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連載
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ケータイ小説で文才を認められた人が小説家となり,漫画雑誌の版元がコミケ会場で青田買いを試みる昨今,商業作品たるキャラクターゲームもまた,同人ゲームの世界と無関係のままではない。そこで今回は,同人ゲームを震源地とするムーブメントが結実したパッケージソフトの例を取り上げてみたい。題材は,2D格闘ゲーム「MELTY BLOOD Act Cadenza Version B」だ。
なんというか,このPC版の発売にまで至る経緯を語ると,いろいろ長くなること請け合いなものの,そこも含めてサクサク行こう。
「MELTY BLOOD Act Cadenza Version B」(以下,Act Cadenza Ver.B)は,少しばかり数奇な成り立ちの作品である。大元になったのが同人アドベンチャーゲーム「月姫」であり,なおかつそのスピンアウトの格闘ゲーム「MELTY BLOOD」(便宜上,以下これをMELTY BLOODと表記する)もまた,同人ゲームとして誕生している。これがアーケード版,コンソールゲーム版,再びアーケード版へと移植され,少しずつアレンジを変えながらPC商業流通へと“Jターン”して来たのだ。
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月姫,歌月十夜,MELTY BLOODの外伝的作品であるAct Cadenza Ver.Bでは,キャラによって後日談だったり本編以前のエピソードだったりと,サイドストーリー的なお話が展開。冒頭では,その導入部となるシーンが挿入される
MELTY BLOODの制作を主に担当したのは「月姫」を制作したサークルではなく,「2次創作格闘ゲーム」を得意とする別サークルだという部分も,実に“同人ゲームらしい”展開であった。もっとも,ストーリーモード部分では「月姫」の制作スタッフが協力しており,2サークルの共同制作という形になっている。
MELTY BLOODが同人ゲームとして最初に登場したのが2002年12月。その後の2004年5月,バランス修正や,ストーリーモードの後日談的な位置付けとなる「アーケードモード」が加わった追加ディスク「Re・ACT」が登場した。
ここまでは「同人ゲーム」の範疇だったのだが,2005年3月にRe・ACTにキャラクターを追加してバランスを調整した「Act Cadenza」が,アーケード版格闘ゲームとしてリリースされる。これが2006年8月,プレイステーション2に移植/発売された。そして,プレイステーション2版をベースにしたアーケード版のVer.Bが登場,これをWindowsに移植したのが,今回のAct Cadenza Ver.Bということになる。
さて,大本になった「月姫」は「伝奇ストーリー」に属するビジュアルノベル形式のゲームであり,決して格闘ゲームではない。同人ゲームとしては異例ともいえるボリュームと,高いクオリティのストーリーが評判となり,「月姫PLUS−DISC」や「歌月十夜」といった関連作品も発表されるなど,同人ゲームとしてあまり類を見ない大ヒットとなった。参考までに述べておくと,MELTY BLOODは単純にキャラクターを利用した派生作品ではなく,ストーリーモードでは月姫および歌月十夜に続く物語が語られるという,れっきとした“続編”である。
登場キャラクターは「突然主人公の前に現れた謎の少女」「気さくで物腰は柔らかいが,実は裏稼業(?)を持つ学校の先輩」「幼い頃から別々に育てられた妹」「久しぶりに戻ってきた実家にいた使用人の姉妹」など,ライトノベルにも通じる人間関係を用意しつつ,菊池秀行や夢枕獏のライトノベル系伝奇モノにも似たストーリーを展開する。
Act Cadenza Ver.Bはその番外編的作品であり,「月姫」の登場キャラクターを利用して原作ファンが楽しめるだけでなく,格闘ゲームとしてもなかなかの完成度を持った作品に仕上がっている。
アルクェイド
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月姫シリーズのメインヒロイン。初登場時にいきなり主人公に殺されるというインパクトでおなじみ。吸血鬼で不死だからこそ,可能な展開ではあるのだが。「月姫」ではルートによってほとんど登場しないこともあるという,メインヒロインらしからぬ事態もあったりして。
(CV:柚木涼香)
遠野秋葉
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主人公=遠野志貴の妹で,遠野家の現当主。その立場ゆえ,礼儀正しく立ち居振る舞いの凛とした,気の強い令嬢だが,小さい頃はおとなしく気が弱かった。8年間離れていた兄の志貴に対しては,優しくしたいと思いつつ,プライドが邪魔してしまういわゆる「ツンデレ」。
(CV:ひと美)
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シオン
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MELTY BLOODのストーリーモードの主役。死徒二十七祖(吸血鬼の名家)の一人「タタリ」を追って来た少女。錬金術師であり,「分割思考」なるマルチタスク的な思考能力を持つ。弓塚さつきと路地裏同盟(路地裏での生活を余儀なくされたヒロイン達の会)を作っており,親友。
(CV:夏樹リオ)
弓塚さつき
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通称「さっちん」。「月姫」内で,志貴に想いを寄せていたのに気づいてもらえないなど,不幸な描写があったうえに,本来ならばメインヒロインの一人としてシナリオも作成されていたはずが諸事情でカットされるなど,月姫シリーズ随一の不遇をかこつ人。その不幸さはさまざまなネタにされてしまっている。そんな不憫さを考慮し,ここでは一応取り上げておいてあげよう。
(CV:南央美)
ネコアルク
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シエルのところでも触れたが,月姫本編のバッドエンド後のヘルプコーナーで登場する「謎の吸血生物(きゅうけつなまもの)」。ある意味マスコットキャラクターと化しているが,その正体は謎に包まれているそうな。
(CV:柚木涼香)
暴走アルクェイド
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「タタリ」の影響で具現化してしまった,吸血衝動に飲まれたアルクェイド。通称「悪クェイド」。……困った,これ以上紹介することがない。
(CV:柚木涼香)
遠野志貴
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一応,「月姫」本編の主人公。子供の頃の体験から,モノの「死」を見る能力を持ってしまう。月姫本編では,その能力と一族の本能から,プロローグでいきなりアルクェイドを惨殺するという暴挙に出る。
(CV:野島健児)
格闘ゲームとしての操作体系は,8方向移動と,弱/中/強の各攻撃+防御の4ボタン操作。これはごく標準的なものだが,それに加えて本来複数ボタンの入力が必要な操作をワンボタンで行う「クイックアクションボタン」機能を備える。
また,各キャラ固有の操作(俗に言う「昇竜拳コマンド」など)で繰り出せる技や,パワーゲージが一定以上のときにそれを消費して技の威力をアップできる要素,攻撃力強化/ダメージ開放が行える「強制開放」状態や,そこから繰り出せる「超必殺技」,相手の技に合わせて自分も技を出すことで「相殺」できる要素など,格闘ゲーム文法の集大成的なルール/システムを備えている。
プレイモードは,全10ステージのCPU戦を行う「アーケードモード」に加え,1試合単位でCPU戦や対人戦が可能な「VSモード」,限られた体力でどれだけ勝ち抜けるかを試す「サバイバルモード」,そして操作の感覚をつかみ,技の出し方を練習するための「プラクティスモード」が用意されている。
いわゆる“コンボゲー”である本作では,全般的に技の発動が早くて連打が利き,キャンセルがかかりやすいので,ガチャプレイ(レバーとボタンを適当にガチャガチャ動かすこと)でもそれなりのコンボが出せ,初心者でもある程度派手に戦える点は評価できる。
一方コンボゲーであるがゆえに,攻防のターンがはっきり分かれてしまうという点が泣きどころではある。攻めている間はよいが,いったん受けに回ってしまうと,ひたすら防御に徹するか,相手のコンボを為す術なく眺めるほかなく,そこはおそらく好みが分かれるところだ。
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画面下の「マジックサーキットゲージ」が100%以上のときに「A」+「C」キーもしくは「B」+「C」キー,あるいはクイックアクションボタンでHEAT状態になる。これはゲージがなくなるまで続き,その間少しずつ体力が回復,さらにアークドライブ(超必殺技)が使える
前述したように,格闘ゲームとしてのシステムはやや複雑な部類に入るため,すべての技やシステムを理解して戦うには,慣れとやり込みを要する。初期設定のCPUの強さも,月姫のキャラクターに魅かれて本作を手に取った,まったくの格闘ゲーム初心者にとってはなかなかツラいところかもしれない。さりとて月姫を知らず,純粋に格闘ゲーム好きな中〜上級者が本作をプレイしても,ストーリーはまず理解できない。同人&アーケードというトンネルを通ってきた作品だけあって,月姫ファンで格闘ゲームもそこそこ嗜む人がターゲットという,なかなかマニアックな作品といえる。
格闘ゲームへの愛で関連作品を追うのか,月姫への愛で格闘に上達すべきかといえば,おそらく後者をターゲットとした作品であり,その意味で,あくまで同人発のキャラクター/ストーリー的盛り上がりを受けて本作があるのだ。これもまた,当世風キャラクターゲームのあり方の一つだろう。
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- ライター:田村眞治
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