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[CEDEC 2010]切込隊長&みずほキャピタル逸見氏,2つのセッションから見えてくる「ゲームに投資してもらう」ために必要なこと
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印刷2010/09/01 19:21

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[CEDEC 2010]切込隊長&みずほキャピタル逸見氏,2つのセッションから見えてくる「ゲームに投資してもらう」ために必要なこと

 ゲーム作りが個人制作の延長のような状況だった時代から数十年。産業化が進み,またそれと同時に,プロジェクトそのものにも莫大な開発費が必要なっているのが昨今のゲーム業界の状況である。一方で,どうやってコンテンツを開発するための資金を集めるのかは,他のコンテンツ産業同様に,長年ゲーム会社各社が頭を悩ませている大きな課題だ。
 なぜなら,いわゆるコンテンツビジネスは投資に対するリターンが計りづらく,結果として,投資家はゲーム(というか,コンテンツ産業全般かもしれないが)に対する投資を渋りがちだからだ。簡単にいえば,「水物には投資しづらい」という話である。

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 とくにゲーム産業が成熟し,右肩上がりの急成長も今後は望めないという今。ゲーム会社は,会社を経営するために必要な資金を,どうやって金融機関や投資家から集めたらいいのか。業界内の諸問題を語り合う「CEDEC 2010」で,そんなある意味もっとも大切な,お金にまつわるセッションが行われていた。
 本稿では,みずほキャピタルの逸見圭朗氏による「続・ゲーム企業の資金調達に関して」というセッションと,「切込隊長」の名でも知られる山本一郎氏による「新興ゲームジャンルに対するコンテンツ投資の実情」という二つのセッションを取り上げ,それぞれの視点から語られる“ゲーム業界に対する投資の実情”について整理してみたい。


逸見氏が語る
「コンテンツへの投資を考えるうえでの視点」


 というわけで,まずはみずほキャピタルの逸見氏による講演から紹介していこう。
 逸見氏は,その業務の性質上,大きく表舞台にこそ出てこないが,長年にわたってコンテンツ業界への投資業務を行っている,数少ない,コンテンツ関連の投資のプロフェッショナルである。手がけたコンテンツ投資案件は百数十件にも上り,総投資金額も数十億円という,コンテンツ産業の台所事情にきわめて詳しい人物だ。ゲーム会社の役員やプロデューサークラスであれば,その名を知っている人も少なくないだろう。
 そんな逸見氏の講演は,ゲーム業界の人に向けて改めて「投資家や銀行の視点,考え方」をレクチャーするというもの。投資する側がどう考え,なにをもって投資の可否判断をするのかといった内容を,分かりやすく丁寧に説明していた。

みずほキャピタル 逸見圭朗氏
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 逸見氏は,「みずほグループは,昔からゲームに限らず,いろいろなコンテンツに投資をしてきましたが,やはりどうしても“当たるかどうか分からない”という部分がネックになります」という。これは,他の産業(例えば自動車など)であれば,ある程度の精度で投資に対するリターンが計算できるのだが,ことコンテンツに限っては,その作品が当たるのか外れるのかで大きなブレが生まれてしまうという話で,逸見氏は「投資家からすると,その“当たるかどうか分からない”という部分が理解できないのです」として,コンテンツに対する投資の厳しさを解説する。

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 もちろん,一口に投資といっても,その手法はさまざまであり,担保をベースとした一般的な融資(ローン)やコンテンツファンドを組む方式(プロジェクトファイナンス),あるいは会社それ自体に出資(エクイティ)する方法などがある。逸見氏は,「いろいろな状況,あるいはステージに合わせた資金の調達方法があります。例えば,ゲームを制作するために多額の資金が必要となったとします。ある程度の規模のゲームメーカー(株式会社)であれば,銀行は普通に融資をしてくれるでしょう。しかしそれは,別にそのゲームの良し悪しを判断してお金を貸してくれているわけではありません。単純にその会社のもつ資産を当てにして,万が一作品が外れても,お金を返してもらえると考えているのです」などと,投資をする/お金を貸す側の視点や考え方を説明する。
 これは簡素に説明すると,

■ローン:
作品の成否などはあまり関係がなく,期日までに貸したお金を返してもらうだけ。会社の資産を見て判断

■コンテンツファンド:
作品の成否を判断したうえで投資し,売り上げに応じて投資したお金を回収する

■エクイティ:
制作基盤の確かさ,IPの強さ,販路の強さなど,中長期的なビジネススキームを判断したうえで投資する

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などというように,お金を借りるといっても,そのやり方やステージによって投資する側の視点や判断基準がまったく変わってくるという話で,当たり前といえばごく当たり前なのだが,普通に生活する分にはなかなか意識しない分野なだけに,こうやって説明されてみて,はじめて「あ,なるほど」と思えたりもする。

 ちなみに資金調達能力の低い中小企業では,いわゆる単純な融資を受けられるケースはほとんどない。銀行/投資家から見れば,担保となる資産もなく,コンテンツが完成するかどうか,完成しても売れるかどうかが分からない案件は,数多くのリスクをはらむことになるからだ。当然,そういった会社への大規模な投資ともなると話はさらに難しくなり,いろいろな要素を多角的に調査したうえで投資の可否判断が行われる。

 逸見氏は,「リスクがない案件などは存在しません。だから,金融機関の人と話すときは,まずどういったリスクがあるかを客観的に提示してみせてください。そしてそのうえでそのリスクをどう最小化するのか,マネージするのかを説明すべきです」と語り,安易に「このプロジェクトは成功します!」のようなプレゼンテーションをすることは,かえって逆効果になると解説する。

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 またコンテンツ制作会社(≒ゲーム会社)に投資をする場合,「高いレベルの作品を“継続的”に作れるかどうか,ここがビジネスになるかどうかの大きなポイントになります」として,単発ではなく,あくまで組織としていかに体制を整えているかが,投資をするうえでの大きな判断材料となっているのだと説明した。
 これは後述する山本氏の講演でも語られていたことだが,投資という観点からゲーム会社を見た場合,作品の良し悪しそれ自体を判断するのではなく,それを作るための体制,売るための仕組み,あるいは失敗した時のフォロー策など,ビジネスフローや計画性に重点が置かれる傾向が強いようで(よく考えれば当然である),そこが投資側とゲーム会社/クリエイターとの溝を作り出している主要因の一つだと指摘していたのは,とても印象深い。


山本氏が登壇した
「新興ゲームジャンルに対するコンテンツ投資」


 山本氏が登壇した「新興ゲームジャンルに対するコンテンツ投資の実情」のセッションは,前半が最近急速に認知度を高めてきたアプリ紹介サイト「AppBank」の村井智建氏による講演から始まった。本稿とは離れる内容なので詳細は割愛するが,講演する村井氏のあまりのテンションの高さから,「もしかしてこの講演は,iPhoneアプリの成功事例などが語られる内容だったんだろうか?」と思っていた矢先に,切込隊長こと山本氏が登壇。
 口を開くや否や「iPhoneアプリ市場は,すでにレッドオーシャン化しています」とバッサリ。iPhoneアプリ市場が依然として“ホットな状況”だとしながらも,「じゃあiPhoneアプリが儲かるのかといば,そうでもない。1本”当たり”がでれば回収できると考えて投資をしつつも,投資した20本すべてが全滅だとか,そういう状況が増えてきているのが実情です」と語る。

切込隊長こと山本一郎氏
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 山本氏の話によれば,iPhoneアプリの開発コストは,高騰していた一時期からは落ち着いており,北米では平均5万5千ドル前後,中国では2万ドル前後という水準に収まっているらしいのだが,一方で,低コストで制作されるアプリが乱立した結果,せっかく作ったタイトルが埋もれてしまうなどの問題が顕在化しており,「あるデータによれば,ビジネスベースで作った98%のアプリが採算を取れていないという数値さえある」のだという。

 とくにワールドワイドでの競争を見据えた場合,アイデア一発勝負で面白いものを作れば売れる!という状況はすでになく,「多数の顧客リストを抱えているか」「強力なIPをベースにできるか」「莫大な広告予算が使えるか」などで,売れるタイトルが決まってしまうということで,小規模開発だから個人事業者が参入しやすい,というのも,もはや幻想になりつつある現実がうかがえる。

 このあたりの話は,個人的には,インターネット黎明期の「ホームページブーム」というか,誰でも世界中に向けてお店を出せます! 的な話を連想してしまうわけだが,当時のそうした個人ECショップの盛り上がりも,結局は大手ブランドの通販サイトやAmazon,あるいは楽天のようなアグリゲーターに集約されてしまったという流れがあり,結局のところフラットな環境であればあるほど,大資本やブランドが幅をきかせるというのは一つのゴールデンルールなのかもしれない。ちなみにソーシャルゲーム市場も,おおよそ似たような理由で,すでにレッドオーシャン化している状況だという。

 とはいえ,ゲームビジネスを俯瞰的に捉えた場合,そうした新興市場にまったく取り組まないわけにもいかない。では,どうすればそうした新しいゲームビジネスへの投資を呼び込めるのだろうか。あるいは,そのビジネスを形(利益)にしていけるのだろうか。
 その疑問に対して山本氏は,「投資家は,作品一つ一つの採算性などはほとんど見ていない」と述べる。つまり,持っているIPの強さであったり,制作基盤/制作体制の良し悪し,あるいは海外市場や他のプラットフォームへの展開の幅など,中長期的な視点で考えることが多いというのだ。

 曰く,「ゲームメーカーさんでありがちな話として,今後のビジネス展開について話を聞くと,この作品は○○さんが先頭に立って作るんです!だとか,そういう話で終始してしまうことが多い。そうではなくて,その作った作品を誰にどう売って利益を出すつもりなのか。投資家が気にするのは,作品の良し悪しではなくて,あくまでそちら側なんです」と,その視点の違いを説明する。

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 また,投資の規模感も大きな問題だ。例えば,コンテンツは水物だという話がある。どのコンテンツが当たるかを判断するのはとても難しいし,仮にコンテンツの成否を一つ一つ判断するとしても,それは効率が悪いし手間も時間もかかる。よって投資をする側の観点から考えると,投資の規模を増やして“均す”ことで,そのリスクを軽減しようと考えるのだという。

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 つまり,作品一つに投資するのではなくて,作品10〜20個(を作れる制作体制)に対して投資を行い,そのうえで“当たりの確率をいかに上げるか”が,投資をする側の期待するプレゼンなのだという話である。
 また,「例えば,年俸20万ドル,30万ドルという人間を使って投資事業をやっている側からすると,5000万円の投資案件などは,仮にそれが倍になったとしても”効率が悪い”と見えたりします。よって億単位のバジェット,それこそひと山20億とか30億とか,そういう規模の投資を好む投資家が多いのも事実です」など,山本氏は,投資家側の考え方や視点を踏まえたうえで,交渉や案件獲得に乗り出すべきだと解説する。

 敵を知り己を知れば……という孫子の言葉ではないが,相手側の事情を知ったうえで取り組む姿勢がいかに大事かという点は,投資云々に限らず,世の中のあらゆることに通じることだろう。


投資家のニーズにあったプレゼンテーションを


 ともあれ,逸見氏,山本氏の双方の話からうかがえるのは,とにかく「投資家の目線に立ち,彼らのニーズにあったプレゼンテーションを行うべきだ」ということだろう。

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 とくにゲーム事業に投資を呼び込むうえでは,

 ・スケールメリットや効率化をどう実践していくか
 ・当たった場合にどう利益を最大化するか
 ・外れた場合にどうロスを最小化するか。
   >またそこからどんなノウハウが得られるか


などといった,ビジネススキームを整理したうえで,さらに作品単発の提案(もちろん,作品単体への投資メニューもあるが)ではなく,数回に跨る包括的なビジネスプランを提示した方が,投資家の人には”受ける”……といった感じになるだろうか。
 ちなみにこう書くと,まるで数十億円単位の話以外は通らないように見えてしまうが,そういうわけではなく,例えばソーシャルゲーム会社を立ち上げたいと思ったときに,1000万円のプロジェクトを10個ひとまとめにして提示するなどとして,上記で挙げた「リスクを分散する」「リスクを最小化する」などといった,投資家的な視点を取り入れてプレゼンしよう,という話である。

 コンテンツビジネスは,確かに水物である。しかし,だからこそ「その他の部分」では可能な限り合理性を追求するというのは,ビジネスのあり方として非常に正しい姿勢なのだと思う。単一のプラットフォームでビジネスが完結していた昔ならいざしらず,環境が複雑化した昨今のゲームビジネスにおいては,そうしたリスク回避/リスク分散の考え方が,ある意味でもっとも求められているのかもしれない。
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