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[GTC]NVIDIAが次世代PCゲームに向けた新たなテクノロジーデモを公開。PC版H.A.W.X.2のデモプレイとCUDA関連最新情報も
基調講演に登壇したJen-Hsun Huang氏( Co-founder, President and Chief Executive Officer, NVIDIA) |
その開幕基調講演には,NVIDIAの創立者にして社長兼CEOのJen-Hsun Huang(ジェンスン・フアン)氏が登場。この講演で最大のニュースとなったのは,すでにお伝えした次世代GPUアーキテクチャとなる「Kepler」「Maxwell」を含むロードマップの公開だが,ほかにも同社が推進するGPU向けの統合開発環境「CUDA」(Compute Unified Device Architecture,クーダ)や,並列コンピューティング向けソリューション「Tesla」(テスラ)の最新情報を公開するとともに,CUDAアプリケーションとPCゲーム開発者に対して数々のメッセージを発信した。
【速報】[GTC]NVIDIA,次世代GPUアーキテクチャ「Kepler」「Maxwell」の存在を公表
PCゲーム産業との深い関係を再アピール
「H.A.W.X. 2」PC版のデモプレイも世界初公開
Tony Tamasi氏(Senior Vice President Content and Technology, NVIDIA)。最新PCゲームに関する話題を中心に講演した |
その一方でHuang氏は,NVIDIAがPCゲーム産業に支えられてきたことも決して忘れていない。「FermiアーキテクチャでGPUの並列コンピューティング性能が飛躍することで,PCゲームにも新しい時代が訪れる」と発言し,NVIDIAでコンテンツや技術の開発を統括する上級副社長のTony Tamasi(トニー・タマシ)氏を壇上に招き,Fermiアーキテクチャによって実現する,新しいゲームの可能性を示した。
まずTamasi氏は,Fermi世代のGPUがテッセレーション機能を実装したことで,GT100(GeForce 200シリーズ)世代と比べて,6倍のジオメトリ処理性能を実現したことを紹介。これによりさらに緻密なジオメトリ表現が可能になり,フォトリアリスティックなゲームプレイをもたらすことになるとして,Ubisoftのエアコンバットゲーム「Tom Clancy's H.A.W.X. 2」(PC版)のデモと,未来都市のリアルタイムレンダリングデモを披露した。
とくに未来都市のデモは,約1000個もの光源による複雑なライティングを施しながら,テッセレーションにより,1秒あたり13億ポリゴンを描画し,きめ細やかなジオメトリを表現するというもの。続いてTamasi氏は,テッセレーション機能をオフにして,ベースとなるメッシュ情報はごく少数のポリゴンで構成されていることを明らかにした。
複数のFermi GPUを使った煙のシミュレーションデモ。これらの物理演算機能をゲームに実装することで,新しい世界が開けると紹介された |
Huang氏はこのデモを「動的な物理演算処理をゲームに組み込むことで,一つとして同じプレイがないというインタラクティブ性が生まれる」と紹介。物理演算とリアルタイムレンダリングが,ゲームをより楽しくする技術としての可能性に注目しているという。
さらに,Tamasi氏は次世代ゲームで実装されるべき技術として,テッセレーションに加え,50万パーティクルの流体シミュレーションとオブジェクトの分解・破壊シミュレーションなどを組み入れたデモを,シングルGPU環境で動かしてみせた。
Tamasi氏は,複雑な波の動きや,岩に打ち付けて飛び散る波しぶき,波にもまれる船の動きや,岩に打ち付けられ砕ける船の動きなどを見せ,「このデモは,4コアOpteronでは1フレームの描画に3分間の演算を必要とする。しかしFermiアーキテクチャではシングルチップで5000倍の演算処理性能を実現し,リアルタイム描画が可能になった」とアピール。
「GPUによるコンピューティング性能の向上は,より面白いPCゲームを現実のものにする」として,今後もこれまで同様,グラフィックスアーキテクチャの改良により,性能向上を図る姿勢を見せた。
CUDAの性能に気炎を上げるHuang氏
新しい対応アプリを立て続けに発表
続いてHuang氏は,「CUDAエコシステムやTeslaの開発には莫大な投資を必要とした。しかし,1年で1億枚以上というGeForceの売り上げが原資となり,GPUの並列処理性能を向上させ続けることができた。さらにGeForceシリーズでもCUDAを利用できるようにしたことで,さまざまな市場でGPUを使った並列コンピューティング技術が浸透した」と,同社の経営的判断が正しかったことをアピール。
続けてCUDAのソフトウェアアーキテクチャについて,「GPUだけで処理を完結させるのではなく,CPUを補助する形でCUDAを実装するヘテロジニアスプラットフォームを採用した。これにより開発者は既存のハイパフォーマンスコンピューティングアプリケーションをベースとして開発ができ,結果として短期間で並列コンピューティング環境を構築できた」と,CUDAが短期間で成功を収める要因になったことを語った。
さらにHuang氏は,CUDAがコンピューティングの性能向上率に大きな改善をもたらしていることを紹介。「CUDAエコシステムの拡大が,これまでコンピューティングの性能向上を妨げていた常識を覆すことになった」とアピールする。
ここでいう「常識」とは,最先端半導体プロセスで深刻度が増すリーク電流の増大や,マルチコア化に対してメモリ帯域の拡大ペースが遅い点などにより,性能向上が妨げられている状態を指す。
Huang氏は,「PCの性能向上率は,2002年以前はムーアの法則に従って1年あたり50%ほどの性能向上を果たしてきたが,2002年以降はこうした常識により,20%程度に落ち込んでいた。しかしGPUによる並列コンピューティング環境の整備で,元の性能向上率に戻った」とアピールした。
併せてHuang氏は,Multi-GPU AMBER 11環境におけるFermiの性能の高さを紹介。8基のFermiベースTeslaを搭載したシステムでMulti-GPU AMBER 11を実行した性能は,192基の4コアOpteronを搭載するCrayのスーパーコンピュータ「Kraken」(クラーケン)を超えるというデータを公開している。
また,飛行機部品などの設計シミュレーションソフトとしてトップシェアを誇るANSYSの「ANSYS Mechanical R13」や,Autodeskの統合型3DCGソフト「3ds Max」に,NVIDIAの子会社であるMental Imagesが開発したレイトレーシングエンジン「iRay」が実装され,GPUを使ったレンダリングの高速化を実現したことも明らかにされた。
これらのニュースから,ハイパフォーマンスコンピューティング市場では,順調にCUDAエコシステムが拡大していることをアピールしているわけだ。
次にCUDAが狙うはコンシューマ?
Adobeが研究中のデジタル写真技術をデモ
次にHuang氏は,「並列コンピューティング性能の向上は,一般ユーザーにも大きな変革をもたらすことになる」と語り,Adobe Systemsが研究を進めている,撮影後にピントや露出などを自然かつ自在に変更できるデジタル写真技術を披露した。
これは「Plenoptic Lens」(プレノプティックレンズ)と呼ばれる特殊なレンズを利用するものだ。Plenoptic Lensでは,1回のシャッターで,角度やピントが微妙にずれた多数の写真が撮影できる。これらを撮影後に合成することで,従来難しかったピントや露出の自然な変更が可能になる。
ただし,その画像合成・加工にはかなりの演算能力が必要になるため,GPUを使った並列処理を利用するのが現実的だという。今回はCUDA対応のアプリケーションを用い,撮影後の写真を合成し,続けてピントの合っている被写体を変更し,それ以外の物体を自然にボカすというデモを行った。
Huang氏は,この技術のみならず,クラウドを使ったコンテンツサービスなどでも,「CUDAがもたらす並列コンピューティング性能向上が,PCやデジタルデバイス市場に,新しい革新をもたらすことは疑いようがない」と宣言し,今後も半導体プロセスルールの進化とともにその性能を向上させていくことを約束。そして既報のとおり,次世代GPUアーキテクチャ「Kepler」「Maxwell」を含むGPUロードマップを発表し,基調講演を締めくくった。
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