テストレポート
GeForce 9800 GX2のQuad SLIは究極のハイエンドゲーム環境たり得るか?
当時のQuad SLIは,最適化があまり進まない(関連記事)問題もあって,極めてニッチなものに留まった。あれから約2年。GeForce 9世代のデュアルGPUソリューション「GeForce 9800 GX2」もQuad SLIをサポートすることはすでにお伝えしているとおりだが,新世代のQuad SLIはニッチを脱し,究極の3Dゲーム環境となり得ているだろうか? 今回は,Leadtek Researchの日本法人であるリードテックジャパン,そしてZOTACブランドで知られるPC Partnerの代理店であるアスクの協力で,GeForce 9800 GX2のQuad SLI環境を試す機会が得られたので,テスト結果をお伝えしていきたい。
WinFast PX9800 GX2 メーカー:Leadtek Research 問い合わせ先:アスク(販売代理店)TEL:03-5215-5650 実勢価格:8万3000円前後(2008年3月25日現在) |
ZOTAC GeForce 9800GX2 メーカー:PC Partner(ZOTAC) 問い合わせ先:アスク(販売代理店) [email protected] 実勢価格:8万2000円前後(2008年3月25日現在) |
ForceWare 174.53でQuad SLIをサポート
3-way SLIおよび“シングルカード”と比較
ハードウェアとソフトウェアの両条件を満たすと,NVIDIAコントロールパネルからQuad SLIを有効化できるようになる |
Quad SLIが正常に機能した状態でForceWareの「3D設定」からSLIインジケータを有効化すると,画面に「QUAD SLI」と表示される。なお,このカットが写真なのは,Frapsからスクリーンショットを撮ると乱れた画面しか取得できなかったため |
SLIの有効/無効化に伴うシステムの再起動が必要でない点や,Quad SLI有効時はプライマリとなるカードからのシングルディスプレイ出力のみとなる点なども含め,基本的な考え方は従来の2-way/3-way SLIとなんら変わりない。2008年3月25日時点の公式最新版グラフィックスドライバ「ForceWare 174.53」がサポートしているので,SLI構成を組んだことがある人なら,GeForce 9800 GX2のQuad SLI有効化に当たって悩むことはまずないはずである。
ただし,GeForce 9800 GX2のQuad SLIは,Windows Vista環境のみのサポートとなる点は,憶えておく必要がありそうだ。実際にForceWare 174.53をインストールしてみたのだが,Windows XP環境ではQuad SLIの項目自体が表示されなかった。
2008年3月18日の記事で述べられているとおり,GeForce 9800 GX2のQuad SLI動作時は,4基のGPUが1フレームずつ描画処理を行っていく「4-way AFR」(AFR:Alternate Frame Rendering)のみのサポートとなる。ForceWareの3D設定を確認すると,SLIパフォーマンスモードに「4GPU代替フレームレンダリング 2」と選択項目が新たに用意され,これがデフォルトに指定されているので,これが4-way AFR動作を指定しているのだろう。
選択肢には「2」のない「4GPU代替フレームレンダリング」もあるのだが,プルダウンメニューにはこのほかにも「分割フレーム+代替フレーム レンダリング」(NVIDIAいうところの「AFR of SFR」)など,複数の選択肢が用意されているあたりからすると,どうもGeForce 79x0 GX2時代のQuad SLIと設定項目が共通化されている印象だ。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション5.2に準じるが,「Half-Life 2: Episode Two」は今回のテスト環境だとアプリケーションが強制終了してしまう不具合に見舞われたため,そして「Unreal Tournament 3」はマルチGPU環境のテストを行うには負荷が低すぎてスコアが荒れるため,今回はそれぞれテスト対象から外した。
EN8800GTX/HTDP/768M リファレンスデザインの8800 GTXカード メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) [email protected] 実勢価格:8万3000円前後(2008年3月25日現在) |
ELSA GLADIAC 988 GTX 768MB リファレンス仕様を採用したGeForce 8世代ハイエンドカードの定番 メーカー:エルザジャパン 問い合わせ先:エルザジャパンサポートセンター TEL:03-5765-7615 実勢価格:8万円前後(2008年3月25日現在) |
また,GeForce 9800 GX2のレビュー記事と同じく,「Crysis」については実行スクリプト内にオプション「-dx9」を付加し,DirectX 9.0c環境でのテストを実施。DirectX 10環境のテストに当たっては,マップ「ice」におけるPlayDemoから平均フレームレートを計測する。なお,先ほど述べたとおりOSはWindows Vista環境のみの対応となるため,今回は32bit版のWindows Vista Ultimateを利用。ForceWare 174.53はGeForce 9世代専用のため,GeForce 8800 GTXにはCrysisの1.2パッチに最適化されたという公式β版「ForceWare 169.44 Beta」を利用している。このほかテスト環境は表のとおりだ。
以下とくに断りがない限り,本文,グラフ中ともに,「GeForce」を省略したGPU名で表記を行う。
Quad SLIはゲームを選ぶ?
タイトルごとの最適化度合いの違いが顕著
まずは「3DMark06 Build 1.1.0」(以下,3DMark06)から。グラフ1,2がその結果だが,標準設定だと2560×1600ドットでようやく9800 GX2シングルカードとQuad SLIの差が出てくる程度だが,高負荷設定では1600×1200ドット以上で違いを確認できる。超高解像度ならびにアンチエイリアシングや異方性フィルタリングをかけてこそのウルトラハイエンド構成といったところだ。
細かい点だが,低解像度では8800 GTXの3-way SLI構成のほうが9800 GX2のQuad SLIよりスコアが高い点は興味深い。
続いてDirectX 9モードで実行したCrysisの「Benchmark_GPU」テスト結果がグラフ3,4である。Crysisの「標準設定」ではQuad SLIの優位性がはっきりと出ており,9800 GX2のシングルカードと比べて約20〜48%という,まずまずのパフォーマンス向上率を見せている。一方,3-way SLIのスコアは伸びきらない印象で,2560×1600ドットを除くと9800 GX2のシングルカードを下回った。
「高負荷設定」では,1600×1200ドット以上でシングルカード,1920×1200ドットでQuad SLIといったように,9800 GX2のスコアがいずれも大きく落ち込んでいる。3-way SLIのスコアが1920×1200ドットまで比較的妥当な印象で推移しているのとは対照的だ。もっとも,Quad/3-way SLIとも2560×1600ドットではテスト中にアプリケーションがフリーズ。1920×1200ドット設定時のスコアからして大勢に影響はないといえばそれまでだが,ドライバの安定感はまだまだのようである。
DirectX 10モードで実行したPlayDemoのスコアも,Benchmark_GPUの高負荷設定時を踏襲した結果となっている(グラフ5,6)。3-way SLIではPlayDemoが不正終了してしまい,スコア取得が不可能だったため,9800 GX2のシングルカードとQuad SLIを比較することになるが,Quad SLIのメリットが目に見えるのは標準設定の1920×1200ドットまで。標準設定の2560×1600ドットや高負荷設定の1920×1200ドットで,スコアが急激に落ち込むのを,ここでも確認できる。
9800 GX2はシングルカード,Quad SLIを問わず,一定の負荷を超えるとスコアが急激に悪くなる印象だ。描画負荷であればもう少し“階段状”に近い落ち方をするはずなので,それ以外の部分に重大なボトルネックがありそうな印象を受ける。それがドライバの問題に起因するのか,帯域幅の制限によるものなのかまでは,このテスト結果からだと断言できないが,負荷の高い状況でこそ威力を見せるはずのQuad SLIが,そういう結果を見せられていないのは,問題といえるだろう。
TPSの検証例として,こちらもCrysisと同様に描画負荷の高い「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」(以下,ロスト プラネット)のスコアをまとめたのがグラフ7,8だ。ここではより実際のゲームに近い「Snow」テストの結果を見ていくが,全般的に3-way SLIのスコアがQuad SLIよりも高め。Crysisと同じ理由なのかどうかはさておき,Quad SLIのスコアが伸びていないのは確かだ。
最後に,Crysisやロスト プラネットよりは描画負荷の低いCompany of Heroesのスコアをグラフ9,10に示す。同タイトルのスコアはどちらかというと3DMark06のそれに近い傾向で,高負荷設定時の高解像度でようやくQuad SLIのメリットが見えてくるといったところ。とはいえ,2560×1600ドットではシングルカードに約57%,3-way SLIに対しても約23%の差をつけており,まずまず優秀なスコアを出しているとはいえる。
4GPU仕様ながら
8800 GTXの3-way SLIより低消費電力を実現
公称消費電力が197Wという9800 GX2を2セット利用するQuad SLIだけに,消費電力の高さは容易に想像できるが,実際のところはどうだろうか。OSの起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,3DMark06を30分間連続実行し,最も消費電力の高かった時点を「高負荷時」として,各時点の消費電力をワットチェッカーで計測した結果がグラフ11となる。
Quad SLI搭載システムの消費電力はアイドル時に300W弱,高負荷時には500W強。誰の目にも明らかに“大食らい”である。PCI Express用の6ピン+8ピン補助電源コネクタをカード当たり1系統ずつ,計2系統ずつ必要とすることも手伝って,かなり電源ユニットを選びそうだ。ただし,8800 GTXの3-way SLIよりは消費電力が低いのも確か。80nmプロセスで製造されるG80コア(=8800 GTX)3基よりも,65nmプロセスを採用したG92コア(=9800 GX2)4基のほうが消費電力では有利というわけである。
もっとも,ハイエンドGPUの温度としてはどれも及第点だろう。9800 GX2のQuad SLI構成時に,nForce 790i Ultra SLIマザーボードだと間に2スロット分のスペースが生まれるので,PCケース側の冷却さえきちんと行っておけば,9800 GX2のGPU温度にそう大きな心配はいらないはずだ。
ニッチの中のニッチに向けた製品
Vistaのみのサポートにも不満
Crysisでは比較的大きなメリットがあり,Company of Heroesでも一定の条件で高いパフォーマンスを期待できる9800 GX2のQuad SLI。しかし,ロスト プラネットだと3-way SLIのほうが効果は高かったり,一定以上の負荷がかかると大きくスコアを落とすといったあたりを踏まえるに,1枚で8万円前後するカードを2枚購入するだけの価値があるとはいい難い。
1920×1200ドットや2560×1600ドットといった超高解像度でのゲームプレイを前提にすれば,Quad SLIにも確かに相応の価値は認められる。しかし,1920×1200ドット未満の解像度でプレイするのであれば,Quad SLIは明らかにオーバースペックであり,1枚で十分だ。また,9800 GX2シングルカードならWindows XP環境で利用できるのに対し,Quad SLIだとWindows Vista環境のみとなってしまう点も人を選ぶ。
9800 GX2のレビューで筆者は「9800 GX2はニッチな市場向けの製品」と述べたが,Quad SLIは超高解像度を利用するユーザーのみに向けた,さらにニッチな製品といわざるを得ないだろう。有り体に感想を述べるなら,9800 GX2のQuad SLIは「微妙」である。
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nForce 700
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