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奥谷海人のAccess Accepted / 第260回:ゲーム業界を揺るがす二つのトラブルとスキャンダル
今やハリウッドをしのぐといわれる規模を誇るゲーム業界だが,映画同様,巨大なエンターテイメント産業にトラブルやスキャンダルは付きもの(?)。今週は,4月に起きた課金をめぐる騒動と,韓国で発覚したゲームにまつわるスキャンダルを紹介しよう。
2008年9月にローンチされた「Warhammer Online: Age of Reckoning」 は,またたく間に80万人のプレイヤーを集めるという好調な滑り出しを見せたものの,2009年中頃までに77%のサーバーを統合するなど,縮小傾向が著しい。開発元のBioWare Mythicもリストラが続いており,そんな中で起きた今回のトラブルだった
4月7日から8日にかけて,「Warhammer Online: Age of Reckoning」のプレイヤーの銀行口座から,月額料が一度に複数回引き落とされるというシステムエラーが発生し,プレイヤーコミュニティの間に動揺が走っている。この一件,被害に合ったプレイヤーの一人が公式フォーラムに書き込んだことから明らかになったもので,通常なら月額14.99ドルのところが,少なくとも数回分,多いものでは30回分を超える月額料が連続して引き落とされたというもの。最もひどいケースでは,6か月分のプレミアアカウント料金である77.94ドルが13回にわたって引き落とされ,1000ドルを超える被害にあった人もいたという。
Warhammer Onlineを運営するBioWare Mythic(旧EA Mythic/Mythic Entertainment)の報告によると,すでにシステムエラーは解決しており,不正に引き落とされた金額はすべてプレイヤー側に払い戻されたとされるが,数百ドルもの金額が一時的にしろ使えなくなってしまったプレイヤーや,ゲーム内以外で被害を受けたプレイヤーの中には,収まらない人達もいる。
とくに,クレジットカードの限度額を超えてしまって停止処分をくらった人や,銀行口座の預金が尽きてしまった人などが,銀行側に支払うペナルティ料金などに関して不満を訴えているのだ。
ゲームには学生を中心とした若いプレイヤーも多いため,「週末に食べ物を買うお金がなかった」とか「お母さんの銀行口座が引き出し不能になって家族が困っている」というような書き込みも公式フォーラムに見られ,この問題はまだしばらく尾を引きそうだ。
BioWare Mythicは,銀行へのペナルティ料金に関しても最大限の解決策を探るとしているが,7〜8日以外が引き出し予定日になっているプレイヤーや,アカウントをすでに解消してプレイしていないはずの人にも引き出しがあったというレポートもあり,コミュニティの間では「ハッカーからのアタックを隠蔽しているのではないか」という意見も出ている。実際,不正引き出しの金額は15.67ドルであったり16.02ドルであったりと,場合によっては通常引き落とされる料金と異なっているという,不思議な現象も起きているようだ。
BioWare Mythicは,その長い経験を生かしたコミュニティ管理能力に長けており,ファンと運営側がタイトに結束していることは良く知られている。Warhammer Onlineプレイヤーは現在,推定で15万〜20万人ほどとされており,ゲームをプレイしている人の多くが熱狂的なサポーターであると考えて間違いないだろう。
しかしそうしたサポーターの熱意にも関わらず,BioWare Mythicが課金に関する問題を起こしたのは実は今回が最初ではなく,それもまたファンを怒らせている理由の一つになっている。2008年12月にも似たようなトラブルが発生しており,そのときには最大で99回分が引き出されたケースがあった。今回は,アメリカ国外のプレイヤーも被害にあっているとのことなので,Warhammer Onlineのプレイ経験がある人は,念のためにクレジットカードや銀行口座をチェックしておいたほうがいいかもしれない。
普通の人がRTSでマウスをクリックするのは,1分間に60〜100回程度。ところが,プロゲーマーにもなると400回以上もカチカチするという。その反射神経は,まさに「スポーツ」と呼ぶに値するが,その舞台裏で不正行為が行なわれていたとすれば,ファンにとっては残念な話だ。写真は,KeSPA主催によるゲームイベントの様子(KeSPA公式サイトより)
リアルタイムストラテジー「StarCraft」は,発売から12年が経過した現在でも盛んにプレイされている人気タイトル。とくに韓国では早くからプロリーグが結成され,多数のスポンサー企業がそれを援助し,対戦の模様がテレビで放映されるほどだ。
そのように熱狂的に支持されているStarCraftをめぐって,意外な問題が明らかになってきた。韓国メディアの「デイリーeスポーツ」や「総合ニュース」が伝えるところによると,とあるギャンブルサイトの運営者サイドが,以前から10人ほどのプロゲーマーに接触を行なっており,勝負の行方を操作していたというのだ。
この違法な操作によって,どれだけの損害がもたらされたのかは明らかにされていないが,この件に関しては韓国内のファンコミュニティが以前から疑惑を提起しており,韓国eスポーツ協会(KeSPA)では,これらに関わった団体やプレイヤーに対して資格停止を含めた厳重な処罰をするとともに,ルールの改正などに乗り出す意向を示している。処罰の対象には,非常に人気の高いプレイヤーも含まれているようだ。
韓国においてコンピューターゲームを賭博の対象とすることは違法だが,このギャンブルサイトは,これまでも何度も捜査の網をかいくぐって運営を続けており,利用者には,ゲームファンの10代から20代の年齢層が多いと見られている。事件の全容が明らかになるには時間がかかりそうだ。
今回の出来事は,当然ながら韓国のeスポーツ界に影響を与えるだろう。事件のダーティなイメージを嫌ったデベロッパのBlizzard Entertainmentが,2010年に発売を予定している「StarCraft II: Wings of Liberty」でBattle.netの認証システムを変更し,ゲームに対するコントロールを強める動きを見せているのだ。
もっともこれには,KeSPAとBlizzardの間の確執にも理由の一端があるらしい。2009年10月,Blizzardがメインスポンサーとなっていたテレビ番組「GomTV」の新シーズンが中止されたが,これはKeSPA公認のリーグ戦のスケジュールが過密であるという理由で,いくつものトップチームがGomTVへの出場を断ってきたためだ。これにより,GomTVを発展させて韓国ゲーム業界における強い立場を築こうとしていたBlizzardは,一歩後退を余儀なくされた。
年間300回という対戦イベントを行なうKeSPAは,プロレス団体に近い雰囲気の営利法人で,プロゲーマーになるためにKeSPAの審査を必要(例外もあるが)とするシステムを構築し,韓国プロゲーム界に君臨している。Blizzardが強力にバックアップするGomTVが力をつけることを懸念したであろうことは,想像に難くない。
ゲームを開発したBlizzardでさえ,韓国ゲーム界へ進出するのは難しいわけだが,今回の出来事が,そうしたパワーバランスを微妙に変化させる可能性があるのだ。
今回紹介した二つの事例は,どちらも“超”の付く人気作品にまつわる,信用に関わる大きなトラブル,あるいはスキャンダルだ。何かにつけて問題が大きく扱われるのは人気作品ゆえの宿命といえるが,どちらも「回避できない」「やむをえない」といった類のものとは思えない。影響が大きいタイトルだけに,ありきたりな結論ではあるが,今後どのような対応をとっていくのかを注意深く見守りたい。
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