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[GDC 2012]無料化のススメ。iOS端末用アプリのヒットメーカーAppy Entertainmentの収益化手法とは
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印刷2012/03/12 00:00

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[GDC 2012]無料化のススメ。iOS端末用アプリのヒットメーカーAppy Entertainmentの収益化手法とは

 ゲームを無料で提供し,アイテムを売る。今では珍しくもなんともないビジネス手法だが,従来通りにアプリ(ソフト)を売る手法とどちらが良いのだろうか。そんな疑問に答えてくれそうな講演が,iOS端末向けアプリの制作会社であるAppy EntertainmentのPaul O'Connor氏によってGDC 2012で行われた。講演タイトルは「Premium to Freemium: Pivoting monetization method fo Best-Selling Apps」(有料から無料へ。ベストセラーアプリの収益化方法の移り変わり)だ。

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 O'Connor氏は講演の冒頭で,「iOS端末向けアプリの収益のうち72%がアイテム課金によってもたらされています。アプリ単体を売る時代は終わりました。今日は基本無料+アイテム課金制の優位性を紹介しましょう」と切り出した。O'Connor氏が例にあげたのは,Appy Entertainmentのヒット作「Trucks & Skulls」だ。

 本作は2010年11月に発売されるとたちまち人気となり大ヒット。発売してから半年が経っても売れ続けていたという。とはいえ,さすがに発売当初の勢いは段々となくなってきていたのだが,2011年6月にアプリの無料化に踏み切ったところ,息を吹き返した。無料化前と無料化後では収益が1.5倍になったほか,ダウンロード数が5000%アップし,ゲームの名前も広く知れ渡ったのだ。

無料化された「Trucks & Skulls」
画像集#003のサムネイル/[GDC 2012]無料化のススメ。iOS端末用アプリのヒットメーカーAppy Entertainmentの収益化手法とは

 もちろん,再び勢いを取り戻した理由は,単にアプリを無料にしたことだけではない。売上増に成功したO'Connor氏の手法として,まず無料化時に最初に行ったのは,ゲームになにも制限をかけないことだったという。
 つまり有料版と同じものを無料で配信したのだ。それだけでは売上につながらないので,追加の有料アイテムを販売した。だが,有料アイテムはゲーム内の通貨でも買えるようにしたので,時間さえかければリアルマネーを払わずに手に入れることもできる。もちろん,ゲーム内の通貨では有料アイテムを買えないようにすることもできたが,氏はそれではゲームを遊んでくれる人がいなくなってしまうと考え,あくまで時間を短縮したい人だけが有料アイテムを買えばいいというシステムを採用したのだそうだ。
 また,有料アイテムのラインナップも,プレイヤー達が欲しがっているものをリサーチしたうえで決定したのだという。加えて,新コース(マップ)など,ゲーム内容が充実するようなものも販売し,作品のボリュームアップを図ったとのことである。
 こういった取り組みがうまくいき,Trucks & Skullsは発売から半年以上も経っていたにも関わらず,ダウンロード数や売上を伸ばすことに成功したのだ。

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Trucks & Skulls有料版のダウンロード数推移
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Trucks & Skulls無料版のダウンロード数推移

 さらに,無料化にあわせて,ゲームタイトル名を有料版とは違うことがすぐに判別できるものに変えることも重要だと,O'Connor氏は説明した。新たなプレイヤーに存在を知ってもらうためにそういった施策をとり,新作のように売り出すのだという。

 続いてO'Connor氏は無料化することのメリットを以下のようにまとめた。

  • 売上とダウンロードの増加
  • さらなる顧客の獲得
  • レビュースコアが両タイトル(有料版と無料版)で上昇
  • 無料化に反対するクレームはゼロ
  • いわゆる海賊版への対策に効果的

Appy EntertainmentのPaul O'Connor氏
画像集#002のサムネイル/[GDC 2012]無料化のススメ。iOS端末用アプリのヒットメーカーAppy Entertainmentの収益化手法とは
 ただし,もちろん無料化にはデメリットもある。有料版を最初に作りそれを無料化すると,ゲームシステムが破綻しやすかったり,開発費が余計にかかったりするのだ。無料化時にゲームの仕様に即した変更をほどこしていないと,DLCの開発費がかかりすぎて利益が出ない……ということもある。「売れていないからとりあえず無料化しよう」という流れで無料化に踏み切るのではなく,戦略的に実施することをO'Connor氏は推奨していた。

 日本や韓国など,アジアでは2005年あたりから,基本プレイ無料のアイテム課金制ゲームがPCを中心にヒットしており,ゲーム(アプリ)の無料化はもはや当たり前のものとなってきている。しかし,アメリカでは2〜3年前ぐらいからはやり始めた手法のため,いまだ無料化に踏み切れない開発者もいるようで,GDC 2012でもこういったテーマの講演が多く,無料化を勧める人達が多く見られた。

 だが,基本無料のアイテム課金制は,ゲームを売る側が儲かる仕組みだからこそ広まったわけで,消費者である我々にはとってはメリットばかりではない。パッケージゲームを購入したり,月額のオンラインゲームで遊んでいたときよりも,アイテム課金制のゲームを遊んでいるときのほうが多くお金を使っている,という人は少なくないだろう。
 むやみに射幸心を煽る仕様のゲームが増えていけば,市場そのものが縮小してしまう可能性もある。願わくば,来年以降のGDCでは,そういったことにも踏み込んだ講演を聴いてみたいものだ。

「Trucks & Skulls」公式サイト

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