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AMDとHavok,共同で物理エンジンの技術開発を行うと発表
今さらいうのも気がひけるが,最新のゲームにおける物理エンジンの重要性は増大しており,リアルなプレイには欠かせないものになりつつある。操作を誤ったレースカーがコースの側壁を華麗に突き破り,砲撃を受けた兵士がリアルに吹き飛ぶのも,すべて物理エンジンのおかげだ。はじめは細密なテクスチャや複雑なモデリングを競っていた3Dゲームもやがて,「光と影」がどうしたこうしたという方向に進み,今やオブジェクトが物理法則に従ったリアルな挙動をするのしないのが問われるまでになってきたのである。
そんな物理エンジンのミドルウェアの専業メーカーとして有名なのがHavokだ。「Company of Heroes」や「World in Conflict」といったPC専用ゲームばかりでなく,「Half-Life 2」や「Bioshock」などのクロスプラットフォームタイトルにも採用されているので,その名前を聞いた人も多いはずだ。かつては市場をほぼ独占していたが,2005年に物理演算プロセッサ「PhysX PPU」をひっさげたAGEIA Technologies(以下,AGEIA)が物理演算市場(?)に参入し,Havokの牙城を脅かすことになったのである。残念ながら,物理演算専用ハードウェアアクセラレータの売れ行きは,対応ゲームの少なさもあってあまり芳しいものではなかったが,開発ツールであるPhysX SDKは評価も高く,そこに収められたソフトウェアライブラリは数多くのタイトルに使用されている。それこそがAGEIAの最初からの狙いであったのだ,といううがった見方もあるようだが,かくしてAGEIAとHavokは物理エンジンメーカーの双璧として認識されるようになったのだ。しかし,2007年9月にHavokがIntelに,また2008年2月にはAGEIAがGPUメーカーであるNVIDIAにそれぞれ買収され,独立のメーカーではなくなってしまった。もちろん,両者がともに買収されたということ自体が,それだけ物理エンジンが今後のゲーム業界にとって重要であると考えられた証と言えるが。
さて,ここからが本題。アメリカ時間の6月12日,AMDとHavokは共同して物理エンジンに関する技術開発を行っていくと発表した。今後両社は,AMDのプロセッサおよび,ATI RadeonファミリーのGPUに向けたHavokテクノロジーの適応を行い,ゲーム市場にオープンなスタンダードを確立すると共に,メーカーを含むゲームコミュニティに継続的なサポートを行っていくとしている。Havokは,Phenom X4のようなクアッドコア製品を含むすべてのAMD製プロセッサに対するフルレンジの最適化を行い,またATI Radeonが物理演算を行うことを助けていく予定だ。
むむ,と思ったPCウォッチャーも多いはずだ。既述のように,現在HavokはIntelの傘下にあり,そのIntelとAMDとはCPU市場において激しく争っている。ライバルを助けるようなことをなぜするのか? といえば,NVIDIAの存在が大きいのだろう。AGEIAを買収したNVIDIAは,開発環境「CUDA」を使ったGPUによる物理演算処理「NVIDIA PhysX」を打ち出しており,物理エンジンがモノを言う次世代ゲームにおいても自社のアドバンテージを保持しようと努めている(ように見える)。もともとHavokは,ATI RadeonおよびGeForceで物理演算が行える「Havok FX」を開発していたが,Intelの買収によりそれが宙に浮いてしまったという経緯がある。なんだか書いている私もだんだん混乱してきたが,このようにしてIntelとAMD,HavokとAGEIA,そしてNVIDIAの間で次世代ゲームにおける物理エンジンの覇権を賭けた綱引きが行われているわけだ。
今回の発表では具体的な製品やタイムスケジュールなどについての言及はないが,続報が入った時点ですみやかにお伝えしたい。
まあ,PCゲーマーにとって,こうした戦いはおおいに歓迎すべきことだろう。技術競争の最終的な利益享受者は多くの場合,消費者なのである。
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