レビュー
外交と文化にざっくりとメスが入った,拡張パック第2弾
Civilization V: Brave New World
数多くの徹夜ゲーマーを生み出したシミュレーションゲーム,「シヴィライゼーション」シリーズの最新作「シヴィライゼーション V」(以下Civ5)の拡張パック第2弾となるのが「Civilization V: Brave New World」(以下Brave New World)だ。外交と文化に重点が置かれた拡張パックと言われていたが,実際にどのようなゲームに仕上がったのだろうか。プレイした感触を,ざっくりとご紹介したい。
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システムの変化
Brave New Worldでは,当初言われていたように,外交と文化のシステムが大きく変化した。印象としては,外交はまだ「要素追加/変更」レベルだが,文化に関しては事実上完全に新しいゲームになっている。以下,順に見ていこう。まずは外交だ。
議会は踊る
外交においては,国際連合の成立条件が大きく変化した。これまでは「グローバリズム」を研究することで「国際連合」の建物が建築できるようになり,これを建設することで,ゲームの勝利条件の一つ「外交勝利」への道が開けるという流れだった。Brave New Worldでは,まず国際連合の前身として「世界議会」が開催されるようになった。世界議会が成立する条件は,「すべての文明を発見し,かつ活版印刷の技術を開発した文明」となっており,これを最初に成しとげた文明が第1回世界議会の開催国となる。世界議会は自動的に開催され,何か特別な建物を建てる必要はない。
世界議会で,各文明は基本的に1票の投票権を持つが,代表国は特別に2票を持つほか,ゲームが進むと,その文明と同盟している都市国家も1票を持つようになる(その頃には,各文明が2票,代表国は3票という形で総票数も増加している)。つまりCiv5同様,同盟している都市国家が多ければ多いほど会議においては有利になるわけだ。
技術が進んで文明が先の時代に行くと,世界議会は国際連合へ自動的に進化する。国際連合でも世界議会と似たような議決が行われるが,「世界の指導者」を決定する専門部会も開催されるようになり,ここで指導者として選ばれると外交勝利となるのだ。
また,世界議会でなされる議決の中には,特定の戦術を大きく制限する議決もあるため,トップ文明を狙い撃ちにするシステムにもなりうる。マルチプレイでは露骨な「トップ叩き」が横行しそうで,いまから胸が高鳴るところだ。シングルプレイでも,都市国家と同盟するのか,それともあえて積極的に攻め滅ぼして総投票数を減らすのか,悩ましい選択になるだろう。
文化の攻防
「文化勝利」のシステムは,かなりベースの部分から変更されている。従来,文化には「文化力」というパラメータしかなかったが,Brave New Worldのパラメータは「観光力」と「文化力」の2つに分かれた。
仮に,文明A,B,Cがあったとしよう。文明Aの観光力は,文明BとCに蓄積されていく。同様に文明Bの観光力は,文明AとCに,文明Cの観光力は文明AとBに蓄積される。
一方,それぞれの文明は独自に文化力を蓄積していく。文明Aは文明Aの,文明Bは文明Bの,文明Cは文明Cの文化力を蓄積していくわけだ。
観光力は,国境が解放されていたり,交易ルートが成立していたり,宗教が同一だったりするとボーナスが与えられる。また「鎖国」していたとしても,他文明からの観光力侵入は遮断できない。
観光力を得るためには「偉人」を使う必要がある。Brave New Worldにおける芸術系の偉人としては芸術家,著述家,音楽家の3種類あり,それぞれの偉人を消費することで「傑作芸術」を得られる(傑作芸術には絵画,著作,音楽があり,それぞれ異なる種類のものとして扱われる)。
傑作芸術は,傑作芸術を収蔵できる建物に収めることで,初めて観光力を生み出すようになる。また,傑作芸術は文化力も産出するので,文化勝利をめぐる攻防に役立つ。
なお芸術系偉人は,傑作芸術を生み出す以外にも利用可能で,芸術家は「黄金時代」を開始させ,著述家は大量の文化力(社会制度の獲得に利用)を生み出し,音楽科は他文明の領土内でコンサートを開くことで一気に観光力を高めることができるといった具合だ。
観光力はまた,考古学者に史跡を調査させ,そこから文化遺産を発掘させることによっても得られる。文化遺産も傑作芸術と同様,しかるべき建物に収蔵しなくてはならない。
交易と社会制度
「交易ルート」と「社会制度」にも,比較的大きな変更が加えられている。
交易ルートは,「交易ユニット」が実際にルートを往復するため,ユニットが攻撃されてルートが絶たれることがある。陸上交易ルートには隊商が,海上交易ルートには輸送船がそれぞれ必要になる。
交易ルートが成立すると,ゴールドが収益として得られる。また,これにあわせて,交易ルートを伝って宗教が伝播してくる――あるいは伝播させることができる。加えて,わずかではあるものの,科学力も伝播する。
社会制度は内容に若干の変更がなされたほか,新たに「思想」が追加された。思想には「自由」「秩序」「独裁政治」の3種類があり,これらはかつて,社会制度として扱われていたものだ。
思想を獲得するには,自文明の都市3つにそれぞれ工場を建設しなくてはならない。これによって産業革命が起こり,思想が芽生えることになる。
思想も社会制度同様,文化力を消費して特殊能力を獲得するが,この特殊能力は合計で14個ある。これらの特殊能力にはレベルがあり,レベル1からレベル3へと逆ピラミッド状に取得していかなくてはならない。文章では分かりにくいと思うので,詳しくは掲載した画面写真を参照してほしい。
ゲーム的には,交易ルートがもたらす影響はかなり大きい。経済的な発展が見込めるだけでなく,宗教や技術の伝播があり,また観光力に補正がかかることが重要だ。
また,自国内で交易ルートを設定することで,都市間で食料や生産力の融通が可能になる。この場合,ゴールドの収益はないが,建設したばかりの都市に食料を送り込んで発展を促進させたり,世界遺産を建設している都市に生産力を送り込んだりなど,文明全体を効率良く発展させることが可能だ。
新しい文明と世界遺産
文明とその指導者は,新たに9種類追加されている。
・アッシリア/アッシュールバニパル
都市を征服したとき,その都市の所有者が有する技術1つを得る(1都市1回のみ)。
・モロッコ/アフマド・アル=マンスール
異なる文明,都市国家へと接続する交易ルート1つごとにゴールドが+3,文化力が+1となる。モロッコに接続する交易ルートを所有するほかの文明は,ゴールドが+2となる。
アッシュールバニパル |
アフマド・アル=マンスール |
・ヴェネツィア/エンリコ・ダンドロ
開拓者の獲得と都市の併合ができない。使用可能な交易ルートの数が2倍。「光学」を修得すると「ヴェニスの商人」が出現。傀儡都市での購入も可能。
・ポーランド/カジミェシュ3世
時代が進むとき,社会制度を1つ得る。
エンリコ・ダンドロ |
カジミェシュ3世 |
・インドネシア/ガジャ・マダ
インドネシアの初期大陸外に建設する都市3つは,高級資源2つを有する。それら3つの都市は破壊されない。
・ズールー/シャカ
白兵ユニットの維持費が50%軽減。ユニットのレベルアップに必要な経験値が25%削減。
ガジャ・マダ |
シャカ |
・ブラジル/ペドロ2世
黄金時代には観光力が+100%。また芸術家,著述家,音楽家の獲得速度+50%。
・ショショーニ族/ポカテッロ
都市の初期領土が広い。自文明内のユニットに戦闘ボーナスがつく。
ペドロ2世 |
ポカテッロ |
・ポルトガル/マリア1世
ポルトガルが交易路から得るゴールドのうち,資源の違いによって得られる額が2倍。
世界遺産はパルテノン神殿やグローブ座,ブロードウェイなど8種類が新規追加。また,「南北戦争」と「列強によるアフリカ争奪戦」シナリオの2本が追加されている。
複雑だが面白いBrave New World
Brave New Worldは,かなり大規模な拡張パックだ。新規追加された要素は,いずれもゲーム内のほかの要素と複雑に絡み合っており,ただ単にデータや追加ルールを建て増ししただけではない。
また拡張パック第1弾「Gods&Kings」で追加された宗教やスパイといった要素も,交易や外交,文化などと相互に複雑な関係を持っており,Gods&Kings未プレイでBrave New Worldに手を出すと「Civ5ってこんな複雑なゲームだったっけ?」と途方に暮れる可能性さえある。
社会制度や技術研究によってアンロックされる世界遺産も多いので,各段階における目標を正しく把握していないと,手数を無駄に費やしてしまうこともある。
だが,相互関係は複雑であるものの,それぞれの要素自体はシンプルだし,操作や情報の閲覧で困ることもない。難しいのは「それらをどう使いこなすか」であって,とりあえず遊んでみるぶんには「分からないなりに,ともかくやってみよう」でなんとかなる。
難度2〜3であれば,Civ5ないし「Civilization IV」をプレイしていた人であれば,手探りでプレイしても敗北することはないだろう。
筆者はまだ10時間弱しかBrave New Worldをプレイしていないため,Brave New Worldのどこかに致命的なバランスブレイカーが潜んでいたなら,それを見逃している可能性もないわけではない。綿密なテストプレイが行われているであろうが,それでもこの規模の複雑さとなると,激烈な化学反応を示す組み合わせが隠れていても不思議ではないだろう。だが,仮にそういうアンバランスがあったとしても,時間とともに解決されていくのは間違いない。
むしろ本作は,「Civ5はシンプルすぎて,どうも……」と感じていた人にこそお勧めしたい。外交と経済,文化と宗教のせめぎあいに,それらすべての基盤かつ重荷となる軍事。もつれにもつれる国際社会の中で,いかにうまく自文明のバランスを維持するか――それともあえて突出するのか。自分の勝ち筋を見据えながら,妥協と決断を繰り返して1ターン,また1ターンと進めていくと,いつの間にやら東の空が白んでくる,そんないつものシヴィライゼーションワールドが,あなたを待っている。
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