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なんだか難しそうなWizが初心者でも安心して楽しめる。ニンテンドーDS用「Wizardry 〜忘却の遺産〜」のレビューを4Gamerに掲載
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印刷2010/10/06 15:37

レビュー

新しい世代にWizの魅力を伝える「ウィザードリィルネサンス」から生まれたDS版第2作

Wizardry 〜忘却の遺産〜

Text by 川崎政一郎


30年の歴史を持つRPGの原点“Wizardry”
ルネサンス系の最新作がニンテンドーDSで登場


 突然だが,読者の皆さんは「ウィザードリィルネサンス」についてご存じだろうか。これは,2011年に生誕30周年を迎える“Wizardry”のブランドを,あらためて世に広めるべく発足したプロジェクトである。
 2009年から,本プロジェクトに関連した各プラットフォーム向けのゲームタイトルや,コミックス,そして音楽CDなどがリリースされている。

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 今回レビューをお届けするニンテンドーDS用ソフト「Wizardry 〜忘却の遺産〜」(以下,忘却の遺産)は,そんなルネサンスプロジェクトの一環として,7月29日に登場したタイトルだ。
 本作は,2009年にリリースされた「Wizardry 〜生命の楔〜」(以下,生命の楔)の続編にあたる作品で,基本的なゲームシステムは生命の楔を踏襲しつつ,細かな箇所がブラッシュアップされて遊びやすくなっており,新たなダンジョンとストーリーが用意されている。
 舞台となる世界や時代は生命の楔と同じで,街のNPCなども共有されており,ときには時間軸が並行しているという演出がなされる(前作のメインキャラも登場する)。だが基本的に前作を遊んでいなくても,プレイにまったく支障はない。
 前作に引き続き,「Amazon.co.jp」による専売タイトルとなっており,世間での認知度はあまり高くないように思えるのが気がかりである。

「Wizardry 〜忘却の遺産〜」公式サイト


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 ここで,まずは原典である「Wizardry」(Wiz)についてあらためて紹介するが,Wizとは,6人編成によるパーティを操って,3D風のダンジョンを攻略するシングルプレイRPGである。ダンジョン内部は迷路状に入り組んでおり,しかも多数のモンスターが待ち構えている。他にもさまざまなトラップが仕掛けられており,これらの障害を乗り越えつつ,ダンジョンの奥へ奥へと探索を続けていくのだ。

 Wizの戦闘は,コマンド入力によるターン形式で進行する。6名のパーティは,敵と密接する“前列”3名と,距離が離れた“後列”3名とに分けられ,両者は戦闘スタイルが大きく異なる。全部で10種類(従来の8種類に新クラス2種類が追加されている)ある職業は,それぞれ近接攻撃,遠隔攻撃,呪文による攻撃/サポート,そしてスキルといった得意ジャンルが違っており,前列/後列の配置も含めた6名のトータルな戦力バランスを考えつつ,キャラクターを編成/管理していくのだ。

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 ダンジョンの探索で経験値や戦利品を獲得し,地上へと帰還。街で回復やレベルアップ,装備の強化を行ったのち,再びダンジョンへ。これを繰り返すことでパーティの戦力が少しずつ底上げされていく。特定条件を満たすことで上位職への転職も行えるようになり,戦術の幅はさらに広がっていく。

 Wizとは,これらの一連の作業における面白さをシンプルに,そして極限まで追求したシリーズである。昨今のRPGでありがちな,声優陣がバリバリしゃべる豪華ムービーなどの過剰演出はなく,冒険そのものの達成感と,むき出しになったハック&スラッシュとしての面白さが,手に取るように実感できるのだ。プレイ中のテンポが非常に良く,やめどきが見つからなくて苦労する,というのもシリーズに共通する悩み事だったりする。もちろん,Wizの名を冠した本作でも,そのスタイルは継承されている。

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 また,本作はプラットフォームがニンテンドーDSということで,UIは2画面用にリファインされ,オートマップをはじめとした便利な機能を搭載している。さらに,これまでWizを知らなかったような人でも楽しめるように,従来シリーズ作と比べてガイド機能を充実させ,シナリオやグラフィックスなどの演出にも重点が置かれている。性格(善/中立/悪)といった要素が廃止されているなど,細かい修正は多数見受けられる。
 つまり本作は,伝統あるWizardryというシリーズを,残すべきところは残しつつ,変えるところは変え,より多くの現世代ゲーマーに楽しんでもらえるようアレンジを施したタイトル,というわけだ。



ニンテンドーDS版の新シリーズならではの特徴


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 一口に“Wiz”といっても,過去30年間に数多くの作品がリリースされてきた。その歴史を大別すると,原点ともいえる初期作品の“シリーズ1〜5作”,シナリオを重視した“シリーズ6〜8作”,そして日本で独自の発展を遂げた“外伝シリーズ以降”に分けられるだろうか。

 ところで,本作「Wizardry 〜忘却の遺産〜」を分類しようとすると,上記のどれにも当てはまらない。全体の傾向として,プレイヤーを突き放すかのようなストイックさは陰を潜め,随所で初心者に手を差し伸べる作りとなっている。これはルネサンスのコンセプトに準じており,あえて言うならば,“ルネサンスシリーズの一作品”という表現が適切だろう。

 ここでは,“Wiz”と聞いて最も多くの人が思い浮かべるであろう初期作品と比べながら,ゲームシステムの主な特徴をチェックしていこう。


◎シナリオ中心のゲーム展開

 本作の第一の特徴は,シナリオを軸にゲームが展開していくことだ。ゲームの開始早々,パーティにNPCの少女“サラ”が合流する。ダンジョン攻略中は常に彼女が付き添っているという設定で,戦闘などに参加することはないものの,要所で発生するイベントシーンでは,サラや他のNPCによる会話を中心にストーリーが進行していく。

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 従来のWizというと,薄暗くじめじめとしたダンジョンを,ただひたすら無言で攻略し続けるという素っ気ない(※褒め言葉)ゲーム展開だったが,本作では元気な女の子が加わることで,随分と華やかに,そしてライトな雰囲気になった感じだ。Wiz初心者に,ダンジョンを冒険する明確な動機を与える効果を発揮しているが,ヘビーな古参Wizプレイヤーの中には,不要な演出と感じる人が結構いるかもしれない。


◎クラスごとの特色が如実に反映された“スキル”

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 キャラ育成で最大の注目点といえるオリジナル要素が,レベルアップに伴い,さまざまな「アクティブスキル」「パッシブスキル」を習得できることだ。スキルは職業ごとに用意されており,習得したものの中から一人につき5〜6個をセットして扱うスタイルとなる。なお,スキルのセットは地上でのみ行うことができる。

 実際に使ってみた感触としては,セットしておくだけで自動的に発動するパッシブスキルが非常に役に立つ。例えば「攻撃回数増加」「最大HPが増加」「先制攻撃率アップ」などといった効果が,一切のデメリットなく得られるのだ。新たなフロアに到達したら,出現モンスターの構成をざっと把握したうえで,“対**系に追加ダメージ”系のパッシブスキルをセットしておけば,冒険はグッと有利になる。

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 もう一方のアクティブスキルに関しては,呪文と同じで使用回数が決まっている。内容も,呪文と同じように「属性攻撃」「グループ攻撃」などができるもののほか,「次の呪文を複数回詠唱」といった補助的なものもあり,効果そのものは強力だ。
 ただし戦闘中に使用すると,それだけで1ターンを消費してしまうため,使いどころが若干難しいものもある。言うまでもなくWizにおける1ターンは極めて重要なので,普通に直接攻撃や呪文詠唱を行ったほうが効率が良いケースも多い。

 これらのスキルシステムについて特筆すべきは,一度習得したスキルは,たとえ転職しても引き継がれることだ。だいたいレベル40強まで育てると一通りのスキルを習得できるが,どの職業にも必ずといっていいほど,非常に役立つものが含まれている。そのため,転職を繰り返してベストのスキル構成を目指すという,昔のWizにはなかった育成も可能なのだ。

 また「連携」という要素もあり,特定の呪文とスキルを同時に使うことで,さらなる追加ダメージが発動することもある。……が,これはなかなか出番がなく,後述する「ミッションバトル」で「連携を発動しろ」と言われない限り,あまり意識して使うことはないかもしれない。


◎第3の呪文ジャンル“錬金術”

 本作に登場する呪文は,お馴染みの「魔法使い」と「僧侶」に加え,「錬金術」というジャンルがある。習得できる職業としては,「錬金術師」がすべて習得可能なほか,ハイブリッド職の「レンジャー」もある程度まで習得できる。

 錬金術の呪文のラインナップには,攻撃系と回復系の両方があるほか,かなり幅広いジャンルが含まれている。とくに中盤以降で習得できるバフやデバフが強力で,対ボス戦などの長期戦では大いに役立つ。
 ただし,全体的に“浅く広く”といったところで,僧侶や魔法使いの代わりにパーティ内の回復や攻撃魔法を一手に引き受ける……という使い方は難しいだろう。例えば僧侶が麻痺した場合などに,誰かが錬金術を使えるおかげで助かった,というケースが想定できる。

 錬金術の詠唱には一つ条件があり,グリーンフラスコ,イエロービーカーなどといった“触媒”が,その都度必要となる。これらはショップで売られており,また戦利品として頻繁に入手可能だ。当然,強力な呪文ほど多くの触媒を消費するが,あまり無茶なペースで使ったりしなければ,底を尽くことは少ないだろう。


◎単調な戦闘になりにくい“ミッションバトル”

 戦闘に一味添えるオリジナル要素として,「ミッションバトル」というユニークなシステムがある。これはトレジャーが出現する戦闘限定で,「あと3ターン以内に殲滅せよ!」「敵を逃がすな!」などといった指令が,突発的に発生するというもの。この指令を達成しつつ戦闘を終えると,通常よりもグレードの高いトレジャーが手に入る仕組みだ。ちなみにミッションの指令を達成できなくともペナルティなどはない。

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 これはゲームとしては,なかなか面白い試みだと思う。パーティが強力になってくると,決定ボタンを連打するだけの単調なバトルになりがちだが,チャレンジバトルが盛り込まれることで,戦闘中に程良く頭を使わされるのだ。ときには“「戦う」禁止”などの無茶な指令が下されることがあるものの,お宝目当てに何とかできないものかと頭を捻らせるのは,これまでのWizにはなかった醍醐味である。

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さまざまな面でWiz特有の「素人お断り」感が解消
初心者でも安心して遊べる作りに


 ゲームシステムに関する主なオリジナル要素としては,大体このようなところだ。続いては,実際にプレイしてみてゲームバランス関連で気になったところを,いくつか見ていきたい。

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 今回のプレイ中に最も強く印象に残ったのが,ゲームとしての難度が,ある意味とても良くできていることだ。“ある意味”と断ったのは,そもそも本作はWizとして見た場合“非常に易しい作り”であり,コアプレイヤーの中には,根本的に物足りない人もいるであろうことも考慮してだ。なんせダンジョンの奥深くで全滅しても,そのまま街に戻ってきて,蘇生費用がかかるくらいしかペナルティが発生しないのである。

 モンスターが次第に強くなるバランスや,新たなグレードの装備品が手に入るタイミングなど,常にほどほどの手応えと喜びを感じつつプレイできる。強力すぎる武器がいきなり手に入って肩透かしを受けたり,呪文を高確率で無効化する敵がいきなり出現して萎えたりといったこともない。
 大抵のフロア内には厄介なトラップが仕掛けられているものの,一通りクリアした後は大抵,ショートカットできるルートが用意されている。もちろん本作でも“エレベーター”は健在である。

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 普通に遊んでいる最中は,こういった難度を意識すること自体が少ないかもしれないが,実はそれこそがゲームバランスが優れていることの証といってよい。今回のプレイではあっという間に最後までクリアしてしまったが,いま振り返っても,プレイの止めどきの判断が非常に難しかったと思える。

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 ただし,ゲームのテンポが良い半面,各フロアの構造があっさりとしており,火柱やギロチン,吊り天井などのリアルタイム性をはらんだ罠などもあるものの,ちょっと物足りない。本作では移動中に“Bダッシュ”が使えることもあり,“25×25マス”からなるダンジョンのフロアが,実際には一回りも二回りも小さく感じられるだろう。

 また本作には,最初は立ち入ることができないものの,後になって鍵の入手やエレベーターの起動により,進入できるようになるエリアが多数用意されている。しかしようやく入れるようになっても,それほど大きな“ご褒美”が用意されていないことが多く,ちょっと寂しい。苦労して到達したにもかかわらず,そこにあるのは宝箱が一個のみで,しかも中身が普通の消耗品だったりして,割としょんぼりすることが最後まであったりするのだ。ダンジョンの構造まで作り込んでいれば,また違った評価を受けていた気もするのだが。

 話を戻して,本作のゲームバランスでもう一つ良いなと思ったのは,“上位職”の扱いについてである。従来のWizにおける上位職は,育てきるとハイブリッドな能力を存分に発揮できるものの,レベルアップの速度が緩慢という弱点があった。ところが本作では,レベルアップに必要な経験値量に,それほどの差がないのだ。

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 今回のプレイでは“侍”が最初から最後まで大活躍であった。直接攻撃は戦士と同等以上のポテンシャルがあり(侍専用の有用なパッシブスキルがいくつかある),そのうえ魔法使いの呪文も良いペースで習得していく。魔法使いと侍が,グループ系の攻撃魔法を同時に使うことで,雑魚の大群を半壊させられるのが,とても助かった。

 ちなみに一方の“基本職”に関しても,彼らなりにアドバンテージがある。例えば,ステータス値や呪文の威力を上げるための,専門の装備品やパッシブスキルが数多くある。本作の基本職は,ニュアンスとしては“専門職”と表現したほうがしっくりくるだろう。



“誰でも楽しめるWiz”探求の道はまだまだ続く


 本作の総合評価としては,主にWizの未経験者や初心者に向けて,非常にそつがなく作られたタイトルである。ゲームバランスが良く,守るべきところは守りつつも,スキルやミッションバトルといった独自システムに見るべきところがあり,Wiz経験者でも楽しめるだろう。

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 ただし,欠点も無いわけではない。例えばNPCを使ったストーリー展開に関しては,「Wizの物語は各自が脳内で紡ぐもの」と考えているであろう多くの古参プレイヤーにとって,どうしても馴染めないという人も多いだろう。何よりストーリーそのものが全体的に淡白で,ハッキリ言ってしまうと魅力に乏しく,クリア後に深い満足感を得られるようなものではなかった。

 ちなみに前作「生命の楔」では最初しばらく,ゲーム側で用意された固定の主人公キャラを含めたパーティでプレイする必要があり(ほかのメンバーにも固定キャラが用意されていた),ストーリーもより前面に押し出された内容となっていた。「忘却の遺産」では,このへんが多少改められており,固定キャラやストーリーの存在感は薄められているし,パーティメンバーもすべて自分で作って遊べる。
 しかし“Wizにストーリーを盛り込む”という狙いには,まだまだ研究の必要がありそうだ。また用意されているNPCやパーティメンバー用の人物イラストも,カッコいいといえるほど重厚でも,可愛らしいといえるほどライトでも,あるいは妄想力を邪魔しないほど記号的でもない,なんとも中途半端な印象を受ける。

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 ただ,それで作品そのものを否定するのは考えものである。何より,本作が“ルネサンスプロジェクト”として登場したタイトルであることを忘れてはならない。初代がリリースされた1981年やファミコン版が発売された1987年には,まだ生まれてさえいなかった多くの若いゲームファンにも,Wizの魅力を伝えるのが目的なのだ。
 ガイドの充実やシナリオの導入は,「そういった若い人に向けてWizをアプローチにするには何が必要か?」と考えた結果のことだろう。Wizという歴史あるシリーズを後世にも伝えるために,本プロジェクトのスタンスは,これからも必要になってくるのではなかろうか。

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 ダンジョン探索型RPGは,亜流も含めると今日では膨大な数のタイトルがリリースされており,とくに日本では今も大人気のゲームジャンルである。そして,それらの源流は紛れもなく,この“Wizardry”である。個人的にも,ゲーマーを名乗るからにはWizくらいはプレイしてほしいという気持ちがあるし,数多ある中から最初に手に取るタイトルとして,本作「Wizardry 〜忘却の遺産〜」は,誰にとってもそう悪くないチョイスだと思う。

「Wizardry 〜忘却の遺産〜」公式サイト


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