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「World of Tanks」世界大会の会場でWargaming.netのVictor Kislyi氏とMohamed Fadl氏にインタビュー
本作の世界大会である「Wargaming.net League Grand Finals」が,2014年4月4日から4月6日にかけてポーランドで開催された。
本大会では,世界中から集まった14の強豪チームが3日間にわたって戦いを繰り広げたのだが,優勝賞金が30万ドル(約3100万円),賞金総額はグランドファイナルのみで200万ドル(約2億700万円),シリーズを通じたすべての賞金総額は250万ドル(約2億5900万円)に達するという,かなり力の入ったものとなっていた(関連記事)。
今回は,Wargaming.net CEOのVictor Kislyi氏と,同eSports Director Europe&North AmericaのMohamed Fadl氏に,メディア合同ではあるがインタビューする機会を得たので,その模様をお伝えしよう。
なお,大会の結果はすでに出ているが,インタビューが実施されたのはイベント2日めであり,決勝戦進出チームがどこになるかはまだ決まっていなかった。そのため,両氏の大会の感想は,途中経過の段階のものとなっている点は,あらかじめご了承いただきたい。
「World of Tanks」公式サイト
「Wargaming.net League Grand Finals」特設サイト(※英語)
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Wargaming.net CEOのVictor Kislyi氏インタビュー
――世界大会のクライマックスとなる決勝戦を明日に控え,現段階での「Wargaming.net League Grand Finals」に対する感想を教えてください。
実は,私はこういった大会に出席するのは今回が初めてなのですが,とにかく想像以上です! まるでハリウッドで映画の収録に立ち会っているかのような興奮がありますね。
また,この大会は,Wargaming.netがe-Sportsのリーグを立ち上げた最初の年の決勝戦,締めくくりとなります。この戦いは約1年前,4万チームからスタートしました。世界中の4万チームから勝ち残った14チームが会場に集まったというところにも,興奮を隠せないですね。
――先日開催されたプレスカンファレンスでは,「Wargaming.net League Grand Finals」の会場がワルシャワに決まったのは,現地のユーザーの熱意によるものという説明がありました。ただ,うがった見方をすると,第二次世界大戦が始まった地であるポーランドで大会が開催されたということに,寓意めいたものを感じてしまいます。実際のところ,そういった歴史的背景も踏まえているのでしょうか?
Kislyi氏:
いえ,そのような意図はありません(笑)。
ワルシャワを決勝の会場に選んだ理由は,ポーランドでは非常に多くのプレイヤーがPCゲームを熱狂的に楽しんでいて,そうやって楽しまれているゲームの中に「World of Tanks」も含まれているからです。
――個人的に応援しているチームはありますか?
Kislyi氏:
私達は,大会運営者として公平でなくてはなりませんから,公式な立場にいる私としては,「このチームが好きだ」といった発言はできません。
ただ,あくまでも個人的に,強い印象を受けたチームというのであれば,「PVP Superfriends」を挙げますね。彼らはフィリピン,シンガポール,オーストラリアから集まったチームで,シーズン開始時は苦戦していました。ですが,そこからのカムバックを果たしてGrand Finalsへの出場を果たしたんです。
――そういえば,これまで何度かインタビューの機会があったのですが,聞きそびれていたことがあるんです。Wargaming.netという社名の由来がずっと気になっていたのですが,これはどのような経緯で付けられたものなのでしょうか。
Kislyi氏:
私達はチェスのような思考ゲームが非常に好きで,「Wargaming」を会社名にしました。自分達が作った最初のゲームは「Panzer General」のようなゲームだったんですよ。
実は,最初は「Wargaming.com」にしようと考えていたのですが,「Wargaming.com」はすでに取られていまして。なので「自分達はもともと『.net』にするつもりだったんだ!」と自分達自身に言い聞かせながら,「Wargaming.net」としました(笑)。
ただ,「.net」は,インターネットを介したつながりを良く表現している言葉ですから,現在,私達はWargaming.netという社名にとても満足しています。
――ボードでウォーゲームをプレイしたことはありますか?
Kislyi氏:
もちろんです。
私達は,「DBA」というボードゲームをオンラインで対戦できるようにした「DBA Online」というゲームをリリースしたことがあります。
「DBA」というゲームは,カードの上に色を塗ったフィギュアを並べ,移動させて,サイコロを振って攻撃して,勝敗を決定する,そんなゲームです。言うまでもなく,実際のフィギュアを使ってプレイしたことも数えきれないほどあります。
――実は,私もボードのウォーゲームの開発や紹介に携わっているのですが,「World of Tanks」をウォーゲームの文法に則って説明すると,ウォーゲームの開発者やファンが非常に高い興味を示すんです。きっと,Wargaming.netの皆さんがウォーゲームを好きだという思いが,「World of Tanks」の中にも受け継がれているんでしょうね。
Kislyi氏:
それは良い話ですね! ありがとうございます。
――少しゲームの話題から逸れますが,最近,ウクライナで大きな混乱があり,ロシアとウクライナの間でも緊張が高まっています。Wargaming.netは,ロシアだけでなくウクライナのキエフにもオフィスがありますが,何か特別な困難などはありましたか?
Kislyi氏:
まず,こういった状況が起きたことは,とても悲しいことです。多くの方々が亡くなったのも,痛ましく思っています。弊社として,非常に喜ばしくないニュースでした。
しかし我々には,起きている状況を変えたり,解決したりする力はありません。ですので,万が一最悪の事態に陥った場合,ウクライナのWargaming.net社員およびその家族全員を,ミンスクなど安全な場所に一斉に避難させる計画を立て,即座に実行できる準備をしました。今のところ,このプランが実施されるには至りませんが,ともあれ社員のサポートはしっかりと行っています。
――それでは,「World of Tanks」の今後の展開についても話を聞かせてください。Wargaming.netでは,「面白いこと」と「正確であること」を選ばないといけないときは,原則として「面白いこと」に軸足を置いた開発姿勢を取るそうですが,今後実装が予定されている「ヒストリカルモード」でも,この原則は変わらないと思っていいのでしょうか?
Kislyi氏:
もちろん,「面白いこと」が重要なのは変わりません。ですがリリースするにあたって,企画の趣旨そのものを曲げてしまってはいけないとも思っています。ですので,公開にあたっては歴史性も重視していきます。
そのうえで,これはいつもやっていることですが,公開後1週間,2週間と経つにつれて,プレイヤーから改善要望や意見が出てきますから,それらの意見を踏まえて開発チームと相談し,改善を進めていく予定です。
――「World of Tanks」では,史実より交戦距離が非常に短く設定されていますが,ヒストリカルモードでは1〜2キロの距離で砲戦が行われるといった,歴史性を重視した展開になるのでしょうか?
Kislyi氏:
現状,それは考えていません。交戦距離を長くすれば試合が長引くでしょうし,なにより展開がダレてしまい,プレイヤーが気楽に参加できるゲームではなくなってしまいます。交戦距離を「面白さ」と「歴史性」の天秤にかけたら,やはり「面白さ」を取らざるをえないと思います。プレイヤーが楽しめるゲームでなくては,意味がありませんから。
――「World of Tanks」では,大型アップデートでグラフィックスの大幅な改善やHD化を行うと宣言していますが,今後,プレイに必要なPCのスペックも上がってしまうのでしょうか。
Kislyi氏:
グラフィックスに関しては,多くのハイエンドゲームに共通する課題だと思っています。
今日の試合に出ているようなプロゲーマーであれば,強力なゲーミングPCを持っているでしょうけど,一方では,スペック的に厳しいPCで遊んでいるプレイヤーもたくさんいますから,必要スペックを引き上げることを前提にはしていません。
まず,ゲーム内部における物理演算はサーバー側で行いますから,この部分に関しては,端末の性能は影響しないようになっています。
現状では,PCのスペックを元にしたグラフィックス設定の自動最適化機能を持たせていますが,HDグラフィックスの設定自体もチェックボックス1つでオン/オフできるように,プログラマー達が努力しているところです。
――物理演算をサーバー側で行うとなると,ラグの影響も受けやすい印象があります。とくにアジアの一部地域では,ラグがきついという意見をしばしば耳にするのですが,そのあたりはどのように考えていますか?
Kislyi氏:
ラグに関しては我々も最善を尽くしていますが,回線の品質やプロバイダーの状況など,弊社が関与できない問題も絡んでいるので,難しい部分があります。
ただ,世界的に見てインターネット接続環境は年々改善されていますし,今までインターネットに接続できなかった場所に,新しく環境を導入するためのハードルも下がってきています。ですので,将来的には確実に改善されていくと思います。
――「Wargaming.net League Grand Finals」は,「World of Tanks」の世界最高峰の大会となりますが,試合結果はゲームの改善材料として利用されるのでしょうか。
Kislyi氏:
もちろんです。この大会は我々にとって最初の大会であり,学ぶべきことは山積しています。
我々はe-Sports専門の部署を持っていて,e-Sports事業に専念している40人の社員がいます。彼らは大会中も,次は何をどう改善すべきかを考えながら,今もメモ帳を片手に行動しています。
また,今回の大会で優勝するチームは,世界で最も「World of Tanks」に詳しいプレイヤーということになります。そういった方々と契約して,テストプレイやイベントに参加してもらったり,それ以外にもさまざまな形で協力していくなどして,今後も「World of Tanks」を成長させていきたいですね。
――ありがとうございました。
eSports Director Europe&North AmericaのMohamed Fadl氏インタビュー
――「Wargaming.net League Grand Finals」が始まって2日めを迎えました。大会はまだ1日残っていますが,現段階での手応えとして,どのような印象を持っていますか?
とにかく,あまりにも印象深いことばかりで,言葉にするのは難しいですね(笑)。
実のところ,金曜日の朝の時点では,それほど多くの人が来るとは思っていなかったのですが,土曜日になってみたら,入場制限をしなくてはならないほど,多数の来場者に来ていただけました。
また,会場の盛り上がりも非常に大きく感じています。会場から離れたこのラウンジまで大きな歓声が届いて,インタビューを中断することも何度かあったほどです(笑)。
本当に素晴らしいことだと感じています。
――地元である,ポーランドのチームが活躍しているのも,盛り上がりに一役買っているのかもしれませんね。
Fadl氏:
ポーランドの人は自国に強い誇りを持っていますし,この大会のような「競う」イベントに対する関心も高いです。
ポーランドのチームが,ロシアやアメリカの強豪と戦うチャンスを得て,そこで大いに活躍していることが,来場者の盛り上がりに直結していると思います。また,その声援がポーランドチームの活躍を後押ししているのではないでしょうか。
――先日のプレスカンファレンスでは,2014年はe-Sports事業に投下する予算を増額するという発表がありました。具体的には,どのような用途を考えているのでしょう。
Fadl氏:
e-Sportsの品質を向上させるために使うというのが,第一の目的です。
また,e-Sportsと言えば,プロゲーマーだけのものになっているという側面がありますが,もっと小さな規模から,プロではない人達もサポートできるプロジェクトを考えています。
――具体的にはどのようなものなのでしょうか。
Fadl氏:
そうですね。現状,e-Sportsには多くのスター選手がいますが,どれだけたくさんスターがいても,照らす地面がなければ何の意味もありません。これからは,その地面に相当する部分を重点的に作っていこうと考えているんです。
具体的には,少人数から中人数の大会を開催して,プレイヤーがステップアップしていけるための土台を作っていきます。
――そういえば,ロシアのトッププロチームである「NAVI」が,「World of Tanks」の戦術解説の動画を作っていますよね。このような取り組みも,ビギナーがステップアップするための施策の一つなのでしょうか?
Fadl氏:
はい。プロ選手とパートナーシップを結んで動画を作るというのも,我々の活動の一つです。動画を見ることでプロの視点を学んでもらい,プレイヤー全体のレベルを上げていければ,と考えています。
――プレイヤーの一人としては,翻訳して日本語版を作ってほしいのですが(笑)。
Fadl氏:
我々は,国際的な展開を前提にしていますから,将来的には日本語を含め,さまざまな言語で動画が公開されていくことになるでしょう。
言うまでもなく,ゲームの技量に長けたプロプレイヤーは重要ですが,もっと大事なのは「つながり」です。どんなに素晴らしいドラマがあっても,それを伝えるストーリーテラーがいなければ,誰も興味を持ってくれないでしょう。ですから我々は,優れたストーリーテラーはとても大事だと思っていますし,常に探しているんです。
例えば日本なら,日本のプロチームとパートナーシップを組んで動画を作っていくというように,各地域に適したものをそれぞれ作ることになると思います。
そうすれば,いわば日本の代表になったチームの選手達は親近感を抱かれますし,顔と名前が知られることで,多くのプレイヤーにとって一つの目標になります。これらはすべて,とても重要なことなんです。
――e-Sportsの大会では規模を問わず勝敗が決するものですが,日本人は,公衆の面前で人と競って勝負することを好まない人も多くいます。日本のe-Sports関係者が少なからず頭を悩ませているこの問題には,どのような施策が考えられますか?
Fadl氏:
そのような特殊性は,全世界のあらゆる地域でそれぞれ個別に存在しますから,何をするにしても,まずはその地域に対する勉強が重要だと思っています。これは日本市場でも同じで,日本でe-Sportsを発展させていくのであれば,まず日本のことを学ばないといけません。
もし,勝負で白黒つけるのがあまり好まれないのであれば,AIとの勝負であったり,戦車の走行や射撃の技術を競ったりといった,対戦とは違う形式の大会を実施することも,可能性としてはあると思います。
――少し話は逸れるのですが,「World of Tanks」の実況解説ツールは,チェスのように戦況解説する上級者向けのもので,あまり初心者向けだとは思えません。例えば,実況解説ツールではすべての戦車が画面上に表示されるので,プレイヤーの画面に映っていない敵を撃破する,いわゆる「ブラインド・ショット」のような上級テクニックが使われていても分かりづらいんです。今後,誰が見ても「すごい!」と思える状況を確認できるような方向性で,ツールがアップデートされる予定はないのでしょうか?
Fadl氏:
それはとても素晴らしいアイデアですね! 日本でそういった機能が受けるのであれば,追加する方向で考えたいです。
――少し気が早いですが,次のGrand Finalsに向けた展望はありますか? たとえば,アップデートで実装予定のヒストリカルモードなどが,e-Sportsとして組み込まれたら,盛り上がりそうな気がするのですが。
Fadl氏:
可能性はありますが,それを選ぶのはコミュニティです。プレイヤーやe-Sportsの観客が望むのであれば,e-Sportsとして採用されることはあり得るでしょう。
「World of Tanks」はe-Sports向けにデザインしたゲームではありませんでしたが,こうしてe-Sportsとして成立しているのは,プレイヤーの支持によるところが大きいです。
――「Wargaming.net League Grand Finals」はまだフィナーレを迎えていませんが,どの程度の成果が出れば,イベントが成功したかどうか判断できると思いますか?
Fadl氏:
私の目標は,Grand Finalsを見る人にイベントを楽しんでいただくことです。実のところ,その規模は問題ではありません。来場した人が満足して帰ってくれるのであれば,それが100人でも,1000人でも,1万人でも,あるいはたった1人でも,私の目標は達成されたと言えます。
今後,イベント運営をどう改善していくかについては,選択の可能性が多過ぎるので現状ではまだなんとも言えませんが,これからも,プレイヤーの皆さんからたくさんのことを勉強させてもらいたいと思っています。
――個人的には,大会を楽しませてもらっているので,満足しています(笑)。決勝に向けてさらなる盛り上がりを期待しています。
Fadl氏:
ありがとうございます。自分も大いに期待しています。
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