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剣と魔法の博物館 モンスター編 / 第117回:ハンプティ・ダンプティ(Humpty Dumpty)
イギリスの童謡を総称して「マザーグース」(Mother Goose)という。これらは日本にも伝わっており,「Mary had a little lamb」(メリーさんの羊)や「Twinkle Twinkle Little Star」(きらきら星)などは,みなさんも良く知る童謡だろう。また漫画「パタリロ」に登場する「クックロビン音頭」も,マザーグースの「Who killed Cock Robin?」(誰がこまどり殺したの?)のパロディである。
そんなマザーグースから生まれたモンスターがいるのをご存じだろうか。それがハンプティ・ダンプティ(Humpty Dumpty)である。このモンスターはマザーグースに登場するのみならず,ルイス・キャロルの「鏡の国のアリス」でもおなじみだ。今回は,このハンプティ・ダンプティについて紹介してみよう。
一般的にハンプティ・ダンプティは,卵に顔をつけ,手足を生やしたような容姿で知られている。そして必ず塀の上に座っているらしい。人間に対しては無害な存在なので,直接的に襲われることはないだろうが,偉そうに議論を挑んでくることはある。やや傲慢な一面があるものの,言葉に関しては多彩な知識を持っているので,困難に直面したときに助力が得られれば,道が開けるかもしれない。
ちなみに「まるで卵のようだ」という言葉は,彼にとっては侮辱にあたる発言なので,彼の機嫌を損ねないためにも,うっかり口にしないようにしたい。
アリスをテーマにしたゲームであれば,ハンプティ・ダンプティは必須の存在といえるが,それ以外の作品に登場することはほぼない。また,後述するが,ハンプティ・ダンプティの姿には正しい解釈は存在しないのだ。ファンタジーファンとしては,斬新な解釈によって生み出されたモンスターとしてのハンプティ・ダンプティを,ぜひとも見てみたいものだが。
マザーグースにおけるハンプティ・ダンプティの歌は,下記のようなものである。
- Humpty Dumpty sat on a wall.
- (ハンプティ・ダンプティは塀の上)
- Humpty Dumpty had a great fall.
- (ハンプティ・ダンプティは落っこちた)
- All the king's horses and all the king's men
couldn't put Humpty together again. - (王様の馬や家来のみんなでも,元に戻せなかった)
実は歌の中には,ハンプティ・ダンプティとは何なのか,どんな姿をしているのかは書かれていない。要はこの歌は“なぞなぞ”なのである。この歌を聴いて,ハンプティ・ダンプティとは一体何なのだろう? と楽しむことこそが,この歌の醍醐味なのである。ちなみに落下して壊れてしまい,元に戻らなかったというところから,一般的な解答は卵(?)とされるようになり,やがて卵型の人が描かれるようになったというわけだ。
これまで,解答についてはいくつもの仮説が出されてきた。国王派と議会派が争ったピューリタン革命時に,議会派の拠点の一つとして使われたセント・メアリーズ・アト・ザ・ウォール教会の上に設置された大砲というものもある。攻撃を受けた大砲は破損して落下。結局元には戻せなかったことから,大砲こそがハンプティ・ダンプティであるとするものである。同じく大砲というところでは,スコットランドのエジンバラ城に設置されていた大砲だったという説もある。
ほかにも歴史上の人物だったり,不完全な建築によって倒壊してしまった塔だったりと,さまざまなものがハンプティ・ダンプティだと言われている。本当の答えは不明なので,自分なりのハンプティ・ダンプティを考えてみるのも面白いだろう。
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