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[GDC 2011]あの間違い電話がなければ今でも豆を売っていたかも。業界の重要人物ピーター・モリニュー氏が「ポピュラス」を生み出せた秘訣(または幸運)とは?
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印刷2011/03/04 16:48

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[GDC 2011]あの間違い電話がなければ今でも豆を売っていたかも。業界の重要人物ピーター・モリニュー氏が「ポピュラス」を生み出せた秘訣(または幸運)とは?

画像集#002のサムネイル/[GDC 2011]あの間違い電話がなければ今でも豆を売っていたかも。業界の重要人物ピーター・モリニュー氏が「ポピュラス」を生み出せた秘訣(または幸運)とは?
 GDC 2011の開催3日めとなる3月2日に行われた「Game Developers Choice Awards 2011」の表彰式において,イギリスの奇才ピーター・モリニュー氏Lifetime Achievement Award(生涯功労賞)を獲得した。現在では,「Fable」シリーズのエグゼクティブプロデューサーとしても広く認知されているモリニュー氏が,GDCの25周年の記念セッション「Classic Games Postmortem」(クラシックゲーム回顧録)において,彼の出世作となった1989年発売のゴッドゲーム「Populous」(以下,ポピュラス)が誕生するまでのエピソードを語った。

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Taurus Impactはギルフォード市にある家屋の2階部分で始まった。1階からはいつも老女の叫び声が聞こえていたという
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 元々モリニュー氏は,ビジネスソフトや,テキストベースのシミュレーションソフトの開発に携わっていた。しかし,事業は軌道に乗らず,何度かの倒産を味わっている。
 1987年,モリニュー氏は「Taurus Impact」という新しいゲーム販売会社を立ち上げることになったが,ビジネスの中心になっていたのは,煮込み豆の缶詰を中東に向けて販売するという輸出業務だったという(このビジネスは当時付き合っていたガールフレンドの父親の薦めによるものだとか)。1缶ごとに1セントを受け取るという条件だったとのことだが,もちろんヨーロッパ式の煮込み豆など中東ではほとんど需要がなく,販売する量よりも自分で食べた量のほうが多かったとモリニュー氏は笑いを誘う。

 そんなある日,モリニュー氏に大きな転機が訪れる。当時,コンピュータ製作会社として有名だったCommodoreから「あなたの会社のことはよく耳にしています。実は新製品を開発中なのですが,一度我々の社に来ていただけませんか?」との電話を受ける。モリニュー氏は「なぜCommodoreのような企業が自分の会社のことを知っているのか」といぶかしんだが,とりあえず煮込み豆の缶をかばんに詰め込んで,Commodoreに行ってみることにした。
 この話,“Commodoreはモリニュー氏のTaurus Impactのことを,当時業務用のネットワークソフト開発で知られていたTorusという会社と勘違いしていた”というオチなのだが,「新製品のAmiga 1000を10台送りますから,ぜひウチのために新製品を作ってください」という誘惑は強烈だった。そのため,モリニュー氏自身は勘違いに気付いたことを言い出せず,結局数週間後に新品のAmiga 1000を10台確保することになる。

 ネットワークソフトについて知らなかったモリニュー氏は,度重なるCommodoreの催促に応じる形でなんとか「The Ultimate Database」というもっともらしい名称のビジネスソフトを開発して,その義理を果たす。その後「12歳の少年が作ったアドベンチャーゲーム」という触れ込みの「Druid II: Enchantment」というゲームソフトをAmiga向けに移植するという仕事が舞い込んだことから,社名を変更して,ゲーム開発会社として再スタートを切る決意を固めた。

Bullfrog Productionsのオリジナルメンバー。中央にいるのがモリニュー氏で,右端が現在もモリニュー氏の片腕として活躍しているグレン・コープス氏だ
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 当時それほどゲームプログラミングに関する知識のなかったモリニュー氏は,ビジネスパートナーとして長い付き合いのレス・エドガー(Les Edgar)氏を始め,現在もモリニュー氏と共に活動を続けるグレン・コープス(Glenn Corpse)氏ら総勢6名で,1987年にBullfrog Productionsを設立。その資本となったのはもらいもののAmiga 1000だが,Druid IIや,ほかのゲームソフトはほとんど売れず「ビジネスソフトの開発に戻ろうか」という会話も当時は行われていたらしい。

コープス氏が地形エディタを開発する基になったのは,1987年にAmiga向けにリリースされた「Virus」というアクションゲームだった
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 そんな社内の雰囲気に焦りを感じつつも,ゲームプログラミングしか知らなかったコープス氏は,「Virus」(1987年)という他社製ゲームの影響を受けて,とある週末に個人でリアルタイムに地形をモディファイできるというプログラムを制作する。
 月曜の朝,コープス氏がいじっていたプログラムを試して“地面を上げ下げするだけで楽しい”という点に可能性を感じたモリニュー氏は,すぐに何らかのゲームの土台にしようという思いが湧いたという。そしてモリニュー氏が地形データやAIなどを担当し,コープス氏はグラフィックスやインタフェースのプログラミングに取りかかった。

ポピュラスのためにモリニュー氏が書いたコード。「ナヨナヨした感じのコードだ」とモリニュー氏は謙遜しているが,当時は長いコードを書くとなぜかモニターにノイズが走って使用できなくなるという問題に悩まされていたという
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 ポピュラスの原型ともいえるこのゲームを考えるうえで,モリニュー氏は「キャラクターが勝手に水の方向に歩いて死んでしまう」という問題に2日間ほど費やしてしまったという(当時としては長かったらしい)。そしてキャラクターが海の方向に歩くのを防ぐために,プレイヤー2人が同時にアクセスしての救出作業を行うようにするというアイデアに行き着いた。そうやって遊んでいるうちに,いつしかプレイヤー2人は相手の周囲の地形を変えて故意にキャラクターを殺すというような行動を起こし始め,それがそのままポピュラスの骨格になっていったというわけだ。

 その後,マップ上に散らばったキャラクターを一か所に集める「ピープル・マグネット」や,天災やハルマゲドンが追加。またそれらの命令を発すると消費するマナは,人口を増やすことで溜まっていく,などといったアイデアが次々に追加され,開発の開始から6か月が経った頃には「これはゲームとしてヒットする」という手応えを感じたという。

 今回のセッションでモリニュー氏が念を押していたのは,そうしたアイデアがどんどん浮かんだのは,モリニュー氏とコープス氏が,まるで日課のようにゲームをテストして遊んでいたからだという点だ。「Minecraft」のようなゲームがずっとβ状態なのは,テストセンターのようなリソースを持たない開発者が,プレイヤーにテストを代行してもらっているからだろう」と説明するモリニュー氏だが,むしろこうしたプレイテストを続けなければ,本当に面白いアイデアは生まれてこないと力説する。「ポピュラスが今の開発者の参考になる点があるとすれば,それは“テストを重ねることで洗練されていった昔のゲームの好例である”という点だろう」と,モリニュー氏は続けた。

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 そんなモリニュー氏は,実は酒とタバコ以外にも長年やめられない趣味があるという。しかもそれが“ポピュラスのレベルを自分で作り直したエディタで新たに作成すること”だというから驚きだ。会場ではそんな彼の最新作となる,計256人の対戦向きという,とんでもなく巨大なマップが披露され,集まった開発者達から絶賛されていた。Lionhead Studiosのリーダーという重職にあり、さらにMicrosoft Game Studiosにおけるソフトウェア部門のR&D(研究開発)に携わるなど、多忙を極めているであろうモリニュー氏。そんな彼が,いまだにプログラマーとして現役というのは,会場の若き開発者達にとって非常にポジティブに映っていたに違いない。

エミュレータで甦る,オリジナルのAmiga版ポピュラスの画面
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今でも趣味で作り続けているという,ポピュラスのマップを公開。本人にとっては,息抜きのつもりなのだろうか
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