レビュー
想定売価149ドル。HD 4800最下位モデルは買いなのか
ATI Radeon HD 4830リファレンスカード
» AMD本社は「GeForce 9800 GT」,そして日本AMDの土居氏が「GeForce 9600 GT」対抗と位置づける,市場想定売価149ドルのHD 4800シリーズ最下位モデルが登場した。2008年秋,店頭価格1万円台中後半というのは,グラフィックスカードの激戦区だが,果たして新製品は,立ち位置を確保することができるだろうか?
2008年秋の時点で,1万円台中盤という価格帯には,「GeForce 9600 GT」(以下,9600 GT)という強力なライバルもいるわけだが,果たしてHD 4830はそんな市場において,どれだけのコストパフォーマンスを示してくれるのか。発表に先立って,AMDの日本法人である日本AMDから,数日ほど借用することができたので,さっそく実機の検証結果をお伝えしていきたい。
外観はHD 4850カードと瓜二つ
HD 4850カードのGPUを載せ替えただけか?
入手したHD 4830リファレンスカードのカード長は230mm(※突起部除く)。1スロット仕様の薄型GPUクーラーを搭載する点や,PCI Express用の6ピン補助電源コネクタを1基搭載する点など,外観もHD 4850リファレンスカードとまったく同じである。
GPUクーラーを取り外すと,GPUおよびメモリチップ,電源部が姿を見せるが,それらの配置もやはり同じ。早い話,HD 4850とHD 4830は共通の基板を用いていると判断していいだろう。
ちなみに入手した個体が搭載していたグラフィックスメモリチップは,Qimonda製GDDR3の「HYB18H512321BF-10」で,先に筆者がレビューしたSapphire Technology製HD 4850カード「SAPPHIRE HD 4850 512MB」とこれまた同じ。HYB18H512321BF-10は1.0ns品で,2GHz相当(実クロック1GHz)での動作が可能であるため,HD 4830リファレンスカードでは,200MHz相当分のマージンが残っていることになる。
省電力機能の「ATI PowerPlay」はもちろんサポートされ,TechPowerUp製のBIOS変更ツール「Radeon BIOS Editor」(Version 1.17」から,BIOS側に用意されたATI PowerPlayのクロックテーブルを確認した限り,コアクロックは160/500/575MHz,実メモリクロックは250/750/900MHzの3段階で切り替わる。また,GPUコア電圧も,低負荷時やアイドル時には1.044Vへと引き下げられるようだ。
スケジュールの都合上ばらけた
ドライバのバージョンに注意
今回のテスト環境は表2のとおり。比較対象としては,上位モデルとなるHD 4850を搭載した,ASUSTeK Computerの「EAH4850/HTDI/512M」のほか,HD 4670,「GeForce 9800 GT」(以下,9800 GT),9600 GTカードを用意している。
ちなみに9800 GTは,引用元となるテストレポート記事にもあるとおり,65nmプロセスルールを採用したバージョンである。また,同記事では「Unreal Tournament 3」(以下,UT3)と「Half-Life 2: Episode Two」(以下,HL2EP2)の結果を掲載していないが,記事の掲載後,余裕のあるときに同条件で取っておいたデータが手元にあるので,両タイトルのデータはこれを掲載する。
テスト方法は,4Gamerのベンチマークレギュレーション5.2準拠。以下,とくに断りのない限り,グラフィックスカード名ではなくGPU名で表記を行う。
EAH4850/HTDI/512M 2万円台前半で購入できるHD 4850カード メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) [email protected] 実勢価格:2〜2万5000円(2008年10月23日現在) |
Rampage Formula ゲーマー向けのX48マザーボード メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) [email protected] 実勢価格:3万3000〜3万7000円(2008年10月23日現在) |
総合的には9800 GTに一歩及ばずも
高負荷環境で盛り返すHD 4830
テスト結果を順に見ていこう。
グラフ1,2は,「3DMark06 Build 1.2.0」(以下,3DMakr06)の結果である。HD 4830は,HD 4850からはっきりと目に見える形で引き離されているが,HD 4670に対しては,HD 4800シリーズの製品として,格の違いを見せつけている。
GeForceの2製品と比較すると,スコアはおおむね「9600 GT以上9800 GT以下」といったところ。9800 GTとは,「高負荷設定」の高解像度時にいい勝負へ持ち込めているものの,それ以外ではやや下回った。
続いて,3DMark06のデフォルト設定である「標準設定」の1280×1024ドットで実行した,Feature Testの結果をグラフ3〜5に示す。
ここでは,グラフ4,5に注目してほしい。というのも,HD 4830とHD 4850を比べたとき,頂点シェーダ(Vertex Shader)のスコアと比べて,ピクセルシェーダ(Pixel Shader)スコアの差が,より大きくついているからだ。ATI Radeon HD 4000シリーズでは,GeForceライクなピクセルシェーダ偏重のチューニングが行われているが,HD 4830におけるシェーダプロセッサ数の削減は,ほぼそのままピクセルシェーダ性能の低下につながっていると見てよさそうである。
なお,頂点シェーダテストの「Simple」でHD 4670のスコアが飛び抜けて高いのは,HD 4670の750MHzというコアクロックがダントツで高いためと思われる。
実際のゲームから,グラフ6,7はFPS「Crysis」のテスト結果である。一言でまとめるなら傾向は3DMark06と同じ。ただし,HD 4830と9800 GTのスコアは拮抗しており,ほぼ同程度のパフォーマンスを発揮できているといっていい。
描画負荷が低いFPSではどうか。グラフ8はUT3の結果で,ご覧のとおり,1024×768ドットではCPUボトルネックが生じているため,1280×1024ドット以上を見ていくことにするが,HD 4830のスコアは,HD 4670とHD 4850のちょうど中間程度に位置しているといっていい。1280×1024ドットでは9800 GTから置いて行かれるが,1600×1200ドット以上では同程度のスコアで並んでいるのも目を引く。
UT3と同じく,2008年秋の時点では“非常に軽い”ゲームとしてカテゴライズされるHL2EP2。グラフ9,10を見るに,標準設定では,UT3以上にCPUボトルネックによるスコアの平衡化が顕著。標準設定の高解像度や,高負荷設定でのテスト結果を見るに,HD 4830は9800 GTから若干置いて行かれ気味である。
グラフィックスメモリ負荷の高いTPS,「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」(以下,ロスト プラネット)の結果がグラフ11,12である。本タイトルはGeForceファミリーに最適化されていることもあり,HD 4830は9800 GTにほとんど歯が立たない。どちらかというと,9600 GTといい勝負になっている。
最後はRTS,「Company of Heroes」の結果だ(グラフ13,14)。ここでもロスト プラネットと近い傾向といえ,1920×1200ドットで(ATI Radeon HD 4000シリーズらしい,高負荷環境での強さを見せて)9600 GTのスコアをかなり上回るHD 4830だが,少なくとも,9800 GTには完敗である。
シェーダプロセッサ削減と低クロック化で
消費電力とGPU温度は確実に低下
測定に当たっては,OS起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を「(アプリケーションの)実行時」として,それぞれのテスト結果をスコアとしている。
その結果をまとめたのがグラフ15だが,HD 4830の消費電力はかなり低く抑えられている。HD 4850と比較すると,アイドル時,高負荷時とも25W程度は下がっており,スペックよりも低いと見ていいだろう。9800 GTとほぼ同じ消費電力となっている点も興味深い。
さらに,3DMark06を30分間連続実行した時点を「高負荷時」として,「HWMonitor Pro」(Version 1.02)から,GPU温度計測を試みた結果がグラフ16である。HD 4830のリファレンスGPUクーラーは,HD 4850のそれと同じく,高負荷になってもファン回転数があまり上がらない。そのため,消費電力が大きく引き下げられている割には,HD 4850との間に,GPU温度の違いはあまりない印象だ。はっきり言えば,あまり冷えない。
ただ,2008年10月17日の記事でお伝えしているように,ATI Catalystは2008年10月版でファン回転数をユーザーが任意で固定できるようになった。80℃台でも,実際の動作に当たっては大きな問題にはならないはずだが,周りのコンポーネントに与える影響を考えたりする場合には,自己責任でファン回転数を少し引き上げるといいだろう。
パフォーマンスは極めて順当だが
価格的には微妙な存在となるHD 4830
パフォーマンスをまとめると,HD 4850にはまったく敵わないが,HD 4670には付け入る隙を与えないという,至極まっとうな場所に収まっている。AMDはHD 4830を9800 GTの対抗と位置づけているが,「9800 GTと同等か,若干下回る程度」というテスト結果と,149ドルというHD 4830の想定売価,そして9800 GTの実勢価格を踏まえるに,これも間違っていない印象だ。
また,いまの国内グラフィックスカード市場において,ミドルクラスで高い人気を集めるのが9600 GTであることを考えても,HD 4830の立ち位置は微妙だ。10月18日に秋葉原で開催された日本AMD主催のイベントで,同社の“兄貴”土居憲太郎氏は,HD 4830を9600 GT対抗と位置づけていた(※)が,1万円台前半から購入できることが珍しくない9600 GTと対抗するには,149ドルという想定売価は,残念ながら高すぎる。
将来的には,100〜150ドルの価格帯をカバーすることになるとされるHD 4830。土居氏の掲げる9600 GTキラーとなれるよう,年末に向けて価格がこなれるのを,大いに期待したい。
※18日の時点ではHD 4830という製品名を出していなかったが,氏の言う「9600 GT対抗」がHD 4830を示すことは日本AMDに確認している。
最後に余談を一つ。今回は時間の都合でテストを行えなかったが,その仕様がHD 4850とあまりにも似通っていることを踏まえるに,HD 4830のオーバークロック耐性には期待が持てそうだ。もちろん,オーバークロックはユーザーの自己責任であり,万が一壊れた場合でも保証外となるが,遊べるミドルクラスGPUを探している人にとっては,面白い存在となるかもしれない。
- 関連タイトル:
ATI Radeon HD 4800
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