テストレポート
nForce 790i Ultra SLIチップセットが対応するEPP 2.0&ESAの価値は?
2000MHz相当での動作が可能なEPP 2.0と
PC全体の統合的な管理機構を提供するESAに対応
またnForce 790i Ultra SLIではそれに合わせて,NVIDIAがCorsair Memoryと共同で策定したメモリモジュール拡張規格「EPP」(Enhanced Performance Profiles)のDDR3メモリ対応版「EPP 2.0」にをサポート。これにより,EPP 2.0対応モジュールであれば,メモリクロック2000MHz相当(実クロック1GHz)での動作を実現する。EPP 2.0を利用できるのは(少なくともいまのところ)nForce 790i Ultra SLIのみなので,メインメモリへのデータ展開が多いゲームタイトルで違いが出れば,“nForce 790i Ultra SLIならではの魅力”になるはずだ。
nForce 780i SLIとの比較で
DDR3&EPP 2.0のメリットを探る
さて,まずはEPP 2.0から見ていくことにするが,仕組み自体はEPPと同じで,メモリモジュールのSPD(Serial Presence Detect)――正確にはSPD情報の書き込まれたEEPROM(Electrically Erasable and Programmable ROM)だが,SPDという理解でかまわない――に,通常動作用のタイミングパラメータなどとセットで高速動作用の拡張情報が格納されており,マザーボードのBIOSから有効にすることで利用できる。
BL2KIT12864BE2009 メーカー&問い合わせ先:Lexar Media メーカー直販価格:649.99ドル(2008年4月11日現在) |
Striker II Formula 3-way/Quad SLI対応のDDR2モデル メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) [email protected] 実勢価格:4万3000円前後(2008年4月11日現在) |
比較対象としては,PC2-6400 DDR2 SDRAM環境としてnForce 780i SLIマザーボードから,ASUSTeK Computer製「Striker II Formula」を用意。一般的なDDR2-800環境と,DDR3-1333あるいはDDR3-2000環境を比較しようというわけだ。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション5.2となるが,ForceWare Release 170世代ではどうも4Gamerが用意したリプレイファイルと相性が悪いようで,「Half-Life 2: Episode Two」ではリプレイファイルが強制終了してしまう不具合が発生。そのため,同タイトルでのテストは省略した。そのほかテスト環境は表のとおり。
DDR3メモリの効果は確かにあるが
EPP 2.0はレイテンシの高さが致命的か
グラフ1,2は,「3DMark06 Build 1.1.0」(以下,3DMark06)の実行結果だ。
……ほとんど誤差のような違いしか生じていない。よく見ると,DDR3-1333(PC3-10600)はDDR2-800(PC2-6400)に対して若干のスコア向上を確認できるものの,DDR3-2000動作時はDDR3-1333より低くなり,DDR2-800の後塵を拝することすらある。
続いてFPSの「Crysis」における「Benchmark_GPU」の実行結果がグラフ3,4となる。CrysisではDDR3-2000がDDR2-800を下回ることはなかったものの,DDR3-1333と比べてフレームレートの向上は確認できない。
さらに,TPSの「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」(以下,ロスト プラネット)から,実際のゲームプレイに近い「Snow」の結果をグラフ5,6にまとめたが,ここもCrysisと似た傾向だ。やはり,DDR3-2000とDDR3-1333の間にスコアの違いはほとんどない。付け加えるなら,DDR3-1333とDDR2-800の違いが「標準設定」の1024×768ドットでしか生じていないのもCrysisと同じである。
だが,すべてそんな傾向かというとそうでもなく,FPS「Unreal Tournament 3」ではDDR3 SDRAMの効果がかなりはっきりと出ている(グラフ7)。比較的描画負荷の低い局面では,DDR3-1333がDDR2-800に対して意味のある違いを見せている。もっとも,DDR3-2000とDDR3-1333の間に差がないのはCrysisやロスト プラネットと同じだ。
最後はRTS「Company of Heroes」の結果だが,Unreal Tournament 3と似たような結果になっているのが分かる(グラフ8,9)。DDR3-1333とDDR2-800の差は最大で6%だ。
以上,ゲームテストにおいては「描画負荷の低い局面でDDR3 SDRAMがDDR2 SDRAMよりも有利になりがちだが,スペック的にはDDR3-1333で十分。DDR3-2000=EPP 2.0の効果はまったくない」という結果になったわけだが,なぜDDR3-2000に効果がないのだろうか。
CPU情報表示ツール「CPU-Z」(Version 1.44)でDDR3-1333とDDR3-2000のメモリレイテンシを確認してみると,DDR3-2000は確かに動作クロックこそ上がっているものの,Cycle Time(tRAS)やBank Cycle Time(tRC)など,レイテンシが大きくなってしまっている。スコアが上がらない原因の一つには,レイテンシの増大を指摘できそうだ。
さらに,メモリの基本性能を見るため,統合ツール「Sandra XII」(Version 2008.1.12.34)のメモリバス帯域幅テスト「Memory Bandwidth」を行った結果がグラフ10だ。ご覧のとおり,DDR3-1333はDDR2-800に対して順当な帯域幅の向上が見られるのに対し,DDR3-2000ではDDR2-800を下回るスコアしか出せていない。
同じく統合ツール「EVEREST」(Version 4.2.0.1170)の「Memory」テストで転送レートをチェックした結果をまとめたのがグラフ11で,ここではメモリリード/ライト/コピー時の転送レートを見ているが,やはりDDR3-2000が大きくスコアを落としている。
先ほど,レイテンシの大きさが原因の一つと指摘したが,レイテンシだけで転送レートが大きく落ちるとは考えにくい。そのため現時点では,メモリモジュール側かチップセット側のいずれか(あるいは両方)がDDR3-2000を満足に動作させられていないと考えられる。
念のため,システム全体の消費電力をワットチェッカーで測定し,その結果をまとめたのがグラフ12だ。今回は,OS起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,3DMark06を30分間連続実行して最も消費電力の高かった時点を「高負荷時」,さらに,メモリモジュールの品質評価ツールである「Memtest 86+」を30分間連続実行し,メモリモジュールに負荷を掛けた状態を「Memtest時」としてそれぞれの消費電力を測定している。
結果は一目瞭然で,メモリ動作電圧がDDR2の1.8Vから1.5Vへと下がるDDR3-1333では,いずれのテストにおいても低消費電力という結果になった。厳正を期せば,DDR3とDDR2ではマザーボードが異なるため,この違いがすべてメモリモジュールに起因すると断言できるわけではないが,DDR3 SDRAMの導入によって,消費電力の低減を期待できるのはまず間違いない。
ところで,DDR3-2000だと消費電力が上昇し,DDR2-800と変わらないスコアになっているが,これはEPP 2.0によってメモリ動作電圧が1.9Vに,さらにノースブリッジとなる「SPP」の動作電圧が1.3Vから1.4Vへと引き上げられているためだ。EPP 2.0を有効にすると,動作電圧が上がってしまう点は憶えておいたほうがいいだろう。
少しずつ登場してきたESA対応製品
しかし現時点ではESA=ファンコントロール機能
メモリ周りのテストに続いては,ESAである。
発表された2007年11月時点では,“絵に描いた餅”だったESAだったが,あれから5か月が経過し,少しずつ対応する液冷ユニットやPCケース,電源ユニットなどが登場してきている。一部は日本市場にも投入されているが,今回はNVIDIAから以下の機材を借用した。
●液冷ユニット:
「Thermaltake Technology「BigWater 780e」(型番:CL-W0169)
→メーカーWebページ
●PCケース:
Thermaltake Technology「ARMOR+」(型番:VH6001BWS)
→メーカーWebページ
●電源ユニット:
Topower Computer Industrial「TOP-1100P10」
メーカーWebサイト
いずれの製品も,マザーボードのUSB用ピンヘッダと接続するためのESAケーブル(※USBケーブルだが)が伸びている。PC自作の経験がある人にとってESAの導入は極めて簡単で,ESA対応マザーボードのUSBピンヘッダと接続し,あとはマザーボードに付属するソフトウェア「NVIDIA Control Panel Utility」をインストールするだけだ。ただし,少なくとも現時点で対応OSは32/64bit版Windows Vistaのみで,Windows XPはサポートされていない。
セットアップが正常に終了すると,NVIDIAコントロールパネルの「Performance」以下の「Device settings」に「PowerSupply」(電源ユニット),「Chassis」(PCケース),「WaterCooler」(水冷ユニット)のアイコンが表示され,クリックするとそれぞれ設定が可能になる。以下,設定できる内容を個別にまとめてみたので参考にしてほしい。
●「WaterCooler」
まず,流量は0〜100%の間で1%刻みに設定可能で,それぞれにおける流量は0%で910rpm,100%で2700rpm,初期状態の50%で1860rpmとなった。なお,rpm表記なのは流量を水車で検出して表示しているため。つまり,回転数が高ければ水量が多く,低ければ少なくなる。
一方ファンの回転数も0〜100%の間で1%きざみに設定可能で,0%で620rpm,100%で2540rpm,初期設定の50%で1100rpmとなった。ちなみに100%に設定するとかなりうるさかった。
●「Chassis」
●「PowerSupply」
また,設定内容はNVIDIAコントロールパネルからプロファイルとして個別に保存できるようになっており,例えばゲームの起動や終了をそれぞれトリガーにして,ゲームが起動したらすべて最高回転数で“ブン回し”,終わったら自動的に回転数を落とすといった自由度は確保されている。
SLI&DDR3マザーとしての価値はあるが
EPP 2.0とESAの有用性は現時点において疑問
コストパフォーマンスを考えずに,ゲームにおける最高性能を求めるのであれば,DDR3-1333という選択肢は確かにアリだ。しかし,EPP 2.0も必要かというと疑問が残る。
ただ,それならそれで「ファン回転数を変えることでCPU温度やGPU温度がどう変化するかをチェックしたい」ニーズに応えてほしいのだが,いちいちNVIDIAコントロールパネルから回転数を設定して,それからNVIDIA System Monitorを起動してやらねば確認できなかったりする。
もっといえば,nForce 790i Ultra SLIはESA対応を高らかに謳っていながら,リファレンスデザインを採用するマザーボード“自前”のチップクーラーすらESAで制御できないのはいかがなものか。nForce 790i Ultra SLIマザーボードはESAプラットフォームとして“ESAのためにUSBピンヘッダを貸している”だけで,この点にも不満は残る。GeForce 9800 GTX搭載グラフィックスカードのGPUクーラーも,自動制御ならせめてファン回転数くらいは見せてほしいのだが,それもない状態だ。
nForce 790i Ultra SLIの下位モデルには,EPP 2.0をサポートしない以外同じ仕様の「nForce 790i SLI」が存在する。そのため,EPP 2.0に大きなメリットが見い出せない以上,2008年4月時点において,nForce 790i Ultra SLIは微妙な存在と言わざるを得まい。
しかし,現時点でnForce 790i SLIを採用したマザーボードが市場に登場していないという事情もある。同チップセットを搭載するマザーボードが登場するまでという期限付きではあるが,3-way/Quad SLIをサポートし,メモリ回りでもDDR3 SDRAMによる高速化を図れるチップセットとして,nForce 790i Ultra SLIには価値があるといえるだろう。
- 関連タイトル:
nForce 700
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