連載
男色ディーノのゲイムヒヒョー ゼロ:第157回「誰が為のゲイムか」
「痩せてるのと太ってるの,どっちが好き?」
「犬派? 猫派?」
「それ,ドラゴンボールでいうと誰?」
これらの質問は,人生におけるさまざまなシーンで飛び交っているはず。初対面での会話,合コン,後輩と二人きりになってしまったときのつなぎetc……。この手の質問のバリエーションは,類型的でありながら多岐にわたっているけれど,次に挙げるこの質問もまた,今までされたことのある質問ベスト100くらいにはランキングされてるんじゃないかしら。
「ジブリ作品のどれが好き?」
最初に言っておくと,私はジブリ作品が取り立てて好きなわけではないわ。人間描写の細かさだとか,ファンタジーなのにリアリティを追求しているところだとか,好きな点はいっぱいある。とはいえ,新作公開初日に劇場へ足を運ぶほど熱心なファンではないし,我こそがジブリスタだという自負があるわけでもない。
なので,「ジブリ作品のどれが好き?」と問われても正直困ることのほうが多いの。見りゃ面白いし,普通に楽しめるんだけど,私にはジブリ作品を心底愛するセンスには欠けているのよね,たぶん。
ニンテンドーDS用に発売された「二ノ国 漆黒の魔導士」でも同じようなことは思ったんだけど,ジブリ的な世界観や雰囲気を壊さないように,アニメの部分とゲイムの部分が程よく混ざっている感じ。さらに今回は,それをPlayStation 3ならではの映像や音楽で楽しめてしまうわけ。
ゲイム内に出てくる動物やモンスターも「あ,こんな感じの生き物ジブリ作品に出てくる!」って思えてしまうくらい,違和感がない。誤解を恐れずに言えば,ジブリ映画の中で主人公を動かしているような感覚に浸ることのできるゲイムが,二ノ国なんだと思うわ。
ストーリーに関しては,ネタバレになるからあえて触れないけど,雰囲気だけで言わせていただくと,いろいろなことに非常に気を使って作られている,レベルファイブらしい作品ね。
……とまあ,ここまで普通に感想を述べたわけだけれども。このゲイムをプレイしていると,「誰が為のゲイムか」ってことを,ついつい考えちゃうのよ。今にして思えば,今回だけじゃなく,これまでもレベルファイブ作品をプレイしているとき,そんなことが頭にぼんやりと浮かんでいたような気がする。そしてその正体が今回,ハッキリと分かった気がするってわけ。
どういうことかというと,私,プレイしながら思っちゃったのよ。「これ,『面白くない』って言う人もいるんだろうな」って。これって,レベルファイブ作品全般にも当てはまることなんだけど,作品に“毒”が無いのよね。ゼロってわけじゃないけど,極めて薄いというか。だからその点だけを取り出して,「面白くない」って断じる人が出てくるんじゃないかってこと。もちろん,個人の好みに良い悪いは無いわよ。
ただ,エンターテイメントには,「エンターテインメントである限り,100%の支持率は得られない」という,とても難しい問題がありましてね。
ひょっとしたら,10人が見て10人が面白いと感じる作品はあるかもしれない。ただ,その作品は10人しか見てないわけだし,そもそも不特定多数に見せる気が無いのであれば,それはもはやエンターテイメントと呼べるものではないと思うの。
なぜなら,より多くの人を楽しませようとすることこそが,エンターテイメントの神髄だと思うから。厳密な定義は知らないわよ? ただ,私が信じるエンターテイメントは,少なくともそう。
人の好みが千差万別である以上,100%が満足するものなどあり得ないもの。となると,提供する側がどこかで突きつけられる問題が出てくるのよ。それは,「誰に向けて作るのか」。
そこでレベルファイブはあえて毒を捨て,ゲイマーだけに支持されることを良しとしないという姿勢を確立した。私はそう解釈しているの。
結果,どれだけ多くの人を掴めるかは,どのターゲットを選んだのかはもちろん,才能によるところも大きいんだけど,何にせよ提供する側は,自分のサービスが100%の人を満足させられるものではないことを知っている。
面白く感じる人もいれば,ついていけない人もいる。ついでに言えば,無理やりついてくる人もいれば,始めからついていこうとしない人もいる。たぶんこれって,エンターテイメントに携わる人であれば,みんな知っていること。あくまで,たぶんね。
私はレベルファイブ作品を面白いと思っているし,好きなのよ。作品ごとに好き度合いの差はあるけど,だいたいどの作品もプレイしているし,その都度,面白いと思っている。私がゆるいゲイマーだっていうのも理由かもしれない。でもそれ以上に,レベルファイブが目を向けている先が「ゲイムに馴染みのない」層だということも,おそらく関係しているんじゃないかと思っているわ。
勘違いされたくないから補足しておくけど,どの作品もゲイム好きがプレイして楽しめるだけのレベルは,高い水準で維持しているわよ。それプラス,ゲイムのことをよく知らない状態の人がプレイしても,ちゃんと楽しめるものになっているという意味の「面白い」なのね。
そういう「ゲイムに馴染みのない」人の気持ちになってゲイムに誘導できているから,私はレベルファイブ作品が好きなんだと思う。言ってしまえば,私は作品そのものというより,むしろレベルファイブという集団から伝わってくる姿勢が好きなのかもしれないわね。
世の中にゲイマーは多いけど,それでも国民レベルで考えたときには,ゲイムに馴染みのない人のほうが多い。だったら,そちらの層に目を向けたほうが,ゲイムの未来にとって可能性があるんじゃないか。……これは目先の利益だけを考えているのではなく,その先を見据えた場合,極めて真っ当な考え方だと思う。
きっと,レベルファイブ作品がアニメやプラモデルなんかとよく連動するのって,その考え方がベースにあるからこそ生まれたんでしょうね。
ただ,ここがエンターテイメントのややこしい点で,気軽にプレイするだけの側からしてみると,どういう狙いで作られているかは関係ないの。重要なのは,ヤってみて面白いかどうか。
でも,レベルファイブがすごいのは,アニメとの融合だけでなく,ゲイムとしてもまったく手を抜いていないところ。穴がないのよ。普通に面白いの。この連載で何度も書いてきているけど,この「普通に」はすごく重要。好き嫌いは別にして,誰がプレイしても楽しめてしまう。これって実は,本当に難しいことだと思うの。
作家の毒を作品にブチ込むには,才能が必要だけど,どこにも引っかかるところが無いように作品を作るということにも,才能が必要。そして「誰が為の作品か」ということも重要。
例えば,子供が二ノ国をプレイしたときにどう思うかということを,常にイメージできてないと,ここまで穴のない作品は生まれないと思うわ。そのあたりをひっくるめて,二ノ国こそは,レベルファイブ作品の真骨頂なのではないかと,私は思っている次第。
だから私は,二ノ国はより多くの人にプレイしてほしい。その作品がどんな狙いで作られているのかを考えながらプレイするのも,また味わい深いものだからね。けっこうひねくれた遊び方だけど。
そんな感じで今週は二ノ国について語りましたが! 来週はなんと私,プロフェッショナルレスリングの試合を提供しにアメリカ合衆国に旅立つの。だからおそらく,移動の飛行機内でプレイしたゲイムを中心にお届けしようかと思ったり思わなかったり。
時間があれば,ステイツのゲイムショップを覗いてもみたいわね。覗いたところで何も書かないかもしれないけど。では,また来週! 無事に帰ってこられたらな!
今週のハマりゲイム
(文字通りゲイムスロットにハマっているゲイム)
PlayStation 3:「二ノ国 白き聖灰の女王」
PSP:「俺の屍を越えてゆけ」
ニンテンドー3DS:「スーパーマリオ 3Dランド」
Wii:「ファミリーフィッシング」
Xbox 360:「迷宮クロスブラッド リローデッド」
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- 関連タイトル:
二ノ国 白き聖灰の女王
- 関連タイトル:
二ノ国 漆黒の魔導士
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