インタビュー
「World of Tanks」,日本運営は何を目指しどこへ向かうのか。Wargaming Japan WoTチームインタビュー
以前からコミュニティを重視したイベントを開催してきたWargamingだが,日本では一時,空白期間とも呼べる時期があった。eスポーツ的な潮流の見直しだったり,日本コミュニティ担当者の退職だったり,といった理由があったそうだが,その時期を乗り越え,現在は新たなコミュニティ活動が行われるようになっている。その最たる例が日本独自のイベント「甲士園」(関連リンク)だろう。
今回はWargaming Japanのニック・ユウ氏と,Regional Product Directorのアレキサンダー・デ・ジョルジョ氏に,コミュニティイベントと「World of Tanks」の10周年について,そして今後の展望について話を聞いた。日本コミュニティに対する思いも語ってもらっているので,ぜひとも目を通してほしい。
World of Tanks甲士園
4Gamer:
今年でグローバルでは10年,日本でのサービスは8年目になります。いろいろとイベントが行われていますが,日本では独自イベントの「甲士園」がユニークな盛り上がりを見せていますね。
Wargaming Japan ニック・ユウ氏(以下,ユウ氏):
今回で甲士園は2回めだったんですけど,World of Tanksが10周年というのもあって大々的にやろうという話もあったんです。実際,他の国にロケハンに行ったりとか,いろいろと準備もしていましたが,コロナウイルス感染症という世界的な危機とも言える状況になってしまって,当初の予定では実施できなくなった。とはいえ,どうにか形にしたいと思っていたので,今回はすべてオンラインで実施する,という形で開催しました。
去年の第1回は,それなりに盛り上がって配信を見てくれた人も多かったので,今年はもっとパワーアップしたいなとは思っていたんです。なんだかんだで“プチeスポーツ”的な催しにはしていきたいと思っているので,今回は「出演料」を出すことにしました。
4Gamer:
そうそう。出演料が出るって聞いて,ちょっと驚きました(笑)。
ユウ氏:
トーナメントで勝ち進むほど,長時間出演することになるので出演料も上がります。その効果もあってか,今回の大会は去年より10チーム多い,55チームが参加してくれました。
そしてオフラインで開催できなくなったので実況配信に力を入れる方向で調整しました。会場を借りる予算などが浮くので,そのリソースをそちらに振り分ける形ですね。これまでこうしたイベントは内部の人間で行っていたのですが,外部のプロスタッフを雇ってクオリティの高い配信をやります。
4Gamer:
昨年は手作り感とでもいいましょうか,そういった面もありましたよね。
ユウ氏:
ええ。ですので今年はプロフェッショナルレベルというか,しっかりした大会という形を取りたかったんです。実況・解説も用意して,アナリストに試合を振り返って解説してもらう,配信コンテンツとして成立するようなものを目指してます。
4Gamer:
大会の中身はいかがでしょうか。
ユウ氏:
甲士園と銘打っているので,形式は誰でも参加できるオープントーナメント形式で,前年度活躍したチームであっても,シードなどの優遇はなしにしています。予選で番狂わせもあったりしたので,面白い大会になったと思いますね。
4Gamer:
新しい注目選手も出てきそうですね。
ユウ氏:
初参加メンバーのいるチームも予選を突破していますよ。
World of Tanksにはプレイヤーの実力を示す「Player Rating」という指標があるんです。これが高いほど上級プレイヤーなんですけど,通常のルールとは違う甲士園だと必ずしもこの数値の平均値が高いチームが勝つというわけでもなくて非常に面白いです。
アレクサンダー・デ・ジョルジョ氏(以下,ジョルジョ氏):
普段と違うルールで戦うと,普段と違う結果が生まれる,というのが個人的にすごく面白い部分だと思いました。Player Ratingが低いからと尻込みせず,ぜひ皆さんに参加してほしいですね。
ユウ氏:
説明が前後しましたが,甲士園はマップのエリアを限定した3対3というルールを採用しています。これってシステムでサポートされていないんですけど,開発チームにModを作ってもらってそれを使用して大会を行っています。
このModなんですが,開発チームがなぜか張り切ってしまって,去年使っていたモノよりもすごくパワーアップしてるんですよ。いちいち開発チームを通さずにこちらで特定の設定ができるように,ツールも開発してくれたので,運営がすごくスムーズになりました。本国の方からも積極的にサポートしてもらえているのでありがたいです。
4Gamer:
コミュニティの反応はいかがでしょうか。
ユウ氏:
これが少し山あり谷ありといった感じでした。「今年も甲士園を開催する」と発表した直後のコミュニティの反応はすごく薄かったんです。いろんな要因が考えられるのですが,一番大きかったのは「World of Tanks」内でクランウォーズの最終週が行われていたからではないかと考えています。プレイヤー層が被ってしまう部分があるので。
それが終わって少し落ち着いてからフワフワとエントリーが増えていきましたね。前回はかなり手探りでやっていたので告知も少なかったのですが,今年はインゲームでの告知も行いましたし,プロモーションも行ったので,そこからワッと増えましたね。
4Gamer:
盛り上がりはどうだったのでしょう。
ユウ氏:
盛り上がりというところでいうと,予想の範囲内で盛り上がって頂けたのかなと思います。予想外までは行きませんでした(笑)。しかし,応募総数は去年よりも多かったですし,出場チーム数も増えたので,認知はだいぶ進んだかなと思っています。ちなみに予選の2日間はTwitterで,結構盛り上がってました。
決勝トーナメントでは前回の覇者が負けてルーザーズブラケットに落ちたのですが,決勝戦でそのチームを負かした新進気鋭のチームと,ルーザーズから這い上がってきた前回覇者が激突したんです。そして前回覇者が2連覇するというドラマが生まれました。視聴者数的にも前回の2倍に達したので,かなり盛り上がったと思っています。
4Gamer:
甲士園は都道府県を選択してエントリーするというものだったので,地域に偏りは生じませんでしたか。
ユウ氏:
都道府県別といっても厳密にしているわけではなく,何かしらのゆかりがあれば,そこからエントリーしてもいいという程度のものでした。例えば「生まれも育ちも葛飾柴又だけどとんこつラーメンが好きで毎日食べているから福岡でエントリーする」でもよかったんですよ。
そういったルールだったのですが,エントリー自体は北海道が圧倒的に多かったですね。予選自体が地域別で,とにかく強豪プレイヤーと当たるのを避けるためにそういった場所を選択するケースも多かったようです。
トーナメント形式という都合上,どうしてもトーナメントが成立するように組む必要があったので,その線引きは調整するんです。それで思惑と違うトーナメントブロックになってしまった人もいたようです。
4Gamer:
今後,日本のコミュニティをどのように盛り上げていくのでしょうか。
ユウ氏:
とりあえず甲士園は僕がいる限りは継続して実施していきたいと思っています。継続するなかで毎回学ぶことは絶対ありますし,改善できるところも見えていくと思うので,もっともっと大きなイベントにできたらいいなと思っています。本社もビックリするようなイベントにしていきたいですね。
4Gamer:
それは楽しみですね。先日,CEOのヴィクター・キスリー氏にインタビューさせて頂いたんですけど,「日本に行ったときは五式重戦車の使い方を教えてあげます」と言っていたので,次回の甲士園でぜひその機会を。
ユウ氏:
ほんとですか(笑)。ぜひその機会を作りたいですね!
4Gamer:
甲士園以外ではどのように盛り上げていくのでしょうか。
ユウ氏:
プレイヤー主導のコミュニティイベントもサポートしていきたいと思っています。すでにコミュニティ向けのサポートプログラムはあるのですが,そこにもっと力を入れていきたいですね。
それともう1つ。アレックスにはチラッと話しただけの状態なのですが,11月くらいにWorld of Tanksのシーズナルイベントの空白期間があるので,そこに向けて何か実施できないか考えているところです。
ジョルジョ氏:
え? そうなの? 聞いてないよその話! 嬉しいけど。
ユウ氏:
ちゃんと言ったよ! とは言いつつも,まだ企画書を書いている段階なのですが,大きめの企画を考えているので期待してほしいですね。
ジョルジョ氏:
期待してますよ(笑)。
日本におけるWorld of Tanksを振り返って
4Gamer:
ロシアでのサービス開始から10年,日本だと9月で8年が経ちます。これまでを振り返ってどうでしょうか。
ジョルジョ氏:
2013年から2015年あたりは「ガールズ&パンツァー」の影響もあって盛り上がっていた時期でしたね。いわゆるピークだったんだと思います。2017年は「戦場のヴァルキュリア」などゲームとのコラボも行ったりしました。
ただ,この時期はアジアでどう展開していくのか,まだ迷走していました。開発チームも何をアジア向けにプッシュしていくか悩んでいましたね。
2015年に大型アップデート「Rubicon」というのがあったんですが,これが大失敗でした。バージョンのナンバーは当初10.0とつけていたのですが,コミュニティからの意見を反映した結果,大幅にその中身を見直すことになり,バージョンナンバーも9.12になったんです。
その頃から2018年に導入した「World of Tanks 1.0」の開発も行われていまして,大きなリソースを導入していましたが,同時に通常のアップデートも行わなければならず,開発はすさまじく大変だったと聞いています。
今もそうなのですが,Wargamingとして長期のゲーム運営というのは初めての経験で,何もかも,本当に手探りの状態でした。
4Gamer:
長期運営のオンラインゲームとなるとなかなか。ましてや戦車を題材にしたゲームであれば前例もないですからね。
ジョルジョ氏:
そうなんです。
僕は2016年に入社したんですが,外から見たWargamingと中から見たWargamingは全然違っていました。入社前は大きなイベントをたくさん行っているすごい企業というイメージで,「なんでも知っている」と思ってましたけど,入ってみるもそうでもなかった。当然ですが,未経験のことに対して全力で取り組んでいるだけだったんです。
イメージとは違っていましたが,それはそれで良かった部分でもありました。良いアイデアがあれば積極的に採用してもらえましたから。
「World of Tanks」で転機になったのは2017年の9月頃だったと思います。「World of Tanksはどう進むべきか」を議題にした会議がミンスクであったんです。開発と世界中のパブリッシングのトップクラスの人たちが集まりました。すごかったですよ。たくさん人がいました(笑)。
そこで,5年後と10年後の中長期的なビジョンが共有されたんです。アジア地域でどうしていくか,という自分のイメージもそれで作られていきました。
4Gamer:
開発と運営が一体だからこそできることですね。
ジョルジョ氏:
僕のキャリアの中でも未経験の出来事でしたね。
そして1.0で「World of Tanks」は再スタートを切ったんです。アクティブプレイヤーの数は1.0の導入で増えました。戻ってきてくれたプレイヤーも多かったですね。もし,そういうアップデートがなければプレイヤー数は減少していくだけというのが目に見えていたので,1.0の力は大きかったと思います。
4Gamer:
運営面では何か変化があったのでしょうか。
ジョルジョ氏:
ありました。1.0の後になるのですが,アジアプロダクトグループにテコ入れが入って,アジア地域でローカル的な動きができるように再編成されたんです。以前あったグループと比べて,アジア地域に特化した成熟した組織になっています。
例えばeスポーツなどはグローバルでWGL(Wargaming League)がありましたが,それまではグローバル本部が決定して,各地域に流すという方法が取られていました。ですが,地域によってeスポーツの成熟度合いも違いますし,やるべきことも変わってきます。以前のやり方ではそうした細かい調整ができなかったんです。
今だと「甲士園」といった日本にあったイベントを開催できたりしています。韓国やオーストラリアでも同様にユニークなイベントを実施していますよ。その国で活動しているスタッフが一番その国のことを理解しているので,そこに任せる形になったというわけです。
4Gamer:
しっかりとカルチャライズを行っていく,ということですね。
ジョルジョ氏:
そう! カルチャライズです。ローカルコミュニティをしっかりと盛り上げることがとても重要なことなんです。それをもっと進めていって,イベントが大きくなってきたら,グローバルがサポートするという体制になっています。
ユウ氏:
話は変わりますが,World of Tanksの日本でのローンチはまさに理想的と言える展開でした。私たちはゲームの面白さに自信を持っていますし,触ってもらえれば気に入ってくれる人も多いと思っていますが,それがプレイされるかどうかとなるとまた別の話です。当時は恐らく誰も想像していなかったと思いますが「ガールズ&パンツァー」で日本で戦車ブームに火が付き,その波に乗れたことはものすごい追い風でした。
4Gamer:
日本であそこまでの戦車ブームがくるとは本社も想定外だったのではないでしょうか。
ユウ氏:
そうかもしれません。ちなみになんですが,僕が聞いた限りの話だと「ガルパン」がはやって,日本のプレイヤーが一気に増えたとき,グローバルでも話題になったそうです。「日本で何が起きたんだ」って(笑)。
4Gamer:
困惑している姿が目に浮かびますね(笑)。日本オフィス以外じゃ,説明しても空気感は伝わらないでしょうし。
ジョルジョ氏:
そうなんです。ただ,いまはミンスクなどの開発にガルパンファンがたくさん居ます。日本ではガルパンファンがWorld of Tanksのファンになってくれましたが,逆に海外だとWorld of Tanksのファンが,ガルパンファンになっていますね。日本のIPとコラボしていますが,しっかりとお互いのためになるコラボレーションができていると思います。
4Gamer:
World of Tanksの歴史の中で一番思い出に残っている出来事はありますか。
ジョルジョ氏:
繰り返しになりますが「World of Tanks 1.0」ですね。私にとって初めてのことだらけでしたし,10年,15年先のことも見据えていて,WargamingスタッフがWorld of Tanksをものすごく愛していることが分かりました。それは自分にとって大きかったですね。
ユウ氏:
Wargamingに入社する前に抱いていたイメージって,アレックスと同じで「すごい会社だな」っていうものだったんです。入社したあとも「すごい会社だな」と思っています。というのも,会社からのサプライズが多いんですよ。良い意味で「え! そんなことするの!?」と驚かされることが何度もある。
新しいことを恐れずに挑戦していくというか,面白そうなことがあればとりあえずやってみようみたいな社風があるんですよね。僕自身が驚くようなコラボもたくさんありましたし。
4Gamer:
わりと「なぜ!?」というコラボもありますよね。それはそれで面白かったりするんですけど。
ジョルジョ氏:
来年に向かって日本のプレイヤーも楽しめるコラボを考えていますよ。計画通りに行けば,日本のプレイヤーに喜んでもらえるはずです。
4Gamer:
それは楽しみです。
World of Tanksの次の10年はどのようになっていくのでしょうか。キスリー氏にもお聞きしましたが。
ジョルジョ氏:
キスリーにも聞いたんですか!? 彼はなんと言ってました。
4Gamer:
ペースは遅くなるがコンスタンスに追加していくと。現代戦車についてはノーコメントでした。
ジョルジョ氏:
なら僕もノーコメントで(笑)。
ただ,10年間のビジョンの中でいろいろとやることは決まっています。言ったとおりにそろそろ限界も見えてきたので,いろんな可能性を考えて,次の「1.0」のように考えています。考えていますというか,もう動いてるんですけど,そこまでしか言えないです(笑)。
ユウ氏:
戦車の追加に関して言えば,すでに700両も見えてくるほど多くの戦車が実装されているので,その中でバランスを取るのが大変というのもあります。実装のペースが落ちているのはそのあたりも原因のひとつですね。開発チームは1両1両,バランスを考えながら作っていますから。
4Gamer:
最後に日本のコミュニティに向けてのメッセージをお願いします。
ジョルジョ氏:
日本のコミュニティのおかげでWorld of Tanksはここまで来れました。これからもWorld of Tanksの魅力を届けていきますし,新世代のWorld of Tanksに期待してほしいです。アジアチームとしては,日本のコミュニティ新しい経験をお届けしたいと思っています。
ユウ氏:
World of Tanksのコミュニティはニッチな部分があると思っています。良い部分ではあるのですが,だからこそ普通のことがやりにくいと言った部分もあるんです。他のゲームのコミュニティにはあるけど,World of Tanksのコミュニティにはないというモノもあったりするんですが,今後はそこをもっと補いたいと思っています。
手始めに甲士園で,その他にも日本のゲーマーがコミュニティに求めていることとか,他にあってうちにないものとかをもっと増やしていきたいなと。
ですので,日本チームの働きに期待してください!
4Gamer:
ありがとうございました。
「World of Tanks」公式サイト
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