レビュー
“シングルカード”最速なるか? ATI Radeon HD 3870×2搭載製品
PowerColor HD 3870 X2
» 開発コードネーム「R680」こと,ATI Radeon HD 3000シリーズ最上位の「ATI Radeon HD 3870 X2」が登場した。CrossFireテクノロジーをベースに,2基のGPUを1枚のカード上に実装した製品は,競合の最上位を打ち負かすことができるだろうか?
総重量1kgを超えるグラフィックスカード
“CrossFireだがCrossFireでない”仕様
むしろ驚いたのは,その重量である。編集部実測値でHD 3870リファレンスカードが655gなのに対し,PowerColor HD 3870 X2は1020gと,1kgを超えている。B5サイズのモバイルノートPCと同じくらいといえば,その重さが伝わるだろうか。
この重量になった最大の理由は,カードを上下から挟んで歪みを防ぐ補強板×2。これがとにかく重いのだが,裏を返せばそれだけの強度があるわけで,(マザーボードやケースはさておき)カードが自重で歪むことはまずない。
さて,そんな補強板を含む,2スロット仕様で“吐き出しタイプ”のGPUクーラーだが,ユニークなのは二つのGPUでヒートシンクが異なる点だ。AMDによれば,これが別記事にある「Hybrid Cooling Technology」の正体。冷却ファンからの相対距離と総重量とのバランスを考慮してのものと思われる。
GPUクーラーのカバーを外したところ。銅とアルミのフィン,それぞれの“下”にGPUがある |
こちらはAMDによるリファレンスカード(カバーデザインが異なる)のカバーを分解したところ |
試用した個体が搭載するグラフィックスメモリチップはSamsung Electronics製のGDDR3「K4J52324QE-BJ1A」(1.0ns)。512Mbitチップを1GPU当たり8枚搭載し,容量512MB(※2基なので計1GB)を実現している。ちなみに動作クロックをCCCから確認するとコア825MHz,メモリ1802MHz(実クロック901MHz)で,リファレンスどおり。ATI Radeon HD 3870が搭載する省電力機能「ATI PowerPlay」により,グラフィックス描画負荷のかからない状態ではコアクロックが300MHzにまで低下する。
そのほか気をつけておく点としては,HD 3870 X2が8ピン+6ピンのPCI Express用補助電源コネクタを持つことが挙げられる。定格クロックで動作させるだけなら6ピン×2でも問題なかったが,その場合,CCC標準のオーバークロック設定項目「ATI OverDrive」が表示されない。
また,興味深いところでは,CCCにCrossFire関連項目が表れない点を挙げられよう。HD 3870 X2はCrossFireテクノロジーを利用して性能向上を果たしているのだが,ユーザーはHD 3870 X2がCrossFire動作していることを意識せずに利用できる。
もう一つ。2008年1月17日の記事でお伝えしているとおり,最大4基のGPUによるCrossFire環境「CrossFire X」は利用できない。対応ドライバ待ちとなるのでご注意を。
Intel X38/P35環境で
HD 3870 CrossFire&GeForce 8800と比較
前置きが長くなったが,テストのセットアップに入ろう。環境は表のとおりだ。テストに当たっては,「ATI Catalyst 8.1」をベースにHD 3870 X2への対応が行われたものとしてAMDからレビュワー向けに配布された「8.451.2-080116a-057934E-ATI」グラフィックスドライバを用いる。なお,テスト開始後(機密保持期間である2008年1月25日早朝に)「8.451.2-080123a-058514E-ATI」という,少々新しくなったバージョンも配布されたが,こちらは一部ゲームで起動しないなどといった不具合を修正したバグフィックス版。後述するゲームタイトルで試した限り,スコアに違いはなく,また筆者が試した限り起動しないといった問題も起こらなかったので,今回は古いほうのドライバで統一した次第だ。
マザーボードは,基本的にはIntel P35 Express(以下,P35)チップセット搭載製品「P5K Premium WiFi-AP」を用いる。ただし,P35ではCrossFire構成時にx16+x4という変則仕様になるため,Intel X38 Express(以下,X38)搭載でx16+x16仕様になる「Maximus Formula Special Edition」も用意した。HD 3870 X2と,HD 3870 CrossFireの違いを多角的にチェックしてみようというわけだ(※以下,「@X38」という表記で「X38環境上で動作」を示す)。
このほか,8800 GTに関しては,nForce 780i SLIマザーボード「Striker II Formula」を用意してNVIDIA SLI(以下,SLI)パフォーマンスも計測する。
なお,テストは4Gamerのベンチマークレギュレーション5.1に準じるが,以前のテストにおいてATI Radeonファミリーとの相性問題が生じた「RACE 07: Official WTCC Game」は,スケジュールの都合もあって今回はテスト対象から外した。また,以下,CrossFireは「CF」と略す場合があることをあらかじめお断りしておきたい。
対応アプリケーションでは抜群のパフォーマンス向上
総じてCrossFire構成よりもスコアが安定
まずは定番3Dベンチマークソフト「3DMark06 Build 1.1.0」(以下,3DMark06)から。「標準設定」「高負荷設定」のスコアをグラフ1,2にまとめたが,HD 3870 X2は,8800 Ultraに完勝。“3DMark06のスコア競争,シングルグラフィックスカード構成の部”で,久しぶりにATI Radeonがトップの座を奪い返したことは実に感慨深い。8800 GTのSLI構成とほぼ互角に渡り合っている点も注目だ。
HD 3870 X2とHD 3870 CFを比較すると,X38環境ならば後者のほうがスコアは高めだが,P35環境では1920×1200ドットでCrossFireが強制的に無効化される不具合が発生し,スコアが大きく下がっている。
3DMark06のスコア詳細を見てみると,HD 3870 X2はとくにHDR/SM 3.0テストの結果が優秀だ(グラフ3)。スコアは実に,HD 3870シングルカードの約50%増しである。
グラフ4,5は,FPS「Crysis」(Version 1.0)の「Benchmark_GPU.bat」(GPUベンチマーク)実行結果だ。CrysisはGeForce最適化済みタイトルということもあり,標準設定の低解像度では8800 Ultraはおろか,8800 GTにも水を開けられるが,高解像度では面目躍如といったところで,8800 Ultraと互角の戦いに持ち込んでいる。
ただ,高負荷設定時のスコアは今ひとつ。HD 3870 CFの値も芳しくないことを考えると,今後のドライバとCrysis自体のアップデートによる改善を期待したい。
なお,「Benchmark_CPU.bat」(CPUベンチマーク)の結果は,GPUベンチマーク結果に準じた形になっている(グラフ6,7)。
次もFPSから,「Unreal Tournament 3」(以下UT3)の結果だ。UT3でも,HD 3870 X2は高解像度で良好なパフォーマンスを示している。HD 3870 CFが1920×1200ドットでスコアを大きく落とすのは3DMark06と同じだ。
ATI Radeonファミリーに最適化されているFPS,「Half-Life 2: Episode Two」のテスト結果をグラフ9,10にまとめたが,HD 3870 X2のスコアは全体的にかなり高い。HD 3870 X2とHD 3870 CFで比較すると,X38やP35といった環境を問わずHD 3870 X2のほうが良好な結果を残している。また,x16+x4仕様のP35における標準設定のスコアと比べると,HD 3870 CFのスコアが大きく落ち込んでいくのと比べるとHD 3870 X2の安定感が目を引く。
一方,高負荷設定時におけるスコアの落ち込みは相対的に大きく,実際,高負荷設定時の高解像度だとHD 3870 X2は8800 Ultraに逆転を許してしまう。
続いてはTPS「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」(以下ロスト プラネット)。ロスト プラネットはCrossFireでスコアが上がりにくいタイトルなのだが,案の定,HD 3870 X2のスコアはまったく上がらない(グラフ11,12)。HD 3870のシングルカードにすら劣るスコアで,シングルカード動作しているのではなく,CrossFire動作がむしろ悪い結果を生んでしまっている。
一方,HD 3870 CrossFire構成時のスコアがX38とP35で大きく異なるのに対し,HD 3870 X2がレーン数の影響の受けないのは救いといえるかもしれない。
最後はRTS「Company of Heroes」のテスト結果である(グラフ13,14)。Company of HeroesはATI Radeon有利なスコアが出やすいのだが,このHD 3870 X2のスコアもかなり優秀だ。標準設定では安定して8800 Ultraを上回り,不利な高負荷設定でもほぼ互角。3DMark06と似た傾向を示している。
なお,HD 3870シングルカードが高負荷設定時にスコアを大きく落とすのは,2007年12月28日の記事と同じ。ドライバ,もしくはゲーム側の対応待ちである。
シングルグラフィックスカードとしては
8800 Ultra超のモンスター級消費電力
そこで,OS起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,3DMark06を30分間連続実行して,その間で最も消費電力の高い時点を「高負荷時」とし,それぞれの時点におけるシステム全体の消費電力をワットチェッカーにて測定した。その結果をまとめたのがグラフ15である。
やはり,HD 3870 X2の消費電力は大きい。あの8800 Ultraと比べても,高負荷時に40W以上もの違いがあり,“シングルグラフィックスカード”として見たとき,その消費電力の高さはモンスターの名にふさわしいものだ。HD 3870 CFとの比較では,ブリッジチップの消費電力が案外バカにならないのも見て取れる。
しかし,ATI PowerPlayに大きな効果があるのも,また確か。アイドル時のスコアは,ハイエンドグラフィックスカード(搭載システムの消費電力)として,不満のないレベルに収まっている。
グラフ15時点におけるGPUコア温度を,HD 3870 X2はCCC,それ以外はモニタリングツール「ATI Tool」(Version 0.27β3)で測定した結果がグラフ16となる。HD 3870 X2ではATI Toolから温度を測定できなかったためCCCを利用したのだが,ツールによる測定結果の違いはほとんど出ないことがこれまでの検証から明らかになっているので,問題はないと考えている。システムはケースに入れず,バラックの状態だ。
搭載するクーラーが異なるので横並び比較はできないが,HD 3870 X2のGPU温度はハイエンドカードとして比較的低め,とはいえる(※アイドル時に高めなのは,ファン回転数を落としているためだろう)。AMDによれば,フルロード時にGPUクーラーの動作音は36dBAだそうだが,確かに高負荷時には風切り音が少々気になる場面もあった。少なくとも,HD 3870リファレンスカードよりはうるさくなってしまっていると理解しておくのが正解である。
なお,カードの裏面に搭載されたグラフィックスメモリは,熱伝導シートを介して裏面の補強板に密着している。つまり、この補強板はメモリチップの放熱板としての役割を担っている。AMDによれば「補強板の冷却能力が高いわけではないが,メモリチップの熱を拡散させていることに意味がある」とのことで,チェックしてみると高負荷時に57.2℃。確かに熱いことは熱いものの,不安になるほどの温度ではなかった。ただ,オーバークロックなどを行う場合は,補強版にも風が当たるよう,エアフローに気を配る必要がありそうだ。
バランスこそ欠くものの,価格帯性能比は抜群
最高性能を狙うATI派にとって大いに価値アリ
4Gamerではこれまで何度も繰り返しているとおり,SLIに比べると,CrossFireがうまく機能する局面はどうしても限られる(※別にSLIも完璧というわけではないが)。そのため,どうしても「CrossFireが理想的に機能するなら」という条件付きになるが,HD 3870 X2のパフォーマンスは優秀だ。また,実勢価格も6万円台中盤で,10万円以上する8800 Ultraと比べると非常にリーズナブル。付け加えるなら,試しに今回テストに用いたnForce 780i SLIマザーボードに差してみたところ,HD 3870 X2は問題なく動作した。つまり,わざわざCrossFire対応マザーボードを用意する必要がないのである。8800 GTのSLIだと実現するのにチップセットを選ぶわけで,この点もシングルカード構成となるHD 3870 X2の強みといえそうだ。
では,どういった人向けかといえば,「HD 3870 X2に興味を持っている人のうち,x16+x16レーンでCrossFireを利用できるマザーボードとHD 3870カードを使っている人以外のすべて」ということになるだろう。X38マザーボードや,AMD 790FXマザーボードでHD 3870を使っているなら,素直にもう1枚買い足すべき。逆にP35環境など,限定的なCrossFireサポートに留まるマザーボードでは、十分な性能が得られないのはテスト結果から明らかで,最高性能を望むのであれば素直にHD 3870 X2に載せ変えるほうが適切だ。つまり多くの人にとって,シングルカードで最高性能を目指すとき,HD 3870 X2は十分に価値のある存在である。
- 関連タイトル:
ATI Radeon HD 3800
- この記事のURL: