レビュー
2008年第2四半期に勃発した販売価格2万円台のGPU戦争,勝者は?
SAPPHIRE HD 4850 512MB GDDR3 PCIE
MSI R4850-T2D512
GeForce 9800 GTX+リファレンスカード
» “いきなり2万円台前半〜半ば”という衝撃的な価格で販売が始まった,AMDの新世代GPU「ATI Radeon HD 4850」。そして,同GPUへのカウンターとして2008年7月中旬に販売が始まる予定の「GeForce 9800 GTX+」。コストパフォーマンスを重視する3Dゲーマーにとって,2008年第2四半期で最良の選択肢となる可能性を秘めた2製品の実力に,宮崎真一氏が迫る。
2008年6月20日の記事で紹介したとおり,AMDは新世代のミドルハイクラスGPU「ATI Radeon HD 4850」を発表。それに対して,NVIDIAはGeForce 9世代のハイエンドにして,GeForce GTX 200シリーズの登場とともにエントリーハイエンドへ下がった「GeForce 9800 GTX」を価格改定。さらに,ATI Radeon HD 4850への対抗として「GeForce 9800 GTX+」の市場投入を発表した(関連記事)。
カードの想定売価は前2者が199ドルで,後者が229ドルとなっており,にわかに熱い戦場となった2万円台のグラフィックスカード市場。本稿では,ATI Radeon HD 4850とGeForce 9800 GTX+の“直接対決”を中心に,2008年夏商戦の本命達を比較してみることにしよう。
ATI Radeon HD 3850の正統後継らしい
1スロット仕様のATI Radeon HD 4850
開発コードネーム「RV770 PRO」として知られていたATI Radeon HD 4850の概要はニュース記事を参考にしてもらうとして,本稿ではまず,入手したカードをチェックしていこう。今回4Gamerで入手したのは,Sapphire Technology(以下,Sapphire)製の「SAPPHIRE HD 4850 512MB GDDR3 PCIE」(以下,SAPPHIRE HD 4850)とMSI製の「R4850-T2D512」。前者は販売代理店であるアスク,後者はエムエスアイコンピュータージャパンの協力で手に入れている。
どちらもリファレンスと思われるカードデザインを採用しており,見た目に大きな違いはない。PCI Express外部給電コネクタが6ピン×1で,1スロット仕様のGPUクーラーを搭載するあたりは,前世代のミドルクラスGPU「ATI Radeon HD 3850」を彷彿とさせる。
SAPPHIRE HD 4850 512MB GDDR3 PCIE メーカー:Sapphire Technology 問い合わせ先:アスク(販売代理店) [email protected] 実勢価格:2万5000円前後(2008年6月23日現在) |
GPUクーラーを取り外すと,GPUとグラフィックスメモリチップが姿を現すが,基板はこのクラスらしい,スッキリした印象。8個搭載して容量512MBを実現するメモリチップは,Qimonda製のGDDR3 SDRAM「HYB18H512321BF-10」(1.0ns品)だった。
興味深いのは,ATI Catalyst Control Centerで2枚を比較してみると,アイドル時のコアクロックが異なっていた点だ。ATI Radeon HD 4850は,アイドル時にGPUの動作クロックを下げる省電力機能「ATI PowerPlay」を搭載しているが,SAPPHIRE HD 4850は160MHz,R4850-T2D512は500MHzと,最低クロックには結構な違いがある。どうも,アイドル時の最低動作クロックは,グラフィックスカードメーカー側で任意に(カード上のBIOSで)指定しているようである。
NVIDIAでは初の55nmプロセスルール採用となった
GeForce 9800 GTX+
ただし,GPUクーラーを取り外して,GPUのダイサイズをチェックしてみると,実測で16×16mm。G92コアの同17.5×18mmと比べて小さくなっている。この点についてNVIDIAに確認したところ,GeForce 9800 GTX+は55nmプロセスで製造されているとのことなので,おそらく採用されているのは開発コードネーム「G92b」と呼ばれていたGPUだろう。55nmへとシュリンクすることでマージンが生まれ,元々動作クロックが高かったGeForce 9800 GTXを上回る動作クロックを実現できたものと思われる。
搭載されたグラフィックスメモリはhynix Semiconductor製GDDR3の「H5RS5223CFR-N2C」(0.8ns品)で,GeFroce GTX 280などに採用されているものと同一。GPU-Zによれば,コアクロックは740MHz,メモリクロックは2.2GHz相当と,NVIDIAのリファレンスどおりになっている。メモリクロックは,100MHz(200MHz相当)ほど余裕を持たせた仕様だ。
テストの都合上,プラットフォームと
ドライババージョンの違いに注意
主役となる2GPUの比較対象としては,ATI Radeon HD 3800シリーズからATI Radeon HD 3870 X2とATI Radeon HD 3870を用意。また,GeForce 9800 GTXやGeForce 8800 GTX,GeForce GTX 280/260のスコアはGeForce GTX 200シリーズのレビュー記事からデータを流用した。
SAPPHIRE HD 3870 X2 1GB GDDR3 PCIE HD 3000シリーズのハイエンドカード メーカー:Sapphire Technology 問い合わせ先:アスク(販売代理店) [email protected] 実勢価格:4万8000円前後(2008年6月23日現在) |
SAPPHIRE HD 3870 512MB GDDR4 PCIE シングルGPU仕様のシリーズ最上位 メーカー:Sapphire Technology 問い合わせ先:アスク(販売代理店) [email protected] 実勢価格:1万9000円前後(2008年6月23日現在) |
また,グラフィックスドライバについては,AMDのサポートページ(※左のリンクをクリックする前に,AMDサポートサイトのトップページを開いてください。この順番でないと正常に閲覧できません)で配布されているHotfixを適用した。これは「ATI Catalyst 8.6」をベースに,ATI Radeon HD 4800シリーズでのパフォーマンスと安定性の向上が図られたもので,バージョンは「8.501.1-080612a-064899E-ATI」となる。ちなみに余談だが,ATI Radeon HD 4000シリーズと3000シリーズの異種混合CrossFireについて,AMDはできるともできないとも(正式には)アナウンスしていないが,実際に試してみたところ,少なくとも本バージョンでは利用できなかった。
このほかテスト環境は表1にまとめたとおり。ATI Radeon HD 3870 X2と同3870にはATI Catalyst 8.6を適用し,GeForce 9800 GTX+については,NVIDIAが全世界のレビュワー向けに配布した「ForceWare 177.39 Beta」を用いているが,PhysXドライバは適用していない。
以下,とくに断りのない限り,「GeForce」「ATI Radeon」を省略したGPU名で表記する。またカードを2枚用意できたHD 4850と9800 GTX+,9800 GTX,8800 GTXについては,シングルカード構成とは別にCF/SLIのテストを行い,それらをGTX 280/260シングルカードと比較することにした。
今回取り上げた主要なGPUの主なスペックを表2にまとめたので,興味のある人は参考にしてほしい。
実ゲームにおける性能向上に注力したHD 4850
9800 GTX+はクロック分の性能向上
それでは早速ベンチマーク結果の考察に入ろう。グラフ1,2は「3DMark06 Build 1.2.0」(以下,3DMakr06)から「標準設定」の結果である。シングルカードで比較して,HD 4850はHD 3870比8〜19%のスコアアップと,順当な伸びを見せているほか,すべての解像度で8800 GTXのスコアを上回っているのが興味深い。9800 GTX+は,9800 GTXと比べて,クロック上昇分がほぼそのままスコアになっている印象だ。
CFとSLIのスコアでは,HD 4850のスコアがSLIよりも高い値を見せており,3DMark06におけるCFの効率のよさが見て取れよう。また,このクラスのGPUを二つ使えば,GTX 280/260よりも高いスコアを引き出せることも分かる。
4xアンチエイリアシングと8x異方性フィルタリングを適用した「高負荷設定」のスコアに目を移すと,低解像度では9800 GTXに一歩譲るHD 4850が,解像度が高くなるとその立場を逆転させているのが目を引く(グラフ3,4)。これはCF時により顕著で,テストしたすべての解像度において,HD 4850のCFが最も高いスコアを叩き出している点は注目に値する。
以上を踏まえ,3DMarkのデフォルト設定となる解像度1280×1024ドット,標準設定において,Feature Testを行った結果がグラフ5〜7である。
ここではとくにPixel Shader(ピクセルシェーダ)とVertex Shader(頂点シェーダ)の値に注目したい。というのも,HD 4850はPixel ShaderでHD 3870に対して2倍近いスコアを記録しているのに対し,Vertex Shaderスコアは逆に低下しているからだ。
最近数世代のATI Radeonはどちらかというと頂点シェーダ性能をかなり重視した傾向を見せていたので,ガラリとその方針を変えたことになる。9800 GTX+や9800 GTX,GeForce GTX 280/260と似た傾向を示しており,実ゲームで求められるピクセルシェーダ性能に振ったチューンになっているともいえるだろう。その意味でも,3DMarkの結果だけでゲームでの性能を推し量ろうとするのは危険なので,くれぐれもご注意を。
では,そのチューンはどのように実際のゲームで結実しているのか,FPSの「Crysis」から見ていこう。
標準設定の結果をまとめたのがグラフ8,9だが,HD 4850のスコアはシングルカードで9800 GTXとほぼ同じ。9800 GTX+の高いクロックが効果を発揮するのは1024×768ドットのみとなっている。
マルチGPU時は,HD 4850[CF]が低解像度に見せるスコアの伸びに目を見張るものがあるが,高解像度では落ち込みが比較的大きい。
高負荷設定時の結果がグラフ10,11になるが,シングルカードの低解像度では9800 GTXとほぼ同じ。ただし,GeForce 9シリーズは,256bitのメモリインタフェースが原因で高解像度に大きくスコアを落とすのと比べると,256bit×2のリングバスアーキテクチャを採用し,さらにROP(※AMD語では「レンダーバックエンド」)ユニットのパフォーマンス最適化が進んでいるHD 4850の強みが目立つ。
しかし,いいことばかりでもなく,CF時の性能向上度合いはいま一つ。1920×1200ドットではBenchmark_GPU自体がテスト中に強制終了してしまった。シングルカードや標準設定におけるCFのスコアからするに,これはドライバ側の対応が十分ではないためと見るべきではなかろうか。
Crysisと比べると描画負荷が非常に低いFPS「Unreal Tournamnet 3」(以下,UT3)の結果をまとめたのがグラフ12,13である。シングルカードの標準設定で,HD 4850はすべての解像度で9800 GTXを超えており,かなり優秀。9800 GTX+も,HD 4850対抗製品らしいスコアを見せている。
また,マルチGPU構成時はHD 4850が頭一つ抜きん出ている。低解像度では,GTX 280をも超えるスコアを示した。
もう一つFPSから「Half-Life 2: Episode Two」(以下,HL2EP2)標準設定の結果をグラフ14,15に示す。
もともとHalf-Life 2シリーズはATI Radeonファミリーへの最適化が進んでいたのだが,最近は絶対性能で上回るGeForceのほうが良好なスコアを示しがちだった。しかし,HD 4850はとくに高解像度で従来製品から大きくスコアを伸ばしている。9800 GTXを圧倒している点にも注目したい。また,9800 GTX+もかなり優秀だ。
一方,CF&SLIではゲーム自体の負荷が軽いこともあって相対的にCPUボトルネックが大きくなり,マルチGPUのメリットが見えにくくなっている。
HL2EP2から,高解像度設定の結果をまとめたのがグラフ16,17だ。基本的には標準設定に準じた傾向が見られるが,ここでは,かなり明確な形でHD 4850がHD 3870 X2を上回っている点に着目したい。HD 3000シリーズは,ROPユニットに起因すると思われる,高負荷設定時の落ち込みが大きな弱点となっていたが,ROPユニットの最適化が進んでいるHD 4850では,弱点のかなりの部分は払拭されていると見ていいだろう。HD 4850[CF]の伸びはHL2EP2でも優秀で,低解像度では9800 GTX+[SLI]やGTX 280以上の性能を発揮している。
続いてグラフィックスメモリ負荷の高いTPS,「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」(以下,ロスト プラネット)。標準設定のテスト結果をまとめたのがグラフ18,19である。ここまでとは異なり,HD 4850のスコアが奮わない。9800 GTX+が9800 GTXと比べてクロック分のスコア向上を見せているのと比べると対照的だ。マルチGPU時も同様である。
グラフ20,21の高負荷設定でもその傾向に変化はない。HD 3000シリーズは,リリース当初,ロスト プラネットのスコアが低かったのが,その後のATI Catalystバージョンアップで少しずつパフォーマンスを改善していった。そのため,HD 4850においても同じことが繰り返されると見るべきだが,HD 3000シリーズで培ったノウハウが,もう少しHD 4850で役立ってもよかったようには思う。
RTS「Company of Heroes」の標準設定で取得したテスト結果がグラフ22,23である。ここでもロスト プラネットと同様,HD 4850は今一つパッとしない。HD 3870と比べると確かに性能は向上しているのだが,9800 GTXとの差が歴然と存在するのも,また確かだ。
一方,9800 GTX+のスコア向上は顕著。9800 GTX比9〜13%程度,HD 4850比では30%前後という大きな差を見せつけている。SLI動作時は,1024×768ドットこそ,CPUボトルネックによる260fps弱での頭打ちが見られるものの,高解像度になると,9800 GTX+[SLI]の高いパフォーマンスが光る。
高負荷設定も,標準設定と同じ傾向を示している(グラフ24,25)。HD 4850に関しては,今後のATI Catalyst最適化に期待したい。
HD 4850のGPUクーラーは力不足
9800 GTX+に55nm化の劇的な恩恵は期待できず
AMDは,HD 4850で,HD 3870から消費電力当たりの性能が2倍以上に達したと,強くアピールしている。また,G92の改良版となる55nmプロセスの新GPUコアを採用した9800 GTX+についても,消費電力の低下に期待が高まるところだ。
今回も,GTX 280/260のレビュー時と同じく,消費電力変化のログを取得できるワットチェッカー「Watts up? PRO」を利用してシステム全体の消費電力を測定し,その結果をまとめることにした。具体的には,OS起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を「(アプリケーションの)実行時)として,それぞれのテスト結果をスコアとした。なお,HD 4850については,アイドル時の動作クロックが低いSAPPHIRE HD 4850を利用している。
さて,スコアをまとめたのがグラフ26である(※編集部注:巨大になるため,バーにスコアを書き込んだものは別ウインドウを開くと表示するようになっています。また,別途表3にスコアの一覧表をまとめました)。
ATI RadeonとGeForceではマザーボードが異なるため,厳密な比較は行えないが,それでもHD 4850は9800 GTX+や9800 GTXと比べてアプリケーション実行時に30〜40W程度も低く,消費電力面でのアドバンテージが見える。HD 4850とHD 3870の間は公称消費電力(順に110W,105W以下)を考えると多少開き気味だが……。
一方の9800 GTX+は,55nmプロセスを,より高い動作クロックの実現に振って設計されていることもあってか,消費電力で9800 GTXから大きな改善は期待できない。まあ,ほぼ同じスコアなので,ここは「動作クロックが10%引き上げられたのを踏まえれば,プロセス微細化の効果はあった」と述べるべきなのだろう。
さらに,3DMark06を30分間連続実行し,当該時点におけるGPUの温度の計測を試みた。
測定に当たって,基本的にはGPU温度取得機能を持つ汎用ユーティリティソフト「ATITool」(Version 0.27 Beta 3)を利用しているが,ATI Radeonシリーズでは温度データを取得できなかったため,今回はATI Catalyst Control Centerの温度をスコアとして採用している。なお,以前のレビューでATIToolとCatalyst Control Centerの示す温度は,両者でほとんど同じであることは検証済みだ。なお,温度測定は,室温22度の環境で,ケースに組み込まないバラック状態で行っている。
その結果をまとめたのがグラフ27だが,ここで気になるのはHD 4850が示す温度の高さ。アイドル時なのだが,それでも78℃と,まったく“冷えて”いない。
この理由は一にも二にも,GPUクーラーが,静音性を徹底的に重視した設計になっており,アイドル時にファン回転数を大きく下げているためと思われるが,高負荷時にも90℃近くに達するなど,全体的にGPUを冷却しきれていない印象だ。まるで,8800 GTのリファレンスデザインを見ているかのような結果である。この温度でもグラフィックスカードの動作そのものに問題はないが,GPUコア周辺部はかなりの熱を持つため,ケース内のエアフローをしっかり確保する必要があるだろう。
一方の9800 GTX+だが,消費電力が9800 GTXと変わらないうえ,搭載するGPUクーラーも同じなので,当然,GPUの温度は9800 GTXのスコアを踏襲している。付け加えるなら,少なくとも静音ではない。
HD 4850はミドルハイクラスの決定打
9800 GTX+は悪くないが,要求スペックに疑問
1スロット仕様となるリファレンスクーラーの冷却能力不足は大変残念だが,8800 GT搭載グラフィックスカードがそうであったように,今後,カードメーカー各社からオリジナルデザインのクーラーを搭載したモデルが登場すれば,問題は次第に解決するはず。以上を踏まえ,ミドルハイクラスにおける2008年6月時点の決定打と評したい。
一方の9800 GTX+は,まず使い勝手という点で分が悪い。補助電源として6ピン×2が必要というのは,ハイエンド市場なら問題ないが,実勢価格2万円台の戦場では明らかにマイナスだ。また,カードサイズが実測で267mm(※突起部含まず)というのも,価格帯を考えると辛いところ。9800 GTX用の基板をそのまま流用したりすることなく一から再設計すれば,HD 4850に機能性で対抗できる製品に仕上がったのではないかと思われるだけに,実に惜しい。
とはいえ,さすがはHD 4850対抗製品。9800 GTXからの上積みは確実にある。ミドルクラスのグラフィックスカードを動作させるものとして“破格”のPC環境をきちんと用意できるユーザーにとっては,有力な選択肢となるだろう。
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ATI Radeon HD 4800
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GeForce 9800
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