はゲームをプレイして初めて目にするラスボスが欲しいと思って,それを新川にデザインしてもらうことになりました。
4Gamer:
これまでの神姫だと,まずはフィギュアからという流れでしたよね。そういう順番に関しては,とくにこだわりはなかったんですか?
ええ。新川に参加してもらうにあたって,ちょうどいいきっかけですし,フィギュアでの実現が難しくても,ゲームの中なら何でもできますから(笑)。何より,以前からやりたかったことを実現できたのが嬉しいですね。
それに,KONAMI作品ファンからの要望にある程度は応えることができたんじゃないかとも思っています。さすがに「オービタルフレーム型の神姫はまだですか?」という要望に応えるのはまだまだ難しいですが(笑)。
4Gamer:
それは確かに欲しいですね(笑)。
鳥山氏:
恐れ多くて,こちらからはそうそう声をかけられません!
4Gamer:
残念! それはそれとして,新川さんの起用はKONAMIファンなら誰もが驚くところですよね。。
鳥山氏:
驚いていただくために,発売まで前情報は一切出していませんでしたし。
4Gamer:
新川さんは今回,この作品の制作に参加してみて,いかがでしたか?
新川氏:
自分がメインでやっているメタルギアシリーズとは違って,マンガ寄りな雰囲気ですよね。それでいてオーダーが「自分らしさを出してほしい」というものでしたので,その辺りのバランスは少し難しかったです。
ただ,元々こういったメカ+美少女キャラはキライじゃないので,作業は問題なく進められました。
鳥山氏:
やはり趣味が似通っていますから,感性の齟齬が生まれにくかったというのが,制作がスムーズに進んだ大きな理由なんじゃないかと思います。
4Gamer:
ところで……新川さんはどの神姫がお気に入りなんですか?
新川氏:
島田フミカネさんのデザインした神姫は凄いですよね。模型としても絵としても立体が気持ち良く成立していて,最高だと思ってます。
新川デザインの「ジャスティス」と「ミミック」
そのコンセプトは……?
ところで,新川さんがBATTLE MASTERS Mk.2でデザインを担当した,「ジャスティス型」は,どのようなコンセプトで生み出された神姫なんでしょうか?
新川氏:
最初は,「メタルギア ソリッド 2 サンズ オブ リバティ」(※)の「ソリダス」のようなデザインで考えていました。つまり“スネーク型”ですね。どうせ自分が描くのなら,そういったセルフオマージュを入れたいなと。
※2001年にPlayStation 2用として発売。11月23日リリースの「METAL GEAR SOLID HD EDITION」(PlayStation 3 / Xbox 360)に収録される
鳥山氏:
ただ,システム的なところでそれをうまく表現できなかったんです。そこでシルエットは一般的な神姫と同じものにして,羽などのデザインで新川の“色”を出していくことになりました。
4Gamer:
その結果が現在の形なんですね。
鳥山氏:
ええ。クオリティを下げずにゲーム的なデザインを追求したら,結果的にドラゴンのような現在の姿に落ち着きました。
4Gamer:
デザインについて,事前に鳥山さんから新川さんへ何か指定はありましたか?
新川氏:
いえ,いくつかデザインを提出した中から,鳥山のイメージに合ったものを選んでもらいました。なのでとくに細かな指定はありませんでしたね。
ラスボスですので,「まがまがしい感じで」という大まかなイメージでお願いしました。ただ,細かい口出しはあまりしていません。実は,武装神姫に携わっているほかのデザイナーさんに対しても同じなんですが,カッチリした指定はしないようにしているんです。
4Gamer:
それはなぜですか?
鳥山氏:
デザイナーさんに自分の色を出してもらうことで,愛着を持っていただくことが大切だと考えているんです。そのため,まずは自由にデザインしていただいて,そこから細かな調整を加えていくという作り方をしているんです。
4Gamer:
今回の場合は,どのような調整が加えられたのですか?
鳥山氏:
主に,ゲームに登場させるうえで整合性を取るための調整ですね。例えば“武装は3つ必要”だということや“必殺技のためのギミックを用意する”といったものですね。
新川氏:
そういう調整も,仕事というよりかなり趣味に寄った内容でしたので,楽しかったですよ。
4Gamer:
やはり,フィギュア化も想定したデザインになっているのでしょうか?
新川氏:
半透明の装備を着せたりして,手に取った時に面白みを感じられるようなデザインにしてあります。
鳥山氏:
ポリゴンを作る前にクリンナップとして柳瀬さんにイラストを描き起していただいたんですが,そこで柳瀬さんは「フィギュア化するならこうなるよね」という細かい設定まで提案してくれたんです。おかげ様で,綺麗なモデルが出来上がりました。実際にフィギュア化するのかは,まだ決まっていないんですが。
4Gamer:
では武装についても同じように?
新川氏:
ドリル型の武器は,「メタルギア ソリッド 3 スネークイーター」(※)の「シャゴホッド」からのオマージュですね。ドリルってとにかく強そうでしょ(笑)。
※2004年にPlayStation 2用として発売。こちらも11月23日リリースの「METAL GEAR SOLID HD EDITION」(PlayStation 3 / Xbox 360)に収録される
手持ち武器が一つ欲しい,ということになりまして。ゲーム中に出てくる武装の中で選んでいくと,まずラスボスが“小剣”というのは無いじゃないですか(笑)。背中にも巨大な刃がついてますし,それで“ドリル大剣”という結論に至ったんです。
4Gamer:
見た目はドリルでも,カテゴリ的には大剣なんですね。
鳥山氏:
そうです。基本的なモーションも大剣と同じ物になっています。
専用レールアクションについては,ジャスティス型の強さを強調するために,“一瞬目の前から消え去る”ような演出を加えています。ラスボスの使う最強の技なので,覚えてしまえば簡単に回避できるような技にはしたくなかったんです。
4Gamer:
なるほど……ところでジャスティス型以外にも,このサイボーグ忍者みたいな神姫が凄く気になるんですが。
鳥山氏:
これはラスボスのデザインが完成した後に作ったものです。いわゆる敵の戦闘員のようなポジションで,名前は「ミミック」と言います。
4Gamer:
顔無しとは,思い切ったデザインですね……。
鳥山氏:
MMSの素体をそのまま使おうかとも考えたのですが,あまりに味気ないじゃないですか。そこで,新川が再登場ですよ!
新川氏:
確かこれ,頼まれたその場で描いて一発OKでしたよね。
4Gamer:
その場で!?
新川氏:
いつものようにフラッと鳥山が遊びに来て,お願いされたから「じゃあやるか」という感じでしたね。
鳥山氏:
確か描いてる間,僕はその後ろに座ってました(笑)。
ちなみに,ミミック型の中の人は喜多村英梨さんです。「ウキー」とか「ウキャー」しか言わないんですけどね。
4Gamer:
それは……意外と可愛いやも……。
4Gamer:
新川さんは,もう本作をプレイされましたか?
新川氏:
軽く触ってはみましたが,まだジャスティス型の声すら聞いていませんね。
鳥山氏:
登場するのが後半ですからね。前作のラスボスを倒した,さらにその先という(笑)。
4Gamer:
声といえば,ジャスティス型のボイスは誰が担当しているのでしょうか?
鳥山氏:
ジャスティス型には久川 綾さんを起用しました。武装神姫では,なるべくデザイナーさんの要望を優先してキャラクターボイスを当てているんですが,これも新川の要望を通した形です。
新川氏:
娘と一緒に観ていた「ハートキャッチプリキュア!」のキュアムーンライトがカッコ良くて好きだったんですよ。
4Gamer:
それでキュアムーンライトの声を担当していた久川さんを(笑)。
鳥山氏:
「娘と見てる」って言えるのがズルいですよね。普通に好きで見てるくせに!
最近,娘に「同級生はもうプリキュアを卒業したから観ない」って言うんですよ。そこで「パパの会社の人達はみんな見てるよ!」と言ったら,「おかしいんじゃないのおとなのクセに!」って言われました(笑)。
4Gamer:
痛い! 心がチクチク痛い!!
鳥山氏:
子供にそう言われちゃうと,返す言葉もないですよね(笑)。
4Gamer:
やはり,そういった娘さんとのやり取りを通してクリエイティブな部分が刺激されたりすることもあるんでしょうか?
新川氏:
少し意味合いは違うかもしれませんが,子供を見ているとその姿が自分の子供時代とリンクする瞬間があります。ちょっとしたトリップ感みたいなものを味わえますね。それが何かの発想に繋がることもゼロではありません。
4Gamer:
ところで,お嬢さんには武装神姫をプレゼントしていないんですか?
鳥山氏:
リカちゃん人形ということにしてみたりして。
新川氏:
なんか,「これは女の子のオモチャじゃない」ということはしっかり分かるみたいなんですよ。
4Gamer:
まぁ,そうですよね(笑)。
新川氏:
それこそ,僕がガンプラを買うのは理解してくれるんです。でも「ダンボール戦機」を手にとって買うか買うまいか悩んでいると,「それは小学生男子のオモチャだから,やめておきなよ」って諭されるんです。面白い線引きですよね。
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