レビュー
省電力版「ATI Radeon HD 4830」搭載カードの不思議な仕様に迫る
XIAi AF4830-512XD3 Green
» 何の前触れもなく市場に登場してきた,補助電源コネクタを持たない「ATI Radeon HD 4830」搭載グラフィックスカード。「基本的には通常版と同じスペックで,動作クロックが多少引き下げられているのではないか」という想像が通用しない注目の新製品を,宮崎真一氏が検証する。
そんな市場に,突如として登場してきた新製品が,「ATI Radeon HD 4830」(以下,HD 4830)を搭載する,AOpen(※正確には日本法人であるエーオープンジャパン)の「XIAi AF4830-512XD3 Green」である。本来なら補助電源コネクタを必要とするGPUを搭載しながら,補助電源コネクタ非搭載で登場してきた本製品は,いったいどのような特徴を持ったグラフィックスカードなのか。今回は,実際に店頭で購入した個体を使って,その正体に迫ってみたいと思う。
HD 4830なのにSP数800基!?
仕様の異なる2種類のカードが流通中
外部出力インタフェースはD-Sub 15ピン,DVI-I,HDMIとなっている。
搭載するGDDR3メモリチップ。Hynix Semiconductor製の512Mbit品を8枚搭載することで,グラフィックスメモリ容量512MBを実現する |
「ATI Radeon HD 4770」リファレンスカード(※写真上)と比較したところ。全長167mmということで,さすがに短い |
基本的なスペックは表1に示すとおりで,基本的に従来版(=通常版)HD 4830のそれを踏襲する……はずだった。しかし,実際のカードを見る限り,必ずしもそうではないようだ。
下に示したスクリーンショットは,TechPowerUp製のGPU情報表示ツール「GPU-Z」(Version 0.3.4)を実行した結果で,左に示したのは,2009年6月25日にドスパラ 秋葉原本店(以下,ドスパラ)で購入したXIAi AF4830-512XD3 Green。右は,同29日にツクモeX.で購入したXIAi AF4830-512XD3 Greenだ。ご覧のとおり,ドスパラで購入した個体は,統合型シェーダプロセッサ「Stream Processor」(以下,SP)の数が,800基と表示されている。
※2009年7月3日追記
本記事に掲載したSP数800基版,640基版の出現については,あくまでも編集部が2009年6月25日,29日に購入した結果を示したものです。これらの差異については,エーオープンジャパンから出荷された時点で異なるSP数のものが混在していると思われ,それぞれの店舗で決まったSP数のものが購入できるわけではありませんのでご注意ください。
800基というのは,「ATI Radeon HD 4850/4870/4890」と同じ。HD 4830のリファレンスと同じ,コア575MHz,メモリ1.8GHz相当(実クロック900MHz)という動作クロックは共通なので,SP数だけ異なっているわけである。
両者の違いはどこかにないのか。いろいろチェックしてみたところ,製品ボックスやカードの外観にこれといった違いはなかったが,GPUクーラーを取り外して,GPU上の刻印を確認してみると,SP数が800基とされた個体は「215-0669075 D1」,640基とされた個体は「215-0669075」で,「D1」という記載の有無を確認できた。
GPU-Zの返した値がどれだけ信頼できるかは後ほど検証するとして,GPU-Zが正しい前提で話を進めると,ドスパラで購入した個体は,新リビジョン版HD 4850の,動作クロックを落としたもの,ツクモeX.で購入した個体は,従来同様のHD 4830を,それぞれ搭載しているという推測ができそうである。
ちなみに,TechPowerUp製のBIOS情報表示&カスタマイズツール,「Radeon BIOS Editor」(Version 1.21)でBIOS設定を確認する限り,グラフィックスBIOS(=VBIOS)の内容に違いは見られなかった。
ちなみに,XIAi AF4830-512XD3 Greenのコア電圧は,Radeon BIOS Editorによると1.046V。HD 4830のリファレンスカードだと,最低クロック時のコア電圧が1.044V設定だったので,XIAi AF4830-512XD3 Greenは,GPUコアの動作電圧を抑えることで,補助電源コネクタの省略を実現したモデルとまとめられるだろう。
SP数800基版と640基版の両方をテスト
省電力版9800 GT&9600 GTとも比較
テストのセットアップに入ろう。用意したテスト環境は表2のとおりで,今回入手した2枚のXIAi AF4830-512XD3 Greenはその両方で検証を行うこととし,以下,「省電力版HD 4830(800SP)」「省電力版HD 4830(640SP)」と書き分けることにする。
今回,比較対象として用意したのは,補助電源コネクタが不要なグラフィックスカードから,省電力版「GeForce 9800 GT」(以下,省電力版9800 GT)を搭載したGalaxy Microsystems製グラフィックスカード「GF P98GT/512D3/LOW POWER」と,省電力版「GeForce 9600 GT」(以下,省電力版9600 GT)搭載のZOTAC International製品「ZOTAC GeForce 9600 GT Eco Short」。また,HD 4830とATI Radeon HD 4770(以下,HD 4770),「ATI Radeon HD 4730」(以下,HD 4730),そしてHD 4670のスコアは,HD 4730のレビューで得られたデータを流用することをあらかじめお断りしておきたい。
GF P98GT/512D3/LOW POWER 外排気クーラー搭載の省電力版9800 GTカード。HDMI出力標準対応も特徴 メーカー:Galaxy Microsystems 問い合わせ先:[email protected] 実勢価格:1万1500〜1万2500円(※2009年7月2日現在) |
ZOTAC GeForce 9600 GT Eco Short カード長193mm(※突起部含まず)の省電力版 メーカー:ZOTAC International 問い合わせ先:アスク(販売代理店) [email protected] 実勢価格:9000〜1万1000円(※2009年7月2日現在) |
テストは4Gamerのベンチマークレギュレーション7.0準拠となるが,スケジュール,そしてデータ流用の都合上,解像度1024×768ドットは省略し,「Left 4 Dead」「Company of Heroes」のテストも割愛する。
640SP版は通常版と同じ性能
一方,800SP版のパフォーマンスに注目
まずはグラフ1,2の「3DMark06」(Build 1.1.0)から見ていこう。
Stream Processorの仕様も,動作クロックも変わらない以上,当たり前といえば当たり前なのだが,省電力版HD 4830(640SP)のスコアは,通常版のHD 4830とほぼ同じ。一方,省電力版HD 4830(800SP)は,アンチエイリアシング,テクスチャフィルタリングともに無効化した「標準設定」,4xアンチエイリアシングと8x異方性フィルタリングを適用した「高負荷設定」のどちらでも,HD 4830(640SP)やHD 4830と比べて明らかに高いスコアを出している。4〜8%という違いが測定誤差とは考えにくいため,GPU-Zの「SP数800基」というレポートは,間違いではなさそうだ。
また,省電力版HD 4830(640SP)のスコアが,省電力版9800 GTとほぼ同じレベルで並んでいる点は興味深い。
「Crysis Warhead」の結果がグラフ3,4となる。Crysis Warheadは,グラフィックス描画負荷の高いFPSで,レギュレーションも高グラフィックス設定に振っているため,ミドルクラスGPUだと大きな差がつきづらい。ただ,それでも,省電力版HD 4830(800SP)が頭一つ抜け気味なのは見て取れるはずだ。
続けてグラフ5,6は,「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)のテスト結果である。Call of Duty 4は,シェーダプロセッサ数がフレームレートを大きく左右するタイトルということもあって,省電力版HD 4830(800SP)と,省電力版HD 4830(640SP)の差が大きい。HD 4770は別格として,省電力版HD 4830(800SP)のポテンシャルも,相当なものである。
一方,RPGタイトル「ラスト レムナント」では傾向が若干異なる(グラフ7)。ラスト レムナントは,NVIDIA製GPUに有利なスコアが出やすいタイトルだが,やはりというかなんというか,3枚のHD 4830カードは,HD 4770と揃って,省電力版9600 GT程度のスコアに留まり,省電力版9800 GTの後塵を拝した。
またここでは,省電力版HD 4830(800SP)と省電力版HD 4830(640SP)の間に,スコアの違いがそれほど生じていない。
最後に「Race Driver: GRID」(以下,GRID)の結果がグラフ8,9となる。ラスト レムナントとは異なり,ATI Radeonに有利なスコアが出やすい本タイトルだと,省電力版HD 4830(640SP)が省電力版9800 GTより高いフレームレートを叩き出すが,省電力版HD 4830(800SP)は,それよりさらに一段高い位置にいるのが分かる。
PowerPlay無効によりアイドル時はやや高いが
アプリ実行時の消費電力は確実に低減
補助電源を必要とせず,PCI Express x16インタフェースからの75W給電だけで動作可能なカードになったことで,通常版から消費電力はどれくらい下がったか。ログを取得できるワットチェッカー,「Watts up? PRO」から,システム全体の消費電力をチェックしてみたい。
今回も,レギュレーションに従って,OS起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,各タイトルごとの実行時として,それぞれの消費電力値を測定することにした。
アイドル時から見てみると,省電力版HD 4830(800SP)はおろか,省電力版HD 4830(640SP)も,通常版HD 4830より消費電力が高く出ているが,これは,本稿の前半でも指摘したように,省電力機能であるATI PowerPlayが機能しておらず,アイドル時の動作クロックが下がらないためだろう。
対してアプリケーション実行時で見てみると,省電力版HD 4830(800SP)と通常版HD 4830がほぼ同程度。省電力版HD 4830(640SP)はそれより10W前後低く,省電力版9800 GTと同等以下のスコアを実現している。SP数800基版は,さすがにリファレンスを上回るSP数を搭載した代償を支払わされているが,GPUコア電圧が下がった効果自体はあるわけだ。
テスト時の室温は24℃。テスト用システムは,PCケースに組み込まない,バラック状態に置かれた状態のものだが,やはりというかなんというか,省電力版HD 4830(800SP)と省電力版HD 4830(640SP)では,前者のほうが消費電力は高め。とくに高負荷時では7℃も差がついている。
なお,XIAi AF4830-512XD3 Greenが搭載するGPUクーラーだが,筆者の主観でその動作音をお伝えすると,「風切り音が耳につくほどではないが,決して静音とはいえない」レベル。ただ,この高回転が,それほど問題のないレベルにGPU
温度を落ち着かせているのも確かなので,このあたりは悩ましい。
800SP版は補助電源なしモデルとして歴代最高性能
ただし現状,“狙い撃ち”はまず無理
以上のテスト結果から明らかなように,省電力版HD 4830(640SP)は,補助電源コネクタなしのグラフィックスカードとして,歴代最高レベルの性能を持っていると述べても過言ではない。さらに,そんな省電力版HD 4830(640SP)を上回る性能を発揮する省電力版HD 4830(800SP)の存在感も大きく,しかも実勢価格は1万円以下で,コストパフォーマンスは良好だ。つい先日登場した HD 4730はいったい何だったのだろうか……。
今回は,ドスパラで購入した個体が800基版だったが,同店で販売されているものがすべて800基版だという保証や,ツクモeX.で販売されているものがすべて640基版であるという保証はどこにもない。こういう売り方はどうかと思うが,買う側からするとほとんどギャンブルだ。
その意味において,現時点では,SP数が640基である前提に立ちつつ,800基版が手に入ったらラッキー,くらいのスタンスで購入するのが正解ではなかろうか。
もっとも,消費電力面でのメリットを踏まえると,省電力版グラフィックスカードとして正しい位置付けの製品は640基版のほうではないか,という気はしないでもないが。
- 関連タイトル:
ATI Radeon HD 4800
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