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ドワンゴが会社ぐるみでハマッた「ブラウザ三国志」。社員が“異様な空気”と口を揃える,当時の様子とは――「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第7回
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印刷2012/07/09 09:00

インタビュー

ドワンゴが会社ぐるみでハマッた「ブラウザ三国志」。社員が“異様な空気”と口を揃える,当時の様子とは――「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第7回

カードの排出率は操作されていると思っていた


川上氏:
 ソーシャルゲームといえば,最近は「ガチャ」についての議論が盛んじゃないですか。

4Gamer:
 そうですね。

川上氏:
 例えば,コンプガチャの次は,「確率変動」について制約が設けられるんじゃないか,みたいな話があると思うけど,そのへんって実際どうなんですか?

4Gamer:
 まぁ,そのあたりはなかなか難しい問題なんですよね。例えば,通常のオンラインゲームの例で言えば,ゲーム内の状況によってパラメータを調整するっていうのは,顧客サービスという意味では「当たり前」だったりもしますし。

画像集#007のサムネイル/ドワンゴが会社ぐるみでハマッた「ブラウザ三国志」。社員が“異様な空気”と口を揃える,当時の様子とは――「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第7回
川上氏:
 そうだよね。例えば,ゲーム内で貨幣価値が暴落したり,バランスが著しく崩れそうなら,やっぱりそれは調整しなきゃゲームの楽しさが損なわれてしまうわけだし。

4Gamer:
 ただ,最近は,お客さんの満足度を上げるためっていうより,ただただ課金させるためだけに操作している,あるいは“そう見えてしまっている”ってことが,批判につながっているんだと思いますけど。

川上氏:
 その意味で言うと,僕らは「ブラウザ三国志」を遊んでいるときから,レアカードの確率は「当然なんらかの操作がされているものだ」って思っていたんですよ。だって仕組みとして,それは簡単にできることが分かっていたし,やった方が効率が良いことも分かっていたから。

4Gamer:
 川上さんは,それこそ2009〜10年頃から,その話をしていますよね。……というか,打ち上げのパーティの席で,開発会社の人に直接聞いていたような……。

川上氏:
 うん。言った言った。「カードの確率ってどうしているんですか?」って真正面から。

佐野氏:
 当然,「そんなことはないですよぉ」って彼らは言うんですけど,僕らは全然信じてなくて。

千野氏:
 実際,レアカードの当選確率については,結構真剣に調べもしたんだよね。だってゲームの攻略情報的には欠かせない部分でもあったし。

佐野氏:
 はい。なんと言っても,我々には廃課金者どもによる豊富な実証データがありましたからね。まぁ,僕らが一体いくら使ったと思ってるんだって話ですよ。

4Gamer:
 総金額は聞かない方がよさそうな規模感ですね……。

川上氏:
 で,いろいろ調べていくと,「社内のIPからカードを引くとレアカードの確率が極端に低い!」とかが分かって来て。だから当時,IP単位で確率をいじってたんじゃないかっていう疑惑を僕らは持っていた。

佐野氏:
 結局のところ“証明”はできないので,真相は分からないんですけどね。

川上氏:
 でも僕らとしては,「確率は操作しているものだ」という仮説を立てて,それを前提にしてゲームを遊んでいたんですよ。

4Gamer:
 それを前提にってどういうことですか?

川上氏:
 つまり,確率変動がズルいだとか,そういう感覚も当時は無くて,確率変動はやってるだろうって前提の下に,「どうその裏をかくのか」っていうのを,僕らは一所懸命に考えていたんです。

佐野氏:
 当時,ドワンゴの面々がめちゃくちゃお金を使っているというのはかなり有名でしたからね。

川上氏:
 うん。実際,ゲーム業界の知り合い経由で,運営元のAQインタラクティブ(現・マーベラスAQL)の人がウチを意識しているって話も聞こえて来たから,当然,僕のゲーム内のアカウントだったり,場合によってはTwitter発言とかも見られているだろうと予想していたんです。

4Gamer:
 まぁ,目立つプレイヤーの動きは管理ツールですぐ分かりますし,優良プレイヤーの動向はチェックされているのが普通ですよね。

川上氏:
 だから,「あー,こんなにSR出ないんだったら,もうゲームやめようかな……」とか,意図的につぶやいてみたりして(笑)。

一同:
 (爆笑)

千野氏:
 やってた。確かにやってた。

川上氏:
 「19時からガチャ回すかー」と,具体的に書いてみたり。

4Gamer:
 ……それは効果があったんですか?

川上氏:
 いや,全然駄目でした(笑)。

佐野氏:
 全然SRカード当たらず。

川上氏:
 我々の脅しには屈しない強靱な精神力を持っていた,きっとそういうことでしょう。

4Gamer:
 ……。

とあるプレイヤーが所持していたカードリスト。これで“一人分”で決して合成ではない
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ゲームを好きじゃない人がゲーム会社をやるべきではない


4Gamer:
 ……そういえば,川上さんは,ソーシャルゲームの一連の問題についてはどういう感想を抱いているんですか? 立場的に言いにくい部分もあるかとは思うんですが,ぜひお聞きしてみたいんです。

川上氏:
 うんまぁ,ソーシャルゲーム全体について言えば,ビジネスとして綺麗かどうかっていうと,「行儀が悪いビジネス」ではあると思いますよね。

佐野氏:
 そうですね。プレイヤーとしては,運営側に踊らされてる/不公平感があるのがちょっと。

川上氏:
 ただ,だからといってむやみに規制したりするのは,僕はどうかと思うんです。ゲームのパラメータって隠れている方が面白いものもあるわけで,そういうのを全部開示しなくちゃいけないんだとしたら,それはそれで,ゲームの作り方に無駄な制限が設けられることになってしまうじゃないですか。

4Gamer:
 確かに。それに,何をどこまで開示するのかっていうのも難しい問題なんですよね。コンプガチャが駄目だからといって,じゃあレアカードの出現確率が結果的に下がっちゃうのなら,プレイヤーから見たらなんの解決にもなりません。プレイヤー的にはなんの解決にもなりません。。むしろ悪くなります。それならば,レアカードの排出率を明示すればいいのかっていうと,これもそういうわけでもなくて,合成だったりスキルの発動率だったり,さまざまところで乱数は使われているわけで。

画像集#010のサムネイル/ドワンゴが会社ぐるみでハマッた「ブラウザ三国志」。社員が“異様な空気”と口を揃える,当時の様子とは――「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第7回
川上氏:
 だいたい,今のソーシャルゲーム界隈の風潮ってさ,サービスじゃなくて利益を前提にしてガチャの確率を操作するわけでしょう? そういうんじゃなくて,本当はさ,もっと「盛り上げよう」って視点でやればいいだけなんですよ。長い目で見たらさ。

佐野氏:
 あれですよ。なんというか,今のソーシャルゲームの空気感って,僕は「ユーザーをバカにしている」ようにしか見えないんです。「お前らこれでもお金を払うんだろ」って。だから,僕はソーシャルゲームが好きじゃない。ほんと,そこに尽きますね。

4Gamer:
 まぁ企業である以上,お金を儲ける方向に進むのは当然っちゃ当然なんですけど……。

川上氏:
 当然とはいえ,極端過ぎるんだよね,今は。

4Gamer:
 でも,繰り返しになりますけど,それでも川上さんは規制には反対なんですよね。

川上氏:
 はい。そこはモラルで解決してほしいし,本来はそうあるべきだと思います。というか,やっぱり今は,ゲームを楽しいと思ってない人達が,単純に回収気分でやってるじゃないですか。それが一番駄目ですよ。

佐野氏:
 まさにそこですよ。

川上氏:
 だって,ゲームをやる人間を馬鹿だと思ってる人がさ,蛇口を開けたり閉めたりしてるわけじゃん。

千野氏:
 そうですねぇ。その意味でいうと,僕はなんというか,常々「なんか普通とは逆だな」とは感じていて。

4Gamer:
 逆,ですか?

千野氏:
 例えば,通常のサービスの場合……オンラインゲームだったり,まぁニコニコ動画みたいなWebサービスもそうですけど,普通は,お金を払ってくれる人には払ったお金に見合ったサービスをして,「より良い体験をしてもらおう」って考えるものだと思うんです。だけど,昨今のソーシャルゲームって「よくお金を払う人からもっと搾り取ろう」みたいなのが見えちゃうのが,やっぱり良くないんだと思いますよ。

川上氏:
 そうだよね。だからさ,ソーシャルゲームは確率変動の規制したりするんじゃなくて,「ゲームを好きじゃない人はプロデューサーをやってはいけない」とか「お金の計算が得意なだけの人はソーシャルゲームに関わってはいけない」とか,そういう規制の方がいいんじゃないですか?

4Gamer:
 ふーむ。

川上氏:
 だって,問題の本質はそこでしょ。形式的な規制を作っても,そこをくぐり抜けるかどうかみたいなことをやっている限り,そんな業界に未来はないと思います。

4Gamer:
 ただ,こういう話をうがって捉えられると,変にドワンゴ(川上さん)に批判が行くような気もしていて。難しいなぁとも思うんですよ。だって,ドワンゴも6社連絡協議会(※)のメンバーじゃないですか。

※NHN Japan,グリー,サイバーエージェント,ディー・エヌ・エー(DeNA),ドワンゴ,ミクシィのプラットフォーム事業者による連絡協議会。ソーシャルゲーム利用環境整備を目的としている業界団体。

川上氏:
 そんなの関係ないって! 僕は今,あくまでプレイヤーとして話をしているんですから。だって,今みたいなやり方を続けていたら,早晩に終わっちゃうことになるよ。誰も幸せにならないじゃん。

一同:
 ……。

佐野氏:
 まぁ何にしても,ちゃんと僕らを“楽しませてほしい”ですよね。

川上氏:
 やっぱり,ゲームはあくまで“面白さ”で語られるべきなんです。それが“建前”であったとしても,そういうものがないと駄目だと思いますね。

佐野氏:
 今はその建前すら語られないですからね。


殴り合うことで生まれる友情,そして共闘


川上氏:
 話を「ブラウザ三国志」に戻すけどさ,あのゲームってバランス的には普通にクソゲーだと思うんですよ。

佐野氏:
 まぁ,ゲームバランスとか全然駄目ですよね。

川上氏:
 でも今回の事例ってさ,例えクソゲーであっても,結局は当人達がどう遊ぶかで全然楽しめるっていう話でもあると思うんだよね。

ゲームが終わった後に催された「ブラウザ三国志 天下統一記念パーティ」の様子
画像集#045のサムネイル/ドワンゴが会社ぐるみでハマッた「ブラウザ三国志」。社員が“異様な空気”と口を揃える,当時の様子とは――「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第7回

佐野氏:
 ツールを作ったり,いろんな検証をしたりってのを含めて,僕ら自身が「ブラウザ三国志」を凄く楽しんだのは確かです。

4Gamer:
 「Ultima Online」とかにも似たようなことが言えますよね。

千野氏:
 そうだよね。だってほかで色々やってた人達がドワクエに入って,「ドワクエって超楽しいですね」って言ってくれましたもん。

佐野氏:
 言ってくれましたね。というか,途中からは「友情・努力・勝利」をコンセプトにゲームをしてましたし。

川上氏:
 そう,少年ジャンプ思想だったんだよね(笑)。

佐野氏:
 それって結局どういうことかというと,戦争が起こったとき,結局何に一番不満を感じるかって言うと,「動かない味方」なんですよ。「こいつ動かねえな」っていうような味方が,凄く邪魔に感じるゲームじゃないですか。

千野氏:
 あー,分かる。

佐野氏:
 でも逆に強い相手だと,「あー,こいつ強いな!」って感じで,ある種の尊敬が生まれるんです。こういう奴と一緒に戦いたいと思う。それは向こうも同じなんですよ。

川上氏:
 そこで変な駆け引きをしないもの大切だよね。正面から堂々と殴り合うことで信頼が生まれる。

佐野氏:
 やっぱり,みんな“頼れる味方”を求めていますからね。それが敵側であったとしても,一回お互いで意識しあえば,コミュニケーションも生まれるから,「一緒にやりましょう」って話になるんです。

千野氏:
 殴り合うことで生まれる友情,そして共闘。

川上氏:
 完全にジャンプ漫画のシステムです。だから,僕らが言っていたんです。口先での外交なんてやめよう。まず,殴る。拳で語ろうって。

千野氏:
 そういう流れもあってか,なんかウチの同盟ってめちゃくちゃ合併しましたよね。

佐野氏:
 基本的に戦ったところはことごとく仲間になりましたよね。競争相手だった「土佐」と「魏武」以外は。

川上氏:
 なので,ドワクエ同盟の後半は,途中から仲間に入ったピッコロやベジータが主戦力みたいな感じだったよね。ドワンゴ社員は空気。

佐野氏:
 はい。途中で参加した“強敵(とも)”の皆さんが本当の主役でした。

川上氏:
 だから,世間的には「ドワンゴが会社ぐるみでやってた」って思われてるんだけど,実はそうじゃないんですって話ですよ。

4Gamer:
 いやいや,十分に会社ぐるみだと思いますが……。

川上氏:
 まぁしかし,会社の方で言うとさ,「ブラウザ三国志」での活躍で,佐野くんの名声はドワンゴ社内でほんとに轟いたよね。

千野氏:
 確かに。

佐野氏:
 またその話(笑)。

川上氏:
 だって,そこに居る千野くんだって,最初は佐野くんをバイトで入れることにさえ反対してたんだから。なんであんな奴!って。

千野氏:
 んー(苦笑)。

川上氏:
 だから,本当によかったなと思って。よかったよかった。

佐野氏:
 もうその話はいいですって……。

川上氏:
 しかし,今日いろいろ話していたら,また何か新しいゲームをみんなで遊びたくなってきたな。

画像集#043のサムネイル/ドワンゴが会社ぐるみでハマッた「ブラウザ三国志」。社員が“異様な空気”と口を揃える,当時の様子とは――「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第7回
千野氏:
 やりたくなってきましたねぇ。

佐野氏:
 次ですか? うーん,どのあたりがいいんだろう。

川上氏:
 「ドラゴンクエストX」とかは?

佐野氏:
 え,あれは競争要素あんまりないですよ。

川上氏:
 そうなの?

佐野氏:
 はい。だから,僕らが遊ぶのは別の何かがいいんじゃないですか。もっと殺伐とした感じの。

川上氏:
 まぁ堀井雄二さんはそんなの作らないか。やっぱり,他人を蹴落とすようなゲームがいいよね。

佐野氏:
 そうですね。殺し合うようなゲームがいいですね。

川上氏:
 楽しみながら他人を蹴落としたりできるのが,ゲームの醍醐味だよね。“現実のゲーム”だとそうはいかないから。

佐野氏:
 じゃあなんか探しておきます。

川上氏:
 しかし,なんか僕がこの連載で語りたいゲームの話はだいたい終わっちゃったんですよ。これで最終回ですかね。

4Gamer:
 えええ? でもきっと,この連載を楽しみにしている読者さんはかなり多いと思いますよ。

川上氏:
 そうなのかなぁ。

4Gamer:
 では,最初に打診したような「対談企画」はどうですか。当初は「めんどくさいからヤダ」って言われましたけど。

川上氏:
 対談かぁ。ま,それもアリかもね。

(つづく)

画像集#040のサムネイル/ドワンゴが会社ぐるみでハマッた「ブラウザ三国志」。社員が“異様な空気”と口を揃える,当時の様子とは――「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第7回

川上量生(かわかみのぶお):
ドワンゴ代表取締役会長。1968年,愛媛県生まれ。京都大学工学部卒業後,ソフトウエア専門の商社勤務を経て,1997年に株式会社ドワンゴを設立。携帯電話向けサービス「いろメロミックス」などをヒットさせ,同社を東証一部上場企業へと成長させた。近年では,ニコニコ動画を成功に導くなど,独特の考え方をする実業家として知られる。2011年1月に突如としてスタジオジブリに入社し,プロデューサー見習いとして,鈴木敏夫氏に師事している。

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