連載
【切込隊長】打倒ローマを目指すケルト文化の挑戦(前編)
切込隊長 / アルファブロガーにしてゲーマー。その正体は,コンテンツ業界で今日も暗躍(?)する投資家
切込隊長:茹で蛙たちの最後の晩餐 |
4Gamer読者の皆様,こんにちは。
長らく間が空いてしまったが,第四回めとなる今回のお題は,無事日本語版も発売されたヨーロッパ・ユニバーサリスの系統作,古代ローマをテーマとした拡張キット「ヨーロッパユニバーサリス ローマ:ヴァイア ヴィクティス」を取り上げたい。
今回は,
編集:久しぶりに原稿を送ってきたと思ったら,またマイナーな。これはニーズあるんですかね?
筆者:んー,どうでしょう(長嶋茂雄風)
という,担当編集との熾烈な戦いをくぐり抜けての掲載である。いや,私は面白いと思うんですけどね,これ。マイナーなのは否定しねえけど。ちなみに「何それ」とかいう4Gamer読者は,ただちにこの辺りの記事をご一読頂きたい。
何より,歴史に名を刻む一族や人物の目的や立身出世だけではなく,国家に仕える者同士の協調やいさかいといった人間関係がクローズアップされており,より「人間くさく」仕上がっている点は特筆に値する。その国家の大目標に挑むプロセスを,大所高所から俯瞰しつつ,人間関係を調整し,ひとつひとつ課題に立ち向かっていくのが,本作のリアルさ,面白さのひとつとなっているのである。本作は,単なる覇権争いや他国との戦争だけがクローズアップされているだけのゲームではないのだ。
※Paradox Interactive社が手がける歴史ゲーム群を指す
まぁとはいえ,これを面倒くさいと見るか,「リアルだリアルすぎるうわーおもしれー」と観るかは,プレイヤー次第であろう。ただでさえ現実世界で人間関係に疲れている方々は,ゲームの中の無闇に現実味のあるシステムに直面して,複雑な心境になってしまうかもしれない。
このゲームのつまらなさと面白さは,いわば表裏一体なところがあり,それは悠久のときを国家や地域,住民や政治家らと共に歩む,その歩み自体が鬼のようにノロイという点に起因する。下手をすると,プレイ開始から百年経っても,国全体が良くなった手応えをまるで感じられない場合すらある。
延々と蛮族に攻め立てられ,対策を打って何とかやりくりしている間に兵隊に出せるマンパワーが不足して,国力を増大させる間もなく疲弊してたりするわけだ。で,百年経った頃にローマが怒涛の勢いで攻め寄せてきて,飲み込まれたりするのだ。漫然とプレイしているだけでは,激動の時代で激しく成長するローマほか列強に蹂躙されるだけで終わってしまう。何のために私はプレイしていたんだ。私の20時間を返せ。そういう思いも,一度や二度ではない。
今回は,このゲームの中でももっとも文明から隔絶された未開の地,旧スコットランド,ケルト文明下の「ピクティイ」を選んでみた(もちろん,当時は現在でいうスコットランドという概念はない。あくまで便宜上スコットランドといっているに過ぎないことはご容赦願いたい)。
プレイの目的は,スコットランド発のピクティイが,イングランドを征服しアイルランドを勝ち取って,肥大化したローマの宿敵へと見事成長し,ローマ文明とタメ張る凄い歴史を作り上げてやろうじゃないかというロマンの実現にある。ローマ地中海文明にできてスコットランド北海文明にできないことはない。いや,北海文明なんて当時ねえけど。
とはいえ,何ですかこの絶望的な辺境の国は
ゲームを開始して,ランダムで作成された元首はブリトマリス・エリトウィスさん。名前だけはバッチリと古代ローマ風で,部族社会らしく軍事に秀でた人物のようだけど,「無能」で「嘘つき」で「雄弁」。どうなってるんだろう,スコットランド。いやまぁ,このゲームは全体を通じてアホみたいな属性がついた元首が山盛り出てくるんですけど。それにしたって,これは私も不安でお腹いっぱい胸いっぱい。能力的には10点満点で軍事8は立派だがカリスマは5と平凡,技量は4というあたりは,棟梁というより現場監督か中小企業社長のそれに近い。国レベルで考えると困ったもんだ。
一方で,我らが運命の宿敵のローマ帝国だが,まだイタリア半島の統一へ向けて貴族制が定着したばかりであるので,史実からしてもイングランドにやってくるまで百年以上はかかる。いずれ目にするであろうローマ軍を返り討ちにし,イングランド水道の藻屑にしてやる日を夢見て,まずはイングランド統一へレッツゴーだ!
ゲーム開始してから初めて見た我が国元首のポートレート。……何というか,一言で言うと「愚鈍」 |
部族社会のため,大事な国策スロットもわずか一つ。ゲームシステム的には「お前らには発展なんてさせてやらね」というデザイナーの強い意志が感じられる |
と,意気込むものの平凡な日々
このゲームは隣が蛮族のいる空白地であったとしても,自国の文化レベルが50以上になり,人口が10ユニット以上に成長しないと殖民を行うコマンドを押すことすらできない。 当然,僻地にいるピクティイの皆さんの文化レベルが50もあるなんてことは考えられず,当面は,順調に文化レベルが成長するよう,ひたすら安全に安全を期して貝のようにスコットランド高地地域に引き篭もり,ハイランダーな生活を送らなければならない宿命にある。
とはいえ,イングランドが未開であるということは,周辺地域には蛮族がたくさん住んでいる,ということでもある。その蛮族がいったん蜂起すると,これがまた強いのなんの。平気で一万人以上はつるんでやってくるので,小国が普通に武装した程度では太刀打ちできない。一度撃退しても,他の未開地で蛮族ファイターを補充し,さらに強大になった蛮族どもがやってくる始末であって,どうしようもないのが実情である。まあ,こっちも蛮族に毛の生えたようなものなのだが,マジでどっちが蛮族でどっちが文明国なんだか分からん。
また世界の僻地である我が国周辺では,他の国の海軍などが来ようはずもないので,海軍などは鬼の勢いで解体し,予算の許す限りの陸軍を揃えて,我が国最強の武力9を誇るガルビスさんに軍隊を任せる。といっても,4部隊4000人ぽっちだけど。ただ,そこは頼れる漢・ガビウスさんで,軍備を整えるや否や,二度ほど10部隊の蛮族がやってきたのを蹴散らしてくれた。さすがガルビスさん仕事ができる。やはりこうでなくちゃ。
ちなみにこのゲーム,武力1の差は結構致命的で,兵質が良く兵数2倍を率いた武力5の武将を,民兵クラスの戦力しか持たない武力10の武将が木っ端微塵に打ち砕く。戦闘の詳細を見ると,少数部隊が二重になった多数の敵を打ち破る雄姿が見られるのだが,きっと三國無双みたいな状態になってるんだろう。本人が敵ふっ飛ばしてる風の。
そんなこんなをしている内に,元首のエリトウィスさんが執政を開始するや否や結婚。やれめでたや。野心達成。結婚したかったんだね,元首。気持ちは分かるぞお疲れ様。しかるのちに仕事をボイコットする部下が続出,何だろうと思ったら忠誠心がまるでないだけでなく無能な部下ばっかり。何度もこのゲームをやっている私だが,ここまで壊滅的な能力しかない部下と低い結束の国は初めてだ。みんな牢獄送りにしてやる。なんだ,その武力1とか2とかのオンパレードは。クビだクビだ全員クビだ。暗殺するのも金がかかる,もったいない。お前らなんてずっと牢屋に入ってろ。
娶った女房のほうが,旦那よりはるかにカリスマ性あり。このゲーム,女性を官職に起用できないが,軍事や技量などの各パラメータがあるので平気で「軍事10」の嫁とかいる。ヤバイ。お前の家庭の中がヤバイ |
「こんな魅力のない元首に仕えられるか」と言わんばかりの一桁忠誠心の部下を牢屋へ連行。しかも本人は武力1カリスマ0技量0という名無しさんなみの低能力 |
さて,部族社会には,国を支える5部族全部が役職に就いていないと安定度が鬼のように下がるという問題があり,さらに本作は,一連のヨーロッパ・ユニバーサリスシリーズのように安定度は放っておけば上がる,小さい国ほど早く上がるというものではなく,金をかけなければ安定度が回復してくれないという微妙仕様が入っている。
それゆえ,収入が泣けるほど乏しいピクティイにとっては,キメ細やかな人事は非常に大事。うっかり5部族の誰かが一門全員職にあぶれてるのに気づかず放置していたりすると,じゃんじゃか安定度が下がってたいへん困るハメになる。
などと言いつつも,時は容赦なく進んでいく。しばらくして族長元首のエリトウィスさんが死に,その後を継いだ将軍のガルビスさんも老衰で死亡。それを継ぐのはコレイスさんで武力7と大変不安な状況になって参りました。ここまで約40年経過したんですけど,ピクティイは1平方メートルも領土が増えていないという体たらく。そろそろ拡大するきっかけぐらいは欲しい……。
ついに植民地化! ピクティイ拡大の狼煙が上がる
とか思ったら,いきなり反乱が発生して困惑するの巻。誰だよ,反乱起こしたの。処刑しちゃうぞ |
反乱の首謀者はこんな奴でした。何でこんな奴に煽られて反乱起こしちゃうのかな君達 |
おお,ピクティイいきなり急拡大! そのまま逝くぜと思いきや反乱軍が出現。しかもその首謀者は「統合失調症」で「臆病」で「気さく」な人。何ですか,その大変微妙な人物特徴は……。そしてそんな奴に反旗を翻されて内乱に陥ってしまう我が国って。こんな戦争で死んだ奴,本当に無駄死にだな。
で,ちょっと領土が拡大したところでいい気になって,ピクティイが次なる作戦を検討していた頃,ローマの方は大成長を遂げており,物凄い勢いで大西洋方向へ進出してきていたのであります。おいおい,イスラム勢力に対抗するかギリシャ行くかカルタゴに攻め込めよローマ人。こっち見んな。低いほうへ流れてくるんじゃない。
この後,結果としては想定よりも100年以上早くピクティイはローマとの対決を強いられることになるのだが,思いがけぬ領土拡張に酔いしれるこの頃のピクティイ人は,そんなことを夢想だにしなかったのであった。
プレイヤーもびっくりのローマ大侵攻。ちょっと勢力拡大スピードが速い気がする。ガリア人にはもう少ししっかりしていただきたい…… |
ローマの肥大化と侵攻がフランス・大西洋方面であるのを見て,あわてて隣も攻めて占領。少しでも人口を稼がなくては |
とか何とか言っていたら,ローマで反乱軍が発生。本作品は,大変内乱が多く発生するようにできております……。これは「ヨーロッパ・ユニバーサリス3」における植民地の独立戦争と似た感じであり,本作の醍醐味といえば醍醐味なんですけどねえ。
急成長のローマで内戦勃発! 赤組も白組も頑張れ! いつまでも戦ってて! |
快進撃を続けるローマ反乱軍の皆さん。なんかえらいことになってるぞ |
しばらくしたら,反乱軍がローマ全土を掌握,昔どおり普通のローマ帝国にカンバック。ひでえ |
その直後,今度はグラックスさんがローマで反乱。そのついでに我が国との交易路までキャンセル。収入を交易に頼る我が国涙目 |
とはいえ,このゲームの味わいが何かと問われれば,それはやはり人事であろう。
例えば,若い頃からそれなりに頭角を現していた人物が任官できるようになったら,おもむろに担当官につけてやる。そうすると,稼ぎが良くなって生活が安定したのを見た女性が,我先にと求婚する。何しろこのゲーム,人材の能力はある程度ランダムでやってくるから,良い人材が軍団長や担当官,総督など各職に行き渡るようにするには,一定数の家族を意図的に作っていかなければならない。将来,宮廷の人材プールに入る子供を生むのは結婚したカップルのみだからだ。
したがって,多少無能でも官職につけてやって,その社会的ステータスに釣られて寄ってきた女と結婚したところを,おもむろに解任。もっと優秀な奴を抜擢する,そしてそいつも結婚する,というのが弱小国の必勝法たりうるのだ。きめ細かい人事と環境への柔軟な対応で勝つ――それが弱小組織の醍醐味ってもんです,ええ。
さて,しばらくして先代が亡くなったところで,今度は「敬虔」で「がさつ」で「寛大」で「皮肉屋」で「狂信的」で「控えめ」なエリトウィスさんが首長元首に就任した。軍事能力はなんと3。ああ無能。冬の時代がやってくる感じがしますねえ……と思っていたら,10年ほどであっという間にぽっくり他界。その後,たすきがけ人事でコレイスさん首長を継承したのだが,やはり無能な上に,今度は政敵が多くて身動きが取れない。しかし,たすきがけ人事で穏便昇進,これって何て日本企業?
そして,ピクティイが人材不足に陥り足踏みしているなか,ローマは快調に領土を拡大し続け,ついに大西洋まであと1プロヴィンスというところまできやがった。ヤバい。激突はそう遠くない。っていうか,こっち来るなよ。いいから,エジプトとかカルタゴと戦えってば。
ピクティイ,文明化への幕開け というか幕こじ開け
というのは,国家の特徴である国策は非常に強力なメリットを軍隊や社会や経済に与えるのだが,部族社会では一個しかこれを持つことができないのだ。高度な社会技術を獲得することや政治体系の変更をすれば国策スロットは3つになり,4つの国策を持つローマに近づくことはできる。
そのためには,ピクティイは一刻も早くどっかの日本企業のような部族間持ち回り人事によるクソ組織から脱し,軍事共和制などの政治体系へと進化しなければならないのである。
ところが,このゲームでは元首である首長の能力(技量)が8以上なければ政治体系を変更することができない。部族社会のジレンマはここにある。つまり,みんなが反対しないような人望はあるけど,能力的には三流の人材がトップに座りがちな部族社会では,いつまで経っても政治制度を変更できるような優秀な元首を据えることができないのだ。
仕方がないので,無能な元首が就任しそうになる前後に,金を使ってそいつらをすべてあんさ… いや,不慮の事故などが発生して,惜しくも元首になれませんでした残念という事態が何度か発生し,最終的に,ついに,ついに技量の高いおっさんが首長元首に就任することができたのである!! その名もシノクリス・エリトウィスさん。もちろん架空の人物である。だってピクティイには有史がないんだもの……。
そして,念願の軍事共和制へ移行。ゲーム開始から,実に120年後のことである。これで,ピクティイは世界の辺境から,文明の揺り籠へと脱皮するチャンスを得たのだ |
政治体系の変更に伴って,国民から不満が続出し,安定度が急落。しかし,そういうときのためにいままでせっせと貿易して金を貯めてきたのだ。いまが吐き出すチャンス! |
というわけで,エリトウィスさんが就任するや否や,おもむろに軍事共和制へと移行。辺境のピクティイに議会が誕生し,元老院が作られて議会政治による近代的な政治指導体制がここに確立するに至った。
……と,そうこうしているうちに時代の扉を開けた元首のシノクリス・エリトウィスさんは,自分の役目は終わったとばかりに惜しまれつつ急逝。その後は,集団指導体制の下,新たな元首(アルコン)としてディウィコ・デゥラティスさんが就任。しかし,就任するや,「生きるのがつらい」とか言い出す始末。このままいくと,そのうちいきなり記者会見を開いて「あなたとは違うんです」とか言って辞任しかねない。本当にこいつ,大丈夫なのか……。
で,肝心の議会は議会で,馬鹿ばっかりです。いきなり何を議決したのかと思ったら,「ローマに宣戦布告しろ」とか「エジプトに宣戦布告しろ」とか,死ぬほど間抜けなことばかりを言います。こいつらほんと何考えてるんだ。頭がおかしいのではないでしょうか。
片田舎の地方議会の分際で,世界覇権を争うローマやエジプトを向こうに回して「戦争しろ!」と議会で主張する馬鹿,そしてそれをを選んだ選挙民も終わってる。現代に例えれば,区議会で無抵抗宣言をしちゃったり,インド洋給油反対を叫んだりするようなもんだろうか。なんにしろ,まともなことひとつ言いやしない。ヤバい。ヤバすぎる。あらゆる意味で,このゲームはリアルすぎる。
おまけに,我が国は結構な収入を交易に頼り,事実上交易で飯喰ってるというのに,議会での審議の結果,他国との交易路を開設すること自体を禁じられてしまった。何だそれ。っていうか,どうなっているんだこの国の議会は。責任者出て来い。こんな奴ら選んだ有権者は誰だ。
我,絶望す
ああ,いったい何のために私は議会政治を望み,閉じた部族社会から市民や自由民に開かれた共和制への転換を志したのだろう。まさかこんな馬鹿ばかりに囲まれて,合理的な国家の運営も満足に進められないとは。現実は厳しい。そしてローマは,602年ついに大西洋へその領土を到達させ,我が国と海路で接することとなった。いまだイングランドとアイルランドの半分しか領有できていない我がピクティイは,このような状況下で来るべきローマとの戦いの日に備えなければならない。
さらに各都市では,いまなお数年に一度やってくる蛮族との戦いに怯える毎日を送っており,都市の中では各派閥に分かれて議席を争っている。バラバラになりゆく新生国家ピクティイを束ね,ローマの侵攻を食い止めることができるのか。あるいは,史実どおりにあっさり上陸されて,ローマ帝国の単なる未開の一辺境として歴史書にすら残されないピクティイのままで終わってしまうのか……。
と言うわけで,担当編集の「え,これ続くんですか」とか言う発言を振り切りつつ,次回に続くのであります。
■■切込隊長■■ 言わずと知れたアルファブロガーで,その鋭い観察眼と論理的な文章力には定評がある。が,身も蓋もない業界話にはもっと定評がある。ゲーマーとしても知られており,時間が無いと言いつつも,膨大に時間を浪費するシミュレーションゲームを愛して止まない。日頃から「基本,中小企業やベンチャー企業には良い人材って来ない」という切込隊長だが,曰く「どっか問題のある,クセを持った人とか,自己アピールが下手だったり人付き合いに問題があったり」とのこと。……私の悪口はそこまでにして頂きたい |
- 関連タイトル:
ヨーロッパユニバーサリス ローマ:ヴァイア ヴィクティス【完全日本語版】
- 関連タイトル:
ヨーロッパユニバーサリス ローマ【完全日本語版】
- この記事のURL:
キーワード
(C)Paradox Interactive 2009. All rights reserved. Europa Universalis: ROME is a trademark of Paradox Interactive.