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[CEDEC 2012]次世代AAAゲームのコストは3倍に? Tim Sweeney氏が語るゲーム業界の現在と未来
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印刷2012/08/22 13:13

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[CEDEC 2012]次世代AAAゲームのコストは3倍に? Tim Sweeney氏が語るゲーム業界の現在と未来

Epic Games CEO Tim Sweeney氏
画像集#002のサムネイル/[CEDEC 2012]次世代AAAゲームのコストは3倍に? Tim Sweeney氏が語るゲーム業界の現在と未来
 日本最大のゲーム開発者向けイベント,CEDEC 2012がパシフィコ横浜で開催されている。ここでは,イベント2日め(2012年8月22日)に行われた,Epic GamesでCEOを務めるTim Sweeney氏の講演の模様をお伝えしたい。
 さて,Tim Sweeney氏といえば,Unreal Engineの生みの親である。常にゲーム業界の最先端に立ってテクノロジの進化を牽引してきた人物だが,同時にゲーム業界きってのビジョナリストとしても知られており,自らも「将来の予測をするのが好きだ」と語っている。

 ちなみに,氏は,2008年にもCEDECで講演を行っているのだが,そのときのテーマが「2012年から2020年にかけてのゲーム開発について」と,まさにこれからのゲーム開発のことについて語るという内容だった。2008年当時語られていた内容と現在の状況とを比べると「いくつかはまだ追いついておらず,いくつかはすでに常識的になっている」といったところだろうか。氏自身も,予測については「ほとんど外れたことはない」と胸を張る。
 そんな氏が,2012年になって語るゲーム業界の未来はどのようなものなのだろうか。

 講演は,Epic Gamesの仕事の説明から始まった。同社が作るUnreal Engine 3(以下UE3)が,さまざまなプラットフォームにおいて重要なゲームエンジンとなっているのは周知のとおり。そのため,同社は多くのハードウェアベンダーと密接に協業している。テクノロジの長期的なロードマップを立てることで業界の進路を導いているというのが同社,そしてTim Sweeney氏の立場なのである。

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 Epic Gamesでは,「同社の作る製品はすべて“Epic”でなければならない」として,自ら業界の最先端に立ち続けることを使命としているという。そして実際,ハイエンドなグラフィックスと画期的なシステムを自ら示すことで業界をリードしている。
 同社の開発スタイルで特徴的なのは,エンジンとゲームを同時に開発することだ。ゲーム開発は,エンジンが今後どうなるかを考えたうえで進め,エンジンの改良もゲームの生産性を上げる方向で行うという。単に新たなテクノロジを開発するだけでなく,成果物も同時に世に出すことで実装面でのノウハウを溜めて,テクノロジ自体をより使いやすいものにしていくということであろう。

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 Xbox 360用ソフト「Gears of War」(以下,GoW)はその一例で,この作品は,元々PCをメインに据えていた同社が「コンシューマゲーム機にも対応するUE3」の開発を手がけるのと並行して制作されてきたとのこと。GoWの開発は2003年から始まったとのことで(日本で初代Xboxが発売されたのは2002年),かなり早くから開発に着手していたことには驚かされる。
 GoWについては,“UE3ならでは”といったグラフィックスのみではなく,三人称視点のカバーシステムが導入されたことにより,よりリアルな戦闘が展開されるようになるなど,コンシューマゲームを新しいレベルに引き上げたとTim Sweeney氏は自負しているようだ。

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 また,次世代に対する取り組みでもテクノロジとデモの並行開発でさまざまな知見を得ることができるとして,SamaritanデモとUnreal Engine 4のElementalデモの舞台裏について語ってくれた。
 GDC 2011で公開されたSamaritanデモは,GeForce GTX 580を2基使用してやっと動くという,とんでもないスペックを要求するデモであり,コンシューマゲーム業界へのEpic Gamesからの「次世代機はこれが楽々動くようなスペックでよろしく」というラブレター(挑戦状と言ったほうがいいかもしれない)として公開されたものでもあった。
 これは,次世代機用に想定されたさまざまな技術が実装可能なものかどうかを確認するために制作されたものだとSweeney氏は語る。正確なアルゴリズムによるサブサーフェス・スキャッタリング(肌をリアルに表現するための技術)や,水たまりなどへの映り込み,鏡面反射などが盛り込まれていたとのこと。
 このデモを制作することにより,多くのことが分かったという。まず,次世代機の映像は非常に素晴らしいものになるということだ。そして,もう一つ,そのためにかかるコストは膨大なものであることも分かったという。Samaritanでは,数分の映像を制作するために30人のプログラマーと3か月の時間を要したという。さすがにSweeney氏も,「ゲームの全編をこのクオリティで制作するのは現実的ではないことが分かった」と語っていた。

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 続いて,GDC 2012で発表されたUnreal Engine 4のデモとなるElementalについても語られた。このデモは,ハイエンドPCと1基のGPUで実行可能なものとなっており,新たな試みとして,リアルタイムの間接光計算(Global Illumination。以下,GI)が取り入れられている。実にGPUの処理時間の半分以上は,直接描画以外の演算処理に使われているとのこと。Samaritanと比較すると,制作期間は同じくらいだが,人員は半分ほどで済んだという。
 前年と比べて生産性の向上が実現したUnreal Engine 4について,氏は「投資が報われた」と語っていた。システムでリアルタイムGIを組み込んだことや,さまざまな改良によってゲームの制作が遥かに楽になっているという。また,ハイエンド仕様で作ったコンテンツをモバイル向けにするときなどでも,スケーリングが非常に簡単になっているとのことだ。

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 次世代のゲーム開発環境については,とにかく生産性を第一としてツール全体の見直しが行われたようで,生産効率を上げるためならパフォーマンスを犠牲にするような局面もあったという。というのも,次世代機ではAAAクラスのゲームを制作するためのコストは,現在の3倍になると氏は見込んでおり,生産効率の向上は必須と考えているからだ。
 実際,Unreal Engine 4では,Unreal EditorとVisual Studioといった開発ツールとの親和性が非常に高くなっている。大規模なプロジェクトでは,それぞれを起動してアセットを読み込み直して,といった作業に数分かかっていたものが,瞬時とはいかないまでも大幅に短縮。そのほか,リアルタイムGIの導入もデザイン制作の効率を著しく上げているという。

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 さて,今回の講演では,Tim Sweeney氏が分析するゲーム業界の現状および,将来の動向についても語られている。
 まず現在は,「基本プレイ料金無料のビジネスモデルによるオンラインゲームの展開」「スマートフォンの普及」「インターネットの普及による地域拡大」といった要因から,ゲームをプレイする人口が急拡大していると氏は分析している。その一方で,ゲーム制作会社の競争も激化しており,例えばコンシューマゲームメーカーにとっては,PCゲームからの移植が直接的な脅威になったほか,以前はコンシューマゲーム産業を持たなかった中国・韓国なども新たな競争相手になろうとしている。ゲーム全体の低価格化やゲームエンジンの普及による高品質化など,競争を激化させる要因はいくつも現れている。そのような状況だからこそ,できるだけ効率的なゲーム開発を可能にするゲームエンジンが重要になるということだろう。

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 Sweeney氏が考えるグローバルゲーム市場は,以下の3種類であるという。

  • PCオンラインゲーム
  • モバイルゲーム(スマートフォン)
  • コンシューマゲーム


 現在は,PCオンラインゲームが世界的に急拡大しており,モバイルとコンシューマについては大きな変化はないというのが氏の認識だ。巨大市場である中国を始め,世界的なゲーム人口の比率から見るとそういうことになるのだろう。
 そして,これらのゲーム市場は,次第に収束しつつあるという。
 例えば,以前はPCとはまったく異なっていたコンシューマゲーム機も,最近ではPC用GPUと同等のハードウェアを使うアーキテクチャに落ち着きつつあり,それ以上に別物であった携帯電話も,GPUのアーキテクチャこそ異なるものの,PC用と同じような機能を持つ方向に進んでいる。これは,ゲームエンジンを提供しているEpic Gamesにとってはとても望ましいことのようだ。PC向けに制作したハイエンドゲームも,解像度や機能を調整することによってコンシューマゲーム機ではマルチプラットフォームで展開しやすくなるほか,いずれはほぼそのままスマートフォンに移植できるようになることも期待できるからだ。
 このように,プラットフォームによらずゲームを提供しやすくなってきていることや,インターネットの普及で洋の東西を問わなくなってきていることをまとめて,氏は「ゲーム業界のデフラグが行われている」と表現している。

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 ちなみに,洋の東西を問わないゲームの例として挙げられた「League of Legends」については,「初めて世界の全市場で成功したゲーム」として絶賛されていたのが印象に残った。

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 そのような状況におけるEpic Gamesの戦略としては,二つのものが示された。
 一つは「Unreal Everywhere」,そしてもう一つが「世界中の有力パートナーとの提携」である。
 Unreal Everywhereは,すべてのプラットフォームでUnreal Engineのゲームが動くようにすることで,現時点で見てもかなり進行している戦略である。PCやPlayStation 3,Xbox 360をはじめ,iOSやAndroid,そして――Flash用にゲームコンテンツを出力することで――Webブラウザでもプレイできるような環境が整っている。

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 パートナーシップのほうでは,Microsoft,Valveといった業界の要になる企業とがっちり手を結んでいる。さらに,Tencentという中国最大のコミュニティを抱える会社との協業が強調されていたのが興味深い。
 中国でWindowsを買うと,Windows Liveメッセンジャーの代わりに標準で入っているのがQQというメッセンジャーだ。そのQQを軸に展開しているのがTencentである。PCオンラインゲームも多数発表しているが,その多くは非常にカジュアルなタイトル。Epic Gamesと組むことでどのように変わっていくのかには興味をそそられるところだ。

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 続いては,現在の技術動向から将来の展望を探るさまざまな例が散発的に示された。「将来性のある革新技術」として,Sweeney氏が注目している各種技術を見てみよう。
 まず,スマートフォンなどに搭載されているGPSや方位センサー,そしてそれらがネットワークで常につながっているという次世代ネットワーク。位置と動きを正確に判定できるようなセンサー群で,なにか画期的なものが生まれてくるのではないかと期待しているようだ。
 次に挙げられたのはKinectだ。WiiやPS Moveではなく,なぜKinectかと思う人もいるかもしれないが,カメラ以外の器具を使わない点など,センサー技術としてKinectは他社のモーションコントロールとは別次元のものだ。Sweeney氏は,現状のKinectはまだ初期段階にすぎないとし,将来的にMicrosoftはスマートフォンの制御などに載せてくるのではないかと推測している。
 そして,Siri(発話解析・認識インターフェース。簡単にいうと音声認識)についてもかなり興味を抱いているようで,キャラクターと会話することで進行するようなゲームの可能性を挙げていた。
 クラウドコンピューティングやクラウドゲーミング,さらにはアイテム課金などの小額決済が可能になることにより実現する“ゲーム内経済”といったものにまで話はおよんでいく。とくに,現実世界とは異なり,無限の資源が使える仮想空間での経済活動はどのように展開していくのかなどにはかなり興味を持っている様子だった。

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 最後に挙げられたのはAR(拡張現実)関連技術やアプリの3種,「ワールドレンズ」「Samsung Window」「スマートグラス」だ。
 ワールドレンズは,カメラで写した文字を翻訳して元画像に合成してくれるといったアプリ。世界カメラ系かと思うような名前だがちょっと趣旨が異なる。
 Samsung Windowは,窓ガラスのように透明な液晶ディスプレイだと思えばいいだろうか。窓ガラスに触れて,そこにテレビを映したり,さまざまな情報を表示できるという機器だ。
 スマートグラスは,透過型のヘッドマウントディスプレイである。通常の視界の上にさまざまな情報を表示できる機器「電脳メガネ系」だと思えばよいだろう。いずれも共通するのは,現実の視界(ないし風景)にさまざまな情報を重ねて表示するタイプのものだということである。

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 まとめると,スマートフォンを持ち歩き,さまざまな情報をメガネに表示し,入力は音声やジェスチャーで行う……といった未来を期待しているようだ。「Google Glass」などが目指すところと近いのかもしれないが,やはりゲームに使うと面白いんじゃないかと考えているところがSweeney氏らしいところではある。


 講演の最後にはまとめとして,CPUやGPUの高速化がいっそう進むこと,ゲーム市場のグローバル化やマルチプラットフォーム化で市場が大きく拡大していることを強調し,どういう選択が一番経済的かを常に考えることが重要であると氏は語っていた。時代の進歩に遅れてはならない。また新しいデバイスが拓くチャンスにも注目していく必要がある。もちろんEpic Gamesもどんどん新しいものに対応していくとのこと。
 こういった波に乗るには将来に対する投資が必要だが,それにはしっかりとしたビジネスモデルが必要と釘を刺しつつも,時代を牽引するハードの進化は,ゲームに最も早くやってくることから「ゲーム業界は世界で最も面白い業界である」と,会場のゲーム開発者達に訴えていた。

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 2008年の講演では,主にハイエンドゲームやそのためのデバイス,開発環境などについて語っていたSweeney氏が,今回はどちらかというとゲームの広がりについて多く語っていたのが印象的だった。もちろん,同社はこれからもハイエンドゲームやそのためのエンジンを作っていくのだろうが,Sweeney氏の目は,より大きな市場に広がりつつあるゲーム業界全体を見ているように思われる。
 はたして,氏の洞察に現実世界はどこまで追いつけるのか。最新テクノロジがゲーム業界を超えた部分で社会をどう変えていくかにも注目してみたい。

「CEDEC 2012」公式サイト

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