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目指すは打倒魔王! 「放課後ライトノベル」第68回は『問題児たちが異世界から来るそうですよ?』でギフトゲームに挑戦しますよ?
なんだかんだと忙しい毎日,会社と自宅を往復するだけの生活を送っていると,ときどき遠くに行きたくなってくる。遠くと言っても旅行とかではなく,日常生活と完全に切り離された場所へ行く(人によってはそれを「逃亡」とか「脱走」とか言うかもしれないが,気にしてはいけない)。
問題はどこへ行くかだ。国内だと今ひとつ日常を離れた感がしないから,国外,いやもっと遠くへ。いっそのこと,異世界なんかもいいかもしれない。異世界にはきっと「会社」や「ノルマ」なんてものはない。忌まわしい締め切りも,異世界まで追いかけてくる編集もいないだろう。おお,いいんじゃね? 異世界。
と,一瞬思ったが,よく考えると異世界にはAmazonやbk1がない。いきなり伝説の勇者に選ばれ,長い旅路の果てに魔王城にたどり着いたとしても,Twitterで「魔王城なう」とつぶやくこともできない。なんだつまらん。じゃあ日本でいいや(完)。
もっともそんなふうに思ってしまうのも,筆者が日々あくせく生きている,平凡な人間だからだろう。凡人の枠に収まらず,日常に飽いている人間であれば,異世界はきっと楽園になるに違いない。今回の「放課後ライトノベル」はそんな,規格外の問題児たちが異世界で大暴れする『問題児たちが異世界から来るそうですよ?』(以下「問題児シリーズ」)を紹介する。
『問題児たちが異世界から来るそうですよ? そう……巨龍召喚』 著者:竜ノ湖太郎 イラストレーター:天之有 出版社/レーベル:角川書店/角川スニーカー文庫 価格:620円(税込) ISBN:978-4-04-474854-8-C0193 →この書籍をAmazon.co.jpで購入する |
●問題児たちが本当に異世界からやってきましたよ?
“恩恵(ギフト)”――それは修羅神仏や悪魔,精霊といった存在によってもたらされた,人知を超えた強大な力。恒星の表面積に匹敵するほどの広さを持つ“箱庭の世界”では,そのギフトを用いて住人たちが勝負する「ギフトゲーム」が盛んに行われていた。主催者がルールや勝利条件を定め,人々をゲームに招待する。参加者はルールに則り,己のギフトをかけて勝利を目指す。そして,晴れて勝利を収めたならば,新たなギフトを始めとする,主催者が用意した賞品を得ることができるのだ。
だが,勝者が何かを得る一方で,敗者が何かを失うこともある。ジン=ラッセルと黒ウサギの所属するコミュニティは,あるとき箱庭世界の天災とでも呼ぶべき存在“魔王”によって,ほとんどのメンバーと,コミュニティが掲げるべき“名”と“旗印”を奪われてしまう。“ノーネーム”と蔑まれつつ,失った仲間と誇りを取り戻そうとするジンたちは,そのための手段として,異世界から非常に強力なギフトを持つ3人の少年少女を召喚することにしたのだった。
かくして,逆廻十六夜(さかまきいざよい),久遠飛鳥(くどうあすか),春日部耀(かすかべよう)の3人は,黒ウサギの導きによって箱庭の世界に降り立った。見立てどおり,いずれも人類最高クラスのギフトの所持者。だが,そんな彼らは,言うことを聞かない具合もまた人類最高クラスな,とんでもない問題児たちだったのだ――!
●問題児たちは修羅神仏だってぶっ飛ばしちゃいますよ?
存続の危機に瀕して大ピンチの人々が,持っている力を頼りに自分たちを召喚した。そこで「よっしゃ,やったるで!」となれば王道な英雄譚の始まりだが,この問題児シリーズではそうは問屋が卸さない。
そもそも召喚された3人が黒ウサギの誘いを受け入れた理由は「そのほうが面白そう」だったから。せっかくやって来た箱庭世界を満喫しようと,3人は心の向くままに行動し,トラブルを持ち込んでくることもしばしば。彼らを召喚した張本人にしてガイド役の黒ウサギ(箱庭を作った一族の末裔であり,一種の貴族)が,気苦労の多いフォロー役,もしくは単なる彼らのおもちゃになる勢いなのだ。
とかく一筋縄ではいかない問題児たちだが,その実力は折り紙つき。他人を強制的に命令に従わせることができる飛鳥。あらゆる生物と意思を通わせ,その特性を自分のものとする耀。そして十六夜に至っては,第三宇宙速度(秒速約16.7km)にも達するスピードで石を投げられる力で,悪魔や吸血鬼相手に,平気で生身で殴り合える。「人類最高クラス」の評価は伊達ではないのだ。
もっとも彼らが相手にするのは,そんな彼らをもってしても苦戦を強いられる,人外の存在の数々。竜に精霊,鬼に魔王。広大な箱庭世界の中には,彼らなど足下にも及ばない強大な敵がまだまだたくさんいる(はず)。そんな連中を相手に,一応は生身の人間である彼らがどう戦っていくのかが,この作品の見どころである。
●問題児たちの知られざる過去が明かされますよ?
数々の強敵とのギフトゲームに勝利し,名も旗印も持たないながら徐々にその存在を箱庭世界に知らしめていく“ノーネーム”の面々。荒廃した本拠地にも復興の兆しが見え始めたさなか,箱庭世界の南側を拠点とする“龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)”連盟から,収穫祭の招待状が届く。祭りと,そこで開かれるギフトゲームを堪能しようと息巻く問題児たち。だがその矢先,とあるトラブルが起こり,問題児たちの間にしこりが生じてしまう――。
この最新3巻でスポットが当てられるのは,十六夜の過去だ。「家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて」箱庭の世界にやって来た問題児たち。彼らにそこまでの決意をさせたきっかけとはなんだったのか。そもそも箱庭の世界にやってくる前の彼らは,どんな生活を送っていたのか。3巻ではそんな,これまで語られてこなかった十六夜の過去が明かされる。彼と箱庭世界との意外なつながりも判明し,物語には新たに大きな謎が生まれることになる。
かつてない強大な敵,これまでにない困難なギフトゲームが十六夜たちの前に立ちふさがり,混迷の度合いを深めていく「問題児シリーズ」。情報量がきわめて多い割に説明は簡素で,最初はとっつきにくく感じる人もいるかもしれないが,そんな欠点を補って余りあるほどの勢いと熱量を感じさせてくれるのもまた事実。恒星並みの地表すら狭いとばかりに暴れまわる問題児たちの活躍ぶりを,ぜひ一度見てみてほしい。
■問題児じゃなくても分かる,異世界召喚ファンタジー
「現実世界では凡人な俺が異世界で大活躍!」というドリームに憧れるのは筆者だけではないのか,こうしたコンセプトを持つ作品はライトノベルでも珍しくない。というわけで今回のコラムでは,異世界召喚もののライトノベルをいくつかご紹介。
『放課後は無敵ですが、何か? 召喚(よ)ばれてみれば、一騎当千』(著者:秋水,イラスト:しらび/角川スニーカー文庫)
→Amazon.co.jpで購入する
まずはこのジャンルの代表格といえる『ゼロの使い魔』(著:ヤマグチノボル/MF文庫J)。本連載の第6回でも紹介した,現在のライトノベルシーンを代表する作品の一つだ。2012年にTVアニメのファイナルシーズンの放映が予定されているが,原作も今まさにクライマックス。20巻を超える長編シリーズだが,今からでも追いかける価値のある名作だ。
問題児シリーズと同じスニーカー文庫で最近スタートしたのが『放課後は無敵ですが、何か?』。とある高校の学生寮に住む高校生たちが,寝ている間だけ異世界に召喚され,一騎当千の戦士として大活躍する。召喚された生徒たちの無双っぷりが気持ちいい一方で,「冴えないリアルの自分と,英雄である異世界の自分とのギャップ」という重いテーマも描かれる。このあたり,異世界召喚というよりオンラインゲームに近いかもしれない。
異世界召喚ものの中でも異色(?)と言えるのが『H+P ―ひめぱら―』(著:風見周/富士見ファンタジア文庫)。この作品で召喚された主人公に求められるのは「魔王を倒すこと」などではなく「王女たちとの間に世継ぎを作ること」。要は「子作り」! 可愛い王女たちから主人公があの手この手で迫られるという,前代未聞の異世界召喚エロコメだ。
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