レビュー
ASUS初のSSDは買いなのか。PCIe x2接続を採用したカード型モデルを試す
R.O.G. RAIDR Express PCIe SSD
RAIDR Express PCIe SSD メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:テックウインド(販売代理店) [email protected] 実勢価格:4万円前後(※2013年8月3日現在) |
接続インタフェースはPCIe 2.0 x2 |
SATA 6Gbpsの限界が叫ばれて久しいなかで採用例の出てきたノートPC用SSD新世代フォームファクタ「M.2」が,PCIe接続時はGen.2 x2接続となる(関連記事)。それだけに,同じ接続仕様を採用したRAIDR Expressの速度にも期待が集まるところだが,果たして実際のところはどうか。製品の特徴と性能をチェックしていきたい。
内部はSandForceコントローラによるRAID 0構成
接続インタフェースは冒頭で紹介したとおりPCIe 2.0 x2なので,その帯域幅は合計2GB/s(片方向1GB/s)。SATA 6Gbpsの場合,オーバーヘッドを勘案すると帯域幅はせいぜい600MB/sなので,単純計算でも1.6倍と,かなり高速な転送が期待できることになる。実際,ASUSが公表しているデータだと,RAIDR Expressの転送速度は逐次読み出しが830MB/s,逐次書き込みが810MB/sであり,かなり期待できそうな感じだ。
一般にSSDの発熱は,コントローラを含めてもそう大きくないというのは,体験的に知っている読者も多いだろう。だが,
というわけでそのヒートシンクも取り外すと,基板全体を目にできるようになった。
RAIDR Expressの基板全体。表側で見ると,主要なチップはPCIe 2.0インタフェースから見て1基,2基,8基といった構成で接続されている |
88SE9230(左)とSandForce SF-2281(右) |
そんな88SE9230の先に接続されるのが,LSI製のSSDコントローラ「SandForce SF-2281」(SF-2281VB2-SPC)である。2012年の上半期に市場を席巻したIntel製SSD「Solid-State Drive 520」が搭載していたのと基本的に同じコントローラだと説明すれば,「ああ」と言う読者も多いだろう。データを圧縮して保存することで,見かけ上の性能を上げつつ,データを冗長化して保存することで信頼性を向上させてもいるという特徴のあるコントローラである。
注目したいのは,RAIDR Expressという製品名,そしてすぐ上で説明した88SE9230のスペックからも想像できるように,SandForce SF-2281が2基搭載され,RAID 0アレイが構築されていること。基板の表と裏には,東芝製のNAND型フラッシュメモリ「H58TEG7DDJBA4C」が合計16枚搭載されているのだが,実際,8枚ずつがセットになって,SandForce SF-2281と接続されていることが,基板レイアウトからも見て取れる。
残念ながらTH58TEG7DDJBA4Cという型番のNAND型フラッシュメモリに関するデータシートは公開されていないのだが,調べてみた限り,19nmプロセス技術を用いて製造され,Toggle DDRインタフェースを採用した,MLC NANDのようだ。RAIDR Expressのストレージ容量が240GBとされていることからすると,1枚あたりの容量は16GBで,SandForce SF-2281 1基あたり16GB×8枚=128GBになっているのだと思われる。8GBは前述したデータ冗長化のために使われて,合計が120GB×2の240GBとなっているのだろう。
UEFIをサポートし,Windows 8のFastBootなどにも対応
実際には,OSをインストールした状態でも,既存のPCに拡張ドライブとして追加した状態でも,Windowsは別途,「Marvell Magni」という名の不明なデバイスを検出するのだが,これはRAID管理インタフェースで,RAIDR Expressの動作そのものにはあまり関係がない。付属のCD-ROMからドライバソフトウェアをインストールすると管理ツールとともに管理インタフェースのドライバがインストールされるので,とくに心配する必要はないだろう。
興味深いのは,ROG SSD Tweakitに「ROG IO Booster」という設定項目があり,これを有効化すると,RAIDR Expressの主に逐次読み出し&書き込み性能を数%向上させるとのことである。その仕組みは明らかになっていないが,事前検証で「CrystalDiskMark」(Version 3.0.2f)を用いたテストを行ってみると,逐次アクセス性能が数%向上するのを確認できたので,本稿では以後,このROG IO Boosterを有効にした状態でテストを行いたい。
本稿では以下,このスイッチをDuoModeスイッチと呼ぶが,これは,工場出荷時のUEFIモードと,従来的なBIOSモードとを切り替えるものだ。DuoModeスイッチをUEFI側にセットしてあればFast Bootもサポートできるとされる。
Fast BootはWindows 7でも限定的にサポートされているが,Windows 8からはデバイスの初期化をすべてUEFIに任せ,初期化にかかる時間を短縮するという,本来のFast Bootがフルサポートされた。それを利用するにはWindows 8のクリーンインストールが必要になるが,そのようなインストールにもRAIDR Expressは対応できるわけだ。
4Gamerでは現在,基本的にWindows 7環境でテストを行っている。しかもRAIDR ExpressはDドライブに設定しているため,UEFIモードの恩恵は「起動時に,RAIDカードでありがちなドライブスキャンが現れない」程度しかないのだが,それでも煩わしいドライブスキャンやメッセージが省略されるメリットは大きい。このあたりは下に示したムービーで確認してもらえればと思う。
1つだけ注意しておきたいのは,レガシーBIOSモードに切り替えない限り,
ちなみにBIOS設定メニューでは,初期設定のRAID 0アレイを解除して,容量120GBの単体ドライブ2基に変更したり,容量120GBのドライブ2基によるRAID 1アレイを構築したりもできるが,まあ,使うことはまずないだろう。
現行世代のSATA 6Gbps接続型SSDと比較
というわけで,RAIDR Expressのテストに入っていきたいと思うが,比較対象は,価格が重要になってくる。というのも,2013年8月3日時点で,容量240GB
そんな市場にあって,RAIDR Expressの実勢価格は4万円前後。つまり,容量240GB〜256GBクラスのSSDを2台程度買えてしまう価格なのだ。それだけに,「RAIDR Expressに,4万円もの投資に値するだけの実力があるか」というのが,製品を評価するポイントになる。
というわけで,今回のテスト環境は表のとおり。SSD 840 PROのRAID 0構成にあたっては,テスト時点における最新のIntel製RAIDドライバ「Intel Rapid Storage Technology 12.5.0.1066」を用いている。また,SSD 840 PROは,1基だけ使う状態でもテストを行う。
なお,RAIDR Expressは,CPU側のPCIeコントローラと直結すべく,最もCPUに近いPCIe x16スロットに接続した。
少なくとも「速くはない」というテスト結果に
以下グラフ中ではスペースの都合から,SSD 840 PROのRAID 0構成を「SSD 840 PRO(R0)」と表記することをお断りしつつ,ストレージ性能の総合ベンチマークツールとなる,「PCMark 8」(version 1.0.0)の「Storage」テストから見ていくことにしたい。
Storageテストは,「Microsoft Office」や「Adobe Creative Suite」に加え,「Battlefield 3」および「World of WarCraft」を動作させたときのディスクアクセスパターンを再現したワークロードを3回繰り返し,データ転送速度や実行時間といったデータをスコア化するという,ストレージ負荷のかなり高いベンチマークである。
グラフ1は,そんなStorageテストの総合スコアをまとめたものだが,今回のテスト対象間で,スコアの違いはほとんどない。厳正を期せば,RAIDR ExpressはSSD 840 PROのRAID 0構成比だけでなく,SSD 840 PROのシングルドライブ構成よりも低い結果となっているが,これはさすがにほぼ互角と言っていいように思う。
一方,Storageテストの個別スコアから,ワークロード全体を通じての転送速度を抜き出した「Storage Bandwidth」を見ると,RAIDRの総合スコアの差からは想像がつかないような大差が記録されていた(グラフ2)。SSD 840 PRO 2台のRAID 0構成に対して,RAIDR Expressのスコアは約69%に沈み,SSD 840 PROのシングルドライブにすらまったく及ばないという結果になっているのだ。
なお,総合スコアと転送速度の間に乖離があるのは,PCMark 8が,ワークロードの実行時間をスコア化しているためである。転送速度以外に,レイテンシなど――HDDであればシーク速度など――がスコアに反映される仕様になっているので,大きな乖離があること自体は異常ではない。
なぜ転送速度にこれほど大差が付いているのか,その原因究明は後回しにして,4Gamerの読者なら最も気になっていると思われる,Battlefield 3とWorld of WarCraftの個別スコアも見ておこう。Battlefield 3とWorld of WarCraftの個別スコアは,両タイトルを実際にプレイした時のディスクアクセスパターンを再現し,それに費やした時間を秒で表したものになる。よって,グラフが短いほど高速という点に注意してほしい。
さて,グラフ3,4がその結果だが,ほぼ横並びの結果といっていい。SSD 840 PRO 2台のRAID 0構成と比較すると,RAIDR Expressは,BattleField 3で約2.2秒,World of Warcraftで約0.5秒,余計に時間がかかっており,また,PCMark 8は同じワークロードを3度繰り返し平均をとっているので,スコア自体は測定誤差とはいえないが,体感できるかというと微妙な違いである。
いずれにしてもPCMark 8でRAIDR Expressは,PCIe 2.0 x2接続で,しかも内部RAID 0構成というスペックから期待できる成績を残していない。とくに,
前述のとおり,SandForceは,データを圧縮して保存するため,圧縮しやすいデータは高速に書き込める一方,そうでないデータの書き込み速度は芳しくなくなるという特徴がよく知られている。PCMark 8のストレージテストには,画像や動画を扱うAdobe Creative Suiteが含まれているので,SandForceコントローラの持つ特性が足を引っ張っている可能性は考えられるだろう。
現在のCrystalDiskMarkは標準のテストデータが圧縮しづらい「ランダム」になっているが,今回は,SandForceコントローラが得意とする,つまり圧縮しやすい「0Fill」でも追加でテストを行い,RAIDR Expressの挙動を確認する。0Fill設定でのテスト結果は,グラフ内で「RAIDR Express
CrystalDiskMarkのテストサイズは1000MBに設定。テスト回数は5回にする代わりに,5回1セットを3セット繰り返し,その平均を取ることで,揺らぎを抑えることにした。
その結果から,グラフ5は逐次読み出し(シーケンシャルリード)および逐次書き込み(シーケンシャルライト)のスコアをまとめたものだ。RAIDR Expressは,逐次読み出しで600MB/sを超え,SATA 6Gbpsの限界を突破しているが,一方で書き込み性能は振るわず,450MB/s程度に留まっている。それが,テストデータを0Fillに変更すると,書き込み性能が約42%向上し,600MB/sを超えてくるのだから,やはりSandForceコントローラの特性は顕著に表れるようだ。
ただ,むしろこのグラフで見逃せないのは,SSD 840 PROのRAID 0構成が抜けたスコアを叩き出していることだろう。とくに逐次読み出しは1000MB/sを超えており,RAIDR Expressとは勝負になっていない。ここでのスコアを見る限り,ライバルはSSD 840 PRO単体,といった感じである。
続いてグラフ6は,512KB単位でのランダム読み出し(ランダムリード)およびランダム書き込み(ランダムライト)のスコアとなるが,RAIDR Expressは,ここでもテストデータをランダムにしたときと0Fillにしたときとで書き込み性能のスコア差が大きい。0Fill時のスコアは,ランダム時の約136%だ。
SSD 840 PROのRAID 0構成に歯が立たず,SSD 840 PRO単体といい勝負になっているというのは,逐次アクセス性能時と同じ傾向である。
4KBのランダムアクセスをQD(Queue Depth)=1で実行するテストの結果がグラフ7だが,ここはSSD 840 PROのシングルドライブ圧勝とまとめてしまっていいだろう。データを複数のドライブに分散させるRAID 0にとって,QD=1で小さな小さなデータの読み出しや書き込みを行うのは効率がよくないため,RAIDには分の悪いテストとなるが,果たしてそのとおりの結果となった。RAIDR ExpressとSSD 840 PROのRAID 0構成はほぼ同じようなスコアにまとまっているが,これをもって「RAIDR Expressは4K QD=1のスコアが高い」と言えるわけではない。
なお,RAIDR Expressでは,テストデータをランダムにしたときのほうが,0Fillにしたときよりも書き込み性能が高くなっているのだが,正直,その理由はなんともいえないところである。
グラフ8は,4KBのランダムアクセスをQD=32で実行したテストの結果となる。QD=32では,RAIDアレイを構築する複数の物理ドライブに対して複数のAHCIコマンドを実行するにあたり,コマンドの並び変え(Command Queueing)などといった最適化が可能になるため,RAIDアレイにとってはQD=1よりも楽なテストとなる。
実際,得られた結果もRAIDアレイのものが良好……と言いたかったのだが,そう言えるのはSSD 840 PRO 2台によるRAID 0構成だけで,RAIDR Expressは,SSD 840 PROのシングルドライブ構成にすら置いて行かれる。とくに読み出し性能の低下が顕著だ。ランダムデータよりも,0Fillのほうが書き込みにおいて約8%高速だが,焼け石に水といったところである。
SandForceコントローラがQD=32を特別苦手にしているわけではないことを考えると,Marvell製のSATAコントローラが,スコアの落ち込みを生んでいる可能性はあるだろう。
最後に「Iometer」(Version 1.1.0-rc1)のテスト結果も見ておこう。今回は,4KB単位のランダム読み出しと書き込みを50%ずつ混在させた状態でディスクアクセスを5分間実行し,その間のIOPS(I/Os Per Second。1秒あたりのI/O数)を取得することにした。そのほか設定は,テストサイズ1GB,QD=32だ。テスト設定のスクリーンショットは下のとおりなので,興味のある人はチェックしておいてほしい。
結果はグラフ9のとおりで,RAIDR Expressは,総合IOPSで33000台を示し,
SandForceコントローラは,他社のコントローラと比べて,IOPS値が高めに出る傾向がある(関連記事)。なので,その効果が出たといったところだろうが,一般にRAID構成の場合,IOPS値は,SSDコントローラだけでなく,RAIDコントローラの影響も受けることになるので,Marvell製SSDコントローラがプラスの影響を及ぼした可能性も考えられる。
2013年夏の新モデルとして,価格対性能比は厳しい
1年前に出ているべき製品だった
RAIDR Expressには,本体をキャッシュとして利用するためのドライバなど,R.O.G.ならではのソフトが付属している。そこは明らかにメリットといえるのだが,それが「価格相応か」というと大いに疑問が残る。4万円程度の価格で流通することになる卸値を設定するなら,1年前に出ているべき製品だった。正直,2013年夏の新製品としての適正価格は,希少性を加味しても2万円台後半だろう。最悪でもそこまで落ちてこないことには,「買い」とはとても言えない。
それはそうと,冒頭でも紹介したように,ノートPCではすでに,M.2フォームファクタを使ったPCIeネイティブ接続のSSDが提供され始めている。SATAコントローラを介さないこともあり,その性能は非常に高い。
残念ながら,M.2フォームファクタはノートPC向けで,デスクトップPCにはPCIeネイティブ接続のSSDが提供される目処は立っていないようだが,そこはさまざまな独自拡張を行ってきた実績のあるR.O.G.マザーボード。M.2フォームファクタでPCIe 2.0 x2のネイティブ接続を実現し,そこに転送速度1000MB/s級が差さるなら,SSDに4万円払っても惜しくないゲーマーはきっといるだろう。「R.O.G. SSD」の次世代モデルに期待したいところだ。
ASUSのRAIDR Express PCIe SSDニュースリリース
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