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「キネマ51」:第35回上映作品は「しあわせはどこにある」
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印刷2015/09/12 00:00

連載

「キネマ51」:第35回上映作品は「しあわせはどこにある」

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 グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏が支配人を務める架空の映画館,「キネマ51」。この劇場では,新作映画を中心としたさまざまな映像作品が上映される。第35回の上映作品は,大人のための自分探し映画「しあわせはどこにある」

「しあわせはどこにある」
2015年6月13日(土)よりシネマライズ,新宿シネマカリテ,品川プリンスシネマほか全国順次公開
配給:トランスフォーマー
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「しあわせはどこにある」公式サイト



人生は過程が大事


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須田:
 僕にはグッとくるシーンが多かったんですよ。

関根:
 精神科医の主人公ヘクターが患者の悩みを聞き続けるうちに,自分にとっての幸せにも疑問を抱き始めて,彼女と離れて一人で世界中を旅するんですよね。
 各国のエピソードが幅広くて,軽いタッチで描かれているけど,あとからジワジワくる感じで。

須田:
 最後はどうでもよかったですね。

関根:
 どうでもいいって(笑)。
 というよりも,やっぱり人生は過程が大事ということを,ここで支配人はおっしゃりたいんですよね。

須田:
 う,うん。部長,さすがによく分かってますね。

関根:
 そういえば,ある70代の方がこの映画をご覧になったときに,「しあわせがどこにあるのか探し始めるの,遅くない?」 って言っていて。

須田:
 確かに。

関根:
 主演のサイモン・ペック,「ショーン・オブ・ザ・デッド」のショーンや,エドガー・ライト監督作常連の,支配人好みの俳優さんかと思いますが,40代のおっさんですからねぇ。

須田:
 ご年配の方からしてみたら,何を今更という気分でしょうね。

関根:
 ええ。でも,それを聞いて僕は,今の時代はそうなのかもしれないかな,と思ったんですね。
 1970年代くらいまでは,想像するに10代,20代前半で旅立った人が多かったのかもしれないし,それこそ,四十にして迷わず,不惑なんて言いますけど,現代の40代は余裕で悩んでますよ。

須田:
 つまり,良くも悪くもイマドキ感ある映画。

関根:
 この夫婦,夫はお医者さん,妻は医薬品メーカーの広告部のエリート。ちゃんと稼いで,プライベートも楽しんで,子供はいないから自分達のためだけに時間を使える。

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須田:
 日本,とくに東京にもこういう状態の人って多いと思うんですよ。充実した二人の時間を過ごしてきて,ふと気が付いたら40代になっていた,なんて話は多いかなと。
 そういうカップルや夫婦が今,アイドルにハマるというね。

関根:
 支配人,実はそれは本当にある話だと思います。アイドル現場に行くと,夫婦,カップルで来ている人達がたくさんいるんですよ。

須田:
 本当にそうなんですか。

4Gamer:
 ありますねぇ。うん。

関根:
 僕の知り合いでも旦那さんよりも奥さんのほうが熱くなってる夫婦がいて,運動会とか,発表会に出る娘を見守るような感じで見ているんですよね。
 疑似体験としては最高に楽しいんだと思うんですよ,だって可愛いんですから。

須田:
 確かに。可愛い女の子としゃべったりもできるわけですからね。

関根:
 そうですそうです。まあ,娘と話をするのにお金が発生するんですけどね。

須田:
 そうだ(笑)。

関根:
 それはともかく,昔に比べて24時間,日曜祝日関係なく,いろんな過ごし方があるじゃないですか。

須田:
 そうそう,BOOK OFFもあるしね。

関根:
 うーん,なぜBOOK OFFなのか分かりませんけど,情報や商品の地方格差も薄まってきていますし。

須田:
 昔は,漫画一冊買うのも意外と苦労したものですよ。

関根:
 確かに。

須田:
 今じゃ,BOOK OFFで「ドラゴンボール」や「グラップラー刃牙」を全巻まとめ買いできたりするわけですよ。

関根:
 しつこいですねぇ。

4Gamer:
 (ネット通販でも良さそうな気が……)

須田:
 すごい時代ですよね。だから幸せを自ら探さなくても,そこそこの幸せな雰囲気を手軽に味わうことができる。

関根:
 でも,40代になったときに,ふと,人生のゴールを考える瞬間が訪れるんですよね。
 例えば,高速のサービスエリアで自分より年下であろう夫婦が子供とはしゃいでいたりするのを見た瞬間,この先どれぐらい生きられるか,その間に何ができるのかを考えてしまったり。

須田:
 そういうとき,自分に何もないって感じてしまったりするかもしれないですね。

関根:
 生涯学習でおなじみの某大手通信教育の会社,ありますよね。あそこのCMって,出演者の年齢がけっこう高いじゃないですか。あれってもしかしたら,そういう不安を抱く40代にアピールしてるんじゃないですかね。

須田:
 何もないからとりあえず資格取らなきゃ,みたいな。

関根:
 井● 遥さんとかね。

須田:
 豊●悦司さんもね。あの容姿と雰囲気で,もうすでに立派な資格を取得済みな気がしますけどね。

関根:
 10〜20代の人が就職のために資格を取ろうという気分とはちょっと違いますよね。

須田:
 何かしなきゃって気持ちにさせるんでしょうね。
 僕もそば打ちの資格を取ろうかと思ってるんですよ。

関根:
 つーか,それはただの趣味じゃないですか。

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記録媒体としての映画


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須田:
 あと,この映画を見ると,映画を撮りたいなぁって思っちゃいました。

関根:
 どういった部分で感じたんでしょう?

須田:
 なんていうんですかね。主人公のキャラクターがあって,彼の周辺のキャラクターがあって,彼の好きなものがあって,彼の冒険がある。ゲームでもそういう設定を作ることは,これまでにもやってきたわけです。

関根:
 はい。

須田:
 でも,ゲームって遊ぶものじゃないですか。設定だけは記録として残りますけど,自分が生み出した人物が意思を持って勝手に動くわけではない。
 だから,頭の中にあるキャラクターやイメージが,実際の物や人で動く様子を見てみたいなと思ったんですよ。しかもカメラのフレームの中には撮ろうとしているキャラクターや物だけじゃなく,あえて言うなら無駄なものも写り込んでしまうような。そこも含めて記録してみたくて。

関根:
 でも,ドキュメンタリーじゃないんですよね。あくまで自分の生み出したキャラクターなんですもんね。
 そのキャラクターが生み出す偶然性が周りを巻き込んでいったり,意図しない外的要因がキャラクターに変化を与えたりと,それをすべて記録してしまうのが支配人の考える映画である,と。

須田:
 そう。約2時間の映像の中に全部転写させてしまう。どんなSFでも非現実的な世界であっても。だから映画に対する憧れというよりは,記録としての映像への興味ですね。
 映画ならではの言い方をするならば,フィルムに焼き付けたい,という。

関根:
 なるほど。あらためて聞くと「焼き付ける」っていい表現ですよね。一発勝負って感じもありますよね。

須田:
 そうですね。一発勝負。

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関根:
 フィルムは値段も高いですから。
 あと,今でこそ撮影現場でモニターチェック(撮影したものをその場で確認すること)ができますけど,昔は一回持ち帰って現像してからでないと確認することはできなくて。

須田:
 そうですよね。要は写真と一緒ですよね。デジカメはその場でチェックできるけど,フィルムは街の写真屋さんで現像してもらったのを受け取って初めて,どんな写真なのか分かるっていう。

関根:
 そうですそうです。それがましてや,俳優さんに演じてもらって,照明,セットなどなど多くの人が関わった状態で一つのシーンを撮るわけですから,緊張感と集中力は半端ないと思うんですよね。
 今でも本番の掛け声とともにピリッとする空気は残ってますし,あれは独特ですよ。

須田:
 でしょうね。その緊張感の中で生まれる作品の中で動く自分のキャラクターを,一度見てみたいです。

関根:
 ちょっと外れた質問ですけど,ゲームの脚本って選択肢がある分,マルチストーリーというか,パラレルワールドが必要ですよね。

須田:
 はいはい。

関根:
 それは一本筋が通っている中で,途中途中で考えるんですか? それとも脚本を何本も書くイメージ進めるんですか?

須田:
 完成した脚本は一本道ですね。でも僕の場合は何本も違うストーリーを書いて,それをつなげていくという感じですかね。

関根:
 その手法はそのまま映画にも応用できそうですよね。
 僕はフローチャートを作って分かれる部分だけ考えるのかと想像していたので,ちょっと聞いてみたかったんです。

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ゲームは,最初にボケないとダメみたいです


関根:
 さて。

須田:
 ゲームですね。

関根:
 ゲームですよ。

須田:
 今回この作品,配給会社の名前がトランスフォーマーということで。

関根:
 はい。

須田:
 「トランスフォーマー コンボイの謎」ということで。

関根:
 却下。というか,全然関係ないし,あと,なんだかんだでそのタイトル,何かというと出てきますからね。

須田:
 確かに。とりあえず「コンボイの謎」って言いたくなるんですよね。

関根:
 それは分からないでもないです。ちょっと考えてみたんですけど,僕達,ロードムービーを選びがちですよね。

須田:
 そうそう。

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関根:
 毎回ロードムービー話になって,ロードムービーっぽいゲームってなんでしょうって話になって,結局,支配人の作ったゲームに一回は落ち着くという。

一同:
 (笑)。

関根:
 考えてみると,ゲームでも,映画でも支配人の好きな世界観というのは統一感があるということなんですよね。


須田:
 あー,そうですね。

関根:
 もう,これからは支配人の作るゲームは「ロードゲーム」っていうジャンルにしたらいかがですか?

須田:
 それ,いいですけど伝わりづらいなぁ。

4Gamer:
 で,どうしましょうか。

須田:
 まあ,冒険ストーリーですよ,やっぱり。

関根:
 なるほど。ですよね。
 部長,知っているかどうか分からないんですけど。

関根:
 はい。まあ,その前振りならよく知ってますけど。

須田:
 おや,そうですかね。あのー,「グランド・セフト・オート」というゲームがありまして。

関根:
 あぁ,空から戦車が落ちてくるやつですね,聞いたことはあります。

須田:
 ああ,そうそう……ってそこですか。
 いや,その最新作「グランド・セフト・オートV」PC / PlayStation 4 / PlayStation 3 / Xbox One / Xbox 360。以下,GTAV)のPlayStation 4版が,去年の暮れに発売されたんですよ。

関根:
 知ってました。

須田:
 何ですか,早く言ってくださいよ。

関根:
 十分,気付いていると思っていましたが。

須田:
 そのゲームがですね,この映画に非常に近いのではないかと。

関根:
 えっ,どこがですか。

須田:
 内容はというと,主人公がいろいろな人達と触れあったり,いろいろな出来事を経験して,自分の居場所を見つけていくというストーリーで。

関根:
 ……ものは言いようというのはまさにこのことですね。
 ここで,GTAVがどんなゲームか説明する必要はないとは思いますが,悪い人が悪いことをする話ですよね。

須田:
 そう,幸せを見つけるためにね。

関根:
 うーん,なんとなく間違ってないような気もしてきました。しかもこの作品はちょっと切ないし。

須田:
 目の前にある幸せをどうやって奪い取るかの違いですからね。

関根:
 あれ,なんか深いなぁと一瞬思っちゃったんですけど。

須田:
 分かっていただけましたか?

関根:
 うーん,勢いで発したに違いない支配人の一言にはまってしまったのは,なんとも悔しい気分なのですが……。いろんな人生があるんだよなぁと感じる映画とゲームということで,ぜひ併せて楽しんでいただければと。
 良いこと言った感のある満足げな支配人と共に,この辺で今回も失礼いたします!

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