レビュー
デュアルGPU仕様のシリーズ最上位モデルは,高い期待に応えられるか
SAPPHIRE HD 4870 X2 2G GDDR5 PCI-E
» ついに登場した,開発コードネーム「R700」こと「ATI Radeon HD 4870 X2」。AMDの提唱する「Scalable Design」戦略に基づいて登場した,1枚のカード上に2基のGPUを搭載するウルトラハイエンドモデルだが,その実力はいかばかりだろうか? 宮崎真一氏がさっそく検証する。
4Gamerでは両GPUの発表に合わせ,AMDの日本法人である日本AMD,そして販売代理店であるアスクの協力により,Sapphire Technology製の最上位モデル「SAPPHIRE HD 4870 X2 2G GDDR5 PCI-E」(以下,SAPPHIRE HD 4870 X2)を計2枚入手できた。そこで今回は,「GeForce GTX 260」と互角の勝負を演じるGPUを2基搭載したグラフィックスカードが,どれだけの性能を発揮するのか,アーキテクチャのポイントを押さえつつ,パフォーマンスを検証してみたい。
デュアルGPUへの最適化が進んだHD 4870 X2
GPU間の帯域幅は従来比3倍に
AMDリファレンスのデュアルGPUソリューションというと,第1弾は「ATI Radeon HD 3870 X2」(以下,HD 3870 X2)だった。詳細は2008年1月28日に掲載したレビュー記事を参照してほしいが,同製品と今回のHD 4870 X2で大きく異なる点は二つある。
そしてもう一つ,より重要なのが,ブリッジチップとは別に,「Sideport」と呼ばれる双方向インタフェースによっても,2基のGPUが接続されるようになったことだ。
Sideportの帯域幅はAMDの資料によると片方向5GB/s。AMDいわく「GPU間の帯域幅はHD 3870 X2時代と比べて3倍強にまで広げられている」とのことだ。ただ,この資料には少し疑問が残る。というのも,PCI Express 1.1の転送速度は1レーンあたり片方向で2.5Gbps,同様にPCI Express 2.0の転送速度は5.0Gbps。PCI Expressではデータ8bit,信号2bitの計10bitを転送するため,PCI Express 1.1のデータ転送レートは片方向の16レーンで4GB/s,同じくPCI Express 2.0は8GB/sとなるはずである。つまり,PCI Expressリンクに関しては,2.5Gbpsを2.5GB/s,5Gbpsを5GB/sと誤表記してしまっているように思われ,いきおい,Sideport間のバス帯域幅に関しても,「5Gbpsの誤表記」という可能性が拭いきれない。仮に5GB/sという表記が正しいとしても,今度は合算して3倍強というのは無理があり,誤表記だとすれば,Sideportのバス幅が明らかになっていない
以上,帯域幅は不明のままだ。
ちなみに,HD 4870 X2のAMDによる想定売価は549ドルとなっている。
6+8ピンの電源供給が必須に
HD 4870やHD 4850との3-way CrossFireXも可能
さて,あらためてSAPPHIRE HD 4870 X2をチェックしてみよう。
カードサイズは実測267mm(突起部含まず)で,これはHD 3870 X2や,NVIDIAの「GeForce GTX 280」(以下,GTX 280)や「GeForce 9800 GX2」と同じである。
ATI CrossFireX(以下,CrossFireX)用のブリッジコネクタは一つだけ用意されており,HD 4870 X2同士による4-way CrossFireX,あるいはHD 4870やHD 4850と組み合わせての3-way CrossFireX動作が可能だ。
試しに,後述するテスト環境でHD 4870 X2とHD 4870による3-way CrossFireX環境を構築し,「3DMark06 Build 1.1.0」(以下,3DMark06)を実行したところ,1280×1024ドットの結果は16259。少し前後してしまうが,後述するテスト結果と照らし合わせると,3-way CrossFireXも問題なく動作しているのが分かるだろう。
ちなみに,(これも後述するとおり)今回は「Intel X48 Express」搭載のASUSTeK Computer製マザーボード「Rampage Formula」でテストを行っているが,HD 4870 X2の4-way CrossFireX構成時は,CPUから遠いほうのPCI Express x16スロットに差したカードがマスター(=プライマリ)になった。HD 4870のCrossFire構成(以下,HD 4870[CF])だと,CPUに近いほうがマスターになるのだが,それがなぜHD 4870 X2だと変わるのかはよく分からない。
2008年7月9日の記事で紹介した「プロファイルを書き換えてのファン回転数固定」が可能なので試してみたところでは,設定値40%(約2600rpm)程度が,静音性と冷却性能のバランスが取れたギリギリの設定といったところだろうか。50%以上に設定すると風切り音がかなり耳につくので,実用には向きそうにない。
アイドル時にはATI PowerPlayによってコアクロックが507MHz,メモリクロックが2GHz相当,そしてコア電圧が1.25Vから1.05Vへと,それぞれ低下するようだ。
GPUクーラーを取り外すと,2基のGPUと,それを取り囲むようにGDDR5メモリチップが搭載されているのが見える。メモリチップはカードの表裏に1GPU当たり4枚ずつ,計16枚搭載。試用した個体では,Hynix Semiconductor製の「H5GQ1H24MJR-TOC」(1.0ns品)を採用していた。仕様上は4GHz相当(実クロック1GHz)まで対応しているので,メモリクロックは100MHzほどのマージンが設けられていることになる。
レビュワー向けドライバで“シングルカード”を中心に検証
参考として,4-way CrossFireXのテストも実施
テスト環境は表2のとおり。ATI Radeonのテストに当たっては,AMDからレビュワー向けに配布された「8.52.2-080722a-066081E-ATI」を利用した。8.52というバージョンは「ATI Catalyst 8.7」のDisplay Driverより新しいので,「ATI Catalyst 8.8」のβ版か,それに近いものと思われるが,HD 4870 X2への徹底した最適化が行われているためか,HD 4870[CF]ではテスト中にフリーズする不具合が多発し,計測し直しを余儀なくされた。HD 4870 X2のCrossFireXテスト時に同様の不具合が発生したので,このあたりは正式版で修正されることを期待したい。
また,直接の競合となるGTX 280カードとして,ASUSTeK Computer製のクロックアップモデル「ENGTX280 TOP/HTDP/1G」を同社から借用し,コア/シェーダ/メモリクロックをリファレンスにまで下げた状態で使用する。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション5.2準拠だが,Windows Vista環境で安定したスコアを得られない「Unreal Tournament 3」と「Half-Life 2: Episode Two」は割愛する。
高負荷&高解像度で実力を発揮するHD 4870 X2
HD 4870のCrossFire構成とほぼ同程度の性能か
前置きが極めて長くなってしまったが,テスト結果を見ていくことにしたい。
グラフ1,2は3DMark06の総合スコアをまとめたもの。まずいえることは,「標準設定」「高負荷設定」のいずれにおいても,HD 4870 X2のスコアがGTX 280を大きく上回っていることだ。
また,HD 4870 X2とHD 4870[CF]の二者においては,標準設定だと前者がわずかに上回るものの,高負荷設定では後者が高解像度で逆転するが,実はこの傾向,HD 3870 X2と同じ。GPU間の帯域幅が広がっているとされるにも関わらず同じ結果を示している以上,一つのPCI Express x16リンクを2基のGPUでシェアすることのデメリットが出てしまっていると言わざるを得まい。
なお,HD 4870 X2[CF]では,CPUボトルネックが発生してスコアの頭打ちが生じているが,テストした条件のすべてでスコアがほとんど変わっていない。これはさすが4-way CrossFireXといったところか。
続いて,3DMark06のデフォルト設定となる解像度1280×1024ドット,標準設定でFeature Testの「Fill Rate」「Pixel Shader」「Vertex Shader」テストを行った結果を見てみよう(グラフ3〜5)。グラフ1を踏襲する形で,HD 4870 X2とHD 4870[CF]のスコアはほぼ同じだ。また,HD 4870 X2[CF]は次元が違うスコアを叩き出している。とくに,ピクセルシェーダ性能に振っているGTX 280に,Pixel Shaderテストで3倍弱という差をつけているのは圧巻だ。
FPS「Crysis」のGPUベンチマーク「Benchmark_GPU」実行結果をまとめたのがグラフ6,7だ。CrysisはCrossFireXやNVIDIA SLIの効果がいま一つ見えづらいという,最新世代の3Dエンジンを採用するタイトルとしてはある意味貴重な存在だが,そのせいもあって,低解像度でHD 4870 X2は優位性を発揮できていない。標準設定では高解像度でGTX 280をなんとか逆転するのがやっとだ。
しかし,高負荷設定の高解像度では逆転。1920×1200ドットでは,HD 4870[CF]にも大きな差を付けており,標準的なCrossFireXとの違いを垣間見せている。
続いてTPS「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」(以下,ロスト プラネット)のベンチマークモード「PERFORMANCE TEST」から,実ゲームに近い傾向を見せる「Snow」テストの結果をまとめたのがグラフ8,9となる。
ロスト プラネットで注目したいのは,標準設定でHD 4870[CF]とほぼ同じスコアを示しているHD 4870 X2が,高負荷設定では最大10fps以上も置いていかれること。同タイトルがグラフィックスメモリ負荷の高いタイトルであることを考えると,HD 4870 X2のほうがスコアは高くなりそうなのだが,3DMark06と同様に,PCI Express 2.0リンクを2基のGPUが共有する仕組み上のボトルネックが発生している可能性が高そうだ。ただ,10fpsというのはさすがに大きいため,ドライバの最適化が進んでいない可能性も考えられる。
一方,マルチGPUに最適化されているロスト プラネットだけに,HD 4870 X2[CF]における高いスコアは見事。高負荷設定の1920×1200ドットでも,快適にプレイできるレベルだ。
最後にRTS「Company of Heroes」の結果がグラフ10,11だ。
Company of Heroesはレギュレーション5.2採用タイトルのなかだと負荷が低いこともあり,GTX 280に対するHD 4870 X2やHD 4870[CF]のアドバンテージは大きくない。HD 4870 X2とHD 4870[CF]では,基本的に後者が有利であるものの,高負荷設定の高解像度で前者が逆転している。これはおそらく,負荷が軽い,すなわちCPUとGPU間のデータ転送量が少ないために,2基のGPUが一つのPCI Express 2.0 x16リンクを共有することのデメリットよりも,1GPU当たり1GBのグラフィックスメモリ容量を持つメリットが上回った結果であろう。
消費電力ではカード2枚のCrossFireXより有利
冷却能力はHD 4870から改善か
そこで,システム全体の消費電力を,OSの起動後,30分間放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行し,最も高い消費電力値を記録した時点をそれぞれの実行時として測定。その結果をまとめたのがグラフ12である。なお,測定に当たっては,消費電力変化のログを取得できるワットチェッカー「Watts up? PRO」を利用している。
まずアイドル時について述べると,その消費電力はHD 4870と同程度。省電力機能のATI PowerPlayがしっかり働いていると見ていいだろう。アプリケーション実行時も,多少のバラツキこそあるものの,ざっくり400W程度で,少なくともHD 4870[CF]と比べて50W程度低いことは間違いなく断言できる。一方でHD 4870 X2[CF]搭載システムの消費電力は最大で771W。電源ユニットに対しては,かなり酷な環境となる。HD 4870 X2[CF]の安定的な利用を考えているのであれば,電源ユニットは最低でも1000Wクラスが必要だろう。
さらに,3DMark06を30分間連続実行した時点を「高負荷時」として,先ほどのアイドル時と合わせてGPUの温度を測定したものがグラフ13である。測定に際してGTX 280はGPU温度取得機能を持つ汎用ユーティリティソフト「ATITool」(Version 0.27 Beta 3)を利用し,ATI Radeonシリーズは「ATI Catalyst Contorol Center」のATI Overdriveから数値を読み取った。なお,テスト環境は,24℃の室内で,PCケースに組み込んでいない,バラックの状態となっている。
GPUクーラーのファン制御はドライバ任せ。クーラーが異なり,ファン回転数も異なるので横並び比較は難しいが,HD 4870 X2のGPU温度が,アイドル時に低めである点は評価できそうだ。高負荷時もHD 4870と同程度に収まっており,HD 4870 X2のGPUクーラーがもつ冷却効率はなかなか高そうである。
2GPU仕様らしい弱点も持つが
“シングルカード”最速の座を奪還したのは確か
しかし,そういった懸念を差し引いても,高解像度や高負荷設定で見せる優位性は明らか。“1枚のグラフィックスカード”として,HD 4870 X2の総合力がGTX 280を上回るのは間違いない。GPUを2基搭載することもあって,消費電力はGTX 280と比べてかなり高いものの,HD 4870[CF]と比べると確実に消費電力が低減している点も魅力的だ。
気がつくと大きく値を下げていたGTX 280と比べたとき,7万円以上という予想実売価格はやや高めだが,高解像度環境でゲームをプレイしたいハイエンド指向のゲーマーにとっては,十分に魅力的なグラフィックスカードといえる。
まずは,このニッチ市場にATI Radeonが還ってきたことを喜びたい。そして願わくば,日本での店頭売価が,AMDの想定売価である549ドルに近くならんことを。
- 関連タイトル:
ATI Radeon HD 4800
- この記事のURL:
(C)2008 Advanced Micro Devices, Inc.