連載
【ヒャダイン】「Ghost of Tsushima」に見た戦争のリアル
ヒャダイン / 音楽クリエイター
ヒャダインの「あの時俺は若かった」 |
第77回「『Ghost of Tsushima』に見た戦争のリアル」
ども。4Gamerの担当さんから「『Ghost of Tsushima』,めちゃくちゃ面白いですよ!」と連絡をいただいたので,さっそく購入&プレイしました。あのSucker Punch Productionsが開発したオープンワールドアクション。海外勢が日本のオープンワールドを作る,となると日本人としては自ずと厳しく正誤判定したくなるってもんです。
日本人ってとくに,「日本」に対する正誤判定が厳しいなと思います。そもそも日本語自体がすごくデリケートな言語で,「てにをは」を一つでも不自然に間違えていたら,どんな精巧に作られたSPAMメールでも「はいはい,外国からの詐欺メール,乙」となりません? あと意味的には完全に合っていても言い回しが少し変なだけで見抜くこともできますよね。例えば文頭に「私は期待しています!」とかいう表現があるだけで,「いきなりこんな言い方しねえよ」と切り捨てることができる。そのくらい日本や日本語に対しての正誤判定は厳しいと思えるんです。
一例に挙げてしまうのも申し訳ないですが,タランティーノ監督作品の日本の描き方とか,見事に「誤」でしたよね。もちろんそういった「誤」の日本もエンタメとして楽しんで観られるのですが,果たして今回のGhost of Tsushima,見事に「正」でした。本当に海外勢が作ったの!? 嘘でしょ!? っていうくらいに,正しい。
僕は歴史の専門家ではないので,史実に照らし合わせた判定はできませんし,地形などはゲーム的にアレンジされているので,当時の対馬(もちろん今の対馬)と同じフィールドが広がってるわけでもありません。ツッコミたくなるポイントもちらほらある。でも正しい。侘・寂(わび・さび)の精神や,一見理不尽な武士道精神,和歌や神社,稲荷信仰とか「なんでここまで知ってるの?」というレベルです。
でね。やはり海外資本はやべえな,と痛感したのがグラフィックスです。美しさ,迫力,物量,人物の動きや表情の豊かさ,演出のスタイリッシュさ,画角のオシャレさなどなど,もうお手上げですよ。究極を見た,そんな感じです。
一つ例を出すと,ストーリーの途中で奥義を求めるクエストみたいなものがいくつか発生するのですが,その奥義の成り立ちの説明が絵巻をリアルタイムでサラサラと書いていくような演出で,これがまためちゃくちゃかっこいいんですよ! 和を感じつつもハリウッド的な演出にも感じる。これ,どこかで見たことがあるなあ,と思ったらそうだ! Sucker Punch Productionsの名作,僕のゲーム人生の中でもトップ5には入る作品「inFAMOUS Second Son」の登場人物紹介のアレだ!
これに限らずで,そう考えてみるとGhost of Tsushimaのスタイリッシュさには,inFAMOUS Second Sonに通じる部分が多いんです。inFAMOUS Second Sonについては,ずいぶん前に記事を書いたのでまた読んでください(関連記事)。inFAMOUS Second Sonでは,主人公がスプレー缶を振って壁にバンクシーみたいなステンシルアートを描くんです。失敗はなくて必ず成功するんですが,そのちょっと面倒臭い過程がめちゃくちゃ楽しい。
Ghost of Tsushimaでは和歌を詠むのがそれにあたるな,と感じました。地面に座って風景を見渡して,木とか水とか山とかから一つを選ぶことを3回繰り返すと,それぞれに応じたフレーズが組み合わさってオリジナルの和歌ができちゃうんですよ。それを声優さんがスラスラと詠んでくれる。美しい風景を見ながら歌を聞くなんて侘・寂以外の何物でもない。ステンシルアートもそうだし和歌もそうだし,アートへのリスペクトを強く感じます。
さて,前置きが非常に長くなりましたが本題に入ります。このゲームのストーリーなんですが,元寇によって蒙古に侵略された対馬を舞台に,境井 仁という一人の侍が侍道を破り,冥人としていろんな手を使って蒙古を倒しながら島を,さらには日本を救っていくというのが大筋です。戦国時代(1500年代ね)を扱った作品はとても多いですが,鎌倉時代を描いたものっていうだけでもレアだなあと思います。
で。最初に気付くことですがこの作品,登場人物の顔がめちゃリアル。さらに言ってしまうと,イケメンや美女がマジでいません。主人公もブサイクではないですが生々しい男の顔。ヒロイン,と言ってもいい「ゆな」という女戦士も全然可愛くはなく,ただただ生々しい女戦士の顔。史実は一旦置いといて,歴史ヒーローを徹底的にイケメンと美女に転化させた既発の作品とは,真逆のアプローチですね。
生々しいのは戦闘シーンの描写も然り。斬ったら血は出ます(設定で変えることはできます)。ここで特筆すべきは毒の表現です。毒の吹き矢で敵を暗殺できるのですが,撃たれた敵は七転八倒して苦しみ,血を吐きながら死んでいきます。ここらへんがやはりアメリカで作られた作品だなあと思いながら最初のうちはプレイしていました。CERO Zのやつって残酷さが求められるんですよよねえ。なんて気楽に考えながら。
しかしストーリーを進めていくにつれ,この描写にもメッセージがあるような気がしてきました。ネタバレにならないように言葉を選んで書いていきますが,このゲーム,とにかく人が死にます。おつかいクエストにさえ,重苦しく救われないストーリーが待っています。戦争のネガティブな部分がこれでもか,と描かれているのです。
やはりゲームだから楽しく勇敢に敵をバッサバサ! というのも好きですし爽快感があるんですが,このゲームにその爽快感は見当たりません。残虐な蒙古軍に散々にやられたから,こっちも残虐なことをしてやり返すという,まさしく戦争の負のスパイラルですよね。それを断ち切らんとするのが侍道,いわゆる「誉れ」だったりするのですが,それを棄てて「冥人」(くろうど)として復讐の鬼になるという血を血で洗う戦争の哀しさよ。
プレイヤーとして蒙古軍と対峙したとき,その殺し方がまあまあエグいんですが,ストーリーで見た蒙古軍の蛮行を見ているので「やられたからやり返すだけ」と,自己肯定して突き進んじゃうんですね。
そこで僕は戦争を知らない世代,平和ボケした自分を見つめることができました。歴史もののドラマを見ても,武将系ゲームをしても,格好いい部分や流麗な部分のみしか追いかけないから,戦争についてのリアルを考えたりはしなかったのですが,元寇も応仁の乱も関ヶ原の戦いも西南戦争も人がぐちゃぐちゃに刺されたり人権を蹂躙するような辱めを受けたり,幼子だって無慈悲に殺されているんですよね。ひどい死体になってそのへんに転がっているわけです。今この文章を書いていてゲボ吐きそうですが,それがリアルなんですよね。
Ghost of Tsushimaでは農民が焼き殺されていたり見せしめで死体が飾られていたり母子が殺されていたり,あとネタバレになるから書けないけど衝撃的な状態で半死半生になっていたり。戦争はこういうことなんだ。争うというのはこういうことなんだ。と落ち込むレベルで痛感しました。
しかし皮肉なことに,そんなリアルを突きつけられているからこそ,その合間で眺める紅葉や川の流れのグラフィックスがなお一層美しく見えます。
そんなGhost of Tsushima,一応クリアしたのですが,次は「黒澤モード」という白黒で画質や音質の悪いバージョン,そう,黒澤映画風の設定でやってみようかなと思っています。まったくとんでもないゲームやで。
■■ヒャダイン(音楽クリエイター)■■ アーケードゲーム「ポケモンガオーレ」の後継機,「ポケモンメザスタ」のテーマソング「見参!ポケモンメザスタ!!」を作詞・作曲したヒャダイン氏。田村直美さんと幡野智宏さんが歌唱を担当しています。「田村さんが昔と変わらずかっこよかったー! 」(ヒャダイン)。 |
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