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[AOGC 2006]「Asia Online Game Conference 2006」開幕。ガンホー森下氏の語るオンラインゲームの課題と取り組み
4Gamerでは主立った講演内容を逐次お伝えしていくが,まずは開会式の様子と,続いて行われたガンホー・オンライン・エンターテイメント 代表取締役社長 森下一喜氏の基調講演についてお伝えする。
開会式といっても,とくに式典めいた事柄が用意されているわけではなく,ブロードバンド推進協議会の宮内 謙氏,経済産業省 商務情報政策局の樋口晋一氏をはじめとする主催団体の代表が順に簡単な挨拶を行った,というところだ。
宮内氏が述べた,「ITバブルが一度ふくらんでしぼみ,現在はその後に始まった成長の真っ只中である」という趣旨の発言は,blogやSNSなどWeb上の新しいコミュニケーションと重ねて考えたとき,この催し全体にわたるキーワードとなるのだろう。また,IGDA日本の新 清士氏が熱を込めて語ったアジアの“ソフトパワー”(ハードパワー=軍事力と対置される,国家政策としてのコンテンツという概念)は,氏の講演内容とどう関わっていくのだろうか。
主要な講師陣と来賓の紹介が終わったところで,ガンホー森下氏が登壇し,基調講演が始まった。
基調講演の演題は「BB時代のゲーム産業革命における成長戦略」。森下氏は自身および自社の沿革と(オンライン)ゲーム市場の歩みをオーバーラップさせて整理しつつ,今後オンラインゲーム市場が成長していくうえで課題となる事柄を,自社の取り組みとともに説明する形をとった。
氏はまず,自身が2000年に同僚3名とともに独立し,オンラインゲームの開発会社を興したところから話を始めた。ゲームサーバーやネットワークSDK(開発キット)の開発を手がけたが,コンシューマゲーム機「ドリームキャスト」の終焉とともに,会社を譲ってオンセールに入社する……といった,ガンホー以前の自身の来歴を語った。次いで,時系列に沿って駆け足で現在までを説明し,現在のガンホーグループの構成と,ゲームアーツ,ブロッコリー,ガンホー・モードといった各社のミッションについて一通り触れた。
話の趣旨は,ほぼ当サイトの1月20日付けインタビュー記事の内容に沿ったものだったが,「コンシューマゲーム機はグラフィックス性能の向上でサプライズを実現してきた。しかし,今後はネットワークコミュニティに依拠した“新しい遊び方”によってサプライズが実現されていかなければならない」といった,ゲーム業界全体にわたるパラダイムを織り込んで,説明が続く。
そして,この催しの趣旨に沿いつつ,「コンテンツとインターネットの融合」というキーワードを打ち出す。ブロードバンドの普及がインターネットの多様な利用を実現し,その一環として映像配信や音楽配信,そしてもちろんオンラインゲームがある。ガンホーグループ各社が今後手がけていく事業は,オンラインゲームを核に,そうしたさまざまなエンターテインメント分野に広がっていく,ということだろう。
そして,よりオンラインゲームに寄った話題として,現在のオンラインゲーム市場が抱える課題を以下の7項目に整理し,それぞれに関する自社の取り組みを説明していく。数字の後ろが課題項目で,カッコ内がガンホーの取り組みだ。
1.ネットワーク技術開発力への対応
(次世代ネットワーク技術プロジェクトの取り組み)
2.オンラインゲーム開発力・次世代技術の研究開発
(開発陣の強化,国内ゲーム開発会社の子会社化)
3.サービス業への抜本的シフト
4.人材育成
(専門学校生などインターン制度の導入)
5.インフラ・流通整備(決済インフラ)
(CVSによりデジタルPIN番号発行システムによる,無在庫,無流通,無機会損失)
6.資金調達
(プロジェクトファンド活用および制作委員会方式による事例)
7.法的整備および国の取り組み
森下氏は各項目について順次説明していったが,課題そのものや取り組み内容に関して,とくに強調したのが3.と5.についてだ。3.の「サービス業への抜本的シフト」をめぐっては,同社独自の調査に基づき,「主要なゲームメーカー44社のうち,顧客のための電話サポートを提供している会社は4社にすぎない」と述べ,例えばこれが「新規プレイヤー獲得にあたって,機会損失となっている」ことを指摘し,サービス業としてのオンラインゲームサービス提供が現時点で抱える問題とした。
また,ガンホーが2005年にオンラインイベントを122回,オフラインイベントを43回実施したことに触れ,顧客の継続率/満足度の向上に向けた努力として説明した。とくに「ガンホー オフラインミーティング」を例に挙げて,プレイヤーの生の声を聞くことの重要性を強調していたのが印象的だった。
続いて,5.の「インフラ・流通整備」については,プリペイドカードと異なり,デジタルPIN番号発行システムで,カードの在庫を不要にした「ガンプチ」(ガンホープチチケット)を例に挙げ,全国1万4000店舗のコンビニで利用可能なことによって,在庫の有無に関連する機会損失を解消する役割を果たすと述べた。
決済手段に関連して課金手段についても触れ,「ガンホーとしても,アイテム課金がようやく分かってきた」と述べた。そして,今後アイテム課金/定額課金のハイブリッド型や,さらに新しいビジネスモデル研究の必要性,ビジネスモデル形態に応じたゲームデザインの必要性についても触れた。
ビジネスモデルに関連づける形で,講演を締めくくったのが,ガンホー・モードを中心とする「Stay Time」概念の説明だ。考え方の詳細については,当サイトの2005年9月20日付けインタビューを参照してほしいが,氏は「“第1インターネット”は閲覧や検索が主題で,そこでの価値はページビュー数が作り出した。これから始まる“第2インターネット”はStay Time(滞在時間)が価値を作り出す」と述べ,それに向けた自社のビジネス理念,ポータルとコンテンツ(両者を合わせて提供していくのが“メディア”だ)について手短に説明した。
そして講演内容のまとめを兼ねて,今後の自社のターゲットを
1.(テレビや携帯ゲーム,携帯電話を含め)あらゆる機器での画面占有率
2.エンターテインメントの場を提供するサービス業の徹底
3.滞在時間型ビジネスへの取り組み
という3項目にまとめて,説明を終えた。
また質疑応答では,Stay Timeの1日あたりの目安を「映画や長編ドラマと同じ3時間前後」と説明し,SNSに関して出た質問には,ガンホー・モードにblogとアバターはあるが,SNS的機能はいまのところないこと,ガンホー・モードの主たるユーザー層について,「ラグナロクオンライン」のコア年齢層である「20±2歳」に据えつつも,「カジュアルゲームなどを通して,女性層やより低い年齢層,逆に30〜40代にアプローチしていける」であろうことを語った。
話の大枠は,すでに明かされている自社の構想に沿ったものではあったが,AOGCの大テーマである,ブロードバンドの普及とコンテンツの成長を踏まえつつ,オンラインゲームが持つ現状の課題を整理した点では,基調講演たるにふさわしい内容だった。
その重要性に触れつつも「我々メーカーが本気で取り組んでいかなければならない」という意思表明に留まった「7.法的整備および国の取り組み」についても,機会があればぜひ詳しい話を聞きたいところである。(Guevarista)
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