レビュー
正月休みにPCの刷新を考えるあなたに捧ぐ,3万円以下のGPU購入ガイド
ATI Radeon HD 4870
ATI Radeon HD 4850
ATI Radeon HD 4830
ATI Radeon HD 4670
GeForce 9800 GTX+
GeForce 9800 GT
GeForce 9600 GT
» ハイエンドGPUの価格帯が3万円近辺まで下落するなど,軒並み手が届きやすくなった2008年後半のグラフィックスカード戦線。2008年末〜2009年初頭の年末年始休暇は,これまでにないほどゲーム用PCの刷新に適したタイミングとなっているが,実際のところ,どれが“正解”だろうか。1〜3万円程度で購入できるグラフィックスカード,計11製品を徹底比較してみたいと思う。最近プレイしたゲームで,3D性能不足を痛感した人はぜひご一読を。
対抗するNVIDIAは,55nmプロセスを採用した製品群を投入したり,価格を引き下げたりといった対抗策を講じており,結果として2008年後半には,ハイエンドクラスのグラフィックスカードが3万円近くまで下がるなど,全体的かつ急激な値下がりが生じた。とくに1〜3万円という価格帯では,「ミドルレンジ」の一言で片付けるのが難しいほど,多様な製品がひしめき合う様相を呈するに至っている。
狭い価格帯で多くのグラフィックスカードが鎬(しのぎ)を削っている状況というのは,エンドユーザーからすると歓迎すべき状況だが,一方で,どれを買うのが一番お買い得なのか,一目で分かりにくいということでもある。そこで今回は,本稿の掲載に向けてテストをスタートした2008年12月17日時点における搭載グラフィックスカードの平均価格が3万円以下で,ローエンドに属さない製品をズラリと並べ,2008年末から2009年初頭の年末年始休暇で最も“おいしい”GPUがどれなのかを,はっきりさせたいと思う。
1〜3万円で購入できる7種類のGPUをテスト
ATI Radeon HD 4670はCrossFireX構成も考慮に
というわけで,今回用意したGPUは表1のとおりの7製品である。搭載カードの平均価格が3万円を下回る現行GPUのうち,過去に4Gamerで掲載したレビュー記事を基に,最新世代の3Dゲームタイトルを満足にプレイ可能と思われるものをピックアップした。
ただし,グラフィックスメモリ1GB版「GeForce 9800 GTX+」搭載グラフィックスカードの,数少ない選択肢の一つであるGIGABYTE TECHNOLOGY製品「GV-N98XPZL-1GH」は,メモリクロックがリファレンスより200MHz相当低く,かつ,リファレンスまでオーバークロックすると動作しなくなった。そのため,本製品のスコアのみ,参考程度となる。この点はあらかじめお断りしておきたい。
また,ATI Radeon HD 4670だが,今回用意したGPUのなかで唯一,PCI Express用補助電源コネクタが不要,かつ2枚購入してもコストは2万円前後で済むことから,2-way ATI CrossFireX(以下,CFX)構成でもテストを行うことにしている。ハードルの低い構成の選択肢となるATI Radeon HD 4670×2が,上位モデルにどの程度迫れるのかは,見ておきたいポイントだ。
グラフィックスドライバは,テストを開始した2008年12月17日時点におけるAMD,NVIDIAそれぞれの公式最新版,「ATI Catalyst 8.12」「GeForce Driver 180.48」を基本的に用いる。しかし,前述した「GV-N98XPZL-1GH」は,GeForce Driver 180.48では動作しなかったため,本製品のみ,製品に付属する「GeForce Driver 177.98」を用いてテストすることとした。
ここで,テストに用いた各製品についてざっと紹介しておこう。今回は,ASUSTeK Computer(以下,ASUS),アスク,エムエスアイコンピュータージャパン,玄人志向,パソコンショップ アーク,リンクスインターナショナル各社の協力の下,テスト機材を入手している。
EAH4870/HTDI/512M
- メーカー:ASUSTeK Computer
- 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) [email protected]
- 実勢価格:2万7000〜3万2000円(2008年12月26日現在)
GV-R485OC-1GH
- メーカー:GIGABYTE TECHNOLOGY
- 問い合わせ先:パソコンショップ アーク http://www.ark-pc.co.jp/
- パソコンショップ アーク店頭価格:2万2980円(2008年12月26日現在)
R4850-T2D512J
- メーカー:MSI
- 問い合わせ先:エムエスアイコンピュータージャパン TEL:03-5817-3389
- 実勢価格:1万8000〜2万1000円(2008年12月26日現在)
SAPPHIRE HD 4830 512MB GDDR3 PCI-E
- メーカー:Sapphire Technology
- 問い合わせ先:アスク(販売代理店) [email protected]
- 実勢価格:1万1000〜1万8000円(2008年12月26日現在)
EAH4670/DI/512M/A
- メーカー:ASUSTeK Computer
- 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) [email protected]
- 実勢価格:1万〜1万4000円(2008年12月26日現在)
SAPPHIRE HD 4670 512M GDDR3 PCI-E
- メーカー:Sapphire Technology
- 問い合わせ先:アスク(販売代理店) [email protected]
- 実勢価格:9000〜1万3000円(2008年12月26日現在)
GV-N98XPZL-1GH
- メーカー:GIGABYTE TECHNOLOGY
- 問い合わせ先:リンクスインターナショナル(販売代理店) TEL 03-5812-5820
- 実勢価格:2万3000〜2万5000円(2008年12月26日現在)
EN9800GTX+ DK/HTDI/512M
- メーカー:ASUSTeK Computer
- 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) [email protected]
- 実勢価格:2万2000〜2万8000円(2008年12月26日現在)
GV-N98TOC-1GH
- メーカー:GIGABYTE TECHNOLOGY
- 問い合わせ先:リンクスインターナショナル(販売代理店) TEL 03-5812-5820
- 実勢価格:2万3000〜2万5000円(2008年12月26日現在)
GF9800GT-E512HW/HD
- メーカー&問い合わせ先:玄人志向
- 実勢価格:1万5000〜1万8000円(2008年12月26日現在)
GF9600GT-E512HW/HD
- メーカー&問い合わせ先:玄人志向
- 実勢価格:1万1000〜1万4000円(2008年12月26日現在)
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション6.0に準じるが,スケジュールの都合上,解像度は1280×1024/1680×1050/1920×1200ドットの三つに絞っている。
なお以下,文中とグラフ中とも,とくに断りのない限り,「ATI Radeon」「GeForce」の表記を省略したGPU名で表記。同じGPUを搭載しつつ,グラフィックスメモリ容量が異なる場合は,GPU名の後ろに[1GB]もしくは[512MB]と付記する。ただし,リファレンスクロックで動作させられないGV-N98XPZL-1GHだけは,製品名で記述して区別することとした。
「3万円以下」ではやはり強いHD 4870
HD 4670のCFXも面白い結果に
定番の「3DMark06 Build 1.1.0」(以下,3DMark06)から見ていこう。「標準設定」のテスト結果がグラフ1,4xアンチエイリアシングと8x異方性フィルタリングを適用した「高負荷設定」のテスト結果がグラフ2になるが,やはりというかなんというか,このクラスではHD 4870が完全に頭一つ抜け出している。
離されつつもそれを追うのが9800 GTX+というあたりも,順当な結果といえるだろう。一方,HD 4670のCFX構成が見せる高いパフォーマンスには目を見張るものがある。
グラフィックスメモリ1GBモデルは,(参考となるGV-N98XPZL-1GHはさておくとしても)HD 4850,9800 GTとも,同512MBよりスコアを落としているのが気になった。
グラフ3,4は,FPS「Crysis Warhead」における平均フレームレートをまとめたものである。「スコアが全体的に低めであるものの,総じて3DMark06に近い」といえる結果だが,注目すべきポイントは二つ。一つは,マルチGPUへの対応が十分でないため,HD 4670[CFX]のスコアがあまり伸びず,とくに高負荷設定ではまったく恩恵が得られていないこと。もう一つは,3DMark06と異なり,HD 4850は標準&高負荷設定,9800 GTは高負荷設定で,グラフィックスメモリ1GB版の効果が出ていることだ。
HD 4870をもってしても1024×768ドットで40fps強がいいところという“激重”タイトルでは,1GBという物量が真価を発揮できるというわけである。
続いてもFPSから「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)。テスト結果はグラフ5,6のとおりで,標準設定ではHD 4870がほかを寄せつけない強さを見せている。一方,高負荷設定だと,9800 GTX+[512MB]がHD 4870との差を詰めている点も興味深い。グラフィックスメモリ容量1GBの効果がまったくないのは,3DMark06と同じだ。
「Call of Duty 4とほぼ同じ」とまとめてしまっても問題なさそうなのが,グラフ7に示した「Unreal Tournament 3」(以下,UT3)の結果である。1280×1024ドットでHD 4870と9800 GTX+[512MB]に差がほとんどないのは,UT3の描画負荷が低すぎて,CPUのボトルネックによるスコアの頭打ちが起きているためだろう。
TPS「デビル メイ クライ4」のテスト結果がグラフ8,9となる。ここでも,HD 4870の優位性は一目瞭然。また,本タイトル――正確にはゲームエンジンである「MT Framework」――がマルチGPU環境に最適化されていることもあって,HD 4670[CFX]もなかなか優秀なスコアを示している。
面白いのは,HD 4850[1GB]とHD 4850[512MB]では,前者のほうがスコアはわずかながら低いのに対し,9800 GT[1GB]と9800 GT[512MB]では逆になっている点。体感できるレベルの違いではないものの,このあたりに,ATI RadeonとGeForceの個性が出ているとはいえそうだ。
これまでの傾向とは大きく異なるのが,グラフ10,11に示した,RTS「Company of Heroes」の結果である。Company of Heroesは,GeForceに最適化されているタイトルなのだが,それにしても9800 GTX+[512MB]のスコアが高い。HD 4870は,9800 GT[512MB]を上回るのがやっと,といったところである。
ただ,そこまで最適化されていても,9600 GTはHD 4830に届かなかった。最安値ではほぼ同じくらいの価格ということを考えると,9600 GTはやや厳しいか。
最後はレースタイトル,「Race Driver: GRID」(以下,GRID)である。結果はグラフ12,13のとおりで,標準設定の1280×1024ドットでは90fps付近でCPUボトルネックによる頭打ちが見られるものの,それ以上の解像度や高負荷設定では,やはりHD 4870が有利。HD 4850とHD 4670[CFX],9800 GTX+[512MB]がほぼ横並びで第2グループを形成している。
消費電力当たりの性能が抜群のHD 4670
GeForceは55nmプロセスで省電力化を実現
序盤で述べたとおり,今回テストしたGeForce搭載カードのうち,9800 GT[512MB]と9600 GTは,55nmプロセスで採用されたGPUを採用するものと思われる。また,表1で示したとおり,9800 GTX+は55nmプロセスを採用するGPUだ。一方,ATI Radeonは一足先に55nmプロセスへの移行を果たしているが,実際のところ,消費電力はそれぞれどの程度だろうか。
そこで今回も,ログを取得できるワットチェッカー「Watts up? PRO」を利用してシステム全体の消費電力を測定することにした。ここでは,OSの起動後,30分間放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時としている。
その結果がグラフ14だ。グラフの規模が大きくなりすぎたため,今回は各タイトル実行時の平均値を代表して掲載し,それぞれの値は別途表3にまとめている。グラフの画像をクリックすると,完全版を別ウインドウで表示するようにしてあるので,興味のある人はそちらも併せてチェックしてほしい。
さて,やはりHD 4870の消費電力は,このクラスだと群を抜いて高い。性能と消費電力が比例しているといったところか。HD 4670[CFX]の消費電力はHD 4830とほぼ同じで,消費電力当たりの性能がいかに高いかが窺える。
ちなみに今回,参考扱いとしているGV-N98XPZL-1GHは,PCI Express外部給電コネクタを,リファレンスデザインの6ピン2系統から同1系統へと減らしたモデルだが,オリジナルデザインながらリファレンス仕様を踏襲した9800 GTX+[512MB](=N9800GTX+ DK/HTDI/512M)と比べると,アプリケーション実行時の平均では約10W低くなっている。また,HD 4670が発表されたタイミングで掲載したレビュー記事だと,HD 4670と65nmプロセス版9600 GTとの差は20Wほどあったが,今回は10W強にまで減っており,55nmプロセスへ移行したことによる消費電力面でのメリットが確実に存在していることが見て取れよう。
なお,9800 GT[1GB](=GV-N98TOC-1GH)は,GPUコア上のマーキングが「G92-280-A2」だったので,こちらはまず間違いなく65nmプロセス版である。
さらに,3DMark06を30分間連続実行した時点を「高負荷時」として,GPUの温度を測定したものがグラフ15である。
測定に用いたソフトウェアは,GPU温度表示機能を持つ「GPU-Z」(Version 0.3.0)。室温は21℃で,テスト対象となるシステムは,PCに組み込まない,いわゆるバラック状態に置かれている。
9800 GT[1GB]がN/Aなのは,前述のとおり,GV-N98TOC-1GHに温度センサーが搭載されていないためだ。
GPUクーラーが各製品でバラバラなので,横並び比較にあまり意味はないが,オリジナルクーラーを採用した各製品のGPU温度は,高負荷時でほぼ60℃前後にまとまっており,歓迎できる。発表直後のレビュー記事で,リファレンスクーラーの冷却性能に苦言を呈したHD 4870を除くと,9800 GT[512MB]で,やや高めのスコアになっているのが気になる程度だろうか。9600 GTと同じクーラーなので,気持ち,冷却が追いつかなくなっているのだろう。
3万円以内で性能重視ならHD 4870以外にない
HD 4670を持っているなら「もう1枚」を推奨
以上の結果から導ける結論だが,この年末に,3万円以内の予算で最高性能を望むのであれば,HD 4870しかない。もちろん,「流通在庫しかない旧モデルでもかまわない」「3万円を少し超えてもいい」というのであれば,GeForce GTX 260という選択肢もあるだろう。そういう人は,ぜひ10月18日掲載のレビューや12月13日掲載のテストレポートをチェックしてほしいと思う。
だが,「平均的な売価が3万円以内のカードから,性能を重視するならどれを選ぶか」といえば,HD 4870がベストだ。
テストして面白いと思ったのは,HD 4670[CFX]の存在である。この秋,HD 4670搭載カードは相当な枚数が売れたと聞くが,2系統のPCI Express x16スロットを持つIntelもしくはAMDのチップセット搭載マザーボードを持っていれば,あと1枚買い足すだけで,(対応ゲームでは)HD 4850と同等クラスのパフォーマンスが得られるというのはなかなか魅力的。カードサイズが小さく,補助電源を必要としない手軽さは,かつてヒットした「GeForce 7600 GT」を彷彿とさせる。
一方,GeForceも55nmプロセス版で,順当に消費電力が下がっている点は評価できよう。ただ,9800 GTX+を除くと,購入してGPUクーラーを外すまで,65nmか55nmか分からないという仕様には疑問を持たざるを得ない。
もう一つ,テストからほぼ断定できることとして付け加えておきたいのは,このクラスの製品でグラフィックスメモリを1GB搭載しなければならない理由はなく,512MBで十分ということだ。むしろ,GV-N98XPZL-1GHのように,予期せず低いパフォーマンスの製品に当たってしまうこともあることを考えると,メモリ容量を重視するくらいなら,少しでも上のモデルのGPUを狙うべきである。
扱いが難しいのは,1万円台後半から2万円前後の製品で,HD 4850にしろ,9800 GTX+にしろ,今一つ決め手を欠く。このあたりを考えている人には,背伸びしてでもHD 4870を買うべきだと伝えたいところだが,そうもいかないのであれば,よりコスト重視でHD 4850,より性能重視で9800 GTX+といったところになるだろうか。
最後に1万円台前半だが,性能差,消費電力を考えるに,ベターな選択肢はない。なんとか奮発して,HD 4850に手を伸ばしてほしい。
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