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連載
Access Accepted第753回:開催中止となったE3と問題提起が行われたGDC。変化を求められる大型ゲームイベント
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E3とGDCは,ゲーム業界にとって重要なイベントだ。しかし,4年ぶりにロサンゼルスで開催される予定だったE3 2023の開催中止が発表された。E3というイベントの変化の予兆をコロナ禍以前から感じていた業界人は多かったはず。今回はGDC 2023の振り返りも含めて,ゲーム業界を代表するイベントの変化について紹介していく。
E3の役目は終わってしまったのか?
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開催中止の理由については,E3を主催する業界団体,ESA(Electronic Software Association)の社長兼CEOであるスタンリー・ピエール=ルイ(Stanley Pierre-Louis)氏がgamesindustry.bizのインタビューで,どうもハッキリしない弁明をしている。
4年振りのオフライン開催が予定されていたE3 2023は,ESAだけでなく,PAX(Penny Arcade eXpo),ComicCon,EGXといった名だたるゲーム関連イベントの運営会社であるReedPopが主催者になっていた。だが,そんなイベントのプロをもってしても開催が実現しなかったというのは,今のE3というイベントに構造的な問題があるからだろう。
「多くのパブリッシャが寄り集まる発表会」というコンセプトは,もはや時代遅れだ。ビジネスミーティングや学校の授業でさえオンラインで行われるのが普通になり,各メーカーがオンライン発表会を開催したり,SNSを駆使してのマーケティングを行ったりする現代において,その存在意義はすでに薄れている。オンラインで発表会をやれば,特定のメディア/ジャーナリストやインフルエンサーを介することなく,ファンに直接情報を届けることができるのも,メーカーにとっては魅力的だろう。
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ESAは,コンピューターゲーム業界を支援し,業界内のコミュニケーションの促進,倫理的なガイドラインの策定,および業界の利益を守ることなどを目的に,1994年に設立された業界団体で,スクウェア・エニックスやカプコン,セガ,バンダイナムコエンターテインメントなど,日本のメーカーも名を連ねている。設立当時は,ゲームと暴力事件の関連性がアメリカの議会や教育者たちの間で議論されることも多く,各方面に働きかけるという団体の役割も明確だった。
ゲームの暴力性が大きく取り沙汰されることが少なくなった現在において,ロビー団体としてのESAの必要性は大きくなく,ESAのプレスリリースは,差別などの啓蒙活動を中心にした話題ばかりとなっている。しかし,そうした活動なら各企業で行ったほうがイメージ戦略面でも良いはずで,ESAの存在感はE3というイベント以外では発揮できなくなっていた。
ロサンゼルス近郊のサンタモニカに一時的に会場を移したE3 Summit 2007で行われたMicrosoft Media Briefingが,E3でオンライン中継された最初のイベントだったと,筆者は記憶している。任天堂は2013年から「Nintendo Direct」をE3でも主軸にするようになり,Electronic Artsは隣接した会場で独自イベントとなるEA Playを2016年から実施するようになった。さらにソニー・インタラクティブエンタテインメントは2019年にE3への不参加を表明して,「State of Play」でのストリーミング発表会に切り替えた。こうして振り返ってみると,2010年辺りを境に,E3離れが徐々に進行していったようだ。
また,出展費用の高さもE3離れを加速させた要因の一つと考えられる。gamesindustry.bizが報じたレポートによると,E3は他のゲームイベントと比べて出展費用が突出して高く,小規模なメーカーに割り当てられる55平方mでも一日あたり1万ドル(ESAの取り分は60%,コンベンションセンターが20%,残りの20%はブース資材のレンタル料)も必要だったという。
以前,筆者が関係者から聞いた情報では,プラットフォームのホルダーにもなると,数百人をロサンゼルスに集結させる交通費と宿泊費,展示用の高額なPCやディスプレイのレンタル/購入費,さらに電気代までを含め,一回の出展で数十億円という規模の予算が必要だったそうだ。
ブース建設中やカンファレンスのリハーサルで情報が漏れてしまうこともしばしばあり,デモディスクが盗難にあったという事件,さらには会場が停電になってデモが行えなくなったという事態が発生したこともある。出展社が完全にコントロールできない会場でのオフラインイベントはいろいろと問題も多く,費用対効果を考えた場合,“ゲームの祭典”を以前のような形,もしくは今回ESAとReedPopが想定していたような形で存続させるのは難しいと言わざるをえない。
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物価高に苦しむGDCでは事件も多発
さて,3月20日から24日の日程で開催された,ゲーム開発者会議としては最古であり最大のイベントGDC(Game Developers Conference)2023は,コロナ禍前と同水準の2万8000人という参加者を集めて大盛況のうちに終わった。4Gamerも4年ぶりに取材班を現地に送り60本を超える記事を掲載しており,現地での取材を担当した筆者もようやく一息ついているところだ。
そんなGDCで行われたGame Developers Choice Awardsの受賞式で,気になることがあった。それは,Best Narrative賞を受賞した2Dアドベンチャー「Pentiment」の開発元である,Obsidian Entertainmentのジョシュ・ソイヤー(Josh Sawyer)氏の発言だ。
ソイヤー氏は壇上に上がって感謝の言葉を述べるや否や,GDCについて以下のように述べた。
「このイベントはアクセシビリティについて大きな問題を抱えています。この街に滞在するには費用が高額すぎて,(有能な若い人材に対しての)旅費や宿泊費に関するなんらかの対応や補償が必要なのではないでしょうか。この授賞式には,アドバイザーとしてイベントに影響を与えられる人も多くいるはずです。どうか,この問題を話し合って,GDCへの渡航費を支払えないような世界中の開発者たちにも手を差し伸べていただきたい。」
一昔前のGDCは,ソイヤー氏のようなベテラン開発者たちが中心となった,アットホームな印象のイベントだった。だが,15年ほど前からのインディーズゲーム開発の隆盛により若い開発者や学生,さらには求職目的やコネクションを広げるために参加する人が急増し,イベントの雰囲気は様変わりした。参加者の増加に伴い,GDCへの参加費も上昇傾向にあり,今年は,エキスポのみが366ドル(約5万円),サミットのみなら1206ドル(約15万円),そしてサミットのデジタル視聴は599ドル(約8万円)となっていた。
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さらに,1泊3万から5万円ほどもするホテル代や,全米でもトップクラスに物価が高いサンフランシスコでの,食事を含めた諸経費,春休みで割高になっている航空機のチケット代までを含めると,かなりの金額になる。南米から来たとある参加者が「政府がスポンサーになってくれなければ,新車を1台買えてしまうほどの値段」と漏らしていたほどの出費になるのだ。
若い開発者に向けたプログラムが増えている現状では,「なぜサンフランシスコにこだわり続けるのか」という,ここ数年来のインディーズ開発者たちの叫びが,いよいよ現実的になってきた印象だ。
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実は,GDC 2022のときも,複数の女性ゲーム開発者が「ゲームの企画について話し合おう」と,ミーティング会場と言われホテルの部屋に誘い込まれるという事件が起きていた。その詳細は明らかになっていないものの,Activision Blizzardがスポンサーとなって行われた,WIGI(Women in Gaming International)のパーティーイベントでのことだったというのだから笑えない。
E3は参加する企業が減り,その規模を維持できなくなり,GDCは大型化が進み参加費用がかさむようになっただけでなく,以前までは考えられなかった問題が起きるようになってきている。どちらのイベントも変化が必要な状況になりつつあるのは間違いない。急速に発展してきたゲーム産業そのものが過渡期にあり,今後はゲーム開発者や企業の情報発信の在り方とともに,イベントも大きく変化していくだろう。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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