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徳岡正肇のこれをやるしかない! / 第4回:「大戦略VIII DX」でデラックスにやるしかない!
「大戦略VIII DX」は,2006年にシステムソフト・アルファーから発売された「大戦略VIII」の改良版に相当する(拡張キットではなく,ソフト単体で起動)。安定性など,ゲームの根幹部分で若干の問題が発生していた点に関しては,おおよそ改善が図られており,トータルでの完成度は明らかに向上している。
ゲームが目指すものや,ゲームのシステム的な特徴に大きな変更はないので,以前のレビューを参照していただきたい。今回は主にDXでどこが変わったのかを踏まえ,改めてシステムソフト・アルファーの看板ともいえる(最近では看板に娘さんが加わった気がするが),ナンバリング大戦略の最新作を見てみよう。
最初にいえるのは,全体的なレスポンス速度の向上である。今回,2006年にレビューしたときと同じ環境を用意して比較したが,明らかに動作は軽快になっている。前作ではクリックしたはずのボタンが認識されないことがしばしばあったが,本作ではそういったストレスはない。当たり前のことだといわれるかもしれないが,非常に重要な改善点であると思う。実際,これができていない作品を目にする機会は意外と多い。
また,アプリケーションを切り替えると即座にゲームが強制終了させられるという仕様もなくなった。前作では「Windows Messenger」や「Skype」「Google Talk」といったチャットクライアントと併用していると,画面右下隅のユニットを操作しようとする→偶然その瞬間にポップアップが上がる→アプリケーション切り替わり→強制終了という心臓に悪いコンボがあったが,今回は発生しない。ただし動作が不安定にはなるので,切り替え後は即セーブしてゲームを再起動させたほうがよいようだ。
ボタン配置などインタフェースの改善部分については,賛否が非常に出やすい部分だと思うが,ここは慣れも大きいので難しいところだ。
個人的には,右クリックが基本的にキャンセルボタンとして機能するというパッド的な動作は,利便性が良いものだけに,もう少し全体に敷衍してもよかったように思う。また,できればESCキーなど,直感的なキーにもキャンセル効果をデフォルトでバインドしておいてほしかった。「キーボードを使わずに,マウスだけで操作できる」というのは,必ずしも簡単で快適な操作と同義ではない。
ゲームの進行は,前作は2D画面で作戦指示,3D画面で進行という形式だったが,2D画面上だけでも進行させられるようになった。これは非常にありがたい。プレイヤーの立場は総指揮官であり,指令が指揮地図の上で発行できる以上は,現状/損害報告も指揮地図の上で受領できるというのが正しいシミュレーションであろう。
総じて言えば,ゲームとしての進行は明白に良好になっている。しかし,それゆえに明らかになってしまった弱点というものも存在している。これについては,のちほど解説しよう。
DXでは,データ面での補強も行われている。
まずすぐに分かるのは選択できる国の種類が増えたことで,前作の8か国(日本,アメリカ,ロシア,ドイツ,イギリス,フランス,中国,イスラエル)に加えて,イタリア,インド,スウェーデン,韓国の4か国が追加された。
これに伴い兵器データも100以上追加されており,登場する兵器の種類は実に390種類オーバー。大戦略らしい,マニアックな兵器も多数登場する。マップも15種類が追加されているので,ボリュームとしては十分だろう。
グラフィックスやテクスチャも前作に比べるとだいぶ改善されている。もっとも,本作ではほとんどのプレイヤーが2D画面だけでゲームを進行させるだろうから,小さなLiveカメラの中で動く3D画像だけの話になるとは思うが。
AIは総合的に強化されている。これはもちろん敵の強化という面でもプラスだが,プレイヤーが下した大まかな命令をコンピューターが実行するのを見守るというスタイルのゲームシステムなので,プレイヤーにとっても即戦力になっている。
ともあれ,全体的に敵は火力をうまく集中してくる傾向にあるので,索敵による敵陣把握と,自軍の火力形成を意識しないと,突然の砲撃で戦列崩壊という憂き目を見ることも多くなった。
なお,新たなギミックとして,戦闘経験をつんだ部隊を「マイ部隊」として違うマップに引き継げるようにもなっている。ちょっとしたRPG的要素だが,自分なりの精鋭部隊を作って戦うというスタイルも面白いだろう。
さて,先ほど一度棚上げにした問題点を。
ズバリ言ってしまうと,本作は操作性や情報閲覧性を改善した結果,2D画面でゲームを進行させると,どうも普通のRTSっぽい雰囲気になる。もちろん実際には索敵の重要性と難しさ,また部隊を自分の思うままにコントロールできるわけではないことがあいまって,ゲーム性は異なるのだが,見た目は酷似する。
そうなったとき最初にひっかかるのが,各部隊にリアルタイムで指令が出せないことだ。もちろんポーズをかけて指令を出すというスタイルで一向に問題はないのだが,今度はそのポーズを解除するときにわりと時間がかかる(PCの思考時間があるのだ)という状況に突入する。
RTSでは,ポーズをかけたとしても,ポーズを解除すればすぐにゲームが動き始めるのが当然だ。だが本作では,そこにAI思考時間が挟まれてしまう。これは弱点といっていいだろう。
もちろん,本作は一般的なRTSとは異なる,どちらかといえば,頻繁にポーズを使って,じっくりと考えて部隊を動かすことに力点が置かれた作品である。しかしそのことは,類似作品よりも操作性が低いことを肯定する理由にはならない。
そもそも,「RTSだから考える時間が十分に与えられない」というのは,誤解である。対人戦よりもソロプレイを重視した設計で,ポーズができたり,ゲーム進行速度を変化させたりできるRTSはいくらでもある。重大な問題が発生したときには強制的に時計を止めてくれるRTSシステムだって存在するのだ。それらに比べて,本作が一方的に思考に特化しているわけではない。
にも関わらず,ポーズを解除するのに長時間かかるのは,困ったことだ。この時間がわずらわしく,なるべくポーズをかけずにプレイしたくなるのも問題だ。PCのスペックを上げれば思考時間は短くなるが,ポーズ後のウェイトは普通はゼロなのであって,「短い」では物足りない。
以上,ネガティブな評価も書いてしまったが,総合的にいって,本作はさまざまな野心的な試みをゲームとしての形にまとめることにだいぶ成功してきているように思う。
とくに,最高指揮官であるプレイヤーが関与できる範囲を制限する(=前線は与えられた命令をもとに各自の判断で戦闘する)という発想は,PCの能力を利用したストラテジーゲームにとって,重要な方向性の一つだ。
あとは,この骨格に対して,どれだけふさわしいデータやギミックを導入していけるか,という問題であると思う。ちょうど「ヨーロッパ・ユニバーサリスIII」が「イン・ノミネ」で完成を見たように。例えば軍事ドクトリンの違いを踏まえた「国別AI」のような,具体的に数字にならないデータが埋め込まれれば,ストラテジー界にとって大きな前進になると思う。もっとも,それが「大戦略らしさ」とどう適合するかは分からないが。
しかしそう考えると,もしかするとこの骨格にもっともフィットするのは,萌えちゃったりしている大戦略かもしれないという予感には,やや複雑な思いを抱かざるを得ない。前線での自動行動制御は,ライトに楽しむなら,キャラクターゲームには非常に向いているわけで……。
ともあれ,さまざまな意味で今後に期待してみたい。なお,現在公式HPではver1.01aのパッチが配布されており,インタフェースの向上も含めたいくつかの不具合修正が行われているので,必ず入手しておこう。
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大戦略VIII DX
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