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Access Accepted第791回:“ゲーマーゲート 2.0”勃発で露わになるゲーマーとゲーム業界の乖離
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印刷2024/04/22 08:00

業界動向

Access Accepted第791回:“ゲーマーゲート 2.0”勃発で露わになるゲーマーとゲーム業界の乖離

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 2024年に入ってから,アメリカを中心としたゲーマーコミュニティの間で話題になっているのが,ゲームエンターテイメントでの性別・差別表現の是正について意見を異にする人々がぶつかり合う“ゲーマーゲート 2.0”だ。「DEI」と言われる最近のムーブメントを盾に,脚本や世界設定の修正を主な活動とするコンサルタント企業Sweet Babyが,ゲームをダメなものにしていると集中砲火を浴びている。


より多くの人が共感できるストーリー作り,のはずが……


 10年ほど前にアメリカで大きな問題になった「ゲーマーゲート(GamerGate)」を覚えているだろうか。詳しくは当連載の「第440回:北米ゲーム業界を揺るがす“ゲーマーゲート”問題」を見てほしいが,一時は死語となっていたこの問題が,今になって再び“ゲーマーゲート 2.0”として話題になっている。

 ことの発端は,2023年末ごろからウェブフォーラムの「Kiwi Farms」などで,Remedy Entertainmentの「Alan Wake 2」の主人公の1人が黒人女性だったのは,Sweet Babyという企業が絡んでいたからだとウワサになったことに始まる。この件について,ゲームディレクターのカイル・ロウリー(Kyle Rowley)氏が自身のXで否定するものの,コミュニティでの話題は鎮静化することなく,徐々に広がりを見せていった。

ゲーマーゲート 2.0でやり玉にあげられているSweet Babyは,ゲームの脚本をDEIの立場で監修するという,映画産業においては“スクリプトドクター”などと呼ばれるB2B形態の企業である
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 やがて,2024年1月になると,ブラジルのSteamユーザーであるKabrutusさんが,「Sweet Baby Inc Detected」(以下,SBID)というキュレーションを開始する。その目的は1つ。Sweet Babyが絡んでいるゲームを列挙し,それに「おすすめしません」とチェックを入れることだ。タイトルは,「アサシン クリード ヴァルハラ」や「ゴッサム・ナイツ」を含む大小のゲーム20作近くがラインアップされている。
 当初は専用Discordチャンネルで関連の話題を共有する小さなグループだったSBIDだが,3月ごろから急激に膨張し始め,今ではSteamのキュレーターとして,37万人を超えるフォロワーを集めている。

SteamのキュレーターであるSBID(Sweet Baby Inc Detected)のページ。37万人を超えるコミュニティへと膨らんでおり,Sweet Babyの活動をチェックしている
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 Sweet Babyは,元Ubisoft Entertainmentの従業員だったキム・ベライア(Kim Belair)氏とダビッド・ベダール(David Bédard)氏により,2018年にカナダのモントリオールで発足した,“ナレーティブ・デベロップメント”を専門とするB2B企業だ。公式サイトによると,彼らのミッションは「より多くの人が共感できるストーリー作りをコンサルティングすることで,ゲームをすべての人にとって,より魅力的で,より楽しく,より有意義で,より包括的なものにすることを目指している」という。具体的には,文化的,人種的,そして性別・性嗜好的に多様性を持たせるため,すでに草稿が書き下ろされている脚本の修正や加筆を行う業務を中心としている。

 これほどまでにSBIDのコミュニティが成長してしまったのは,Sweet Babyでコンサルタント業務を行う従業員数名が,2月末ごろにSteamからコミュニティを削除しようと試みた,SNSを使ったキャンペーンを行ったことが大きい。確かにSBIDのコミュニティのなかには,かなり激しくSweet Babyや関わったゲームについてなじる人もおり,ゲーマーゲートを彷彿とさせていた。
 しかし,それまであまり目立っていなかったはずのSweet Babyの存在は,従業員の激しい言動を伴ったSNS上での反論キャンペーンにより注目されることになり,大きな話題となっていった。

 キャンペーンを行ったSweet Babyの従業員のなかには,何年も昔に「白人がキスしているシーンがドラマに出てくるだけでも反吐がでる」といった差別的なメッセージを配信していたことがSBIDに発掘されている。また,黒人女性であるCEOのベライア氏自身,過去のGDCのセッションで「(ここに集まったマイノリティである開発者の皆さんが),マーケティング部門に直接談判して,脅してみることで状況を変えられる」というような,過激発言をしていたようだ。SBIDコミュニティは,こうした過去の言動が掘り起こされるたびに,「それ見たことか。ゲームに特定の政治的アジェンダをコソコソと投影するのは辞めろ」と声を荒げているのだ。

 しかも,前回のゲーマーゲートでも中核的な役割を担った海外メディアのKotakuが,この話題に対して「Sweet Babyは,何人かのゲーマーが考えるような業務は行っていない」と,同社を擁護する記事を掲載して,さらにSBIDに油を注いでしまう。それが直接的に関係あるのかどうかは不明だが,数日後には編集長が辞職しており,運営会社の社長が「Kotakuは今後,ニュースよりもゲーム攻略などを重視していく」という声明を出すに至っている。

Remedy Entertainmentにとっては初めて黒人女性の主役となった「Alan Wake 2」のサーガ・アンダーソン。Sweet Babyがどれほど脚本に関わっていたかは不明だ
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DEIを推進する業界と,ぶっちゃけどうでもいいゲーマーの乖離


 これまでも,2010年代に発生した#MeTooやBlack Lives Matterといったムーブメントを背景に,ゲーム産業に関わらず,多くのビジネスは「DEI」を標語に社内の改革を行ってきた。
 「DEI」とは,「Diversity(多様性),Equality(公平性) & Inclusion (包括性)」を意味するもので,人種や性別,文化背景などに関わらず,全従業員に対して一体感を助長するための,何ともアメリカらしいマニフェストである。人種や性別,LGBTQ+や身体能力などさまざまな側面で,より多様で平等な雇用や地位,給与待遇,昇進機会を目指すための,社内における監督・管理システムとして多くの企業で取り入れられている。
 Sony Interactive Entertainmentも,2年前に開催されたGame Developer Conference 2022において,積極的に推進していることを公表したのは,当連載の「第719回:GDC 2022で見えてきた, “現実”と直面するゲームデベロッパ」で紹介しているとおりだ。

 エンターテインメントは,より多くの人に受け入れられるべきものであり,多くの人を楽しませるために,少数の人を犠牲にするということがあってはならないのは言うまでもない。また,ゲームの主人公が画一的なものではなく,自分の境遇や文化,日ごろ抱えている悩みなどを共有できることで,1人でも多くのゲーマーの人生を変えるような体験が生み出されるのなら,ゲーム産業にとって素晴らしいことだろう。ハリウッドでも「白人の主人公が多い」「アカデミー会員にマイノリティが少ない」と言われるようになって久しいが,多様な人々が暮らすアメリカだけに,ゲーム産業においても着実にその動きは高まっている。

Sweet Babyがコンサルティングしたというゲームの一部。なかなかの大作,名作ぞろいといった印象だが,これだけ批判されればビジネスには痛手となっているかもしれない
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 しかし,ゲームは非常に感覚的な“プレイ”の要素を重視するインタラクティブメディアだ。例えば「主人公が女性」ということでゲームプレイのクオリティが低くなるとか,男性プレイヤーがゲームの購入を控えるといったことは,多くのゲーマーにとって感覚的に「あまりない」のではないだろうか。ゲームキャラクターの性別,人種,年齢や性的興味は,ゲームが設定するストーリーや時代,ロケーションによって変化させればいいだけだ。

 「ゲーム産業が多様性を尊重すべき」ことと,「ゲームが面白く/つまらなくなる」ことはイコールではない。にも関わらず,SBIDは「DEIのためにゲームが悪くなった」と思い込み,Sweet Babyは「多様性を掲げればゲームは良くなる」というビジネスプランを推進している。そのような双方の視点がかみ合っていない状況で,意見の乖離が生じてしまっているのではないかと,筆者は考えている。ゲームがグローバルにメインストリーム化していくなかでの文化的な是正と,ゲームとしての面白さは,同時に追求されてしかるべきだ。

 余談にはなるが,最近のアメリカのスラングにもう1つ,「ウォーク」(woke)というのがある。これは,差別と戦ってきた黒人市民活動家たちが1930年代から使っていた,「(差別や不公平を見張るために)ずっと目を覚ましておけ」というモットーに由来するものだが,ここ数年の間に女性差別や社会不均等までを含める活動家に対して利用されるようになった。日本でも社会での言動に対して,「反日的だ」「お前は極右か」などと罵り合うのと同様に,アメリカ社会では白人が差別を受けたと感じるときに「woke」や動詞化させた「woked」を使うことが多く,今回の“ゲーマーゲート 2.0”でもネット界隈で多用されているのは,予備知識として知っておくといいかもしれない。

こちらは,以前の当連載で紹介した,Blizzard Entertainmentが利用しているというゲームキャラクターに多様性をもたせるための内部ツール「Diversity Space Tool」。多様性は必要なことだが,こうした発表が行われるたびにゲーマーコミュニティは噴火しがちだ
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著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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