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[GDC2008#02]MMOG界の伝道師ラフ・コスター氏が語る「理想の窓」
コスター氏は,スピーカーとしてのセンスがゲーム業界の中でもズバ抜けて優れた人物で,「ゲーム開発をせずに講演用のスライドばかり作っているのではないか」と思うほど,さまざまな引用文やイメージを使ったトークが巧みな人物である。今回の講演の議題は,「高い窓」(High Windows)というもので,最初のスライドは「残虐なイメージを含みます。健康に問題ある人は注意してください」という,ホラー映画の出だしなどに見られるような注意書きから始まり,いきなり入場者の興味をぐっと惹きつけた。
コスター氏が言うには,「Club Penguin」「Second Life」そして「World of Warcraft」といった,オンラインのゲームビジネスというのは,“低い位置にある窓”だそうだ。現在のMMOゲームは,テキスト型オンラインゲーム「MUD I」の時代から根本的に変わっていることはなく,人々の見たい世界だけを見せる,もしくは開発者が見せたい自分の世界を見せるということに終始しており,その意義はディズニーランドのようなテーマーパークと何ら変わるところはないのだという。
今回の講演において,コスター氏が最も重要なゲーム開発者達への問いかけとしていたのが,「我々の(最も価値を置くべき)規範とは何なのか」(What is our Imperative?)というものだ。ゲーム制作には,モラル,金銭,名誉,実用性など,開発者がそれぞれ異なる動機を持って臨んでいることは間違いないが,コスター氏は1980年代に零細企業が開発して(少しだけ)話題を呼んだ「飛ぶ車」を例に挙げて,「開発者としての夢,ひいては人々の生活を良いものにしようという信念」が,ゲーム開発の現場から失われているのではないかと危惧する。
コスター氏の母は,現在UNICEFに勤める職員であるらしく,アフリカのダルフール紛争やハイチの貧困といった社会問題は,常にコスター自身の頭の中にひっかかっているらしい。気にかかっていても「遠すぎるために忘れてしまいがちな問題」であり,それを身近な問題にしてくれるのは“バーチャル世界”以外にないのではないか,というわけだ。非常に重いテーマではあるが,「自分の好みの人生を,新しいコンテクストの中で再生させるだけなら進化とはいわない」とし,その意味で,先に「ディズニーランドと変わらない」と表現されたMMOゲームには,「さして未来はないのだ」と断言している。
これが彼の新プロジェクト「Metaplace」と,どのように関わってくるのかは,この講演では深く追求されなかったものの(後日,コスター氏は別のセミナーを予定している),MMOゲームを一歩先に進めたようなメタバースの世界がつくれるのなら,そこにはより多くの窓,つまり高い場所に近づいていくための窓があるのだと,説いているようにも感じられた。
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