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印刷2007/05/14 13:01

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AMD,コードネーム「R600」こと「ATI Radeon HD 2000」を発表

事前説明会の会場で公開された「ATI Radeon HD 2900 XT」リファレンスカード
 NVIDIAが「GeForce 8」ファミリーを発表してから,実に半年。「ついに」と言うべきか,はたまた「やっと」と言うべきか,旧ATI Technologiesの手による「R600」(開発コードネーム)が「ATI Radeon HD 2000」シリーズとして発表された。
 4Gamerではこれまでも何度かレポートしているが,ATI Radeon HD 2000は,AMDのATIブランドとしては初の単体GPU製品であり,同時に,同ブランドのGPUとして初めてDirectX 10のプログラマブルシェーダ4.0(Shader Model 4.0)をサポートする製品でもある。評価は同時に掲載しているプレビュー記事に任せ,本稿では,報道関係者向けに開催された事前説明会などの情報をもとに,新GPUのラインナップやポイントを紹介していきたい。

■High Definition&High Demandがキーワード
■ラインナップは“上から下まで”計10製品


森下正敏氏(日本AMD 代表取締役社長)
 さて,古くからのユーザーであれば,ATI Radeonの型番が,(開発コードネーム「R100」ベースの「RADEON 7000」以降)世代ごとに1000ずつ上がってきたことを憶えていると思う。ATI Radeon 9000シリーズの後継であるATI Radeon XシリーズやATI Radeon X1000シリーズでは,「10」を示す「X」が付けられて“繰り上がり”に対処されていたわけだが,AMD(のATIブランド)初の単体GPUということで,「ATI Radeon HD 2000」と,命名ルールが一新されている。
 HDは直接的には(ご想像のとおり)「High Definition」(ハイディフィニション,高解像度)の略。ただそれだけではなく,説明会で挨拶した日本AMDの森下正敏代表取締役社長いわく「『High Demand』(ハイディマンド),多くの方々に愛される製品になるようにという期待も込められている」とのことだ。

 発表時点のラインナップはデスクトップ向け5モデル,モバイル向け5モデルの合計10モデルだが,まずはデスクトップ向けGPUから見ていきたい。発表時点のラインナップは表1のとおりとなっている。



ATI Radeon HD 2000のチップイメージ(AMD提供)
 デスクトップ向けATI Radeon HD 2000シリーズは,ハイエンド向けの「ATI Radeon HD 2900」(開発コードネームR600)とミドルレンジ向けの「ATI Radeon HD 2600」(開発コードネーム「RV630」),そしてローエンド向けの「ATI Radeon HD 2400」(開発コードネーム「RV610」)という3本の柱で構成される。さらにミドルレンジとローエンドは,さらに「XT」と「Pro」が用意され,計5モデルということになるわけだ。
 ハイエンドのATI Radeon HD 2900 XTは即日出荷となるため,遅くとも今週中には店頭に並ぶはずだが,ミドルレンジ〜ローエンドは,土壇場でGPU製造上の問題が生じ(て出荷延期を余儀なくされ)たため,搭載製品の発売はどんなに早くとも2007年6月下旬以降になるものと思われる。

 統合型シェーダ(Unified Shader)アーキテクチャに対応するためのストリーミングプロセッサ数は,上位モデルから順に320/120/40基。ミドルレンジとローエンドモデルで用意されている「XT」と「Pro」には,コアクロック以外に違いはない。
 一つ気をつけておきたいのは,表1でも示されているとおり,採用するメモリチップやクロックに関して,グラフィックスカードベンダーの自由な設定が許可されていること。表1で示されているスペックはあくまで目安。要するに,メモリクロック2.2GHz相当(実クロック1.1GHz)のGDDR4メモリを組み合わせた製品や,メモリクロック1.6GHz相当(実クロック800MHz)のGDDR3メモリを組み合わせた製品が,どちらも「ATI Radeon HD 2600 XT搭載グラフィックスカード」として,店頭に並ぶ可能性があるのだ。先ほど述べたとおり,搭載製品の発売は先になるので,くれぐれもお忘れなく。

いずれもAMD提供の製品イメージで,上段がATI Radeon HD 2600シリーズ,下段がATI Radeon HD 2400シリーズのものとされている。だがGPUの出荷延期に伴い,これらは大きく変更される可能性があるので,あくまで参考程度に留めてほしい(そもそも,上段右の写真はカード上にジャンパー線が引き回されていたりして,とても最終版ではないのが分かる)


Vijay Sharma氏(Director, Desktop Marketing, Graphics Product Group, AMD)
 このほか,製造プロセスがハイエンドとそれ以外で異なるのもトピックだ。ATI Radeon HD 2000シリーズの説明を行った,AMDのデスクトップマーケティングディレクターであるVijay Sharma(ヴィジェイ・シャーマ)氏は,同シリーズが台湾のファウンダリであるTSMCで製造されるとしたうえで,ATI Radeon HD 2900 XTは「高クロックに最適化された80nmプロセス」となる「80HS」を採用していると説明。一方,ミドルレンジ〜ローエンドの4モデルは「リーク電流が抑えられ,低消費電力が実現されている」65nmプロセス「65G+」が採用されているとした。
 結果,消費電力はATI Radeon HD 2900 XTが200W以上,ATI Radeon HD 2600 XTは45Wと,ハイエンドとミドルレンジの間に大きな開きが生じている。

■第2世代の統合型シェーダアーキテクチャを採用する
■ATI Radeon HD 2000


 ラインナップに続いて,アーキテクチャの概要もチェックしてみよう。R600世代が第2世代の統合型シェーダアーキテクチャを採用することは北米時間2006年12月14日に発表されていたが,Sharma氏から,もう少し詳しい説明があった。

ATI Radeon HD 2900 XTのブロックダイアグラム(AMD提供)
 Xbox 360が搭載するGPU「Xenos」(ゼノス,開発コードネーム)は,R500(=ATI Radeon X1000シリーズ)をベースに拡張された統合型シェーダアーキテクチャ採用製品だ。R600世代の統合型シェーダアーキテクチャは,Xenosのそれをベースにしているため,第2世代というわけである。「Xbox 360用のゲームアプリケーションを容易に移植可能」とはSharma氏の弁だ。

 ところで,ATI Radeon HD 2000シリーズに内蔵されるストリーミングプロセッサ数は,ハイエンドのATI Radeon HD 2900 XTで320基にのぼる。

 ストリーミングプロセッサの性能は1基当たり2FLOPS。それを320ユニット搭載し,742MHzで動作させる(公式の動作クロックは740MHz)ATI Radeon HD 2900 XTでは,475GFLOPSの性能を実現するとSharma氏はアピールする。「2枚利用すると1TFLOPSに達する」(同氏)。
 2チップ分の性能を単純に足しても1TFLOPSにはやや足らないため,若干サバを読んでいるようだが,それを差し引いても確かに演算性能は高そうだ。
 ちなみに,個々のユニットには5個の演算器(うち1個は三角関数や対数などの超越演算をサポート)とブランチ実行ユニット(=分岐実行ユニット)が内蔵される。

左:Xenosベースとなる,第2世代統合型シェーダアーキテクチャの概要
右:ストリーミングプロセッサの仕様説明


CFAAの概要
 ATI Radeon HD 2000シリーズのもう一つの特徴が,独自のメモリバス「Ring Bus」のインタフェースを512bitに拡張している点だ。GeForce 8800 Ultra/GTXでは384bitなので,それを上回ることになる。AMD(のATI部門)が最適の設計と自負するRing Busにより,最大100GB/sのメモリ帯域幅を実現し,「従来製品比で最大160%の性能向上を実現した」(Sharma氏)という。

 第2世代の統合型シェーダアーキテクチャと拡張されたメモリインタフェースによって,ATI Radeon HD 2000シリーズでは,いくつかの新機能をサポートするに至った。その一つが「CFAA」(Custom Filter Anti-Aliasing)だ。
 アンチエイリアシングはおおまかに「輪郭線を滑らかにする技術」と言えるわけだが,これは実際に表示するピクセルよりも小さなピクセル(サブピクセル)を使ってレンダリングすることで実現されている。主流のMSAA(Multi Sample Antialiasing)では,サブピクセルに2x,4x,8xなどの設定ができることはご存じのとおりだ。
 サブピクセルのサンプリングは通常,画面を矩形に区切ったブロック単位で行われるのだが,CFAAではサンプリング対象の範囲を任意に広げられる。下に示したのがその概念説明だが,サンプル範囲を隣接するブロックにまで広げることで,より滑らかなアンチエイリアシングが可能になるというわけである。

 また,統合型シェーダアーキテクチャを生かした「Dynamic Geometry Acceleration」をサポートするのもATI Radeon HD 2000シリーズのウリである。Dynamic Geometry Accelerationには,さまざな要素が含まれるのだが,最大の目玉はテッセレーション(Tessellation)だろう。
 よりリアルなキャラクターなどを実現するにはポリゴン数を増やす必要があるが,これはGPU負荷を上昇させるだけでなく,CPUの負荷も大幅に増大させてしまう。この問題に対する一つの回答となるのがテッセレーションで,GPU上の演算機能を使ってポリゴンを分割することで,よりリアルな3D画像を描く技術だ。
 テッセレーションを用いれば,ホストCPUからはラフな3D画像をGPUに送り込むだけでリアルな3Dキャラクターなどの描画が可能になる。画面がリアルになり,しかもCPU負荷は軽くなるという,良いことずくめの機能である。

 ただし,難点はDirectX 10において(GPU仮想化の絡みで)各社のGPUに,仕様の違いがあってはならないとされている点。そのため,DirectX 10においてテッセレーションはサポートされず,せっかく実装していても利用できないのだ。まさに,絵に描いた餅になりかねないのだが,この点についてはSharma氏は「Microsoftと協議は続けているが,いつ利用できるようになるか我々には分からない。Microsoftに聞いてほしい」という,少々投げやりにも取れる発言を行っていた。
 テッセレーションはXbox 360用ゲームタイトルの一部で利用されているため,「テッセレーションを利用したXbox 360用タイトルなら,(APIが整備されていない現時点でも)ATI Radeon HD 2000シリーズ用としてPCに移植可能」というフォローはあったが,APIが整備されていない以上,移植されてもATI Radeon HD 2000シリーズ以外のGPUではプレイできないので,そうした移植版が本当に登場し得るものか極めて疑問だ。せっかくの機能で,可能性も感じるのだが,当面は“死に機能”と理解しておくべきだろう。

上段は,ハードウェアテッセレータの意義を訴えるスライド。下段は,「雪山などの表現
にはテッセレーションを用いることで画質の向上とCPU負荷低減に寄与する」ことをアピールするスライドである


従来のグラフィックスアクセラレータはMPEG-2/4デコードの一部のステージだけをアクセラレートしていた。UVDでは,すべてのステージをハードウェアアクセラレートすることでCPU負荷の大幅な低減を実現したという
 以上,3D描画周りの仕様について見てきたが,実はATI Radeon HD 2000シリーズにはもう一つ,「UVD」(Universal Video Decoder)という,重要なハードウェア機能が搭載されている。ゲーム的な興味からは離れるかもしれないけれども,ざっと紹介しておきたい。

 ATI Radeon X1000シリーズでは,Avivo Technologyというビデオ関連技術が導入されていたが,ATI Radeon HD 2000では,これが「Avivo HD」として拡張されている。UVDは,Avivo HDの一機能という位置づけだ。
 ビデオ再生のアクセラレーションは,今や珍しいものではない。ローエンド/ハイエンドを問わず,現行のGPUであれば,たいていは何らかの形でMPEG-2/4のデコードがサポートされている。ただ,従来のAvivo Technologyが,MPEG-2/4デコードの一部のステージをハードウェア処理しているだけだったのに対し,全ステージをアクセラレートするのがAvivo HDの特徴というわけである。

 さらに重要なことは,このAvivo HDが,UVDも含めて,シリーズ全モデルに搭載されている点だ。Avivo HDの機能自体は,ハイエンドGPUでもローエンドGPUでも完全に同じであるから,ゲームが主用途でないユーザーが,グラフィックスカードを購入するきっかけを,Avivo HDは生む可能性がある。
 また,出力インタフェースとして,ATI Radeon HD 2000はデジタルYCbCr&RGB(HDMI)に完全対応。GPU上にHDCPの暗号キーが格納され,さらに家電では当たり前のHDMI Audio対応サウンドCODECもGPUに内蔵する。追加のデバイスを一切必要とせずに,フルスペックのHDMI出力が可能というわけで,AMDは「コストをかけずに高解像度ビデオ環境を構築できる」とアピールしている。
 なお,UVDをはじめとするAvivo HDの利用にはプレイヤーソフト側の対応が必要だが,主要アプリケーションは早期にサポートするという,楽観的な予測が示されている。

Avivo HDの優位性を訴えるスライド。デジタルサウンドデータ出力に対応したDVI−HDMI変換アダプタが,シリーズ全モデルで用意されるという。実際のグラフィックスカード製品では製品ボックスに同梱されると思われる


■最下位はDX9世代となるモバイルGPU
■コストパフォーマンス重視は吉と出るか?


ATI Mobility Radeon HD 2000シリーズに,2900系は用意されていない。ただし,将来的には投入される可能性もあるという
 ここまでデスクトップ版ATI RADEON HD 2000シリーズを見てきたわけだが,モバイル版について明らかになっているスペックを表2のとおりお知らせしたい。

 モバイル版ではストリーミングプロセッサなど,仕様の詳細が明らかにされていないこと,ノートPCの熱設計などにより,目安とされる動作クロックを大きく下回った状態で搭載される場合があることは,頭に入れておく必要があるだろう。



DirectX 10対応とAvivo HDなどをまとめて「10点満点」とアピール
 AMDは,以上の10モデルについて,「すべての価格帯でDirectX 10対応」「(Avivo HDによる)究極の高解像度ビデオ体験」「65nmプロセス製造による低い消費電力」を実現したとして「10点満点」(A perfect 10!)とアピールしている。だが,よくよく見てみると,モバイル向けのローエンドとなる「ATI Mobility Radeon HD 2300」はDirectX 9世代のGPUであるうえ,ATI Mobility Radeon HD 2900 XTは80nmプロセス。そこは「10点満点」ではないわけで,マーケティングターム(=売り言葉)としては,イマイチな感がぬぐえない。
 もっとも,モバイル向けのローエンドであれば,もともと3Dパフォーマンスはそれほど期待できないわけで,Avivo HDが使えるGPUとしての価値は(少なくとも日本の一般ユーザー向けノートPC市場では)確実にあるだろう。一般ユーザー向け市場は,Avivo HD(を搭載したミドルレンジ以下のATI RadeonやATI Mobility Radeon)が席巻する可能性すらありそうだ。


 最後に気になる価格だが,デスクトップ向けグラフィックスカードの想定売価はハイエンドで399ドル。ATIブランドのグラフィックスカードは伝統的に想定価格を大きく上回る価格で店頭に並ぶことが多いのは少々気がかりだが,1ドル120円換算で,消費税を入れると単純計算で5万円強だ。Sharma氏は「同じ価格帯で競合を上回る性能を発揮する」と胸を張る。
 「それはつまり,400ドルより上の市場では競合と勝負する気がないということか?」という質問に対しては「ATI Radeon HD 2900 XT以上の性能を望むユーザーにはCrossFireが用意されている」(Sharma氏)と,苦しい答えが返ってきていたが……。

 いずれにせよ,少なくとも発表レベルでは主要ベンダーのDirectX 10対応GPUが出揃った。気になるパフォーマンスについてはプレビュー記事を参照してほしいが,グラフィックスカードの選択肢が増えることは間違いなく,それだけでもゲーマーにとって朗報といえるのではないだろうか。(ライター・米田 聡)

左はデスクトップ向けATI Radeon HD 2000シリーズを搭載するグラフィックスカード,右はATI Mobility Radeon HD 2000シリーズを搭載するノートPCそれぞれの想定売価。AMDはコストパフォーマンスの高さを強烈にアピールする。ちなみに,ATI Radeon HD 2900 XTには「Half-Life 2: Episode Two」「Team Fortress 2」「Portal」の無料ダウンロード権が付属。発売されたらすぐ遊べる
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