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[TGS 2011]モバイルでもっともっと面白い作品作りを目指そう。パネルディスカッション「ゲームユーザーはどこに向かうのか」レポート
なお,パネルディスカッションそのままの書き起こしに見えるかもしれないが,随所を書き言葉にするなど修正していることを,前もってご了解いただきたい。
■参加者
田中泰生氏(モデレーター)
芸者東京エンターテイメント 代表取締役CEO
安藤武博氏
スクウェア・エニックス モバイル事業部プロデューサー
松枝正樹氏
コーエーテクモゲームズ ネットワーク事業部ネットワーク開発部マネージャー
椎野真光氏
セガ 第1CS研究開発部プロデューサー
吉田大成氏
グリー 執行役員 メディア事業本部長 兼 開発本部副本部長
ソーシャルゲームと運営
田中泰生氏(以下,田中氏):
自分自身ソーシャルゲームを開発していて,運営という側面が家庭用ゲームと大きく異なると感じていますが,このほか,ソーシャルゲームと家庭用ゲームのどこが違うのかというところをさらっとお願いします。
吉田大成氏(以下,吉田氏):
僕自身,コンシューマゲームを作ったことがないので,比較というのは難しいです。が,企画を重要視してないわけではありません。今までのゲームに比べると,運用部分の重要度が高いというのが一番近い言い方だと思います。
田中氏:
CEDECの取材記事で,「ゲームは課金機会の演出がすべて,企画はどうでもいい」みたいな発言が出てましたが,あれには反論があるそうですね。
吉田氏:
今日はこの会場に,あの講演をした本人もいるんですが,彼の名誉のためにも言いますけど,一言もあんなこと言ってないので(笑)。本当に言ってない。ゲームバランスだったりといったところにも,長く遊んでもらうために,数値を見ながら時間をかけて,どう改善すればいいか検討しています。演出という面で何かあるならば,今までフィーチャーフォンは演出面が弱かったので,その中でいかにユーザーさんに訴えかけられるものをやるかという努力がありました。Flashのクリエイティブなんかにはこだわりがあります。
田中氏:
「聖戦ケルベロス」くらいから,Flashとか凄いですよね。
吉田氏:
ケルベロスには社内のデザイナーも入って,容量ギリギリまで作り込んでますね。
ドリランドからドリルが消えた日
安藤武博氏(以下,安藤氏):
質問なんですが,運営が大事というのは,GREEさんのゲームを毎日いろいろ遊んでいて感じるんですが,一つ象徴的なことがあったと思うんです。「ドリランド」からドリルなくなったでしょう? どういう経緯でドリルをなくそうという話になったのか聞いてみたいと。コンシューマのゲームだったら,ちょっとありえないんですよ。コンセプトを覆すようなことをすれば,そのプロジェクトってだいたい失敗するんで。
吉田氏:
ドリランドは「釣りスタ」を作ったあとに作ったタイトルで,同じようなゲームモデルで行けるかどうかを試していたんです。僕的には,結構先進的な,MMO系のゲームにあるような要素をプッシュしました。同時にプレイしましょう,という部分も入れていて。仲間のつながりがすごく強いという特徴もありますし。なので,その特徴の部分こそドリランドだということにして,スピンオフ感覚で出していったら,イベントですごく好評だったんですね。であるならば,もうこれを本体にしましょうということで,決断しました。
安藤氏:
残しましょうという話はなかったんですか?
吉田氏:
僕は残すんだと主張しましたし(笑),名前を変えるという意見もあったんですが,それをやるとユーザーさんが分からなくなるという部分があって。
ソーシャルゲームって何だという話をチームでよく話すんですが,大事なのはタイトルと,仲間のつながりが残ることが一番大事なんじゃないか,と考えています。やるなら,タイトルも仲間も残る仕組みで行きましょう,と。
田中氏:
でもドリランドって,明らかにつながってないですよね?(笑) どっちかというと一人で遊んでる感じで。
安藤氏:
仕様って,今後も旬があると思うんですよ。僕としては,バトルの要素って,もう古くなってきているんじゃないかと思います。僕もカードゲームを作っていて,他社さんにも「対戦で奪い合う」系のゲームがあるんですが,だいたいバトルポイントがスタックする傾向にあって,あんまりバトルをやらなくなってきていると思います。そうなってくると,例えば,ドリランドでいうドリルがなくなってもOKという考え方のように,旬が過ぎればその仕様を削ってしまうという可能性は,今後もあるということですか?
吉田氏:
あると思います。ドリランドのときはIP的・キャラクター的な強さがあまりありませんでしたが,キャラクターを中心に残して都度ゲームモデルを変えていくというのはアリだと思っています。うちの社長の田中(田中良和氏)が言ってましたが,テレビのバラエティ番組と同じイメージですね。タイトルだけ残って,中身は変わっていく,という。
田中氏:
じゃあ「釣りスタ」で釣りがなくなる日とかも?
吉田氏:
それはちょっとやりたくないですね(笑)。
テレビCMの効果やいかに?
田中氏:
もう一つ質問なんですが,ドリランドってCM露出が凄いですが,あれって費用対効果はとれてるんですか?
吉田氏:
そこはうちが一番重要視しているところでして,テレビCMがオンエアされたあとのユーザーの登録数や継続率を全部調べて,効果がないCMはすぐ止めます。最初に地方で流したりとかしながらテストしてますね。今はたぶん,いちばん露出が多いんじゃないかと思います。これまでは,内製で作ったゲームはCMを抑えていたので。
田中氏:
ということは,これからスマートフォン向けにゲームを出す場合,大きくユーザーを取ろうと思えば,テレビCMを打ったほうがいいということですか?
吉田氏:
そうですね。
田中氏:
じゃあ,打てない会社は終わり,みたいな(笑)
吉田氏:
そこは,うちがサポートしながら……(笑)。
田中氏:
セガさんはCMとか打っているんですか?
椎野真光氏(以下,椎野氏):
自分の担当している,iPhoneの「Kingdom Conquest」では,一切出してないですね。流入経路はほとんどApp Storeのランキングくらいで,まさしく今手を打とうかどうか,それにしてもドリランド凄いな,とか思っているところです。
田中氏:
でも,PC用のサイトで公開されている動画とか見ると,クオリティがとても高いですよね。
椎野氏:
コンシューマゲーム業界には,「イマイチ映像的には良くないんだけど,綺麗に見せる」,そういうノウハウがあるんです(笑)。
ゲーム屋がソーシャルゲームを始める苦労
田中氏:
去年のTGSで僕とGREEの青柳さんがソーシャルゲームの話をブースでする機会があって,そのとき最前列に,ものすごい勢いでメモをとってる白髪のおじさんがいたんですね。それが,あとから知ったんですが,あのシブサワ・コウ(襟川陽一氏)だったんですよ(笑)。凄いなあと思っていたら,いまやコーエーテクモさん自身が「100万人の信長の野望」など,100万人シリーズで飛ぶ鳥を落とす勢いで。
あれはやはり,社内的に「行くぞ!」みたいな空気はあったんですか?
松枝正樹氏(以下,松枝氏):
コンシューマ中心の会社にはありがちだと思うんですが,最初はやはり,「モバイルでやって売れるの?」といった懐疑的な目は社内に多かったですね。その中でなんとかローンチに持ってこれたかな,と。
田中氏:
僕もゲーム会社にいたから分かるんですが,みんなモバイルはあんまりやりたがらないんですね。派手なCGとかに憧れてゲームクリエイターになった人が多いので。「5のボタンを連打すると絵が変わるだけやん」みたいな。その空気は,今どうなりましたか?
松枝氏:
確かにそういう空気はありました。「5のボタン連打するだけで何が楽しいの?」みたいな。
田中氏:
ところが,これが楽しいんですよね(笑)。これは吉田さんの発明だと思いますが。
安藤氏:
すいません,また質問していいですか? 僕はコーエーテクモさんのゲームがとても好きで,人生ベストテンの半分くらいはコーエーテクモさんの家庭用ゲームなんですよ。それで,「三国志」と「信長の野望」って,似ているじゃないですか。でも100万人シリーズにおいては,「100万人の信長の野望」と,「100万人の三国志」って結構中身が違うじゃないですか。あれは,わざと違うようにしたんですか?
松枝氏:
意図的に変えた,というのはあります。開発のスタート時期は違うんですが,ローンチのタイミングが近いということもあって,ならば違う路線で行こうと。
安藤氏:
いろいろ作りながらいろんな反応を見たい時期だったから変えた,と。
田中氏:
結果的にどっちが正解でした?
松枝氏:
どっちもよかったですよ。
田中氏:
優等生の回答ですね(笑)。
それはそうと,安藤さんに聞きたいんですが,スクエニさんは最初の頃,日本の携帯向けのゲームで結構コケて,「ざまあみろ」とか思ってたんですが,最近「ケイオスリングス」のようにスマートフォンで大成功してますよね。やはり,そういう売り切りダウンロード販売の作品のほうが得意,ということなんでしょうか。
安藤氏:
ソーシャルゲームを作ってて思うのは,SNSって名前のとおり「サービス」じゃないですか。ゲームとサービスって,厳密に言えば全然質が違うものだと思ってるんです。僕らがゲームの良さを一番出せるのは,やはりスタンドアロンのゲームなので,そうなるとダウンロードアプリのほうがいいなと思って作り始めました。
ケイオスリングスもご好評いただいてるんですけど,すごくジレンマもあって,要するにコンシューマと同じような体験を携帯電話でできるというのは良かったんですが,売価をどうしても高くつけられないんですよ。
田中氏:
かなり強気に値段つけても安いですよね。
安藤氏:
今,ケイオスリングスの1が1100円,オメガが1300円,FFのタクティクスが1800円とかなんですよ。だから15か国で1位取って,お陰さまで,ある程度の収益は上がったとはいえ,とあるSNSゲームに1日で売り上げを超えられてしまう。面白いものを作って,この路線を続けていこうという気持ちはありますけど,やはり,切なさみたいなものはありますね。
これまでのプロモーション方法との違い
さて,プロモーションという話なんですが。
これも,自分達がやっていてジレンマなんですが,今まで家庭用ってスタートダッシュがすべてなので,かっこいいPVを見せて,CM打ってと,ある意味,出た時点でもう終わりじゃないですか。でもソーシャルの場合,テレビCMを打つにしても,ゲームが流行ってから打ったりしています。このあたり,各社どのように考えられてますか?
吉田氏:
テレビCMをはじめ,いろんなプロモーションを活用してはいるんですが,サービスとして熱量が溜まってきたところで,このまま継続できると判断してからプロモーションを打つようにしています。
あと,プロモーションによって入ってくるユーザーさんもいるんですが,そういうユーザーさんが友達をゲームに招待するんですね。これが大きいです。その比率が高いほど,つまり,新しくテレビCMを見て一人がゲームを始めたとき,そのユーザーさんが招待する友達が何人いるのかで,爆発力が変わるんです。なので,ゲームの設計も,仲間が増やしやすいようにしたりします。
今回,TOKIOさんを起用してテレビCMを打ってますが,あのCMでも僕から「テレビCMの中に複数人出してほしい」とお願いしました。「何人かで遊ぶ」というイメージをつけたかったんですね。
田中氏:
ちなみに,なぜTOKIOを選んだんですか? 数で言ったら,AKB48なら売り上げが10倍くらいになったんじゃ?(笑)。
吉田氏:
僕には分かりません(笑)。たぶん,大人の事情とかがあったんじゃないかと。
でも,TOKIOさんは20〜30代のファンが多いですよね。ドリランドは,ユーザーの男女比率は半々か,女性がちょっと多いくらいなんです。
田中氏:
それはやはり,TOKIOさんのCMを始めてから?
吉田氏:
いえ,その前からです。そういうユーザー層だったので,女性に人気のあるTOKIOさんがぴったりだった,というのはあります。
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