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[TGS 2011]モバイルでもっともっと面白い作品作りを目指そう。パネルディスカッション「ゲームユーザーはどこに向かうのか」レポート
スマートフォン時代のアプリ設計
田中氏:
吉田さんから新作の話を聞きたいかなと思いますが……。
吉田氏:
動物の世界的な,建物を作る系のゲームを一つ準備しています。これが秋くらいですね。スマートフォンのネイティブアプリで,「Unity」を使って作っているところです。あと,ペット系の作品をもう一つ出そうと思ってます。こっちは全世界での展開を狙っていて,どこででも受け入れられるものが出せればいいなと考えてますね。あといくつか構想しています。
安藤氏:
Unityだとゲームを作りやすいですか? スマートフォンのネイティブアプリを作るとき,ゲームのエンジンに何を選ぶかというのは結構悩みません? 僕の知っているケースでは,各会社さんの独自エンジンを使うことも結構あるみたいなんですが,そもそも選択肢が少ないっていう部分もあるんですよね。なので,Unityの良さとか,「もっとこうだったらいいのに」という部分があれば聞きたいところです。
吉田氏:
Unityで作りやすいゲームのタイプ,というものがあると思います。3Dのゲームを作るときには,演出部分ではとても使いやすいなと思ってます。2Dタッチのゲームの場合,AdobeのAirを使って作っています。
表示の部分は,いくつかのミドルウェアを使い分けて作れるようにし,ゲームのロジックとか通信部分はまた別の基盤を使う,といったこともできるようにしています。ゲームごとにビューを変える,エンジンを変えるということができるように,内部のフレームワークを作ってはいます。このシステムが完成したら,またどこかで公開しようと思ってます。
安藤氏:
それとは別に聞きたいんですが,アプリをアップデートしないといけないというときに,Appleの審査を通してると時間がかかるじゃないですか。
例えば,アイデアとして,ネイティブの部分と別に更新の部分をHTML 5で作ることで,審査をとおさなくてもいいようにするという構想があります。ほかに具体的な取り組みなどがありましたら,ぜひ教えてください。
吉田氏:
ドリランドはHTMLベースなので,アップデートなしでイベントなどを行えるようになってます。ただ,やはりすべてを通信してしまうので,アプリの中にデータをキャッシュできるようにし,通信量を減らすという取り組みを行っています。こうすることで,ほぼネイティブと変わらないくらいのレスポンスでゲームが動くんです。
あと,演出部分はHTML 5を使って書くようにしています。それをやっていけば大丈夫じゃないかな,と。
田中氏:
ネイティブのアプリが,そういう構造になっているということですか?
吉田氏:
そうです。ネイティブアプリなんだけど,中身は全部HTMLというのがドリランドのケースですね。まったくネイティブの要素を使っていない状態なので,もう少しネイティブ要素をゲームの裏側の部分で使い,動作を軽くしようかなと思っているところです。
椎野氏:
軽くするというのは,これからスマートフォンでももしかしたら定額制が崩れて従量制になるかもしれない,というのを踏まえてのことですか?
吉田氏:
それもあります。とはいえやはり,全部通信しているとレスポンスが悪いので,使いやすさの向上というところも含めてですね。
リッチなネイティブアプリに向かうのか
田中氏:
スマートフォンになってゲームは変わると言われてましたが,ドリランドとかはUI的にはフィーチャーフォンとそんなに変わってませんよね。あれが受け入れられているということは,当分そういうゲームもアリ,ということなんでしょうか。
吉田氏:
そういうゲームがアリだ,と思われているからこそ受け入れられているんじゃないでしょうか。でも,それだけじゃないのは間違いないので,チャレンジしていきたいと思っています。
椎野氏:
Unityの話が出たのでもう一つ質問したいんですが,Unityってマルチデバイスに対応しているじゃないですか。GREEさんは基本的に,今後もスマートフォンだけなんですか? それとも,SCEさんの新しい端末(PlayStation Vita)とか,ああいうコンシューマ分野にも進出するんですか? あるいはPCという方向もあると思いますが。
吉田氏:
なくはない,と思ってます。ネットワークに繋がる端末であれば,そこに普及してけばいいと思います。
最近だと,Androidはテレビに入れられているじゃないですか。ああいうのも考えてます。あと,アメリカだとタブレットも普及していますよね。家の中で,タブレットをノートPCの代わりに使うケースも増えてます。なので,画面の大きな端末で遊んで楽しいものというのは考えています。
椎野氏:
今のスマートフォンのソーシャルゲームって,内側のネイティブ化は進んでいるけれど,iPhoneのドリランドみたいに外側はフィーチャーフォンと同じ,といったゲームが多いじゃないですか。今後,コンシューマゲームみたいに,すごく動的で,ネイティブなアプリケーションを開発していくイメージって,GREEさんの中にはあるんですか?
吉田氏:
あります。そういったものも作っていくことで,ライトな作品も作りやすくなると思ってますし。もともとうちは,エンジニアが楽しんで勝手に作っちゃったりするので,それらを見ながら,良いものがあれば使っていくという形で進めています。
サービスとしての良さと,ゲームとしての面白さ
田中氏:
最近,GREEさんにゲーム系のエンジニアさんがたくさん入っていますよね。GREEさんって,そもそも会社設立から何年でしたっけ?
吉田氏:
7年か8年ってところですね。
田中氏:
だからたぶん,史上最速のスピードでTGS最大のブースを持ったのはGREEさんだと思うんですよ(笑)。今,社員は何人ですか?
吉田氏:
500人くらいです。
田中氏:
1年前は100人くらいでしたよね?
吉田氏:
そうですね。なので,確かに社員は増えてます。海外にも何人かいたりしますし。あと,プラットフォームをオープンしたので,やはり,そのことによって人がたくさん入ってますね。それぞれの開発会社さんに担当者がいる,みたいな感覚です。
安藤氏:
田中さんの話どおり,ゲーム業界の人がどんどんGREEに入っているとすると,その人達は「ゲーム」を作りたがると思うんですね。でも今のところ,まだまだゲームっぽいものは出てきてないじゃないですか。社内で「もっと本格的なゲームを作りたい」「待て待て,まだサービス中心だ」みたいなせめぎあいって,どんな感じですか?
吉田氏:
僕らから出してるメッセージは,「より多くの人に遊ばれるものを作りましょう」なんです。個人レベルで,「これが作りたい!」というものは,あると思います。でも,「何が一番多くの人に求められるか」ということを前提に考える人が入社するケースが多いんです。というか,そのあたり,スクエニさんはどうなんですか?
安藤氏:
コンシューマゲームを作ってたクリエイターと新しいソーシャルゲームを作るとき,やっぱりそのせめぎあいって大なり小なりあるんです。サービスとしての良さを優先しなくてはいけないときに,ゲーム的な面白さを犠牲にしなくちゃいけないという局面が出てくると,今までコンシューマゲームを作ってきたクリエイターには矜持もあればノウハウもあるので,そこで衝突することってあるんですね。
でもやっぱり,サービスだろうがゲームだろうが,面白くなくては絶対に受け入れられないので,そういう話をすると,良いクリエイターは理解してくれる傾向があります。そこでかたくなになって膠着することは,あんまりないですね。僕は日頃,そのやりとりに割いている時間が一番多いです。
田中氏:
この前,Twitterで吉田さんのツイートを偶然目にしたんです。「僕はゲームを作るとき,まずはいろいろな場所に行って,人を観察する」みたいなことを書かれていたじゃないですか。ということは,やはり「これを作りたい」というよりは,「何が求められているのか」を見て作る,という感じなんでしょうか?
吉田氏:
そうですね。電車の中でも人を観察したりとか,デパートで何をしてるんだろうとか,今日,ここに集まって講演を聞いている人はどれくらいスマートフォンを持っているんだろうかとか,そういうところを見て,この人達はこういうゲームが遊びたいんじゃないかなと想像し,最大公約数を取ろうと思ってます。
ところで,話を戻しちゃうんですが,僕らはプラットフォーマーを兼ねているということもあるので,「作りたいタイトル」というより,「プラットフォームが拡大するタイトル」を優先しなくちゃいけないなと思ってます。一つは「幅」,つまり多くのユーザーさんに遊んでもらうことで,プラットフォームを拡大したいという思いがあります。その一方で,技術的にチャレンジして「縦」を広げたいという考えもあります。そうやってプラットフォームが広がったところで,皆さんが作られるようなすごく凝ったゲームというのが出てきてくれると,すごく助かるなと思ってます。
グウの音も出ないくらい面白いゲームを!
田中氏:
……というところで,終了時間が迫ってきました。
安藤氏:
やっと始まったって感じなんですけどね(笑)。
椎野氏:
やっと体が温まってきたのに(笑)。
田中氏:
このまま2時間くらい続けられそうではありますが,最後に一言ずつ,今後の抱負をお願いします。
吉田氏:
日本のソーシャルゲームというと,今までフィーチャーフォンで遊ばれているものが多かったので,やはりチープだよね,みんな同じだよねと言われていたり思われていたりすることが多いなと感じていました。
しかし,スマートフォンが出てきたことで,できることの幅はすごく広がりましたし,さまざまなゲームジャンルやゲームモデルを作っていくことで,ソーシャルという言葉の意味を広げていきたいですね。
あと,コミュニケーションというものが変わったな,と思ってます。無線でつながるようになったので,遠方の人とも一緒に遊べるし,近くでも遊べるわけです。ドラクエで「すれちがい通信」というのが流行りましたが,そういった形で多彩なコミュニケーションの手段を導入したゲームを,この冬くらいからリリースしていきたいと思ってます。ソーシャルの未来を広げていきたいですね。
椎野氏:
ゲームメーカーとして,がんばってグローバルで良質なゲームコンテンツを出しながら,新しいビジネスチャンスを探していきたいなと思います。そういう意味で,今回のような機会はありがたいですし,今後も皆さんとディスカッションしながら進めていきたいと思います。
松枝氏:
ゲーム屋さんとしては,これからも新規要素をどんどんゲームに盛り込むような方向で作っていきたいと思っています。「100万人の戦国無双」をリリースしたばかりで,今は「100万人のWinning Post」の最後の追い込み中(関連記事)なんですが,とくに,このような大人数参加型ゲームの可能性を感じています。
安藤氏:
僕はこの手の話をするときに,SNSとかソーシャルとして括ると危険かな,と思ってます。「携帯電話で遊ぶゲーム」として定義したほうがいいんじゃないかと。ソーシャルの要素がなくても面白いものって作れると思うんです。
今,プラットフォーマーさんをはじめ,みんながゲームを作ってるじゃないですか。そこでとにかく,コンシューマゲームを遊んでいる人がグウの音も出ないくらい面白い作品を,誰かが1本作らないとダメなんですよ。だから,みんなが「もしもし」とか言って馬鹿にするんですよ。これはもう,本当に早くなんとかしなくちゃいけない。「携帯電話向けゲームなら,とにかくこれが面白いから遊んでみろ」という作品を1本,作らなきゃダメです。
僕らはこれから,それを目指してやっていきます。もちろん,試行錯誤はあります。でも,「いやあ,携帯のゲームは面白いじゃないか,『もしもし』とか言っててごめんなさい」と思ってほしい。GREEさんもそれを目指さないといけないし,みんなも目指さないといけないと思うんです。
田中さんも,そういうゲームを作られるんですよね?
田中氏:やりますよ! 来年は芸者東京で,GREEよりも大きなブースを(笑)。
……というわけで,多くの皆さんの期待よりもずっとマニアックな話になってしまって,そこに座っていらっしゃる方とかにポカーンとした顔をさせちゃいましたが,これでパネルディスカッションを終わりたいと思います。
本日はどうもありがとうございました。
GREE公式サイト
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